工房への秘策?
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工房を偵察した翌日、また魔導具を納品しようとアーデルベルさんの屋敷を訪れていた。
「あれから何か工房の動きはありましたか?」
「いえ、特に何も起きていませんね。店に怒鳴り込んでくるようなことはありませんでした。我が家にも変わったことはありません」
「これもエステルが守ってくれたおかげだね! ありがとう!」
「ふふ、当然のことをしただけよ。何かあったらすぐに言ってちょうだいね」
アンネリーちゃんのお礼の言葉に、エステルは微笑んで答えている。本当に仲が良いな。
エステルが魔法の結界を張ってから、アーデルベルさんの屋敷で異変は起きていないようだ。
監視用の使い魔などはまだ周囲にいるようだが、それ以上の接触はしてないらしい。
これで一応不安の1つは取り除けてはいるのかな。
「アーデルベルさん、工房に関して少しご相談したいのですが」
「遠慮なさらず仰ってください。工房についてなら私も無関係ではありませんからね」
「ありがとうございます。実は……」
そうして俺は昨日魔導具工房を監視して手に入れた情報から、工房の目的をアーデルベルさんに伝えた。
偵察カメラとはいえ工房内に侵入したことは、印象がよくないだろうから俺達だけの秘密にしておく。
とにかく工房は製作者を探すことと魔導具の再現が主な目的で、魔導具店で騒いだエジラが今回の件を主導していることを教えた。
「なるほど……工房の内情をそこまで把握されているとは、さすが大倉さんですね。工房の情報を得るのはかなり難しいと、商人の間でも言われているぐらいですよ」
「あはは……色々と情報を得る伝手があるんですよ。それで、工房長か副工房長に会って話をできないでしょうか?」
「うーん、それは大変難しいかと思います。魔導具工房は謎が多いですが、工房長の姿を見た人は殆どいないそうですよ。噂ですが副工房長が全て取り仕切っていると言われています」
「それじゃあ実質のトップは副工房長ってことですか?」
「世間の認識はそんな感じですね。これも噂ですが工房長は王国からの要請しか応じず、研究にひたすら没頭しているそうです。王国騎士団の誘いを断って工房を立ち上げたとも言われていますよ」
「よくそれで工房長をやっていられるわね。組織のトップとは思えないわ」
「それだけ魔法の腕前が凄いんだと思います。いくら金銭を積んでも工房長へ魔導具製作は依頼できないと聞きました」
なんか話を聞いただけでも、頑固というか変わり者な感じがするな。
それでも魔導具工房の長を務めているのなら、実力があるのは確かなんだろう。
……研究に没頭して他をないがしろにしているから、エジラみたいな奴が欲を出すんじゃないか?
「なら副工房長に会って話をするのが現実的ってことですか」
「それが副工房長も多忙だそうです、会う約束を取り付けるのも難しいです。各町にある工房の視察など、王都にいないことが多いそうですよ。なので王都の取引などは部長と話し合うことが殆どだと聞きました」
「つまり……エジラって方と話し合うしかないってことですか?」
「そうなりますね。副工房長と話し合う場を設けるにしても、部長などを通してから約束しなければいけません。それも確実ではありませんし、他の商人達との話し合いもあると思うのでどれだけかかるか……」
結局どうするかその場では決まらず、一旦話は保留となり俺とエステルは帰宅した。
ノール達は出かけているようだったので、とりあえず2人で話し合う。
「アーデルベルさんに頼めばすんなりいくかと思ったけど、副工房長に会うことすら大変そうだな」
「そうね。そういうのを織り込み済みでエジラって人も動いているのかも」
「うーん……あっ、そうだ! 他の部長と話を付けるっていうのはどうだ? 部長クラスなら複数人いるんじゃないか? そっち経由で副工房長と話をつけるんだ」
「それもどうかしらね。他の部長だって同じようなことを考えているかもしれないわ。これだけ話題になっているのなら、情報を得ている可能性も高いもの」
確かに他の部長達も機会さえあれば、同様の野心を抱いている懸念はある。
その場合接触すること自体リスクが高いから、エジラ以外の部長に頼んで副工房長と会う手も使えない。
……これ、もう他の手段は詰んでない?
だから盗み聞きをした時エジラはあれだけ自信満々だったのか。
副工房長が王都に戻って来たとしても、すぐに解決できるか怪しい感じもするぞ。
冒険者協会の会長であるクリストフに頼めばワンチャンありそうだけど……それはもう本当の最終手段かな。
「こうなったら覚悟を決めてエジラと直接話を付けるしかないか。ちゃんと話せば工房の裏切者がいないこともわかってくれるだろ」
「そう上手くいくかしらね。何としてでも私達を取り込もうとしてくるかもしれないわよ? 工房の裏切者探しは建前の面が強くて、どちらかといえば魔導具の製作者を支配下に置きたいのが本音だと思うわ。だからエジラって人と話しても解決は難しいんじゃない?」
「だったらどうすればいいんだ? シスハ流で工房にカチコミ行くしか思いつかないぞ」
「シスハならやりかねないわね……。安心して、私はそんな強硬手段を取る気はないわ。代わりにちょっと面白いことを思いついたの」
そう言ってエステルは口元に手を添えて怪しげな笑みを浮かべている。
あっ、これ良からぬことを考えている時の顔をしているぞ。
「支援魔法の原石を作る魔法陣を公開するのはどうかしら。店先で騒がれたから、独自の作りだって主張する口実もあるしね」
「えっ!? そ、そんなことしたら魔導具工房まで真似し始めるだろ!」
「魔法陣を真似たからって同じようには作れないわよ。私の作った量産用魔導具がないと誰でも簡単には作れないもの。私と同じとまでは言わないけれどある程度技量がないとね。魔力の調整とかが難しいわ」
「お、おう……だけどそれにどんな意味があるんだ?」
まあ、工房の部長があんだけ店の前で騒いだんだから、色々と噂が広まっているのも確かだろう。
今のところ売り上げは順調だとしても、今後どうなるかわからないし工房もそれを利用してくるのも否めない。
良い噂ではないから早い内に払拭する必要はある。
だからって原石に支援魔法を込める魔法陣を見せるのはリスクが高過ぎないか?
工場の極秘情報やら、料理屋の秘伝のレシピを公開するのに等しい行為だぞ。
エステルは絶対に真似されない自信があるようだが不安が拭えない。
俺が説明に納得いってないのを察したのか、エステルは説明を加えてきた。
「今あの人達は理論上作れるからって躍起になっているじゃない。でも私が作った魔法陣を見て実際に作ろうとすれば、自分達の知る技術じゃないってハッキリとわかるはずよ。工房は少し大変なことになっちゃうかもね」
「何だか恐ろしいな……でも、それだと結局製作者を探そうとする方針は変わらないんじゃないか?」
「ええ、それだけじゃそのままでしょうね。でもアンネリーのお父さんの話を聞いて思いついたのよ。要するに工房長に興味を持たせればいいのよね? それを利用しようと思っているの。問題があるとすれば……工房長が予想よりも実力がない場合だわ。その時はまた別の方法を考えましょう」
そう言ってエステルは自信気にウィンクをしてきた。
魔導具製作の魔法陣を公開して工房長の興味を誘う?
実際にそれが出来れば一気に解決に進みそうだが……一体何をする気なんだろうか。
「攻撃用原石を公開できたら色々とすぐにわかってくれそうなのだけれど残念ね」
「それは大騒ぎどころじゃ済まないから勘弁してくれ」




