合成箱
ガチャを引いてから数日経ったある日のこと。
俺はノール、シスハ、エステルがいる居間で頭を抱えて悩んでいた。
「うーん……うーん……」
「どうしたんですか。露骨に悩んでますアピールしていますけど、何か聞いてほしいんですか?」
「こういう時の大倉殿は大体ロクなことを考えていないでありますよね……」
「そんなことないぞ。ただちょっと悩んでることがあってなぁ……チラ、チラ」
「あら、そんな熱い視線を向けられたら照れちゃうわ」
エステルさんと目が合うと頬に片手を当てて照れる仕草をしている。
うっ、そういう反応されるのは予想外だけどエステルなら仕方ないか。
「それで何を悩んでいるのかしら?」
「実はティルヴィングをどうしようかなって思ってさ」
「それってこの前引いたURの剣ですよね。でも敵を自滅させる用として話が纏まりましたよね」
「ああ、だけどやっぱり3回振ったら攻撃力が6倍になる能力は破格だろ。どうにかして利用できないかと思ってな」
「確かに魅力的な能力だけど、3振り目で自滅するからそこまで破格の効果なのよね。3回目を敵に振らせる以外に使い道があるかしら?」
引いた時から思っていたけど、やはりティルヴィングを自滅用として使うのは勿体ない。
そこで貯まっていたガチャアイテムを色々と確認していたのだが、使えそうな物を発見したからノール達に相談しようとチラチラしていたのだ。
「実は有効な活用法を見つけてしまってな。合成箱を使おうと思うんだ」
「合成箱? それってガチャのアイテムでありますか?」
「かなり前に引いたガチャアイテムだな。いつか使える日があると思って取っておいたんだよ」
――――――
●SSR合成箱
同系統の装備の能力を指定して統合する。
成功率100%。目指せ最強装備。使用後このアイテムは消滅する。
――――――
「こんな都合のいいアイテムを今まで温存していたのね。下手に使わないで良かったじゃない」
「まさかあんな自滅する武器が存在するとは思いませんでしたからね。これなら3度の願いだけを抽出して他の武器に移せるってことでしょうか」
「恐らくな。問題はどの武器に付与するかなんだが……お前らはどう思う?」
能力を移せるのはいいのだが、悩んでいるのはベースをどれにするかだ。
思いついた時はエクスカリバールで良いと思ったけど、ノール達の専用装備に付与しても十分に強い。
俺なんかが使うよりよっぽど活用できるだろう。
だから意見を聞こうと思ったんだが……3人共顔を見合わせると全く悩む素振りもなく即答してきた。
「エクスカリバールでいいんじゃない」
「私もエステルさんと同じくです」
「でありますな」
「えっ、他の意見はないのか? 後でフリージア達にも聞こうと思っていたんだが」
おいおい、こういう時は話し合って決めるもんだろ。
それなのに即答って一体どういうつもりなんだ。
考えを聞こうかと思ったが、その前にシスハが質問をしてきた。
「むしろ大倉さんとしては他にどれに付与しようとお考えで?」
「そりゃお前達の武器だろ。ノールやルーナの武器に混ぜ込んだら強そうだし」
「むー、それはちょっと欲しくなるでありますね」
「けど私達の専用装備と誰でも使える装備って同系統って言えるのかしら」
「うん? 武器は武器じゃないのか?」
「どうでしょうか……。専用と言うだけあって、自分以外が装備を使ったら能力が発揮されませんからね。余計な混ぜ物が出来るのか疑問です」
確かに武器とはいえノール達のは専用装備。
誰でも使える汎用装備と同カテゴリなのか怪しいな。
そんな訳で確かめるべく実験をすることに。
実体化された合成箱は真っ黒い小さな四角い箱。
中は真ん中で区切られていて、左にベース、右にマテリアルと書かれている。
使おうとするとスマホに通知が来て、合成箱を使用しますか? と表示されていたのでYesを選択。
スマホからノールのレギ・エリトラをベースに選択すると、光の粒子になって吸い込まれていく。
そして次に素材となるティルヴィングを選択したのだが……同系統の装備じゃありませんと拒否された。
「あっ、ダメみたいだな。専用装備は別カテゴリ扱いなのかよ」
「私の剣で実験されるのは何とも言えない気分なのであります……」
「やっぱり専用装備とは混ぜられないのね。正直強くなるとしても、自分の杖に余分な物が入るのは少し嫌だわ」
「私達の装備は自分用に調整がされていますからね。下手な物が混ざるとバランスが崩れてしまいますよ」
何となくだがノール達は合成できないんじゃないかと感じていたのか。
確かに専用装備は特別な物だし、余計な混ぜ物ができないのも不思議じゃない。
その分重ねて強化した時に強さが跳ね上がったり、ノール達だけに適用される効果があるから強力なんだろうな。
「結局エクスカリバールと合成させるしかなさそうだな」
「それが無難な判断ね。そもそも誰でも使えて汎用性もあるんだからいいと思うわ」
「大倉さんは技量が少ない分、火力で補わないといけませんからね。1発でも相手に当たれば儲け物ですよ」
「元の攻撃力も高いでありますからね。黄金の輝きと合わせれば凄く強いのでありますよ」
