工房長の鑑定
いつもお読みくださりありがとうございます。
再度宣伝になりますが漫画版10巻が明日、2月28日に発売となります。
可愛いエステルとマイラの表紙も見てもらえると嬉しいです!
協会長から販売している魔導具の評判も聞き、さっそく次の行動へ移すことに。
ノール達と話し合いをしながら数日経ち、工房長にトランシーバーで連絡を入れて会う約束を取り付けた。
目的は工房長に売るガチャ装備を確認してもらい意見を聞くためだ。
そして今日はその約束の日になり、俺とエステルは魔導具工房にやってきている。
「まさか俺達が直接魔導具工房に足を運ぶことになるとはな」
「仕方ないじゃない。工房長の立場じゃ気軽に外へ出る訳にもいかないと思うわ。直接行けばすぐ会ってくれるってだけでも破格の待遇よ。それに調べる設備のある場所で見てもらえる方が好ましいもの」
会う了承を得たは良いものの、場所をどこにするかが問題になった。
工房長も多忙でこの前みたいにアーデルベルさんの屋敷で会うとなるとだいぶ先になってしまう。
そこで工房長から、俺達さえ良ければ工房に来ないかと言われてその提案に乗ったのだ。
だが、それはそれで俺達が工房に来ているのを誰かに見られたら、どんな関わりがあるのか怪しまれる。
そんな訳で解決策として、エステルの魔法で隠れながら工房に赴いて直接会うことにした。
あまり大人数だと魔法をかけるのが大変と言われて、俺とエステルの2人だけで来たのはいいのだが……現在、エステルさんが俺の片腕に両腕を回して抱きついている。
「魔法をかけているのはわかるんだけど、こんな密着する必要あるのか?」
「ふふ、それも仕方がないじゃない。他の人に認識阻害の魔法をかけるには、密着していないと効果が薄れちゃうの。だからこうやってしっかりギューッとしてないとね」
そう言ってエステルは微笑みながら、絡ませている腕の力を更に強めた。
何となく他意も含まれている気がするんですが……言うのは野暮だから黙っておこう。
開かれていた門から工房の敷地内に入ると、多数の従業員がいたがすれ違っても誰も俺達に気づかない。
流石エステルさんの使う認識阻害の魔法だな。
消音の魔法もかかっているから、問題なく会話も可能だ。
「認識阻害の魔法って凄いんだな。これならインビジブルマントもいらないぞ」
「うーん、それほど便利な魔法でもないのよね。人が相手ならノール達ぐらい感覚が鋭くないとバレる心配はないけれど、魔物相手だとちょっとね。それに透明化している訳じゃないから、私としてはあまり過信できる魔法ではないわ」
「なるほどなぁ、ちなみに透明化する魔法は使えないのか?」
「インビジブルマントを解析して再現はできるようになったけれど、魔力の消費が凄いのよ。光魔法の応用で割と制御も難しいわ。よっぽど隠れるのが大切な時じゃないと使う気がしないわね。……お兄さんの部屋に行く時ぐらいかしら」
「えっ」
「いえ、何でもないわ」
今何か不穏なことを言っていたような……気のせいだろうか。
笑顔でニッコリと言い返してきたエステルに気圧されてそれ以上聞くこともなく、工房長の部屋を目指して建物内へ入って行く。
工房長の部屋は最上階の最奥にあるそうで、鍵を開けておくから勝手に入って来てくれと言われている。
その後も特に問題なく建物の最上階へ上がっていき、廊下の奥にある重厚な扉の部屋に入った。
入ってすぐ目についた大きな机の席に工房長も座っていて、扉が開いたのに反応して俺達が来たことに気づいたようだ。
この前アーデルベルさんの屋敷であった魔導師っぽい服装じゃなくて、白衣の研究者っぽい格好をしている。
中に入ってからエステルに魔法を解除してもらい、ようやく工房長と目が合った。
「お待ちしておりました~。こちらにお呼びしてしまいすみませんね」
「いえ、お忙しい中相談に乗ってくださりありがとうございます」
「興味深いお話でしたのでありがたいぐらいですよ。それにしてもやはりエステル様は隠蔽魔法も完璧なんですね。工房は私の領域内なんですけど、本当にお越しになったのかわかりませんでした。扉が開くまで気づきませんでしたよ」
「それなりに対策はしておいたもの。工房長さんがわからなかったなら、誰かに気づかれた心配はなさそうね」
「これでも工房は国内なら最高水準の警備なんですけどね……。十分と考えていましたがまだまだ甘かったみたいです」
魔導師同士の話はよくわからないけど、やっぱりエステルは隠蔽魔法すら規格外みたいだな。
聞いている感じだと、魔導師は自分の陣地的な範囲を作れてその中なら魔法の力も向上するのか?
