クエスト個体
ついに見つけたクラーケン。
そのあまりの大きさに俺達は唖然としてしまった。
胴体のデカさは勿論のこと、足先まで含めたら優に100メートルサイズは超えている。
全体的に黒色で大きく太い足を触手のようにあちこちへ伸ばして、周囲にいる魔物を捕まえて捕食していた。
あのシーサーペントでさえ軽々捕まって食べられ、望遠機能で見ていても恐ろしい。
今まで見てきた中でも最上位と言ってもいい恐怖の光景だ。
「いくら何でもデカ過ぎるだろ! 完全に化け物じゃねーか!」
「まあ船を沈める程の魔物ですからねぇ。と言っても規格外に大きすぎる気はしますけど」
「気楽に狩るような魔物ではなさそうね。あんなのどうやって倒しましょうか」
「あんなに大きいと怖いんだよぉ……」
「あばばばば……き、君達と一緒じゃなかったら僕はもう逃げてるよ」
「随分デカいイカだ」
「あ、あれだけ大きいと一体どれだけの食料が落ちるのでありましょうか……」
船を沈めるって言ってたから大きいのはわかっていたけど、このサイズなら鉄で作られた戦艦ですら沈めちまいそうだ。
本当にこんな化け物を昔の人は海の上で倒したっていうのか?
実は見た目に反して意外とステータスが低いなんてことは……ステータスオープンだ!
――――――
●グランクラーケン(クエスト対象) 種族:クラーケン
レベル:80
HP:40万
MP:20万
攻撃力:16000
防御力:10000
敏捷:90(海中時180)
魔法耐性:100
固有能力 自切操作 アクアガード
スキル 超再生 墨噴射 海裂
――――――
「おい、クラーケンって言ってもただのクラーケンじゃないのかよ!」
「一応種族はクラーケンじゃない。ガチャイベントの討伐対象だから、やっぱり普通の相手じゃなさそうだわ。昔に冒険者協会とかが倒したって個体よりも遥かに強そうね」
「ファルスス・テストゥードやエルダープラント程じゃありませんが、その辺にいるような魔物ではありませんよ」
「ガチャのイベントが起きたから出てきたのか、元々いたのがクエスト対象に選ばれたのか気になるかな。本当に君の持つスマートフォンとやらは不思議だよね」
いくらクエスト対象とはいえ、クラーケンの上位種っぽいの出してくるのは反則じゃないですかねぇ。
だけどマルティナが言ってることもちょっと気になるな。
俺達が神魔硬貨でクエストを発生させたからこいつが現れたのか、それとも元々湧いていたのか。
まるで卵が先か鶏が先かってやつだな。
沖にいるとはいえこんなのが居たら危険だし、俺達に討伐させようと選ばれた可能性も……なんてな。
でも今後も神魔硬貨を使ってガチャイベントを発生させようとしたら、各地にいるこういうネームドモンスター的なのが対象になりそうだ。
最初は乗り気じゃなかったけど、これほどの魔物を倒した報酬として発生するガチャイベントは期待してもいいんじゃなかろうか。
問題は予想以上にグランクラーケンが強いことなんだが……。
「とりあえずどう倒すか考えるか。このまま魔導自動車で戦って勝てると思うか?」
「流石に無理そうね。防御力も魔法耐性も高いし、超再生もあるならHPを削り切るのは難しそうだわ。そもそもHPが多過ぎるもの」
「詳しくわかりませんが、固有能力も厄介そうな予感がしますよ。再生持ちなのを考えると、長期戦は不利そうなので短期戦で仕留めるしかなさそうです」
「でも海の中でどうするでありますか? 水中じゃ私何もできないのでありますよ」
「お前はいるだけでバフが入るから何もしなくても十分だぞ。俺もだけどな!」
「そう言われると嬉しいような悲しいような、複雑な気分でありますね……」
ノールは口を尖らせて不満そうにしているが仕方がない。
固有能力のおかげで近くに居れば攻撃力と防御力が上がるから、ノールはいるだけでありがたい存在だ。
俺も戦闘だとあまり役立たないが、一応全ステータス上げるバフがあるから助けにはなっている……と思いたい!
