決戦グランクラーケン
クラーケンの誘き寄せを開始してから数分、まだ始まったばかりなのに緊張からか随分時間が経ったように感じる。
背後を見れば馬鹿でかいクラーケンが迫っており、俺達を絶対仕留めると言わんばかりの勢いだ。
「ちゃんと追いかけてきてるな。これなら誘導は何とかなるか」
「ダメージがないとはいえ攻撃し続けているもの。距離も保っているからあっちも諦めないのね。これもミニサレナが計算してくれているおかげだわ」
『ヤー!ヤァヤァ!』
ミニサレナが喜ぶように声を上げると、クラーケンからの海裂攻撃を回避し、お返しとばかりにバシュバシュと魚雷を発射して反撃もしている。
いわゆる引き撃ち戦法だが、相手から攻撃を避けられた上に反撃までされるとかめちゃくちゃイラつくだろうな。
しかも追いつけそうな距離で逃げ続けているから、このまま見逃す気にもならないはずだ。
……ミニサレナって煽り性能まで高い気がしてきたぞ。
そうしている内に地図アプリにマークしておいた目標地点が見えてきた。
マークを頼りにその地点を俺達が通過すると、クラーケンも同じようにそこを通って追いかけようとしてくる。
そして範囲内に入った瞬間、海中に馬鹿でかい魔法陣が出現し多数の光の鎖が伸びてクラーケンの体に突き刺さった。
同時に紫色の靄が魔法陣の内側に充満し始めると、動きが見るからに鈍くなっていく。
「よし! 上手く拘束できたみたいだな」
「うふふ、私とエステルさんとマルティナさんで手掛けた特別製ですからね。ネームド級の魔物でさえ簡単に脱出できませんよ」
「マルティナのデバフが加わった影響が大きいわね。拘束と同時に弱体化できるんだもの」
「え、えへへ……アルヴィさんの結界操作が上手なおかげですよ。普通の神官じゃ負の力と反発しちゃうからね」
「強力な負の力を消滅させずに封じ込めるのはなかなか苦労いたしました。死霊術師なのにここまで相手を弱体化させる力まで強い方は滅多にいませんよ」
クラーケンを拘束したのは3人が力を合わせて作った複合魔法で、エステルが鎖で拘束、シスハが耐久力を上げ、マルティナが対象を弱体化させるという凶悪な物だ。
グランクラーケンが暴れても鎖はビクともせず、拘束が外れる様子はない。
後はこのまま次の段階に移行……と思いきや、クラーケンが違う動きを見せた。
突然鎖の刺さっていた足が次々と千切れ始める。
「な、何をするつもりなんだ?」
「足! 足が切れたんだよ!」
「足を自分で切って抜け出そうとしているのでありますかね?」
「固有能力にあった自切操作ってものかしら。でも胴体も拘束しているから脱出はできないし、切ったところでまた鎖が刺さるだけよ」
「悪あがきか。……む? 切れた足が動き出したぞ」
ルーナに言われて自切された足を見ると、鎖が刺さっている部分も切り落としたのかうねうねと水中を泳ぎ出してこっちに向かってきていた。
地図アプリにも新しく赤い点が表示されていて、別の魔物として認識されているようだ。
自切された足はスキルですぐにまた生えていたが、外された鎖が自動でまた足に刺さって拘束を続けていた。
そしてまた自切しては再生してを繰り返して、どんどん泳ぐ足が量産されている。
な、なんだあのキモいのは……ステータスアプリで確認しておくか?
