要塞跡地
レビィーリアさんの依頼を受けた数日後、俺達は目的地である要塞跡地を訪れていた。
王都から南西方向にあって、魔導自動車でかっ飛ばして6日程とそこそこ遠い場所だ。
要塞は石造りで高い壁で囲まれて規模も大きいが、あっちこっち崩れていてもう要塞としての機能は失われている。
「ここが魔人達のハウスか」
「元、でありますけどね。今はただの廃墟でありますよ」
「風化の影響もありそうですが、至る所に傷もあってかなりの激戦だったようですね」
「地下で見たドワーフの要塞にも劣らない規模ね。撤去するのも大変そうだわ」
「わーい! なんか楽しそう! マルティナちゃん探索しようよ!」
「う、うん! こういう場所に来ると僕ワクワクするんだ!」
「騒がしい奴らだ」
マルティナとフリージアが騒いで走っていき、それを呆れ顔でルーナが追って行く。
何となくルーナがあいつらの保護者感が出てきているな。
俺達も後に続いて要塞の中を探索していった。
「それにしても本当に廃墟ってだけで、魔物とかもいないみたいだな」
「私達の探索は基本魔物が居る場所でありますもんね。でも警戒は怠ってはいけないでありますよ!」
「わかってるって。魔人達が占領していた場所だし何があるかわからないしな」
地図アプリで確認した限り魔物はいないが、擬態とかで表示されない奴がいるかもしれないからな。
それに罠の危険もあるから注意はしておこう。
それから更に二手に分かれて、俺はエステルと高い塔の上へ登った。
「おー、結構遠くまで見えるな。ここは見張り台的な感じか」
「高い所から見る景色は眺めがいいわね。お兄さんと一緒だと尚更嬉しいわ」
「お、おう」
景色を見ずにこっちに熱い視線を向けてくるエステルに返事をしつつ、要塞全体をある程度上から見回した。
地下で見たドワーフの要塞と違って、ここはもう武装とかも全部なくて撤収済みという雰囲気がある。
高い壁の上にも通路などがあり、あそこから大砲などを撃つんだろうけどそれも残っていない。
塔から降りてシスハ達と合流すると、彼女達も俺と似た印象を感じたようだ。
「要塞全体は荒れ放題だけど、中は意外に綺麗なままなんだな。もっと物が散乱してると思ったぞ」
「戦争が終わった後に片づけたのではないでしょうか。それから要塞自体は修復せずに放置されたままなんですね」
「魔人に対しての要塞だったから役目を終えたのかしら。守るどころか奪われて使われたのは皮肉な感じがするけれど」
「どうやって要塞が奪われたのか気になるでありますね。かなり立派でありますからそう簡単にはいかなそうでありますよ」
魔人に利用された挙句に戦後は修復されずに放置されるとは、何とも悲惨な要塞な気がするぞ。
街と呼べそうな規模の要塞だから、撤去するのも大変だし再利用できないようにボロボロのままにしてるのだろうか。
……あっ、そうだ。
ここが戦地になったなら幽霊が残っているかもしれないし、マルティナに頼めば当時の話を聞けるかも。
さっそくマルティナを探すと、要塞のあっちこっちを見て目を輝かせていた。
「マルティナ、ここに幽霊はいるか?」
「え? 幽霊? うーん……見当たらないかな」
「あら、要塞を巡っての激戦地だったはずなのにそんなことあるのね」
「浄化された名残を感じますよ。恐らく神官による死者の追悼を終えているので、戦死された方々は成仏しちゃったんじゃないですかね」
なん、だと……確かに戦争が終われば死者の追悼はするよな。
それで幽霊が成仏しちゃってるパターンもあるのか。
仕方なくまた要塞内の探索を始めたが、地図アプリで見ても特に気になるところは見つからない。
「もう隠し部屋とかもなさそうだな。騎士団が調査し尽くした場所で何か見つけろって方が無理があると思うんだが」
「隠し通路っぽい場所はあったでありますけど、既に調査済みみたいでありましたね。最近誰かが使った形跡もないのでありますよ」
「魔人が制圧していた要塞なんて警戒されているだろうし、今も生き残っている魔人が近づきそうもないわ。試す意味も兼ねてあのお姉さんが選んだ場所だから、こうなるのも想定内ね」
「このままだと無駄足になりそうですね。せめて何かしら見つかればいいのですが……あっ、神魔硬貨探知アプリってありましたよね。それを使ってみたらどうですか?」
「そういえばまだ試してなかったな。これだけ探索し尽されていたら残っているとは思えないけど試してみるか」
手に入れてからまだ使っていなかったが、前に神魔硬貨探知アプリを入手していた。
これを使えば近くに神魔硬貨があるかわかるのだが、果たしてこの要塞に硬貨はあるのだろうか。
さっそく機能をオンにしてみると、ピッ、ピッっと音が鳴りだした。
「……反応があるな。この要塞のどこかに神魔硬貨があるらしい」
「わーい! お宝探索なんだよ! 私が見つけるんだよ!」
「トレジャーハントなら僕に任せて! 絶対に見つけてやるんだ!」
「ちょ、待てよ! ……行っちまった。アプリを使った方が見つけやすいのに」
