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世間の評判

 工房との話し合いを終え、10日過ぎた頃になってついに工房から声明文が発表された。

 事前に取り決めしていた謝罪文に加え、提携についても発表されて世間がざわついたらしい。

 それも相まって魔導具店は更に注目を集め、一時期は入場規制されるほど客が集まったそうだ。

 今は多少落ち着いたものの、売り上げは右肩上がりで絶好調。

 その恩恵でアーデルベルさんの店全体の売り上げも増して改めて感謝された。

 そんなこともありながら平穏な日常を取り戻し、今日も狩りを終えてシスハ達と雑談している。


「ふふふふ、俺の予想通り、魔導具店は順調みたいだな」


「代わりに生産量が物凄いですけどね。お試し品の販売を止めたので多少生産量を落としても平気になりましたが、まだまだ需要が凄いですよ。癒しの石も途中で売り方を変えなければ、いくら私でも生産が追い付かなくなってましたね」


「私の支援魔法の原石とシスハの癒しの石が飛び抜けて売れているようだわ。冒険者受けだけを考えていたけれど、一般向けの需要が予想以上ね。売れるのは嬉しいけれど、想定していた用途とちょっと違うから複雑な気分になりそう」


 今回の件で注目度が上がったけど、それで主に増えた客層は一般人が多いようだ。

 冒険者達の間じゃ既に十分過ぎる程認知度があり、これ以上は王都以外の冒険者が訪れなければ劇的な変化はないと思う。

 エステルの言う通り冒険者向けに考えていた魔導具なのに、大半の使用法が肉体労働や日常のヒーリンググッズ化しているのは何とも言えないな。

 今はお試し品の販売も終了して通常品のみの販売に移行したが、変わらず売り上げは増えている。

 シスハの癒しの石は教会に行って神官に治療を頼むほどじゃなく、ポーションでも効き目が薄い痛みなどに非常に効果的で重宝されてるとか。

 範囲タイプを部屋に置いておくだけで、複数人の頭痛腰痛肩こり疲労筋肉痛切り傷まで全ての症状で回復が早くなる。

 効果時間が丸1日で1万Gはするけど、それでも欲しがる人は多い。

 軽い病気や怪我の治癒に肉体労働の疲労回復など、あまりに上手く隙間産業的な位置にハマり込んでしまい需要の大半を一般人が占めているのが現状だ。


 一方で、一般人があまり使い道のなさそうな商品の売り上げに関して嘆いているのが1名。

 マルティナが俺達の話を聞きながら傍で四つん這いになって落ち込んでいた。


「うぅ……僕なんて……僕なんて……。僕は作った物すら人から見てもらえないんだ……」


「そ、そう落ち込むなって。お前の作った魔導具も評判は良いみたいだぞ」


「……でもエステルさん達に比べたら追加受注全然ないじゃないか」


「マルティナさんのは完全に戦闘向け商材ですからねぇ。まさに魔物相手に使う物ですし、弱体化させるとなったら強い魔物になりますから使用頻度は低いですよ。緊急時に使うか、素材が欲しいけど被害が出そうな魔物に使うぐらいじゃないですか」


「ああ、それにDランク以上の冒険者だけの販売で値段も高いからな。ある意味客単価の高い物だからこれでいいんだよ。さっきも言ったけど使った冒険者からの評判は良いらしいから、これから徐々に需要も増えるんじゃないか?」


