謎の箱
要塞調査を終えて帰宅した俺達は居間で一息吐いていた。
神魔硬貨を見つけて浮ついていたところにあの爆発。
まるで生きた心地がしなくて流石に今回ばかりは肝が冷えた。
「ふぅ……酷い目に遭ったな。俺達じゃなきゃあんなの防げなかったぞ」
「完全に気を抜いていましたね。絶対に生かしておかないという意思を感じましたよ」
「女神の聖域を使わなかったら逃げきれない範囲と防げない威力でありましたからね。あんな小さな箱であそこまでの爆発が起きると思わないのでありますよ」
「凄い爆発でびっくりしたんだよ……」
「あれに巻き込まれたら私でもタダでは済まない」
あの爆発を間近に感じたせいか、いつも能天気なフリージアもしょんぼりとして、ルーナも真剣な表情をしている。
手の平サイズの箱が要塞の半分も消し飛ぶ爆発を起こせば驚くのも無理はない。
俺なんて驚き過ぎてもはや現実感が全くないレベルだ。
あの箱はエステルが慎重に魔法で封じた後、訓練所と言う名の作業場で解析をしている。
程なくして解析が終わったのか、エステルとミニサレナとマルティナが居間に戻ってきた。
「おっ、お疲れ。もう終わったのか?」
「ええ、ミニサレナのおかげで解析は済んだわ。封印処理もしてあるからこれ以上何か起きる心配もないから安心して」
『ヤー!』
「僕もお手伝いしに行ったけど何もできなかったよ……」
「あら、これが起動したのに気が付いたのはマルティナじゃない。もし作業中に起動したら大変なことになりそうだったから、傍にいてくれるだけで安心したわよ」
「そ、そんなことは……えへ、えへへへへ……」
俺達の中で唯一箱がヤバいのを感じ取ったのはマルティナだからなぁ。
エステルが作業を見守ってほしいと頼んでいたから、相当信頼されている証だ。
「それであの箱はなんだったんだ?」
「うーん、正直なところ壊れちゃってたから全部はわからなかったの。魔人独自の技術で作った魔導具ってところね」
「それってセヴァリアで使われてた黒い魔光石みたいな物か?」
「近いけど技術力が段違いね。これを作ったのはかなりの技量を持つ魔導師だと思うわ」
「エステルがそこまで言う程か……。でも解析はできたんだろ」
「解析と言っても機能がわかっただけだけどね。どう作ったかまではわからなかったのよ」
要するにセヴァリアで使われた黒い魔光石の上位互換的な物か。
あれはマリグナントが使った物だと思うけど、魔物を発生させたり強化したりと凶悪な物だった。
更に段違いの性能って一体どんだけ凄いんだ。
思わずゴクリと喉を鳴らすと、ノールが先にエステルへ問いかけていた。
「どんな機能があったのでありますか?」
「簡単に言えば力を蓄えて凝縮する機能ね。それが一気に開放されてあの爆発になったんだわ」
「随分と単純な機能ですね。それだけであれ程の爆発が起きるんですか?」
「それだけ蓄えた力が凄まじいのよ。数年蓄えたって威力じゃないから、恐らく戦争中に仕込まれた物だと思うわ」
「戦争は200年前だったよね? それだけの期間チャージしたならあの威力も納得かな」
200年も蓄えた力の爆発か……それなら要塞が半分吹っ飛んだのも多少は頷けるか。
それだけの期間稼働していたのも凄いと思うが、そこまで高性能ってと言う程の機能なのか疑問だな。
「蓄えるって言うとやっぱり魔力や魔素なんだよな?」
「いえ、魔力に加えて神力も蓄えるみたいだわ。私じゃわからなかったけど、ミニサレナのおかげで神力を蓄える機能があるのもわかったの」
『ヤァー!』
「神力って神魔硬貨に含まれている力でしたよね。やはりこの箱が埋め込まれていたのは、魔法陣を介して神魔硬貨の力を使っていたということでしょうか」
「恐らくね。戦争中に神魔硬貨を利用して神力を引き出していたんでしょうね。普通じゃ利用できないけど、上手く扱えたら魔力の数十、数百倍の力にできそうだもの」
「数百倍でありますか!? どうなるのか想像もできないのでありますよ……」
「わかりやすく理解するならあの爆発ね。魔力だけなら途方もない量が必要だけど、神力が含まれていたらあれぐらいは容易く出来ちゃうわよ。本来は他の用途で箱を通して使っていたんだと思うわ」
うん、そこまで高性能じゃないとか思ってすみませんでした!