「自分の力だけで見つけたいんじゃない? 私達はアプリを使って探しましょうか」
またマルティナとフリージアは騒ぎながら走り去っていく。
俺達もアプリの音を頼りに神魔硬貨探しを始めると、ピピピと音が速くなって外に近い壁から反応があった。
「おっ、あったぞ。反応からしてこの壁の中に埋まっているみたいだ」
「うーん、壁が切り開かれた感じはないですね。石材の中に直接埋め込まれているのでしょうか。こうなったら破壊しましょうか」
「なら私に任せるのでありますよ! ズバッと剣で斬っちゃうのであります!」
「ちょっと待って。壊さなくても魔法で取り出せると思うわ。お兄さん、一応硬貨のあった位置を地図アプリでマークしておいて」
「うん? わかった」
エステルに言われて地図アプリに神魔硬貨のあった位置をマークしておいた。
それから彼女が壁に杖を当てると、ニョキっと壁から神魔硬貨が出てきたので回収。
壁の中に埋まっている物をこんな簡単に取り出せるとか、魔法って本当に凄いもんだ。
その後も同様に神魔硬貨をいくつか回収していると、壁の前で何やら唸っているフリージアを発見した。
「むむむむ……」
「フリージア、何してるんだ」
「あっ、平八! ここ! ここに硬貨あると思うんだよ!」
「アプリの反応的にもそこっぽいな。よく見つけたじゃないか」
「えっへん! でもどうやって取り出せばいいのかわからないんだよ。矢を撃って破壊すればいいかな?」
「待て待て! エステルが魔法で取り出すから壊すな!」
「全く、破壊しようなんて物騒な発想はいけませんよ」
「さっきシスハも同じこと言っていたでありますよね……」
シスハもノールも真っ先に壊そうとしてやがったのによく言うぜ。
もう廃墟だから壊しても平気そうだが、後で面倒ごとになっても困るから避けたい。
無事エステルにより非破壊抽出も完了しまたアプリを頼りに硬貨を探すと、今度はマルティナが壁と睨めっこしていた。
「むぅー、どうしよう」
「マルティナも硬貨を見つけたのか」
「うん、友達に頼んで見てもらったら壁の中に埋まっていたんだ。どうやって取り出そうかな。廃墟とはいえ勝手に壊すのもいけないと思うし……」
「マルティナ、お前本当に思考はまともな方なんだな」
「えっ、急にどうしたんだい?」
「ここに来るまでに色々とあったのよ。私が魔法で取り出すから安心して」
普段あれな言動をしているマルティナだけど、こういう時にまともな感性をしているって実感できる。
多分このパーティー内では俺に並ぶ程まともな部類だ。
それにしてもフリージアもマルティナも、自力で壁に埋まった神魔硬貨を見つけ出すのは流石だな。
ここも無事にエステルに回収してもらい、その後も合わせて計10枚の神魔硬貨を発見できた。
「うひょー! 10枚も神魔硬貨が出てくるなんてたまらないな!」
「でもどうして要塞に神魔硬貨が隠されていたのでありましょうか? 魔人が制圧していたからっていうのはわかるのでありますが、一体何の意味があるのでありますかね」
「墓場の例を考えると何かしらの意味がありそうですね。それに1枚1枚分散して隠されていたのが気になります。隠すというより必要があって埋め込まれていた気もします」
「影の魔人が硬貨を使って魔物も強化していたよね。ただお宝として埋めたとは考えにくいよ。問題はこれが戦時中に埋められた物なのか、最近埋められた物なのかだよね」
魔人の墓場にも置かれていたし、ドワーフの地下都市では魔物に埋め込むといった特殊な使われ方をしていた。
今思えば墓場に神魔硬貨が置かれていたのも、魔物を発生させるのに何か関係があったのかもしれない。
この要塞に埋め込まれているのも何かしら意味がありそうだが……考えてもよくわからないな。
そう考えこんでいるとエステルが声をかけてきた。
「お兄さん、地図アプリを見せてもらえる? 硬貨の位置は全部マークしたわよね」
「おう、言われた通りに全部マークしておいたぞ」
エステルに言われてスマホの地図アプリを見せると、彼女は頬に手を当てて何やら考え込んでいる。
どうしてマークしてと言われたのかわからなかったが、何か気になるのだろうか。
「やっぱり規則性があるみたいね。硬貨があった位置を繋いでいくと大きな円になるわ」
「あっ、本当だ。地図アプリ上で見ないとわからなかったな」
「円になるよう配置することで何か起きるのでありますかね?」
「それはわからないけど、戦争の時に使われて要塞を取り戻せなかったことに関係してたのは十分考えられるわ。神魔硬貨は尋常じゃない力を発揮できるみたいだもの。1枚で魔物をあんなに強化できるんだから、10枚も使ったら何ができるか想像もつかないわね」
影の魔人が見せた魔物を強化する力だけでも尋常じゃなかったからな。
もし神魔硬貨に他の利用方があるとすれば、それだけでもかなりの脅威だ。
スマホに吸収してアイテムと交換できるのも、神魔硬貨に込められた力のおかげなのだろうか。




