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魔人の痕跡

「アン! ドゥ! トロワ!」


 俺は掛け声と共にエクスカリバールを振り、ケプールを真っ二つに斬り裂いた。

 3度の願いで威力が6倍に上がった3振り目からは斬撃が飛び、複数のケプールを1度に巻き込んでいる。


「大倉殿、一体そのかけ声は何なのでありますか?」


「いやぁ、3度の願いを使いこなすための工夫だよ。こういうかけ声があれば自分が何回振ったかわかるかと思ってな」


「発想はいいと思いますがもう少し何とかなりませんかね? 大倉さんが言うとなんかぞわっとくるんですが」


「ちょっと決まらない感じがするわよね。お兄さんのそういうところもいいとは思うけれど」


 いつものようにリザードマンを狩るのにレムリ山に来ているが、アンデッドによる半自動狩りだけじゃなくて俺も参加している。

 実践の練習も兼ねているが、この掛け声でエクスカリバールを振るのは不評だ。

 結構いい考えだと思ったんだがなぁ……トゥ! ヘァ!の方がよかったか?

 ある程度狩りをやったので後はアンデッドに任せ、エステル達と一緒にティータイムの休憩を始めた。

 ちなみにフリージアとマルティナは魔導自動車内で映画鑑賞中だ。


「働けど働けどガチャは楽にならないなぁ」


「ガチャが来たら全部貯蓄溶かす勢いで回すからでありますよ」


「そのおかげでお前達も大幅に強化されただろ。俺の判断は間違っていなかったはずだ」


「むむ、それはそうでありますが……おかげで私のレギ・エリトラも、敵をギコギコしないでスゥーっと斬れるのであります!」


 強化前からナイフでバターを斬るように魔物を斬っていた気がするけど……まあ、それぐらい武器が強化されて嬉しいのだろう。

 しかし魔石の貯蓄が溶けたのも事実だから、今後も狩りは欠かせない。

 魔石狩りと言えばアーデルベルさんから連絡があったのだが、その件についてシスハが聞いてきた。


「魔導具店の方はどうなんですか? 早朝にアーデルベルさんから連絡があったと仰っていましたよね」


「ああ、あれから続々と会員ランクを上げた冒険者パーティーが増え始めたようだ。ここ数日で新たに3パーティーがガチャ装備を購入したらしい」


「あら、3パーティーも追加なんて順調じゃない。これでディウス達も含めたら6組が自動魔石狩りの対象になったのね」


「そうだな。その前の1組も合わせて4組に魔物探知機も渡したそうだ。これで爆発的に魔石取得が増えるといいんだが……」


「問題はまだまだ多そうでありますね。結局こうやって自分達で狩りをしないと大量取得はできないのでありますよ」


 魔石狩りパーティーが着々と増えつつあるものの、その効果が出るのはまだまだ先のようだ。

 6パーティーがガチャ装備を所持して魔石狩りをしても、日割りで5個入ってくるかも怪しい。

 これじゃ魔石不労所得でガチャ回し放題には程遠いから、冒険者の希少種狩り効率問題と合わせて解決しなければいけない。

 狩りを終えてからエステルと一緒に王都の冒険者協会へ立ち寄り、ついでに拠点にも立ち寄ってポストを見たら中に手紙が入っていた。


「あら、お手紙? 冒険者協会からの連絡かしら?」


「いや、差出人の名前は封筒には書いてないな」


「怪しいわね……。一応魔法で何かしらの細工は施されていないようだわ」


「えっ、手紙に魔法で細工なんてあるのか?」


「ええ、位置を探索したり物騒な物ならその場で攻撃魔法を発動したりね。薄い紙でも小規模な爆破ぐらいはできるわ」


 それを聞いて思わず手紙を捨てそうになったが、エステルが平気だと言うので踏み止まった。

 エステルの言う小規模って手ぐらいなら吹き飛びそうだから怖い。

 手紙型爆弾を作れるとか危ないってレベルじゃねーぞ。

 差出人不明の怪しい封筒を恐る恐る開いて中身を確認した。


『定期連絡とご相談のお知らせ。5日後、正午より王立図書館にお越しください。王立図書館の主より』


「王立図書館の主……レビィーリアさんじゃないか」


「あら、騎士団のお姉さんからだったのね。そういえば定期連絡をする時期とか決めてなかったわね。それに相談って何かしら」


「俺達に調べてほしいことがあるって言ってたよなぁ。あれからそこそこ経ってるし何か見つけたのか」