神力を操る魔導具なんてヤバいだろ!
下手すりゃカロンちゃんやサレナに匹敵する力を出せるってことだぞ……。
魔導具ありとはいえそんなの自在に操る奴がいたとしたら、要塞を最後まで落とせなかったのも納得だ。
「あんな小さな箱がそんなに凄かったんだな。しかも敵が見つけたら自爆までするって高性能過ぎだろ」
「神力を扱えるようにするための箱みたいだからね。解析を進めていけば私でも扱えるかも。でもあの爆発は仕掛けたというよりも暴発かもね」
「暴発? 罠として仕掛けてあったんじゃないのか」
「結果的に罠になっているけど、中に入っている力が暴走して爆発したのよ。神力はかなり強力だから、下手に扱うと爆発するようになっている感じ。わざとそう設計されていたのか、仕方なくそうなっているかは謎だけどね」
「む、難しい話で頭がクラクラしてきたんだよー」
「眠くなる」
「ふふ、ごめんなさいね。刺激したから爆発したと思えばいいわ」
今にも頭がオーバーヒートしそうなフリージアと、瞼の重そうなルーナを見てエステルが笑っている。
だけど話している内容はとても笑い話になりそうにないぞ。
あの爆発がただの暴走で起きたって、神力がどんだけヤバい力なのか実感させられるな。
ノールも話を聞いて引き気味に感想を呟いている。
「魔人はそんな物をよく拠点に設置して使っていたでありますね……」
「それだけ扱いに自信があったんじゃないですかねぇ。それなら拠点を放棄する時に残していったのも納得ですよ。神魔硬貨を埋め込んだままだったのも、あの箱と直接繋がりがあったからかもしれません。私達は硬貨を回収して箱まで掘り起こしましたから、刺激したってレベルじゃないですね」
「見つけたらあんな爆発を起こすんだから回収なんてしないわよね。勝手に相手が吹き飛んでくれるんだもの。硬貨や箱を見つけてようやく爆発したから、それだけの探査力のある相手を確実に仕留められるこれ以上ない罠だわ」
「見つけられるとしたら王国騎士団やAランク冒険者ぐらいだろうね。戦争で使える道具としてはこの上ない物じゃないかな」
考えれば考える程恐ろしい代物だなぁ。
見つけた相手を消し飛ばすのは勿論、見つからなければいつか再利用できる可能性まである。
普通なら確実に仕留められるから、回収せずに放置したのもわざとだったのか?
要塞の半分が吹っ飛ぶ威力になったのは200年も経ったせいで、本来はそこまでの威力じゃなかったかもしれないが見つけた奴を仕留めるには十分だろうな。
「結局これは最近仕掛けられた物じゃなくて、戦争時に残された物ってことだな。よかった、俺達を狙ってミラジュとかが仕掛けたんじゃないかと不安になったぞ」
「とりあえず今はそう思っていいんじゃないかしら。魔人達がこういう魔導具を持っていると知れたのは大きいわね。今後遭遇した時や拠点に行く際は注意しないとね」
「こんな物をそうホイホイと持ってないのを願うばかりですね。調査報告としてそれなりの成果になってよかったと言うところでしょうか」
今の魔人がこの魔導具を持っているなら、マリグナントやミラジュが使ってきただろうしなぁ。
もう持ってないことを願いたいところだが、同等の魔導具を持っているのは考慮しないと。
これだけの発見ができたならレビィーリアさんへの土産としては十分のはずだ。
明日にでも通話魔導具で連絡を入れて報告に行くとしますかな。
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