不労所得魔石
今日も日課を終えて居間で集まっている中、俺はふと呟いた。
「うーん、なんか最近平穏だな」
「どうしたの急に。平穏なのはいいことじゃない」
「そうなんだけどなー。狩りをして商品を作って、アーデルベルさんから報告を聞くってルーティンしかしてない気がする」
「そこのどこに悩む要素があるのでありますか。私は毎日モフットと遊べて嬉しいのでありますよ!」
「でもさ、たまにはひりつくような狩りをしたいだろう? そう、魔石狩りマラソンのようなさ」
「冗談じゃないのでありますよ! あんなの2度とごめんなのであります!」
「ははは、冗談だよ冗談。そう本気にするなって」
「お兄さんが言うと冗談に聞こえないのよね……」
ノールが必死に嫌がるのを見て、俺は棒読み気味に笑っていた。
半自動狩りと自動車狩りで楽に魔石を増やせてはいるのは喜ばしいが、こう長い間同じ作業をしていると心が鈍くなってくる。
こうやって楽を覚えてしまうと、いざ魔石が大量に必要になった時に以前のような魔石狩りマラソンができるか心配だぞ。
「私としてはやぶさかでもありませんが、実際のところ今おいくつ貯まっているんですか?」
「今は3228個だな。半自動狩りとかは楽だけどやっぱ効率は多少落ちるか」
「あれだけ狩りしてそれだけなのでありますか! ……まさか、内緒でガチャを回しているんじゃないでありますよね!」
「……何を言うんだい? そんな訳ないじゃあないか。この澄んだ瞳を見てくれよ。黙ってガチャを回すように見えると言うのか?」
「見えるんだよー」
「うむ、見える」
「ここまで濁った目をした生者は滅多に見ないね。僕の友達にも引けを取らないよ」
ノールだけではなく、ルーナやフリージアやマルティナまで俺に疑いの眼差しを向けている。
ちっ、こいつら……というか、マルティナの友達ってアンデッドじゃねーか!
俺はアンデッドと同じ目をしてるっていうのかよ!
「真面目な話をすると、この前のおまけガチャと魔導自動車の改造に使ったから少し減っただけだ」
「えへへ、いつも狩りの時に映画見せてもらってるんだよー」
「フリージアさんから話を聞いたけど僕も見てみたい! 今度そっちの狩りをやらせてよ!」
「構わないけど狩りは無理だろうから、フリージアと一緒に映画見てるだけでいいぞ」
「わーい! 一緒に見ようねマルティナちゃん!」
「う、うん! 楽しみ!」
マルティナもラピスの擬態を見破れるだろうけど、フリージアのように映画を見てよそ見しながら撃つのは無理だろうからな。
誰かと一緒に映画を見ればもっと楽しめるだろうし、更にやる気を煽るのにいいだろう。
アンデッドを使った半自動狩りの方が休みになるのは痛いが、休みも兼ねてちょうどいいか。
そんなやり取りをしているとスマホから着信音が流れる。
画面を取り出すと相手はアーデルベルさんだ。
何日か置きに店の状況などこうやって報告を貰っていた。
やはりトランシーバーを渡したのは正解だったな。
通話に出て軽く挨拶をし話していると、その内容に俺はつい驚きの声が出た。
「……えっ、本当ですか! はい、はい! わかりました!」
「アーデルベルさんからの電話でありましょうか?」
「反応からしてそうじゃない? 随分と嬉しいことがあったみたい」
「大倉さんがあれほど喜ぶなんてガチャ関連以外考えられませんね」
ウキウキになりそうな気分を抑えて冷静にアーデルベルさんと話して、今日の報告を受けて通話を切った。
まだだ、まだ笑うなと抑えていたものが腹の底から溢れ出す。
「ククッ、カカカッ! キキキ!」
「うわっ!? 平八がいつもより気持ち悪いんだよ! どうしたの!」
「朗報だぞ! 遂にガチャ装備が売れた!」
「確か会員制のランクで販売を決めてたって話だったかな。もう購入資格を得られるぐらいランクを上げた人がいるってことだよね?」
「ああ! その通りだ! ようやく念願のガチャ装備頒布の一歩を踏み出したんだ! これは始まりの一歩に過ぎないが、大きな前進! 敢えて言おう、最高にハイな気分だと!」
「大袈裟だ」
ルーナ達が呆れた顔をしているがこれが笑わずにいられるか!