「魔人関連の調べ物かもね。私達も強化されたことだしちょうどいい機会じゃない」


 確かに俺達も更に強くなったし、魔人関連の調査も積極的にやっていきたい。

 魔人のことを調べていけば、前の墓場のように神魔硬貨も見つけられそうだからな。

 それにしてもまさか手紙を使って約束を取り付けるとは……この世界じゃ当然のことだがちょっと面倒だ。


「手紙でやり取りして実際に会いに行くのも手間だな。レビィーリアさんにもトランシーバーを渡しておくか?」


「それはまだ早いと思うわよ。お互いを完全に信用した訳じゃないもの。手の内はできるだけ明かさない方がいいわよ。せめて今回の話し合いの内容を確認してから判断するべきだわ。それに王都内だったら私の作っている通話用魔導具で十分じゃない」


「あっ、そうか。でも普段はブルンネにいるからあの魔導具じゃ圏外だよな」


「それなら着信が来たって通知する魔導具も作っておきましょうか。通知を送るぐらいなら王都からブルンネまでは簡単にできるもの。皆いつでも通話に出られる訳じゃないし、また1つ商品のアイディアが増えちゃったわ」


 まさか着信通知の機能まで取り付けられるとは……やはりエステルさんは恐ろしいお方だ。

 そんなこんなで約束当日、俺とエステルで王立図書館へ足を運び制限区域へ入った。

 そこには約束通りレビィーリアさんがいて、俺達に気が付くと片手を上げて声をかけてくる。


「おっ、呼び出しちゃってすまないね。来てくれてありがとう」


「いえ、定期的に会う約束でしたので大丈夫ですよ」


「あの手紙はお姉さんが送ってきたのよね? 部下の人にでも頼んだのかしら」


「誰にもバレないようにコッソリと私が直接入れたのさ。君達と関わっているのは私以外誰も知らないからね」


「騎士団の隊長が直接手紙を入れにくるって、誰かに見られたらちょっとした騒ぎになりそうだわ。街中にいるだけでも目立つそうだもの」


「あはは、私に限っては大丈夫さ。普段から街中を散策しているから、親しみやすいって定評があるんだよ。それに人目の少ない時間に入れたからね」


 まさかレビィーリアさんが直接手紙を入れて来ていたなんてな。

 本気で自分以外の人に俺達との関係を知らせないようにしているのか。

 それにしても親しみやすいのに定評があるって……俺達と最初会った時もフレンドリーだったし、あんな感じで町の人達とも親しいのかね。

 今のやり取りに関連付けてか、エステルは通話魔導具をレビィーリアさんに差し出した。


「今度からこれで連絡をしてもらえると助かるわ。これなら手紙よりも確実に連絡ができるのよ」


「おー、これって今話題の通話できる魔導具だよね。1個手に入れるだけでも数十分から数時間は待たないといけなくて、買うのも大変だって聞いたよ」


「えっ、そこまでですか? 行けば普通に買えるはずですけど……」


「最初はいくらでも買えたみだいだけど、今じゃお1人様1日1個に制限されているってね。あまり表立っては言えないけど、貴族も買占めに走ってるってさ。本当に貰っちゃっていいのかな?」


「ええ、私達は早い内に買ったからまだまだ余裕があるもの」


「へぇー、やっぱりBランクの冒険者ともなると便利な魔導具の目利きも凄いんだね」


 実際は俺達が作って供給しているからいくらでも手に入るけど、作っているのは秘密にしているから言えない。

 状況に応じて販売数の制限をするとは事前に聞いていたが、まさか通話魔導具が1人1日1個まで制限されていたのか。

 販売はアーデルベルさんに任せっぱなしだったから、俺達が想像していた以上に市場が加熱していたんだな。

 今だってかなりの数供給しているのに、全部捌いた上で更に納品してほしいって相談されている。

 身体強化の支援魔導具ばかり注目されていたが、他の魔導具の便利さも地道に広まっているようだ。

 話を聞いている感じだとレビィーリアさんはまだ使ったことがないようで、エステルも同じように思ったのか疑問を投げかけていた。


「お姉さんはまだ使ったことがないのね。騎士団で使ってはいないの?」


「個人携帯はできないけど、一応似たような魔導具自体はあるからね。それに騎士団まで一般販売されている通信魔導具を安易に使う訳にもいかないからさ。せめて製造者が誰かわからないと採用は難しいよ」


