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息抜き

「はぁ、なんだか疲れちゃったな」


「どうしたのでありますか? いつも以上になんだかふにゃっとしているのでありますよ」


「魔石狩りにはいかないのかしら?」


 反省会から十数日後。あれから俺達は北の洞窟でまた狩りを再開して、魔石とレベル上げをしていた。

 そして今は、また朝となり今日はどうしようか宿で決めているところだ。

 俺はなんだか疲れが溜まり、ベッドから起き上がれなくなっていた。


「うーん、魔石集めはちょっとお休みしようかな」


「……えっ」


 俺がそう言うと、彼女達は驚いた表情をしながら声を出す。

 なんだ? 俺そんなにおかしいこと言っただろうか?


「大倉殿、大丈夫なのでありますか? どこか具合が悪いのでありますか?」


「熱は……ないようね。お兄さん、万能薬を飲みましょう?」


 ノールは信じられないと言う声で俺に話し掛け、エステルは額に手を当て熱があるか確認をしている。

 おい、万能薬を飲んだ方がいいんじゃないかと思われている程なのか!


「俺は正常だぞ」


「まっさかぁ~、大倉殿がそんなこと言うなんて、どっかおか――いふぁい!? いふぁいのでありまふよ……」


 おいおい、冗談だろ。そう言いたそうに両手を肩程に上げてやれやれって仕草を彼女はした。

 思わず最近していなかった頬を引き伸ばしてしまったぞ。


「全く、俺をなんだと思っているんだ」


「えへへ、大倉殿はやっぱりそうじゃないとでありますよ」


「むぅ……ありがとな」


 俺がアンニュイな気分になっているのを察して、和ませてくれたのか?

 少しだけいつもの調子が戻ってきた気がする。

 やはり先の見えないことを考えると、気分が沈んでしまって駄目だな。

 ガチャでお目当ての職を引き当てる……俺がGCをやっていた頃を思い出してしまう。

 虹演出からの違う、そうじゃない! の連発。そして魔法のカードの支払額を見ての絶望。

 

 しかしお目当てのが出た時は脳汁が溢れ出る程の喜び……あっ、やっぱりガチャしたくなってきた。


「それで、今日はどうするのかしら?」


「そうだな……気分転換に協会の依頼でも何かやりにいくか。俺達昇格依頼以外は討伐系しかやってないし」


 とりあえず今日は北の洞窟での狩りを止め、他の依頼でも受けようかな。




「ほえー、なんだかのどかな場所だな」


「そうでありますな。なんだか体がうずうずしてくるのであります」


「たまにはこういう所もいいわね」


 俺達が今居る場所は、緑の広がった野原、川も流れており見晴らしの良い所だ。

 冒険者協会へ行き、Cランクの薬草採取依頼を受けここにやってきた。

 近くには森があり、そこが今回の対象であるシスキー草の生えている所だ。

 

 この森の中には狼系の魔物がよく徘徊しているみたいだが、まあ俺達なら問題ない相手だ。

 シスキー草は白い玉のような物がくっ付いた草。写し絵で一応見せてもらっているが、そんな草が本当にあるのかね。

 主な自生場所は森の中で、この野原には若干だが生えているらしい。納品する数は20個だ。


「んー、それにしても広いな。ここから探すとなると結構手間なんじゃないか?」


「あっ、さっそく見つけたのでありますよ!」


 結構な広さがある野原、そして森を探すとなるとそう簡単には見つからない。

 そう思っていたらノールがさっそく発見したのでズッコケそうになった。


「……案外すぐ見つかるのな」


「たまたまじゃないかしら?」


 ノールが喜々としてシスキー草を取りに行った。

 この調子ならすぐに集まりそうだな。早く集まったら少しここで休憩でもしていこうか。

 日差しもよくとても気持ちが良い場所だ。気分転換には丁度良い。


「……うん、たまたまだったみたいだな」


「全然見つからないのであります……」


 そう思い探すこと数十分。最初に見つけた物以外は全く見つからない。

 最初が調子良いと、いつもこれだよ! 

