迷宮反省会
「ふぅ……今日は疲れたな」
「そうでありますな。中にいると時間の感覚がわかりづらいのであります」
「思っていたよりも中にいたのね」
迷宮探索を終え、俺達は宿へ帰ってきた。
案の定ビーコンは使用できなかったので、また入り口まで長い時間を掛けて戻ったのだ。
外に出た頃にはもう夜になっており、そこからビーコンを使用してなんとかシュティングまで帰ってこれた。
ビーコンなかったら野宿だったねこれ。
「それにしてもあんな奴がいるなんて」
「最低でもBランク以上って言うのも頷けるのでありますな」
初めて入った迷宮探索、結果はなんとも言えない感じだ。
想像以上に殺しに来ている魔物の多さにいつも以上に精神的に疲れた。今までゴリ押しでランク上げてきたことによる、俺の経験不足がとても印象深かった。
上の階層であるスライムですら遅れを取るようじゃ、まだまだ奥へ進むのは危険かもしれない。
「うーむ、まだまだ迷宮に行くには色々と足りなかったようだな。やはりあれをやる必要があるか……」
「……まさかまたガチャをするつもりなのでありますか」
「んー、まあそうなるんだけどなぁ」
「あら、お兄さんにしてはなんだか乗り気じゃないわね」
俺自身も色々と足りない部分があるとは思うが、それとは別に違う問題も出てきた。
雑魚相手ならば、俺達は十分と言えるぐらいには戦える。しかし、今回最後に遭遇したアウルムスライム。
あれを倒すとなると決定的に足りない。
なのでガチャでそれを補おうとは思うのだが……。
「いや、ガチャを回せることは乗り気なんだがね。もしパーティを強化するのなら次に欲しい職業は絞られるからちょっとな」
「……? どういうことでありますか?」
前回までのガチャとは違い、今回は少し条件が変わってくる。
結局回すという結論は変わらないのだが、希望通りの当たりを引くまでの回数が段違いになるからだ。
「今の俺達は装備に関して言えばそこそこ良いと思う。足りないのはパーティ戦闘をする為の戦力だな」
「今でも十分やってこれたとは思うけど、確かに強敵相手になると少し乱れていた気はするわね」
そう、今決定的に足りないのパーティによる戦いをする為の戦力だ。
今はステータスが圧倒的である彼女達のおかげでなんとかなっている。しかしそれは個人の力に頼った戦い。
もし個人の力でどうにもならない敵が出てきたら、戦うのも困難だろう。
まあ今までの乱れは俺のせいが大半だけど……。
「俺は正直言うと戦力としちゃ微妙だし……そうなるとまともに戦えるのはお前達2人だけになる」
「あっ、気にしてるのでありますね。そこは私達がカバーしているので、大倉殿はゆっくり慣れてほしいのであります」
「だからって前みたいに敵の目の前で油断したら今度こそ、ね?」
「あっ、はい。すいませんでした」
エステルが凄く優しげに微笑みながら俺に言うが、その笑顔が逆に怖い。
アステリオスの時に真顔で言われた時も怖かった。スチールスライムの時も若干あの時の顔になっていたので肝が冷えたぞ……。
なんだか先生や上司にずっと監視されているかのような感覚だ。
ある意味それで緊張してスチールスライム以降は注意していた。
今度こそって、もしやったらどうなるのか怖いので注意しよう……。
「でだ、戦力が足りないというのは確かなんだが、確実に足りないのは壁役だな」
「壁役でありますか?」
実際に戦った訳ではないが、アウルムスライムを倒すのなら今の状態では危険だ。
一応勝てる可能性もあったが、そんなに急いでいる訳でもないし無理をする気にもなれなかった。
もし戦うとなったら綱渡りするような戦いになり、下手をしたらスキルで全滅だってしたかもしれない。
「10層にいたスライム、倒すとなるとあれを抱えられる役割が必要だ」