やっと計画の大本命、冒険者にガチャ装備を買わせるところまでこぎ着けたんだ!
ここで喜ばずにいつ喜ぶというのか。
ちなみに購入したのはBランクの冒険者パーティだそうだ。
ガチャ装備を購入できるのはシルバー会員からなので、相当な数の魔導具を買い込んだはず。
今の段階でシルバー会員になるほど資金力のあるパーティだろうから、ディウスパーティ相当の実力は期待できる。
「よし、お祝いも兼ねて数日間狩りは休みとする! お前ら自由に遊びに行ってもいいぞ!」
「えっ!? 本当! やったんだよー!」
「急にどうしたのでありますか? 大倉殿がお祝いとして狩りを休むなんて言うのはおかしいのでありますよ」
「確実に何か企んでいますよね。正直に言ってください」
「企むとはなんだ失礼な。まあ、単純に休むだけじゃないのは事実だ。正確な不労所得魔石の効率を確認するためだな」
「別にそんなことしなくても、自分達で狩った数ぐらい確認できそうだけれど」
「それはそうだけどさ、気分的に良いじゃないか。狩らなくても魔石が手に入る愉悦を味わいたいのさ」
さっきまで楽をするのに慣れたら、前みたいな魔石狩りができるのか不安に思っていたがもはやそんなのはどうでもいい。
魔石不労所得を構築できれば、約束された勝利を掴んだようなもの。
ここはパーッと祝っておいて、勝利の美酒に酔いしれるとしよう。
そうして数日の休日を設け、各々のんびりと過ごしていた。
俺はその日から1日に何度もスマホを確認して、魔石が増えていないか見ている。
ディウスやグリンさんに加えて、もう1組魔石狩りの冒険者パーティが増えたんだ。
これで不労所得魔石の数もかなり期待できるはず。
……そう思っていた時期がありました。
「どうしてだよぉぉぉぉ! ないよ、魔石全然増えてないよ!」
「大体予想通りじゃない。でも多少は増えてるんでしょ?」
「あっ、うん。5日で9個ぐらいだな。ディウスやグリンさん達だけの時と大して変わらないぞ。ま、まさか会員証だけじゃ仲間判定にならなかったのか……?」
「断定はできないけれど5日で9個なら効果はあるんじゃないかしら? 今まで5日間で9個も入ってきたことなかったわよね。ディウスやグリンさん達の分に、新しく数個は上乗せされていると思うわ」
ぐぬぬ、確かに今まで計測していた中じゃ最高値ではある。
ディウスやグリンさん達の頃は5日で5個もいけば凄いと驚くぐらいだ。
今回この数になったのはガチャ装備を買ったパーティが、張り切って魔物を狩りに行った可能性が高いだろう。
まだ確定ではないにしろ、会員証で仲間意識を植え付けてガチャ装備で狩りをすれば魔石が貰えるシステムは構築できたと思っていいはず。
それにしても効率がなぁ。
「やっぱ1組増えただけじゃそこまで劇的に変わらないか。1組で1日1個魔石が手に入ったらいい方なのか?」
「そうね。ガチャ装備を持つ冒険者パーティを1組増やす度、1日1個魔石が手に入れば御の字かしら。平均的には0個の日の方が多いんじゃない?」
「ちっ、狩りはどうした狩りは! もっと希少種を狩るとかさ!」
「無茶言っちゃダメよ。普通の冒険者は魔物の湧き場所まで行ったりしないもの。1日1体希少種と遭遇するかどうかじゃない? 数体も一気に出てきたら危険だもの。素材の採取や依頼だとしても、そこまで数をこなす必要もないはずよ。もっと希少種を狩る動機付けができればいいのだけれど」
エステルの言う通り俺達の認識がおかしいだけで、希少種なんてそう簡単に狩れる魔物じゃないしな。
俺やノールだって最初の頃は、ブラックオークを1日10体狩ったら運がよかったと喜んでいた。
そもそも希少種自体積極的に狩る冒険者もそう多くはないだろうし、狩るのも大変なはず。
今後本格的にガチャ装備が冒険者間で頒布する前に、何とか希少種を狩る目的や簡単に狩る方法を確立できないだろうか。




