クラーケンはいずこに
魔導自動車で潜水して大海原へ乗り出した俺達だったが、やはり海には魔物がいて危険……なんてことはなく、全く遭遇することなく進み続けていた。
特にあてもなくひたすら沖に向かって直進中だ。
「この世界の海って魔物だらけかと思ったけど、意外にそうでもないんだな」
「そうね。セヴァリアの船も魔物がいない航路を選んでるって言ってたから、陸と同じで海も湧く海域が決まってるんじゃない?」
「船に乗ってる最中に襲われたら逃げ場がありませんので、陸上よりも移動は大変そうです。沖に行かないと見つけられないクラーケンを狩ろうなんて人がいないのも頷けますね」
ただでさえ海って未知の航路を進むと遭難したりするからなぁ。
魔物がいるこの世界だと更に危険度も増すだろうし、その魔物を狩りに船に乗るなんてよっぽどの理由がなきゃやらないか。
俺達は魔導自動車があるからよかったけど、普通の船で探すなら流石に諦めていたな。
海中に潜っているから潜水艦みたいなもんだが、陸上を移動するのと変わらない快適さでフリージア達は旅行気分で楽しんでいるようだ。
「お魚さんが沢山で海の中って楽しいね! あんな風に泳いでるんだー」
「こうやって水中から魚が泳ぐ姿を見る機会ってないよね。見たことない魚ばかりで興味がそそられるよ」
「うむ、楽しい」
「立派なお魚が多いでありますねぇ。食べたらどんな味がするのでありましょうか……ジュルリ」
魔導自動車の機能なのか海は透き通っていて、岩影など暗そうな場所も明るく見えて視界良好だ。
泳いでいる魚もはっきりと見えてフリージア達がはしゃぐ気持ちもよくわかる。
……1名全く別の感想を抱いているのはスルーしておこう。
「それにしても水中なのに結構速いな。どのぐらいの速度が出ているんだ?」
『ヤァ、ヤァヤァ!』
「なるほどわからん」
「大体80ノットだって言ってるんだよー。よくわからないけど凄く速いんだね!」
「なるほど……わからん。何キロなんだ?」
「大体時速150キロってところかしら」
めちゃくちゃ速いと思っていたが、潜航しながら150キロも出てるなんて凄いな。
正直速過ぎてちょっと怖いけどミニサレナが運転しているから問題はないだろう。
俺が運転してこの速度を出したら間違いなく事故るぞ。
この速さなら魔物に襲われても十分振り切ったり攻撃も回避できそうだが、問題があるとしたらこっちの攻撃面だな。
「うーん、海中だとやっぱり戦闘面で不安があるな。一応マジックトーピードとマジックマインを導入しておいたけど、火力が足りるか心配だぞ」
「クラーケン相手だと魔導自動車の武装じゃ心許ないわ。私の魔法を撃てたらよかったのだけれど、海中に加えて車内からだとちょっとね。使う魔法も限られるし、魔導自動車も巻き込まれないようにしないといけないもの。海上に出れば問題ないけど、海中にいる相手に当てるのは難しいから悩むわね。クラーケンの半径500メートルを丸ごと蒸発させちゃう?」
「そ、それはちょっと……海で大規模な魔法を使ったら、周囲にどんな影響が出るかわかりませんよ。ですがクラーケンを倒すとなると生半可な魔法じゃ厳しそうですね」
「エステルの魔法に巻き込まれたら恐ろしいでありますな……。どう倒すかはクラーケンを見つけてから考えた方が良さそうでありますね」
エステルってたまにシスハですらドン引きすること言い出すよなぁ。
その規模で攻撃すればクラーケンも倒せそうだが、どんな影響が起きるかわかったもんじゃないぞ。
基本的に魔導自動車で移動中は俺達が直接攻撃できないから、海中用の武装も追加したけどクラーケン級の魔物を倒せるかは怪しい。
今ある武装のマジックトーピードは魚雷、マジックマインは機雷だ。
機雷はばら撒くとどこに流れるかわからない危険性もあるが、魔導自動車から生成された武装は一定距離離れると消滅する仕様だから安心できる。
後は実際に使ってみて威力を試してみたいところだが……おっ、地図アプリに魔物の反応があるぞ。
「ちょうど進行先に魔物がいるな。マジックトーピード試してみようぜ。ミニサレナ、頼めるか?」
『ヤァー!』
「ミニサレナちゃんファイトだよ!」
「運転だけじゃなくて攻撃もできるって凄いよ。サレナ様の力を受け継いでいるんだね」
「楽でいい。ミニサレナ様々だ」
試そうと言ってみたものの、魔導自動車に接続中は武装での攻撃もミニサレナに任せている。
運転も攻撃もしてくれるとか本当にミニサレナ様々だな。
地図アプリは常に車内のモニターに表示されているから、海中でも魔物がどこにいるか一目瞭然だ。
魔物の反応がある方に向かっていくと、すぐに長細い青色の蛇っぽい奴が見えてきた。
これまた10メートルぐらいはありそうで馬鹿でかい。
魔導自動車はステータスアプリも連動しているから、範囲内に入った魔物の情報もモニターに表示できる。
――――――
●種族:シーサーペント
レベル:65
HP:4万
MP:1000
攻撃力:2500
防御力:1500
敏捷:60
魔法耐性:0
固有能力 なし
スキル アクアブレス
――――――
ほぉ、なかなか強い魔物じゃないか。
魔導自動車の武装をテストするにはうってつけの相手だ。
シーサーペントはまだこちらに気付いておらず、射程範囲内に入ったのかミニサレナが武装を展開した。
