会員カード作り
工房長によるガチャアイテムの鑑定も終わり、魔導具店の会員制に向けて本格的に動き出した。
いつもながら狩りは続けているが程ほどにして、今日も日課を済ませてから俺は魔導具製作所と化している訓練場に足を運んでいる。
そこでエステルは会員の証となるカードを作成しており、2人きりで雑談しながらその様子を眺めていた。
「ふぅ、最近魔導具店のことで結構忙しいな。委託販売で済ましたのは本当に名案だったぞ」
「そうね。委託ですらこれだもの。自分達だけでやろうとしていたら、もう狩りをしている暇もなかったわね。私達の知識だけじゃお店を経営するのも大変だったと思うわ」
「そうだなぁ。俺達だけだったら商人のURユニットでも来てくれなきゃ無理だったろうな」
いくらエステル達が知識豊富とはいえ、商売をするとなったら本職には敵わないだろうからなぁ。
一応GCには支援系ユニットとして商人がいるから、ガチャで引き当てれば実現はできたと思う。
問題があるとすればそう簡単に特定ユニットを引けないことなんだが……というか、GCのガチャ自体ユニットを引ける確率が鬼畜過ぎる。
なんでユニットと装備とアイテム全部ごちゃ混ぜになってやがるんだよ!
ただでさえURを引くのが難しいのに、そこから更に抽選してるようなもんだぞ!
詳細な確率表記したら、特定ユニットが出る確率0.00001%とかの数字になってんじゃないのか?
1%もないとか……まあ、ガチャの確率があれなのは今更だけどさ。
なんて内心発狂しそうな思考に陥っていると、エステルが不満そうに頬を膨らませているのに気が付いた。
「どうかしたのか?」
「別に何でもないわ。ただ……私と2人でお話しているのに他の子の話をするのね」
「あっ、いや、それは……な?」
「ふふ、冗談よ。私としても一応魔導具は作れるけれど、あまり専攻分野じゃないからね。お兄さんの知る中で魔導具専門で作る子とかはいなかったのかしら?」
「うーん、俺も全てを把握している訳じゃないからなぁ。魔導師系統のURユニット自体は他にも何人かいたぞ」
「へぇー、他にも私と同じぐらいの魔導師の子がいるのね。どんな子達か会ってみたいわ」
「ああ、でもその中でエステルが来てくれて良かったよ。情けない話だがずっと世話になってばっかしだしな……本当に感謝してるぞ」
「……もう、改まってそんなこと言われると照れちゃうじゃない。お兄さんのそういう所は本当に好きだけれど」
うっ、そう言われると改まって言うのはなんか照れ臭いな。
だけどURの魔導師ユニットでエステルが来てくれたのは本当によかった。
能力としてはエステルは万能型なのもあるけど、ノール達とも仲良くしてくれるし優しくもある。
この世界に来てまだ間もない頃に呼び出して色々不便をかけたが、積極的に協力してくれたからなぁ。
召喚する時躊躇した俺をぶん殴ってやりたくなるぞ。
微笑んで好きと言われて俺も照れ臭くなっていると、エステルが作っていたカードが完成したようだ。
「ふう、これで完成ね」
「もう完成したのか。さすがエステルだな」
「お兄さんが一緒にいてくれたから張り切っちゃったわ。ちゃんと機能するか試してみて。まずこっちの識別装置に原石魔導具を通して、それからカードを本体に接触させれば裏面の印が増えていくわ」
「どれどれ……」
エステルから四角いカードを手渡されて、それとは別に机の上に大き目の水晶が置かれている。
その水晶は魔導具工房から譲ってもらった高品質の魔光石で、複雑な魔導具を作るには必要だったようだ。
まず識別装置にエステルの作った原石魔導具をかざすと、何やら数字が浮かんできた。
次にカードをかざすとその数字がなくなり、識別装置から出た光がカードへ吸収されていく。
カードの裏面を見ると丸い印が浮かび上がっていて、これでポイントが付与されたようだ。
「おっ、印が増えているな。問題なく機能してるぞ。でもこれって偽造の心配はないのか?」
「カードはイータートレントから落ちた木材を使っているからその心配もないはずよ。物理的にも魔法的にも傷を付けたり加工するのは難しいもの。私でもグリモワールの3倍魔法を使わないと大変だわ」
「見た目は薄いカードだけど恐ろしく硬そうだな。鉄の剣とか使っても掠り傷すら付かないだろ」
「それだけじゃなくて魔法も弾いちゃうからね。これに魔法を施すのは苦労したわ」
トランプのように薄いカードだが、手で折り曲げることもできずに指で弾くとカンッと鉄のような音がする。
もうこれ木材じゃないだろう……イータートレントのドロップアイテムだけあって強度が凄まじいな。
エステルの3倍魔法を使っても加工が大変なら偽造の心配もなさそうだぞ。
カードの表面には銅で作った文字がはめ込まれていて、文字の金属を変えてブロンズ、シルバー、ゴールド会員と3段階に分ける予定だ。
だけどこれ1枚作るだけでもかなり手間がかかっていそうだぞ。
「加工がこんなに大変な物をカードにして平気なのか? エステルが大変なら他のにしてもいいんだぞ」