それなのにエステル相手だと侵入されたことすらわからなかった、と。
軽い挨拶を交わした後、工房長の部屋の奥に連れて行かれて対面するように席に着いた。
工房長の部屋は入ってすぐのところは執務室で、奥にある通路を進むと様々な装置が置かれた研究室になっている。
「それでご相談は新たに販売する魔導具を、事前に見てもらいたいということでしたよね?」
「はい、会員限定の冒険者向け魔導具の販売を考えているんです。それを流通させてこの前みたいな問題が起きないか意見が欲しいんですよ」
「そういうことでしたか。どんな魔導具を販売したとして、工房として大倉さん達とこの前のように揉める心配はないですよ。そこまでして流通制限する物なら、市場に出回っている既存の物とも思えませんので。どんな凄い物なのか見るのがワクワクしてきますよ!」
「工房長さんは今回の話は乗り気だったみたいね。その期待に応えられる物だと良いけれど」
俺が少し話しただけで、どんな物を売るのか大体の予想したみたいだな。
そりゃ会員限定で販売する時点で、工房が一般的に売っている品物と競合するような物じゃないのは想像できるか。
むしろそんな心配よりも、鼻息を荒くして工房長は興奮していらっしゃる。
この前の交渉の時もそうだったけど、工房の利益とかより俺達が何を出してくるかの方に興味が勝っているようだ。
俺達も強力過ぎる物は騒ぎになるのが目に見ているので、色々な点を考慮してアクセサリー系を中心にガチャ装備を選定しておいた。
・守護の指輪 防御力+300
・命の宝玉 HP+600 HP回復速度上昇
・ホットリング 火属性抵抗(小) 火属性攻撃付加(小)
・アイスリング 氷属性抵抗(小) 氷属性攻撃付加(小)
・サンダーリング 雷属性抵抗(小) 雷属性攻撃付加(小)
・ウィンドリング 風属性抵抗(小) 風属性攻撃付加(小)
・バタフライグリップ 攻撃力+100 防御+50 攻撃速度+20% 硬直時間-10%
やはり身に着けやすい指輪系が中心となり、せっかくの機会なのでちょっと性能高めのグローブであるバタフライグリップも持ってきている。
守護の指輪以外のリング系はRの物ばかりだが果たして評価は……。
「ほほぉ~、主に指輪の魔導具を取り扱うおつもりなんですね」
「はい、武器や防具は競合しやすそうですし、ちゃんとした専門店で買う人の方が多いと思うので。小さなアクセサリー系の方が需要があるかなと」
「そうですねぇ。指輪なら複数身に付けられますから、工房で出している指輪の魔導具などと競い合いになることも少ないと思います。私達は戦闘に使えそうな魔導具は大型の物が多いので、指輪などは小さな火や少量の水を出す生活補助的な物しかありませんからね」
「それじゃあこの魔導具を販売したらどうなるか、工房長さんの鑑定が楽しみだわ。出来れば工房で売るとしたらいくらぐらいにするか参考に教えて欲しいわね」
「お任せください。工房長として適正な鑑定をさせていただきますよ!」
工房長は血走った見開いた目をしながら、机に置いた魔導具を持って装置へ運んでいく。
あまりに興味津々で怖くなってくるんですが……。
複雑な魔法陣がいくつも刻まれている台の上に守護の指輪を乗せると、囲むように更に宙に光る魔法陣がいくつも浮かび上がっている。
おー、今までこの世界で見たことがないハイテクな感じがするぞ。
あれで魔導具を鑑定するみたいだけど、この世界の鑑定だとガチャ装備はどんな感じで性能が表示されるのだろうか。
装置に関してはよくわからないので、操作している工房長の反応を見ていた。
最初はワクワクと目を輝かせるような笑顔だったのだが、作業が進むにつれてだんだんと真顔になって最後にはどん引きしたように呟き出す。
「えっ……何ですこれ……」
「あら、それほど驚く物なのかしら?」
「驚くも何もこれはどう作ったんですか! こんなの人の手で作れる代物じゃありませんよ!」
「鑑定結果的にはどういう扱いなんですか?」
「身体防御力の向上と出ました。工房でも似たような効果を得られる魔導具はありますが、手甲などに付加するのが限界です。それもここまで強い効果は得られませんが……指輪で何のデメリットもなしでこの効果は異常です! ちょ、ちょっと試させてもらってもいいですか?」
「はい、構いませんが……」
「ありがとうございます! では!」
ドン引きしてたかと思えば興奮気味になった工房長は、喜々とした様子で守護の指輪をはめた。
その勢いのまま傍にあった刃物を手に取って、迷う様子もなく思いっ切り手の平を突いた。
当然守護の指輪の効果でその辺の刃物程度じゃ傷も付かず、工房長の手の平は無傷のままだ。
「おお~! 刃物で素肌に掠り傷すら付かない! これは凄い!」
「……躊躇なくいったな」