そもそも海中って時点でまともに戦闘できるメンバーの方が少ないか。
全員で話し合いをした結果、シスハの言う通り短期決戦でクラーケンに挑む方針となった。
だが、すぐに戦うことはせずまず観察してから作戦を立てることに。
まずグランクラーケンの行動範囲を確認し、外敵が来たらどう対処しているのか、どんな固有能力やスキルなのか実際に見るなど時間をかけた。
ミニサレナに海流を計算してもらい当たるように遠くから魚雷を撃ったり機雷を散布したり、魔物を追いやってわざとクラーケンにぶつけたりと慎重に試していく。
魔導自動車内で数日間過ごしたが、追加したキャンピングルームで交代で休憩したので問題もなかった。
その間ずっと運転を続けてくれたミニサレナには本当に感謝している。
そして緊急クエストの期日である最終日。
こうしてクラーケンの生態を観察し、ようやくあいつを倒す作戦と下準備ができた。
今までこのレベルの強敵は緊急召喚石を使っていたが、時間さえかければ俺達だけでもきっと倒せるはずだ。
後は計画通りにやるだけなのだが……魔導自動車に乗っているだけの立場ではあるが緊張してきた。
「うーん、計画を立てたはいいけど、実行する前にもっと色々試せないのが不安だな。本当にやるんだな、今ここで?」
「ふふ、お兄さんは心配性ね。ミニサレナが計算をしてくれたんだから間違いはないはずよ」
『ヤァ! ヤァヤァ!』
「安心しろって言ってるんだよー。大丈夫、ミニサレナちゃんが言うなら心配ないね!」
「でも確実に成功するってぐらい試してから本番をしたいって気持ちもわからなくないかな。あんな大きな魔物に追い回されるのはやっぱり怖いよ」
「それぐらいもう慣れた。貴様も早く慣れろ」
マルティナも俺と同じく今回の計画を実行するのに不安を覚えているようだ。
観察で得たクラーケンのデータを元にミニサレナが計算をしてくれたので、成功の確率はかなり高いと言える。
しかし、その内容を考えるともっとじっくり作戦を練る時間が欲しくなるのも仕方がない。
何故なら……最初にグランクラーケンを誘導しないといけないからだ。
そんな訳で、俺達を乗せた魔導自動車はグランクラーケンに向かって突撃を始めた。
加速してどんどん接近していき、ある程度の場所でマジックトーピードを発射しそのまま反転して逃げる。
魚雷はグランクラーケンに命中するがまるで効果がなく、こっちに気が付いて向かってきた。
巨大な物体が物凄い速度で迫ってくるのが後方に見える。
「やっぱ追いかけてくるの見ると心臓に悪いな!」
『ヤァ!』
「逃げるんだよー! あはは! ワクワクしてくるね!」
「フリージアさん、この状況で笑っていられるのは凄いよ……」
わかっちゃいたけど山のようにデカい魔物に追われると生きた心地がしない。それが海の中なら尚更だ。
だが、事前にミニサレナが計算した通り、グランクラーケンより魔導自動車の方が速いから追いつかれる心配はない。
だからといって油断できる訳じゃなく、何かが横切ったかと思えば一瞬海中が縦に裂けて車体が大きく揺れる。
これは事前に魔物をぶつけて確認したスキルの海裂だ。
あいつが足を振った方向に海を割く能力らしい。
「わわっ!? やっぱり遠距離攻撃してきたのでありますよ!」
「触手を動かした方向に海を裂けるなんて厄介よね。ある意味真空の刃に近いのかしら」
「あの大きな図体で水中の遠距離攻撃まであるなんて反則ですね。ミニサレナさんと魔導自動車じゃなきゃ避けられませんでしたよ」
次々と海裂が飛んでくるがミニサレナは全て華麗に避けていた。
全部後ろからの攻撃だが、直接見ることなく魔導自動車を運転して回避行動をしている。
車全体がミニサレナの一部と化しているから、全方向から何が来ても感知出来てるようだ。
俺だったらサイドミラーを確認して必死に避けようとして、結局被弾するのがオチだろう。
このミニサレナの回避能力も込みで今回の作戦を立案してある。
攻撃を回避するだけじゃなく、その間にマジックマインもばら撒くと吸い込まれるようにグランクラーケンの周囲で爆発を起こした。
ミニサレナは海流なども計算しているから、上手く当たるように機雷を撒くタイミングを調整しているようだ。
海中の爆破で一面泡立って見えなくなったが、すぐにそれをかき消すようにクラーケンが出てきて何事もなかったように向かってくる。
体の周りに光る膜のような物を纏っているけど、あれで爆発を全て無力化しているのか?
「ちっ、やっぱり魔導自動車の機雷じゃビクともしないな。体の周りにバリアみたいなのがあるぞ」
「渦を巻くように海水を纏っているようだね。魚雷も巻き込まれて本体に直接当たらないじゃないか」
「あのイカさんすごいんだね! 私の矢が当たるか試してみたいんだよ!」
「ふむ、便利そうな能力だ」
あの巨体でバリア持ちとか本当に反則級の強さだな。
海中で相手をするにはあまりにも不利過ぎる。
このまま誘導して上手く作戦にハメられるといいのだが……。




