協力要請
不労魔石取得の完成……かと思いきや、想像以上に冒険者が希少種狩りをしないことが判明。
いや、わかっていたけど現実から目を背けていただけか。
冒険者が常に好き好んで希少種を狩る訳じゃない。
前にディウス達とシュトガル鉱山に行った時、湧き場所に入るとか正気じゃないって言われたからな。
そもそもの話、魔石が手に入る魔物は滅多に遭遇しないから希少種って言われてるんだ。
俺達は魔物の湧き場所に突っ込んで、異常な数を狩りまくっているから毎日何十体も遭遇できるだけの話。
希少種自体も普通の魔物と比べると強いし、出会いたくない冒険者だって多いはずだ。
そんな希少種狩りを少しでも多くするにはどうすればいいのか……俺達は話し合って1つの案を導き出した。
その案を実行に移すため、現在俺とエステルで冒険者協会へ足を運び、協会長のクリストフさんと会っている。
「時間を割いていただきありがとうございます」
「こちらも君達にはお世話になっているからね。相談があると言われたら時間を作らない訳にもいかないよ。次期Aランク冒険者でもあるからね」
「あら、そうやって言われると貸しを作られているようで相談しづらくなっちゃうわね」
「ははははは、冗談だからそう警戒しないでくれたまえ。半分程度だがね」
半分冗談ってもう半分は本気ってことだよな……。
そう言われてるとAランクになるのに外堀を埋められそうで怖いんですが。
こうやって協会長が会う時間を作ってくれる時点で普通じゃないから、Aランク昇格を匂わせて利用している俺達も言えたもんじゃないけどさ。
「それにしても君達から相談があるというのは珍しい。今日は一体どういった用件なのかな」
「実は以前お話した魔導具店に関してなのですが……」
「おや、この前魔導具工房との問題も無事解決したと言っていたが、また別の問題が出てきたのかい?」
「そうじゃないのだけれど、ちょっとした協力をしてもらえないかの提案だわ」
「協力したいのは山々だが、協会としてやれることは限られているよ。噂を広めたり多少の宣伝ぐらいならできなくもないが、既に知名度は十分あるはずだ」
「はい、そういう協力ではありません。討伐した魔物に関して、冒険者の人達に恩恵があるようにしたいんですよ」
「討伐した魔物で恩恵……?」
「ええ、協会って討伐した魔物を判定する魔導具があるわよね。それを少し利用させてほしいの」
簡単にまとめると冒険者協会は魔物の討伐証明をしているから、そのデータを拝借したいという提案だ。
協会で希少種討伐を確認できたら、アーデルベルさんの魔導具店のポイントを付与して割引や魔導具と交換できるシステムを構築しようと考えた。
俺達だけでやれなくもないが、希少種を倒したことを確認する手間を考えたら冒険者協会に頼むのが1番現実的だ。
といった感じの提案をしてみると、クリストフさんは眉をしかめて小難しい顔をしつつも頷いていた。
「なるほど……希少種を倒したことを証明できれば、魔導具店でポイントを付加して更なるサービスを提供するか。それは冒険者達もありがたいだろうね」
「自分達でやろうにも色々と難しいと思いまして。証明として素材を持ち込まれても、どこかで買ってきた物や使い回しなど危惧しないといけませんので」
「冒険者協会は討伐証明をした後も冒険者に素材を返しているんだし、その辺りの対策はしているのよね?」
「ふむ……冒険者登録をする時、1度確認した素材は討伐証明に使えないのは説明されている。これは特殊な魔導具で素材を識別しているんだ。本来なら協会で引き取ればいいが、魔物の素材は色々な利用法があるからね。我々が引き取っても結局はどこかに売却することになる。だから討伐報酬を低めにして代わりに素材は返却し、冒険者が自由に扱えるようにしたんだ。素材によってはこちらで価値を決めるのが難しいからね」
「ふーん、何だか回りくどいというか面倒ね」
「私が協会長になる前から様々な問題を経てこうなったんだ。ここだけの話、素材を管理するとなると手間も馬鹿にできないものでね……」
なるほど、確かにこの世界は魔物を倒すと死体が残らずに素材化しちゃうからな。
不要な部位を切り取ったりして討伐証明にするとかもできないし、魔物の素材そのものも結構な価値がある。
それを買い取ったりしていたら費用もかなり必要になるから、素材は冒険者が自由にしてくれっていうのは合理的かもな。
実際に魔導具店で同様のことをやろうとしたら、素材の買取をするか確認した証明として刻印をしたりなど想像を絶する作業が増える。