「う、ウェヒヒヒ……ぼ、僕の作った物が皆に認められて…ハッ!? ぼ、僕が作った物だから当然さ!」


「相変わらず自信があるのかないのかわからない子ね。私達も効果が凄いって認めてるんだから自信持っていいのよ」


 エステル達に励まされて、マルティナは変な笑い声を上げながら体をクネクネさせて気持ち悪い動きをしている。

 追加受注が殆どないからそれで落ち込んでやがったのかよ。

 弱体ボールは使用用途も限られて、使うのも冒険者以外はほぼいないからなぁ。

 しかもDランク以上の冒険者以外は購入制限があり、1個3万Gとなかなか値が張っている。

 ここぞという時以外は滅多に使われない物だが、一部の冒険者はこれを上手く活用して希少な素材を落とす魔物を狩れているそうだ。

 だから購入者からの評判は非常に良くて、ある意味これが1番俺達が想定していた使用用途なのかもしれない。

 これのおかげで希少種討伐に挑む冒険者が増えてくれれば、今後の計画の後押しにもなってくれそうだな。


 そんな話をしていると、居間でモフットと遊んでいたルーナが俺達の会話に混ざってきた。


「平八、私も魔導具作りを手伝ってやろう」


「……ん? 今なんか幻聴が……ルーナ、もう1度言ってくれるか?」


「私も魔導具作りを手伝ってやる」


「な、何言ってるんだ! 大丈夫なのか!」


「ルーナさんどうなさったのですか! 体調が優れないのですか! 今すぐ治療いたしますよ! さぁどうぞ!」


「貴様ら噛むぞ?」


「ヴァラドさんがどんな人なのか僕もわかってきたけど、そこまで驚くほどなのかな?」


「そうね。でもルーナが手伝うなんてどういう風の吹き回しかしら?」


 あのルーナが自分から手伝うとか言い出したぞ! あのルーナが!

 俺とシスハの反応に牙を剥き出しにしてルーナは怒っているが、言った瞬間槍でも降るんじゃないかと思うぐらい驚愕的なことだ。

 ノールがご飯を食べないと言い出したら、天変地異が起きると思うのと同レベルの出来事だ。


「別に、ただの気まぐれだ。魔導具量産に苦労しているなら手伝ってやる。魔力を流すだけで作れるのだろう? ミニサレナがやっているのを見た」


「ええ、魔力を流せば支援魔法の魔導具を量産できるわ。魔導具開発じゃなくてそっちの手伝いをしてくれるのね」


「うむ、狩りに行かない代わりに手伝ってやる。在宅勤務だ」


「それは助かるわ。今はまだミニサレナだけで間に合っているけれど、これからもっと生産量が必要になったらお願いするかも」


 地下都市探索からずっとルーナは家の中で過ごしていたからなぁ。

 俺達の様子を見て手伝う意欲が湧いたのだろうか。

 これから更に魔導具の需要が増えそうだから、家で量産を手伝ってもらえるのは助かる。

 というかルーナの口から在宅勤務なんて言葉出てくるのが驚きなんですが。

 自宅警備吸血鬼のルーナからこんな提案をしてくるとは、何だか成長というか変化を感じてほっこりしてくるな。

 と思っていたのだが、そこに神官様が割り込んできた。


「それなら私が癒しの石を作る時も一緒にいてもらいたいですね。ルーナさんが傍にいてくれるだけで癒されますよ」


「癒しの石作ってる奴が癒しを求めるのはどうなんだ……」


「そのぐらいの役得があってもいいじゃないですかー」


「ふむ、それも構わない」


「やりました! それでは早速参りましょう!」


 ルーナを抱きかかえたシスハは喜々としながら、魔導具作りをしている部屋へ向かっていった。

 相変わらずというか何というか……それでシスハのやる気が出てくれるならいいか。

 

