割と難題
神魔硬貨によるPU・フェス発生クエストによる討伐クエスト、対象はクラーケン。
王都の冒険者協会でクラーケンの情報を聞き、やはりセヴァリアの近くで湧く魔物だと確認済み。
更に詳しく情報を聞くべく、俺とノールとシスハとエステルでセヴァリアの冒険者協会を訪れているのだが……。
現在、支部長であるベンスさんと話している。
「やあやあ! 大倉君がまたセヴァリアに来てくれるとは! 歓迎いたしますよ!」
「あはは……どうもです」
「わざわざ支部長さんのお世話になるほどの用事じゃなかったのだけれど。忙しいでしょ?」
「いやいや! 大倉君達と会うことに比べたら、私の仕事なんて忙しい内に入らないよ! セヴァリアの大異変の活躍に加えて、Aランク冒険者昇格も間近らしいじゃないか! 僕は初めて君達と会った時から、きっと何か成し遂げる方々なんじゃないかと思って――」
「あ、あの……遮るようで申し訳ありませんが、少しお聞きしたことがあるんですが……」
「あっ、ごめんごめん! またいつもの癖で話し過ぎてしまったよ! 勿論何でも聞いてよ! 答えられることなら何でもお答えいたしますよ!」
「相変わらずでありますね……」
「人柄の良さそうな方なんですけどね」
ノール達が思わず言葉を漏らすぐらいのマシンガントークだ。
止めないとずっと話しそうな勢いだからなぁ。
受付でささっと情報だけ聞こうとしたけど、俺達が来たと知った途端ベンスさんに応接室へ案内されてしまった。
仕方ないし彼から詳しい話を聞くとしよう。
「クラーケンという魔物はご存じですよね?」
「クラーケン!? ミニクラーケンではなくてクラーケンですか!?」
「あっ、はい、クラーケンの方です。海の魔物だと聞いたのでセヴァリアにいると思ったんですけど、具体的にどこにいるかわかりますか?」
「居場所ですか……具体的な場所と聞かれるとちょっと困っちゃうかなぁ」
ベンスさんはクラーケンという単語を聞いた途端、バツが悪そうな顔をしている。
湧き場所に関しても言い辛そうな感じだし、もしかしてかなり厄介な魔物なのか。
それにミニクラーケンってなんだ。クラーケンにミニなんているのか。
俺はそっちが気になっていたが、エステルは別の質問をしていた。
「決まった場所に湧く魔物じゃないってことかしら?」
「出てくる海域は大体決まってるんだけど、滅多に姿を現す魔物じゃないんだ。セヴァリア周辺で遭遇するのは本当に稀だね。僕が支部長になってから討伐されたことは1度もないぐらいだよ」
「えっ!? クラーケンってそんな珍しい魔物なんですか!」
「そう聞くとまるで伝説の魔物みたいでありますね」
「伝説って程珍しくはないんだけど、基本的に討伐する理由がないんだ。船の航路も生息地は基本通らないようにしているし、かなり面倒な魔物だから狩る人もいないんだよね。航路に出てきちゃった時でさえ、討伐より欠航をまず選ぶぐらいなんだ。普通の船が襲われたら簡単に沈没しちゃうからね」
「やはり海上の魔物を相手するとなると大変そうですね。狙って討伐するのは厳しいでしょうか?」
「うーん、基本的に沖にしかいない魔物だから大倉君達でも難しいと思うよ。そこまで船を出してくれる人もいないだろうし、行けたとしても倒せるかどうか……あっ! でも君達の実力を疑う訳じゃないよ! 場さえ整えれば討伐できるはずさ!」
ベンスさんは慌てて取り繕っている。
場さえ整えれば討伐できるか……それが出来れば苦労しないってことだよな。
海の魔物相手に足場が船しかない状況じゃ圧倒的不利なのは否めない。
しかも相手は船を簡単に沈めるようなやつだ。そりゃ討伐するのは大変だろう。
更に補足するようにベンスさんは説明を続けた。
「今まで討伐に乗り出したのもセヴァリア周辺に居座った時だけなんだ。Aランク冒険者を緊急招集して、軍にも応援を要請して大騒ぎになったそうだよ」
「ちなみにどうやって倒したのか、記録は残っていたりするのでしょうか?」
「クラーケンは船に絡み付く習性があるようで、船を囮にしてその隙に魔導師が攻撃して、最後はAランク冒険者の方が止めを刺したって話だね。その冒険者は囮の船に乗り込んでいて、海ごとクラーケンを斬り裂いたって言い伝えられているよ」
「海ごとですか。やはりAランク冒険者だけあってお強そうですね」
「僕もAランク冒険者の方々には会ったことは数回しかないけど、どの方も凄い雰囲気だったよ。あれが強者特有の凄味ってやつなんだろうね。あっ、でも大倉君達も似たような雰囲気を感じるからね! きっと君達も同じようにAランク冒険者になれるはずさ! そう、あれは確か僕がまだ冒険者協会に入ったばかりの――」
「あ、あの! それでクラーケンの話なんですが!」
全く、また話が逸れそうになってるぞ。
にしてもクラーケンを倒すのにAランク冒険者に軍も呼ぶって、そんなに強い魔物なのか?