ポイント欲しさに蓄えていた素材を持ち出す輩も出てきそうだし、素材を買い取ったところで正直使い道も難しい。
一方、冒険者協会は魔導具で討伐証明である魔物の素材を確認していて、1度証明に使った物は再度持ち込んでもバレるから使い回される心配もない。
なので希少種を討伐したのを証明してもらうのは、協会からデータ提供をしてもらうのが1番確実かつお手軽だ。
「とりあえず希少種討伐数を魔導具店に伝えるのは可能だよ。だが、素材を買い取る訳でもないのに希少種討伐を推奨するようなことを何故しようと思ったのかな?」
「あっ、えーと……少しでも冒険者の人達の力になれないかと思いまして。普通の魔物だと数も多くなりすぎて大変なので、希少種を対象にしたんです。魔物を討伐することが増えたら、希少種を相手にする機会も増えますからね」
「商売的な目的もあるけれど、私達としても冒険者としても損はないでしょう? 既に魔導具店は冒険者がメインの客層だって周知されているんだし、協会と多少手を組んでも平気じゃない」
流石は協会長だな……聞かれると思って事前にエステルと答えを考えておいて正解だったぜ。
ちょっと苦しい言い訳感はあるけど、今後魔導具を使って冒険者達が強化されていけば、どんどん魔物を狩ろうってなるのは自然な流れ。
そこで魔導具店としては更に商品を売り込めて、冒険者は希少種を狩ることで恩恵もあり意欲が増していく。
まさに双方利益のある理想的な関係だ。
……まあ、魔導具の売り込みは表向きの理由で、真の狙いは魔石なんだけどさ。
そんな邪な目的を隠した俺達の言葉に、クリストフさんはまるで胸を打たれかのような反応を示した。
「そこまで他の冒険者のことを気にかけてくれるとは……君達には本当に頭が上がらなくなってしまうな。本来なら協会として特定のお店を贔屓にするようなことは避けたいが、アーデルベル君の魔導具店が冒険者を優遇しているのは事実だ。今までこういった取り組みをした店が出てきた前例もないからね」
「えっ、似たような店って今までなかったんですか?」
「魔導具は需要も高くて特定の客層を優遇する必要もない。更に言えば全体から見て冒険者は比較的に少数派だ。実際君達の関わっている魔道具店も、一般的な需要の方が多いんじゃないかな?」
「そうですね……。冒険者向け商品として作った物でしたけど、今じゃ冒険者の人達以外の方がお客として多そうです」
「まさか支援魔法の魔導具を荷物運びに使ったりするとは思わなかったわね。想定したよりも供給するのが大変になっちゃってるわ」
「道具というのは使う人によって、想定外の便利な使われ方をするからね。人口を考えたら冒険者の方が数は少ないから、一般需要が高まるのも当然だ。魔導具は特にその傾向が強いから、ここまで冒険者だけを優遇する店舗は王都になかったよ」
確かに一般的に出回っている魔導具は火をつけたり水を出したりなど、一般人にも広く使われるような物ばかりだ。
中には冒険者向けの魔導具もあるとは思うが、特別割引をするなどの優遇措置はなかったのか。
言われてみたら町に住む住民の比率として、冒険者は少数派だろうし市場的には小さそうだよなぁ。
高ランクの冒険者になれば特注の魔導具も作れるだろうし、一般的な魔導具店がここまで冒険者を優遇するのが前代未聞なのも頷ける。
「それで提案はどうかしら? カウントする魔導具はこっちで用意するから、冒険者協会にはちゃんと希少種の討伐証明が新しい物なのか確認してもらうだけでいいわ。特に費用も掛からないし冒険者も活動がしやすくなって依頼も捗るだろうし、悪いことはないんじゃない?」
「……わかった、前向きに検討してみよう。協会全体に関わることだから私の一存でも決められない。会議を開いて後日結果を君達に伝えよう」
そんな返答を聞いた俺達は今日話すことは全て終えたので協会を後にした。
クリストフさんの反応から手応えは感じたけど、やはり即断とはいかないか。
「ふぅ、何とか受け入れてもらえそうだったな。これが成功すれば冒険者が希少種狩りをする目的も増えるはずだ」
「そうね。私達だけでもできなくはなかったけれど、冒険者協会に協力してもらえたらだいぶ楽になるわ。私利私欲が混じってはいても、全体として恩恵があるんだからいいわよね」
不労所得魔石という壮大かつ高尚な目的とはいえ、随分と大掛かりな計画になっている気もしなくはない。
だが、これで俺達も魔石が手に入ってハッピー、冒険者協会も依頼を達成しやくすくなってハッピー、冒険者達も強くなれてハッピーと、まさに全員が得をする夢のようなものだ。
必ずやこの大望を成就させてみせるぞ!