――――――
●種族:クラーケン・ゲソ
レベル:80
HP:1万
MP:0
攻撃力:5000
防御力:1000
敏捷:80
魔法耐性:30
固有能力 なし
スキル なし
――――――
「おいおい、切った足まで魔物化するのかよ!」
「魔物化と言うよりグランクラーケンが操作しているんですね。脱出するまで自切した足を使って時間を稼ぐつもりのようです」
「でもあれぐらいならミニサレナちゃんが倒しちゃうんだよ!」
『ヤー!』
フリージアに返事をするようにミニサレナが叫ぶと、魚雷を発射して次々とゲソを撃ち落とす。
事前の観察であんなスキルは見れなかったから予想外だったけど、魔導自動車だけで十分対処可能だから支障はないようだ。
「よし、これなら次の段階に移れそうだな。エステル、頼んだぞ」
「ええ、任せて。うーん、と……えいっ!」
魔導自動車を位置に着けて停車し、エステルがスキルを発動させながらその場で魔力を込めた。
海中の広範囲に魔法陣が浮かび上がると、ゴゴゴと地響きが鳴り始める。
そこからすぐに変化はなかったが、だんだんと音の原因が近づいてきてついに視界に捉えた。
数十キロ単位はあろう範囲の海底が上昇して海面を目指している。
そのまま俺達とクラーケンは海底に接触し、あっという間に海面を突破。
なんということでしょうと聞こえてきそうな勢いで、海上に小島規模の陸地が出来上がってしまった。
「おお……作戦を立案したとはいえ、実行したのを目にすると凄まじいな」
「地殻変動させて陸地を作り上げるなんて、こんな規模の魔法滅多に見られませんよ」
「事前に準備しておかないとこの規模は私でも厳しいわ。拘束しないと発動までの時間も稼げなかったわね」
「海で戦えないなら陸地を作ればいいとは力技どころじゃないでありますよ……。エステルがいなかったら出来なかったでありますね」
「流石エステルちゃんなんだよ!」
「わ、わかっていたけどエステルさんって伝説級の魔導師になれるよね……」
「うむ、私から見ても凄い」
「ふふ、そう褒められると照れちゃうじゃない。あっ、お兄さんはもっと褒めてくれてもいいのよ?」
「お、おう。よくやってくれたな」
ススッと近寄ってくるエステルの頭を撫でておいた。
ただ陸地を作るだけじゃなく、逃げられないように端には反り立った壁も作られている。
海底を上げたせいで拘束していた魔法陣の範囲を外れてしまっていたが、グランクラーケンの体に黒い霧が纏わりついてデバフは継続中だ。
「さてと、陸地にさえなればこっちのもんだな。あとは――うおっ!?」
どう料理してやろうかと思っていたが、クラーケンが黒い液体を勢いよく噴射してきた。
何とか回避できたが地面が裂ける程の威力で、更にベトベトした粘着性のありそうな墨が大量に飛び散っている。
「あっぶね! 墨飛ばしてきやがったぞ!」
「ならこっちも遠くから攻撃するんだよ!」
フリージアが弓を構えて矢を放った。
そして軽々と矢はクラーケンの体を貫通する……かと思いきや、周囲に水の膜が形成されて弾き飛ばされる。
「わわっ!? 矢が弾かれちゃった!」
「水を纏う能力は地上でも健在のようだね。フリージアさんの矢でも通らないなら、かなり攻撃力がないと突破できなそうだ」
「予想していた通りかしら。ルーナ、お願いできる?」
「任せろ」
今度はルーナが前に出てきて槍を構えた。
こういう時はいつもならエステルの出番だが、今は陸地を維持するのに力を振っているから強力な魔法攻撃が使えない状態だ。
作戦を立案した時から既に予想していたことだから、元々グランクラーケンを直接討伐する戦力としてエステルは計算していない。
少し助走をしてからルーナは飛び上がると、スキルの使用で真っ赤に発光した槍を投擲した。
フリージアの時と同様にクラーケンは水の膜を形成するが、関係ないと言わんばかりに膜を突破して槍は体を貫通。
一撃で胴体の半分近くが消し飛び、水の膜を形成できなくなったのか足をジタバタさせてもがいている。
この隙を逃すことなく、ノールもスキルを発動して即座に突っ込んだ。
クラーケンも反撃に足を叩きつけたりしているが、当たることなく胴体を斬り刻まれている。
俺があそこに参加したら回避できずに叩き潰されそうだな……。
ルーナとフリージアも槍と矢で胴体を攻撃していて、呆気ない程簡単にグランクラーケンは力尽きて光の粒子になった。
うーむ、作戦を立てたとはいえこんなあっさり倒せちまったぞ。
海のど真ん中に陸地を作って有利な状況にするのを、あっさりと言えるのか疑問ではあるが……まっ、いっか。
「お疲れ、何とか倒し切れたな」
「作戦通りに上手くいったでありますね。陸なら私達でも十分倒せたのでありますよ!」
「うむ、強敵はエステルの魔法に頼ってばかりだった。たまには私も働く」
「ルーナちゃんのおかげで私の矢も当たるようになったんだよ!」
「あんな巨大な魔物を僕達の手で倒せたと思うと誇らしいじゃないか!」
確かにここまで大きな魔物を緊急召喚石なしで倒したのは初めてかもな。
ステータス的にはそこそこだったが、多少の達成感はありそうだ。
俺は攻撃に参加しないでエステル達の防御に回っていたから何もしてないのだが。
……おっ、スマホに何か通知がきたぞ。
【緊急クエスト:指定魔物討伐・クラーケン クリア! 達成報酬:魔石50個、SSRコストダウン】
【PU・フェス発生クエスト達成! UR専用装備ガチャ開催! UR専用装備排出率アップ&取得済み装備ピックアップ!】