なるほど、それぞれ考えは違うとしてもエクスカリバールを強化するのは賛成だったのか。
誰でも扱えて1番パーティーで弱いであろう俺も強化でき、更に攻撃力も高くて威力を2倍にする黄金の輝きまである。
総合的に考えたらエクスカリバールを強化するのが無難な選択だな。
念のためマルティナ達も呼んで意見を聞いてみたが、ノール達と同じくエクスカリバールで賛成だった。
フリージアが羨ましいとちょっと騒いだものの、説明されてすぐに納得してくれたから素直な奴だ。
という訳で、全員居間に集まってエクスカリバールの強化を見守ることにした。
「それじゃあ始めるぞ」
「わーい! こういうのワクワクするね!」
「こんなアイテムがあったのは驚いたよ。これならデメリットのある強力な装備のメリットだけを移せるじゃないか」
「ふむ、平八はもっと強くなれ」
先ほどと同じくスマホでエクスカリバールをベースに選択すると、光の粒子になって箱に吸い込まれていく。
次にティルヴィングをマテリアルに選択すると同様に箱に入っていき、問題なく合成画面がスマホに表示された。
――――――
『ベース』
●エクスカリバール☆95
攻撃力+9490
行動速度+520%
スキル付加【黄金の一撃】
MP総量の9割を消費し、攻撃力を2倍した一撃を放つ。
状態異常:毒(小)
木特効:ダメージ+10%
『マテリアル』
●ティルヴィング
攻撃力+5000
【3度の願い】
1振り目で攻撃力を2倍、2振り目で攻撃力を4倍、3振り目で攻撃力を6倍にする。
【破滅】
この剣は3振りした時点で消滅し、その際の持ち主にあらゆる効果を無視したHPの100倍のダメージを与える。
――――――
マテリアル側にだけ選択画面があり、欲しい能力を選んでベース側に張り付けるようだ。
攻撃力は選べず他の能力だけが対象で今回は【3度の願い】を選択。
合成を開始しますか? と表示されたのでYesを選択した。
すると合成箱の箱が閉まり、蓋の隙間からピカッとひと際強い光が発せられる。
それが収まると黒い箱が光の粒子となって消えて、エクスカリバールだけがその場に残った。
心なしか合成する前より黄金に輝く艶が増している気がするぞ。
――――――
●エクスカリバール☆95
攻撃力+9490
行動速度+520%
状態異常:毒(小)
木特効:ダメージ+10%
スキル付加
【黄金の一撃】
MP総量の9割を消費し、攻撃力を2倍した一撃を放つ。
【3度の願い】
1振り目で攻撃力を2倍、2振り目で攻撃力を4倍、3振り目で攻撃力を6倍にする。
――――――
「マジで他の武器から能力だけ抽出できたぞ……。SSRのアイテムでこれは破格だな」
「凄いとは思いますが素材にURを使っていますからねぇ。1回で消滅するのは考えたら妥当なところでしょうか」
「SSRでも入手するのが大変だもの。こうやってUR装備の能力を移せるのなら、今後手に入れても使うのは慎重になった方がいいわね」
勿体ないと思っていたから合成箱を後回しにして放置していたが、まさかこんな日が来るとはなぁ。
合成箱を当てた当初は絶対にURを素材なんかにしない! って誓っていたけど、あんなデメリットがあるURなら仕方がない。
URの能力が付加されているとか、もうエクスカリバールも実質URと言っても過言じゃないような……。
【黄金の輝き】はMP9割消費して攻撃力2倍なのに、【3度の願い】はノーリスクで常に2倍以上になるのは流石UR装備の能力なだけはある。
あっ、そんなことより気になることがあったんだ。
「混ぜた後で言うのもあれだけどさ、3振り目が終わったらどうなるんだ?」
「元の能力を考えたら、4振り目からは想定されてなさそうだよね。あるとしたら1振り目としてリセットされるか、4振り目で8倍になるとかかな?」
「それなら最低でも常に攻撃力2倍。強い」
「平八やってみようよ!」
ティルヴィングは【破滅】の効果で3振りしたら消滅してしまう。
なので【3度の願い】は4振り目からは未知の領域。
マルティナの言うように1振り目に戻り2倍になるのか、4振り目として8倍になるのか……後者だったらとんでもないことだぞ。
検証するために訓練場の機能であるダメージ計測を使うことにした。
設定すると巻藁が出現し、これに攻撃することで計測されるようだ。
「おりゃ! うりゃ! どりゃああああ!」
叫びながら力いっぱいエクスカリバールで巻藁を10回ぐらい殴り、それをエステル達がモニターでダメージを確認してくれた。
「どうだった?」
「4振り目は2倍になって、5振り目は4倍になっているわ。4振り目は1振り目と同じ2倍になるから、リセットされてループするみたいね」
「むむ、4振り目からもっと攻撃力が上がらないのは残念でありますね。でもMPの消費もなしで常に攻撃が倍々になっていくなんて凄いでありますよ」
「元々は自滅する程のデメリットがあった物ですからね。これぞある意味チートってやつですか」
流石に4振り目から8倍になるほど都合よくはなかったか。
だが最低でも常に攻撃力が2倍になるのは凄まじい効果だ。
問題は戦っている内に今何振り目なのかわからなくなりそうなところだが……まあ、使っていればその内慣れるかな。