「騎士団だけあって結構しっかりと考えられているんですね」


「お褒めいただきありがとう。でも個人携帯できる通話魔導具は魅力的だよねぇ。使ってみるのが楽しみだよ」


「あら、前置きの話を聞いた限り使うのを躊躇するかと思ったわ」


「これは個人的なのと、お嬢さんから受け取る物だからかな。君ぐらいの魔導師になったら、傍受されたりしたら気が付くよね」


「うふふ、割り込みなんてされたら気が付くわね。それを辿って逆探知して反撃もできるもの」


「おー、こわ。やっぱり君達のことは敵に回したくないなぁ」


 なるほど、言われてみたら騎士団がよくわかっていない魔導具を使うのは危険か。

 どっから情報が洩れるかもわからないし、傍受されるって概念もあるなら尚更だな。

 軍が魔導具工房に同じような支援魔法の魔導具を作れないか打診したのも、あそこなら信用があるからだ。

 ここまで話題になっているんじゃ、国が何が何でも製造者を特定しようと躍起になりそうで怖いぞ。

 さて、話が逸れ始めたからそろそろ呼んだ理由を聞いておこう。


「それで今日私達を呼んだ用件は何でしょうか?」


「実は君達に調査してもらいたいものがあるんだ。勿論前言ったように魔人関連のものだよ」


「あら、定期連絡だけじゃなくてやっぱり依頼もするつもりだったのね」


「そう警戒しないでよ。これはお試しも兼ねてのものだからさ。君達としても魔人のことを探っているんだから、調査するのはお互い望み通りのはずだ」


 予想通り調査の依頼みたいだが、レビィーリアさんの言うように俺達としても不都合はない。

 むしろ騎士団の人が依頼してくる調査がどんな物なのか興味すら湧いてくる。

 俺とエステルは目配せして特に問題がないと判断して頷くと、レビィーリアさんは話を続けた。


「それで調査というのはね、前に騎士団でも調べた場所なんだ。戦時中魔人が拠点にしていたって話のある要塞跡地だよ」


「えっ、そんな物騒な場所があったんですか……」


「話のあるって曖昧な言い方ね。拠点にしていたのかわからないってこと?」


「いや、拠点にはされていたんだけど、元は王国の要塞だったんだよ。そこを占領されて終戦するまで取り返せなかったらしいんだ」


 戦争中に奪われた要塞とはこれまた物騒な気配のする場所が出てきたなぁ。

 しかも終戦まで取り返せなかったって、完全に魔人の要塞と化していたと。

 何かある気配がビンビンするんですが……。


「魔人に対しての要塞だったから既に使われてはいない廃墟なんだけど、一応魔人と関連があったから最近でも調査はしているんだよ。でも何度調べても特に何か発見はないんだ」


「それじゃあ一体どうして私達に調査を?」


「君達なら騎士団でも見つけられない何かを発見してくれるじゃないかと思ってね。だからしばらくの間は、騎士団が既に調べた場所も調査してもらうつもりだ。以前の墓場だって既に調査したのにあんな地下空間が出てきたからね。最近何かと魔人の活動が活発化しているから、何かしているかと思ったんだ。あっ、報酬はちゃんと渡すから安心してね。現金でも情報でも好きな方でいいよ」


 そうレビィーリアさんが笑顔で言ってきたが俺は苦笑いするしかなかった。

 騎士団が既に調査した場所で魔人に関しての何かが見つかるのだろうか。

 初めての騎士団の隊長である彼女からの依頼、これはある意味試験と言ってもいいだろう。

 とりあえず初依頼なので報酬は後で決めることにして、俺達はレビィーリアさんの依頼を受けることにした。

 かつて戦争で魔人が制圧した要塞……何かありそうで怖いな。

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