そして車体の下から長細い筒状の物体、マジックトーピードが発射される。
物凄い速さでシーサーペントへ向かっていき、反応する暇もなかったのかそのまま当たって爆発し泡立つ。
泡が晴れるとまだシーサーペントは健在だったが、続く2発目が既に発射されていた。
流石に認識したのか慌てた様子で泳いで逃げていくが、魚雷の方が速く誘導機能もあるのかずっと追尾していき爆発。
泡に紛れるように魔物も姿を消していた。
「おー、HP4万の魔物が2発で倒せるのか。ダメージは大体1発2万ってところだな。これならクラーケンもワンチャンやれるんじゃないか?」
「思っていたより威力がありましたね。ですがどのぐらい連射できるかわかりませんし、そこまで撃ち込む余裕があるかも怪しいですよ」
「船を沈める程の魔物に接近されたらこの車で対抗できるか怪しいかな。こっちの移動速度の方が速ければ逃げながら戦えるけど、クラーケンの方が速い可能性もあるし……見つけても先制攻撃するのは止めておいた方がいいかもね」
「なら動きながら戦えるかも試してみようよ! あっ、ちょうど魔物も来た! ミニサレナちゃんお願いなんだよ!」
『ヤァー!』
「ちょ、ま!?」
俺が静止する間もなくミニサレナは魔導自動車を発進させ、付近まで迫っていた複数のシーサーペントへ向かっていく。
さっきの戦闘のせいか既にこちらを認識していて、口からウォーターカッターのように水を吐き出している。
ミニサレナは車体をぐるんぐるんと回しながら攻撃を回避しつつ、マジックトーピードを撃ち込んで反撃していく。
ジェットコースターのように視界が回りながらも、危なげなく全てのシーサーペントを撃破した。
「あはははは! 凄い凄い! 面白いね!」
「くぅ、痺れる戦いだったよ! ブレスを回避しながら魚雷を撃ち込むなんてかっこいい!」
「まあまあ楽しめた」
「なかなか刺激的な戦闘で乗ってるだけでも楽しめましたね。あれならよっぽどの相手じゃなきゃ捕まらなそうです」
『ヤァ!』
「お、お前らな……もう二度とやるなよ」
「そ、そうね……。動きながら戦うのは極力止めましょう」
「あんなに激しく動かれると酔いそうで怖いのでありますよ……」
盛り上がるフリージア達に賞賛されたミニサレナは自慢げに鼻を鳴らしている。
上下左右にグルグル動きやがるから、どっちが上か下かわからなくなったぞ。
わざわざ敵に突っ込むとは……まあ、魔導自動車が水中でどんだけ運動性能あるかはわかったな。
クラーケンはまだわからないけど、これならある程度の魔物を相手にしても十分戦えそうだ。
その後も当てもなく海を彷徨い続けたが、シーサーペントやミニクラーケンばかりと遭遇して、目的であるクラーケンは影も形も見当たらない。
「結構探してるのに全然見つかりそうにないぞ。というかミニクラーケンも割といるんだな」
「クラーケンが希少種ってことかしら? 船沈めるような魔物が沢山湧いたら大変だものね」
「シーサーペントも十分危ないでありますけどね。こんな海を船で移動したくないでありますよ」
「安全な航路じゃないと海に出ないのも頷けます。船底からいきなりさっきのブレスを撃たれたらひとたまりもありませんよ」
シーサーペントも地上ならそこそこ強い魔物だけど、船で戦うとしたら強さが跳ね上がるぐらいには厄介だ。
スキルのアクアブレスを食らったら船底に穴が空きそうだし、あんなのがいる海は行きたくもない。
それを簡単に処理できているのも、魔導自動車とミニサレナのおかげだ。
マジックトーピードはある程度追尾機能があるが、ここまで的確にタイミングを合わせられるのはミニサレナの力。
もう魔導自動車はミニサレナが搭乗する武装と言っても過言じゃない。
その後も探索を続けていると、地図アプリに妙な反応が現れた。
かなりの数の魔物が集団で一定の方向に移動している。
こっちに気付いた訳ではなく、地図アプリから見ている限り目的がまるでわからない。
「おっ、なんだ? 大量の魔物が移動してる場所があるな。こんな動き見たことないぞ」
「海にある魔物の湧き場所でしょうか? ですが大量に移動しているのは妙ですね」
「集団で集まる習性のある魔物かもね。魔導自動車とはいえ囲まれると危険そうだわ」
「あれ? …魔物の集団が向かう先と逆方向にも魔物がいるでありますよ。凄く大きそうなのであります」
「わかった! その魔物から逃げてるんだ! きっとクラーケンなんだよ!」
「その可能性は高そうだね。魔物は他の強い相手に怯えて逃げることもあるんだ。自分の縄張りを離れて他の魔物の縄張りに行くのはあまり見ないけど、海だと変わってくるのかもね」
「よし、とりあえず近づいて確認だけしてみるか」
ノールが指摘した通り、ひと際大きな赤い反応をした魔物から他の魔物が逃げ回っているように見えた。
泳いでいるせいか姿は長細い感じでよくわからないが、形はミニクラーケンに近そうだ。
ようやくお目当てのクラーケンかと胸を躍らせ、魔導自動車を発進し迫っていく。
魔導自動車の望遠機能が使える範囲まで行き姿を確認してみると……見えてきたのはミニクラーケンよりも遥かにデカいサイズのイカだ。
クジラが比較にならない程の大きさでもう小島と言ってもいい。
えぇ……デカいのは想像していたけど、いくら何でも大き過ぎませんかね?