「ふふ、心配してくれてありがとうお兄さん。でも大丈夫よ、1個作っちゃえば次からは簡単に作れるもの。それにこれぐらいしないと偽造の心配もあるからね。冒険者の数だってそう多い訳でもないし、カードもそこまで数が必要にならないと思うの」
「うーん、それはそうだけど……冒険者1人1人が作ったらそれなりの量になりそうじゃないか?」
「そういう人達もいるとは思うけど、大半の冒険者パーティーは代表者が作るはずよ。購入した金額に応じてランクが上がる仕組みだから、出来るだけ1つのカードにまとめると思うわ。それに会員になるのもカードの発行手数料を取ることにしたじゃない」
「そうだな。金がかかるとなればむやみやたらにカードを作ったりもしないか」
俺の世界と違ってこのシステムを導入するのに手間がかかっているから、カードを発行するのに手数料を取るつもりだ。
冒険者限定の物だから、作りまくって冒険者以外に横流しされる可能性も考慮してある。
それに元々冒険者向けの魔導具店とはいえ、一般の買い物客とあまり差を付けるのもまずいからな。
会員でお得な特典があるとしても、有料で条件もあるとなればそういう不満も多少は抑えられるだろう。
「それにしても魔導具って本当に便利だな。ガチャ産アイテムは例外としても、エステルが作る物も俺の世界の現代品と見劣りしない性能だぞ。エステル達の世界もこれぐらい当たり前だったのか?」
「一部は同じぐらいだけど全体的には流石にお兄さんの世界より劣っていたと思うわ。私はお兄さんの知識やガチャアイテムから色々と技術を模倣しているもの。仕組みを学んだり発想を得るだけでもかなり違ってくるわ。最近だと図書館も凄く参考になるわね」
「あー、そういえばエステルもマルティナに負けないぐらい図書館で本を読んでるもんな」
「マルティナ程ではないけれどね。お兄さんの世界は知識が色々と進んでいるから興味深いわ。それに私だけじゃなくて皆結構図書館に来ているわよ」
「えっ、そうなのか? エステルとマルティナがよくいるのは知ってるけど……」
俺はあまり図書館に行かないけど、2人以外も本を読みに行ってるのは意外だな。
マルティナとエステル以外本を読んでる姿がイメージできないぞ。
「マルティナが皆の好みを聞いて種類を揃えているからね。ノールは料理、フリージアは漫画、ルーナは文学系、シスハは人体構造や武術が好みみたいよ」
「へぇ、なるほどなぁ。……って、シスハだけおかしくないか?」
「人体についてよく知っておきませんと、神官ですからね、って言ってたわよ。武術に関してはまあ……シスハだもの」
「そう聞くと人体構造の方も何が目的なのか怪しい気がしてくるんだが……」
武術は理解できないくもないが人体構造って嫌な予感しかしないんですが。
神官だし治療目的で学ぶと普通は思うけど、あいつの言う神官ですからね、は全く信用できないからなぁ。
効率よく人体を破壊する方法を学ぼうとしてないか?
前に変なツボ突かれて体が動かなくなったしな……その内指で突かれただけで体が破裂させられそうだぞ。
「というかルーナが文学好きなのも意外なんだが」
「たまにふらっとやって来て静かに読んでるわよ。マルティナと本について話してたりもするから、結構本を読むのが好きみたい。マルティナが嬉しそうにおススメを教えていたわ」
「それはまた意外だな。ルーナは時間さえあればずっと寝てると思っていたぞ」
「本人が聞いたら怒っちゃうわよ。でもシスハ達と触れ合うことで考えも変わってきたんじゃない? 召喚されたばかりの頃と比べると、何が何でも寝ていたいって感じも減ったもの」
うーん、確かに前ほどルーナも怠惰な感じがしなくなった気がするな。
この前も魔導具製作を手伝うとか言ってきたり、ドワーフの地下都市へ行く時も疲れていたけど最後までしっかり付き合ってくれた。
ルーナが文学作品を読むのが好きというのも意外だし、マルティナとも知らない内に仲を深めていたのか。
何というか微笑ましい気持ちになってくるな。
「ところでエステルはこの前言ってたみたいに、やっぱり魔法に関しての本を主に読んでるんだよな?」
「そうね。けど最近はお兄さんの世界の科学の本も読んでいるわね」
「えっ、科学の本?」
「魔法と化学って結構似通っている部分があるのよね。だから化学も学べば魔法に応用できると思ったの。魔法って現象の過程を飛ばして結果だけ出しちゃうことがあるから、科学的に過程を知るのも新鮮だわ」
「ほぉー、エステルは勉強熱心だな。確かに化学は魔法と見分けが付かないって言葉を聞いた気がするぞ。簡単に言うとどうして火が付くのか、って感じか?」
「そんなところね。雨の日とかに雷が起きる原理とかも感心したわ。魔法だと理屈を知らなくても、イメージと魔力で雷も再現できちゃうからね。今ならもっと強力な魔法を使えるはずよ」
エステルは笑顔でそう言ってバチバチと指先から電気が放たれている。
ただでさえ強力なエステルさんの魔法が、科学の知識が融合してもっと凄いことになるのか……。
ただの娯楽として図書館を増築したけど、ただでさえ凄いエステル達に知識が蓄えられると考えたらとんでもない施設を作ったのかもしれないな。