 上げてから落とすことが多いし、なんだか俺嫌がらせされてる気分。


「んー、やっぱり森の中行くしかないか」


「せっかくのんびり薬草採取の依頼を受けたのに、結局こうなるのね」


 このまま魔物と遭遇せずに無事終わるかと思ったけど、やはり中に入らないと駄目か。

 魔物とちょっと戦うぐらいならいいのだが、中に入ったら感知してくる魔物が多いのがね。


 そうして森の中に入ろうと近づいていくと、その手前で白い小さな生き物が縮こまっているのを発見した。


「ん? なんだあれ」


「あ、あれは!?」


「知っているのかノール?」


 その生き物を見たノールが、大きな声を出して驚いていた。

 いつも思うけど、なんだかんだで結構物知りだよね。今度何か教わろうかな。


「あれはフォルトゥーナラビットなのでありますよ! 見かけると幸せになれると言われている、とってもありがたい生き物なのであります!」


「あら、可愛らしいわね」


 いつもの両手を上下に振って興奮する仕草が、今日はいつにも増して激しい。

 とても興奮しているようだ。まあ幸せになれるっていうのだから珍しいんだろうな。

 エステルもそれを見て可愛いと言っている。

 

 よーく見てみると、赤い目に長い耳、そして丸まった尻尾……名前どおり完全に兎だな。でも体には薄らとハートの模様がある。

 ……こんな所に普通の生物がいるのだろうか。これ魔物じゃないの?

 でも彼女達の反応を見るとそうでもなさそうかな。

 

「あぁ……見れただけでも満足なのでありますよ」


「そこまでか……ん? なんだか様子が変だぞ」


 はぅ~、と彼女は声を漏らしている。これは俺も可愛いと思うので仕方ないな。

 目の前で縮こまっていた兎を見ていたが、ふと変なことに気が付いた。

 なんだかこっちを見て震えて怯えているかのようだ。なのに逃げる素振りを見せない。


「あっ……怪我しちゃってるのであります……」


「あー、結構深そうだな。これで治せるか?」


 近づいてみるとさらに震えて逃げようと動きだしたが、すぐにまた倒れた。

 ノールが刺激しないようそばに行きしゃがみ、足の所を見てみると怪我をしていると言う。

 俺も近寄り見てみると、他の魔物に襲われたのか深い刺し傷が有り結構な量出血していた。よくこんな状態で逃げてこられたな。

 

 兎をそわそわした感じで彼女は見ている。

 仕方ないので、とりあえずポーションを渡して傷を治させることにした。

 人間以外にも効果があるのかわからんけど。

 

 ノールがポーションを受け取り中の液体を手に出す。それを兎の口の前に持っていくと、チロチロと舌を出して舐め始めた。

 ある程度舐め終わると、傷口の部分が光りだして傷が消えていく。

 ほぉ、今まで外傷が出来たことはなかったのだが、ポーションを使えば傷口も塞がるんだな。


「さすがはガチャ産のポーションだな」


「ホント一瞬で治るのね」


「はぁ~、良かったのであります。ほら、帰りは気をつけて帰るのでありますよ」


 傷がすっかり無くなった兎を、ノールが一撫でだけして立ち上がり離れる。

 すると、兎も立ち上がって彼女の後ろをテクテクと付いてきた。


「あれ、どうしたのでありますか?」


「気に入られたんじゃないか?」


 ノールの足元に追い付くと、彼女を見上げて潤んだ瞳で見つめている。


「んー……大倉殿?」


「駄目です」


 凄く何か言いたそうに俺に声をかけてくるが、多分連れて帰りたいとかだろう。

 そんなの駄目だ、そもそも飼う場所がない。宿に入れる訳にもいかないしな。


「そこを、そこをなんとか……」


「てかこれ魔物じゃないの?」


「フォルトゥーナラビットなのであります」


「おう……」


 それでもノールは懇願してくる。

 俺が疑問だったことを聞いても、兎だと言い張った。いや、害は無さそうだからいいんだけどさ。

 

 そうして長い間口論になり、最終的に俺が折れた。

 薬草採集が終わる頃には、既に夕日が辺りを照らし始めていた。俺の気分転換は一体どこへ。


 ちなみに後で聞いたところ、この兎はペットとして飼える魔物らしい。

 知能も高くて1度気に入られたらとことん懐くとか。

 とりあえずペットも泊まれる宿を探すか……。



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[良い点] アンニュイになることあるよね!
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