 翌日、今日は狩りを休みにして俺は冒険者協会を訪れていた。

 依頼を受けるつもりはないが、魔導具の評判はどうか協会でも聞いておこうと思ったからだ。

 さっそく協会長の部屋に案内されてクリストフさんから話をすることに。

 ……もうこれが当たり前になってるけど、Bランクの俺が協会長とこんな気軽に話せるのって普通じゃないよなぁ。


「大倉君、君達の販売している魔導具だが凄い評判じゃないか。私も足を運んでみたが、あれならその必要もなかったと思うよ」


「いえ、協会長に来ていただければ更に評判が良くなりますからね。お願いを聞いてくださりありがとうございます」


「ははは、そう言ってもらえると私も嬉しくなるね。君達の販売した魔導具はかなりの影響があるようだ。このままだと冒険者にとっては必須の物になりそうだよ」


「それほどですか……それが狙いでしたけど、正直思っていた以上に騒ぎになっちゃいましたよ」


「どうやら工房と揉め事があったとも聞いたね。無事解決したそうだが本当に平気なのかな?」


「はい、穏便に解決できました。これからは色々協力し合っていけると思います」


「それならよかった。困ったことがあれば協会長としていつでも協力するから頼ってほしい」


 工房からの声明文のこともあるし、やっぱり既に協会長も知っていたか。

 今回の件は自分達でも何とかなったけど、本当に困ったらお願いすることもあるだろうから頼りにしておこう。

 あまり頼り過ぎると弱みになりそうだから注意はしておくか。


「今回の件で冒険者だけじゃなく、世間の魔導師に対する評価が更に上がったそうだ。工房としてもそれを含めて悪く思ってなかったのかもしれないね」


「それってどういうことですか?」


「一般人は普通に過ごしていたら、支援魔法を受ける機会自体ほぼないからね。君達の魔導具で誰もが支援魔法を体験できるようになり、魔導師の凄さをより身近に実感できるようになった。魔導師界隈からしてもこれは良い傾向だと思うよ」


「まさかそんな影響まであるなんて……」


 俺達が魔導具を売ることで魔導師自体の評価が上がるって、そんなとんでもない影響が起きてたのかよ。

 確かにそれなら大量の魔導師で構成されている工房としては、俺達の商売が軌道に乗るのも悪い気がしないか。

 出来るだけ既存の製品と競合しないようにしていたから、商品が売れることで他社の売り上げが減る影響もそこまでないはず。

 改めてエステル達の作った物の恐ろしさを実感してくるな。

 クリストフさんの話に内心驚愕していると、続けて気になることを口にし始めた。


「Aランク冒険者も君達の魔導具に興味を示しているそうだよ。既に見に行った者もいるんじゃないかな?」


「えっ、本当ですか!」


「冒険者達の噂話だが見かけたというのを耳にしたよ。Aランクはどのパーティにも魔導師がいるから支援魔法の魔導具は求めてなさそうだが、他の物には興味があるはずだ」


「それでしたらもし会員制を導入したら、Aランク冒険者の方も登録してくれると思いますか?」


「私はあのお店の会員というのに興味をそそられるが、半々といったところだろうか。Aランク冒険者の影響は私と比較にならないほど計り知れない。ただの買い物でさえ店に配慮して、事前に訪れることを伝える者達もいるからね。会員となれば宣伝に使われるリスクも考えて、そう気軽に登録はしてくれないだろうね。協会長の私でも気軽に勧めることもできないよ」


「もし登録してもらえたらなぁーと気軽に考えていましたけど、その辺りも皆さんしっかり考えているんですね」


「それが冒険者協会のトップであるAランク冒険者の責任の1つだよ。君達も他人事ではないのだがね……」


「あ、あははは……Aランクになることがあれば注意しておきます」


 これ、暗に早くAランクになってもらえないかな? って圧を感じるんですが……。

 買い物する店すら気を配らなきゃいけないって、Aランク冒険者になるのは窮屈な思いをしそうだな。

 計画が順調に行けば魔石の不労所得も達成できそうだし、やはりAランク昇格はまだまだ見送っておこう!

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― 新着の感想 ―
[一言] あまり言い過ぎると本当に槍が降ってきますよ、ルーナの。
[良い点] シスハの癒やしのアイテムは欲しいな〜。 家に置いとくだけでいつも健康でいられるとか素晴らしい。 相手を弱らせるマルティナのアイテムは、狩人とか猟師なら買ってくれそうだよね。獲物を弱らせた…
2024/02/20 19:02 にゃんこ聖拳
[一言] 弱体ボールは誘拐とか薄い本案件だと大活躍しそうだからそういう事件が起きたら速攻で規制かかりそうですよね…
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