街の近くに出てきたから早めに倒そうっていうのもあったはずだ。
それでもかなり強い魔物だっていうのはよくわかった。
何とかベンスさんの話を元に戻して説明を続けてもらう。
「あっ、そうだったね。クラーケンの目撃が多いのはセヴァリアの南西にある海域の方かな。バングン海岸って入り江があるんだけど、そこにミニクラーケンがよく湧いてるんだ」
「さっきも気になったんですけど、ミニクラーケンとクラーケンは違うんですよね?」
「わかりやすく説明すると小さなクラーケンだね。でもクラーケンと違って、海岸付近の浅瀬に来て陸上にも出てくるんだ。討伐する際は陸上で相手をするのが基本で、それでも討伐推奨はCランク冒険者からになっているよ」
「海の魔物なのに陸上でさえそんな強いのね。落とす素材とかにも違いはあるのかしら?」
「クラーケン自体の討伐例が少ないから何とも言えないかな。ただミニクラーケンから採れる素材はBランクの魔物にも匹敵するから、冒険者達の間ではそこそこ人気な部類だね」
「むむっ! もしかして食材人気もあるのでありますか!」
「ミニクラーケンが落とすイカ足は人気が高いよ。僕もよく食べているからね。酒場とかで出されているよ」
「おお! 大倉殿! 今すぐミニクラーケンを討伐しに行くのでありますよ!」
食材を落とすとわかったノールが1人で大興奮している。
食欲が絡むと本当にこいつはやる気を出すな。
それよりもクラーケンがいそうな地域の情報を貰えたし、実際に現地に行ってみてどうするか考えようか。
冒険者協会を後にして歩く途中、俺はつい愚痴がこぼれてしまった。
「はあ、何とも微妙な感じだな。ミニクラーケンを倒したら達成にならないか?」
「そんな甘くないんじゃない? やっぱりガチャのクエストだけあって簡単に達成させる気はなさそうだわ」
「考えてみたら海の魔物って時点で相手にしづらいですね。陸地に近いならやりようはありますけど、基本的に沖でしか遭遇しないとなると打つ手がありませんよ。陸で珍しい魔物を探す方が遥かにマシです」
「むー、クラーケンがどんな味なのか気になるであります! どうにか倒せればいいのでありますが……」
ノールの話は無視するとして、クラーケンが沖にしかいないってなると本当にどうしようもないよなぁ。
陸地の魔物なら希少種だとしても、魔物を乱獲しまくれば湧くだろうし見つけるのは比較的簡単なはず。
だけど海上にしかいないとなると探すのすら困難だ。
そう思案しているとシスハがふざけたことを言い出した。
「あっ、そういえば大倉さんちょっと前に守護神様の称号で海に潜れるとか言ってましたよね。ちょっと泳いでおびき寄せてくださいよ」
「ふざけんじゃねぇ! 船沈めるような魔物相手に生身で囮なんて出来る訳ねーだろ!」
「うふふ、冗談ですよ冗談。沖じゃなければ水面を走って私が囮ぐらいできるんですけどねぇ」
水面走るとかもう人間技じゃないだろ……本当にこいつはバケモンか。
海の守護神の加護で水中呼吸ができるけど、クラーケンの前で泳ぐとかただの餌にしかならないだろ。
かなりやばい魔物みたいだから船を出してくれる人なんていないだろうし、自力で海を移動する必要があるが……あっ、魔導自動車に潜水機能ってあったな。
それを使えば上手くクラーケンを見つけられるんじゃないか? 運転はミニサレナに任せればなんとかなるはずだ。
1度帰宅して作戦を立てるとしようか。