「……ええ、それほど試してみたかったのようね。ある意味信頼してもらえているのかしら?」
アーデルベルさんのところで実演した時は、護衛のエゴンさんでさえ躊躇してたのにこの人迷いなくいきやがったぞ。しかも突きだ。
ある意味度胸があるというか、探求熱心と言うか……魔導具工房の長なだけあるな。
それから守護の指輪以外のガチャ装備も工房長は試していた。
ホットリングなどは属性系の指輪で、これを装着して剣を振ると刃先から微量の火が飛び出すようになる。
物を投げるとその物体が火を纏って飛んでいくのには驚いた。
更に火抵抗も上がるおかげで、発生する火を自分が浴びても火傷を負わなくなるようだ。
その他の指輪も大体同じ感じで、バタフライグリップなども試した工房長はそれはもう満足と言った雰囲気をしている。
「いやぁ、これほど素晴らしい魔導具がこの世に存在したとは……世の中広いのですね。感服いたしました」
「それは良かったわ。それで、工房長さんの見積もりとしていくらぐらいになりそう?」
「うーん、正直言い値でも売れそうな価値がありますよ。ただ大倉さん達はこれを流通させたいと思っていらっしゃるんですよね?」
「はい、実用品として幅広く使ってもらうつもりです。ただお得意様向けの物なので、最低でもCランク冒険者以上を想定しています」
魔導具店の会員は冒険者限定にして、エステルに魔法でカード的なのを作ってもらい購入した魔導具の金額を記録する方式を取るつもりだ。
最初の方は割引などの特典のみで、ゴールドやらプラチナやら購入金額でランクが上がり一定以上になったらガチャ装備の販売対象にする。
当然それなりにお高い値段に設定するつもりだし、ガチャ装備も無数にある訳じゃないから普及させるにしても多少絞るつもりだ。
魔石が手に入るとしても、俺達だけの強みであるガチャ装備をむやみやたらにばら撒くのは悪手だからな。
それに魔石を落とす対象の希少種を倒さないといけないから、実力のある冒険者に優先して買ってもらいたい。
販売額をいくらにしようか迷っていたから、ここで工房長から意見を貰えるのは助かる。
工房長は少し考える素振りをしてから、各ガチャ装備の値段を言い始めた。
「それでしたら……属性の指輪は各500万、身体防御の指輪と宝玉は3000万、グローブは5000万といったところでどうでしょう? 工房で普及を目的として売るとしたらの参考価格ですね。製作費などを考慮していないので、これでもだいぶ安く見積もっています」
「バタフライグリップが5000万!?」
「これで安めの見積もりなのね。1つで家を買えちゃうじゃない」
「魔導具は性能次第で値段が跳ね上がりますからね~。魔法属性を付加する武器なども存在しますが、指輪でこんな性能の物はありません。生命力の増える宝玉など騎士団で使われるようなレベルですから、民間に出回るなんてほぼないですよ。注目されたくないという事情を考慮したら、指輪のみの販売が無難でしょう。バタフライグリップという物は騎士団でも欲しがる代物なので億単位でもおかしくないです。こんな性能のグローブ型の魔導具は見たことありません。研究用として私が欲しいぐらいですよ~」
はっ!? SRのバタフライグリップが5000万とか正気かよ!
Rの属性指輪ですら500万、守護の指輪と命の宝玉は3000万とか……金額がぶっ飛び過ぎてやがる。
しかも宝玉やバタフライグリップは騎士団で使うレベル。
俺達だけで勝手に判断せず、工房長に意見を聞いておいてよかった。
もし普通に販売していたら、またひと騒動起こしていたところだったぞ。
「属性指輪だけでも冒険者の需要としては十分でしょうか?」
「理屈はわかりませんが、指輪を身に着けて攻撃するだけで魔法が付与されていますからね。矢などにも付与される可能性もあるのは驚きです。魔力の消費すらないのでこれは破格ですよ」
「魔法に対しての評価って思っていた以上に高いのね。私は魔導師だけどその辺の認識が鈍いわ」
「エステル様はどこかの奥地で研鑽なさった方なのでしょうか? この国ではそれだけ冒険者になる魔導師は少数なんですよ。学院で魔法を学ぶ過程で、魔法を実践で活かすのがどれだけ難しいか思い知らされます。冒険者のような少数で動く集団での戦闘は、熟練者同士じゃないと成立しないですね。魔導師は魔導具製作や軍での採用がありますから、余程冒険者に思い入れがなければなる者は少ないんです」
冒険者に魔導師が少ないのがわかっていたから支援魔法の原石魔導具を作ったけど、こんなところでもその恩恵があるとはなぁ。
俺達からしたらRのガチャ装備を使う機会は少ないが、物次第じゃこの世界だとかなり需要もありそうだ。
SRでもこの反応なら、SSRを餌にすればAランク冒険者の誘致も可能な気がするが……流石にリスクが高過ぎるな。