「つまり重装鎧みたいな防御力が高い職が欲しいってことかしら?」
あの魔物の攻撃を少ないダメージで耐えられる存在。そういう役割のできる職業である重装鎧は理想的な職だ。
しかし、壁役と言っても重装鎧単体では意味がない。
「と思うだろ? それもそうなんだけど1番は神官だな。いくら防御力が高かったとしても、回復ができないとどうにもならない」
「ポーションを飲めばいいんじゃないのでありますか?」
防御力が高いからと、それだけで壁役が成立するかというと違う。
確かにノールの言うようにポーションがあれば普通に壁をやるなら平気なのだが……。
「ノール、攻撃受けながらポーションいつでも飲めるか?」
「あっ……無理であります」
もしポーションを使う暇も無い攻撃をされたらいくら重装鎧でも溶ける。
そういうこともあるので、遠距離から回復させられる神官が今1番パーティに欲しい。
今思えばディウスのパーティは魔導師さえいたらかなり良いパーティなんだよな。
「神官さえ入ればそういう不安もなくなるし、ノールでもある程度は盾役はできる」
「んー、確かにそうね」
もし神官がいれば、最悪ノールが壁役をやることもできる。
ただそれはアウルムスライムの話であり、今後迷宮を攻略するのなら両者必須なんだがね。
「ただそうなると今度はエステルと神官の2人を守らないといけない」
「なんだか難しい話になってきたでありますな……」
神官だけ来たとしても、今度は守る対象が2人になる。
俺かノールが守るしかないのだが、俺が守ると不安だしノールに守らせたい。
しかし俺が攻撃を主にしようにも……。俺が強かったなら話はまだ楽だったのに……情けない。
「と言う訳で可能なら神官が最優先、次に重装鎧がいると助かるんだが、ここで問題が」
「まだ何かあるの?」
もう結論がまとまったと思っていたのかエステルは不思議そうに頭を傾ける仕草をしている。
確かに結論としてはガチャ回して神官、重装鎧を引こうという物なのだが……。
「問題なのはガチャだ」
俺がそう言うと彼女達は顔を見合わせて訳がわからないといった雰囲気だ。
「ガチャで最大の壁なのは、特定のキャラを引き当てることだ。ぶっちゃけURってだけなら案外出る」
今までURにひたすら拘って発狂したりもしていたが、今から目指すのはそれよりも遥かに厳しい。
数あるURの中から、希望のユニットを出すことがどれほど大変か……。
ピックアップなどで確率が上がるのならいいが、もしなかったら相当な期間足止めされることになる。
もしかしたら引くまでに他のユニットが大量になってごり押しすらありえる。
「だからもしちゃんと戦力を揃えるなら、ガチャで当てるのは相当厳しい」
「むぅ、確かに装備のURまでありますし、狙いのURを引くのは難しいでありますね」
今後すぐ揃わないようならば、この世界にいる人達をパーティに入れることも視野に入れなければいけないかもしれない。
そうなるとガチャのことやら色々と話さなければならない。信用できる人間じゃないと怖いな。
でも今まで横の繋がりなんて作ってすらこなかった……この街でも知り合いなんて少ないし、関心を他に向けなさ過ぎていたかもしれない。
一旦行き詰ってしまったことだし、魔石集めをしながら狩り以外の依頼でも受けてみるか?
「まあ魔石狩りだけなら今でも十分なんだけどな。迷宮探索はしばらく無理そうだ」
「そうなるわね。でもあれだけ進むのが難しいと、奥に何があるのかは気になるわ」
「もしかしたら大倉殿が帰るための手掛かりもあるかもしれないでありますな」
あれ程の迷宮だ。一体最深部には何があるのか。
あの不自然に出来た入り口、そして中の異常さ。俺の帰る手掛かりがあそこに有る可能性も十分にある。
今後は迷宮を攻略することを目標に、しばらく戦力増強などに励むとしようか。




