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潜入、魔導具工房

 魔導具工房の監視をしようと提案が出てから数日後。

 俺達はさっそく魔導具工房を監視するべく、王都にある拠点から偵察カメラを発進させた。

 偵察カメラと液晶モニターを繋ぎ全員で画面を眺めている。

 魔導具工房は工業地区の中にあって、3階建ての建物と1つの建屋があるそこそこの大きさだ。


「ここが魔導具工房のハウスってやつか。思っていたよりも規模が小さいな」


「本格的な生産拠点はクェレスの方にあるんじゃない? 素材とか用意するのにあそこの方が都合がよさそうだもの」


「王都にあるのは本社的な感じですかね。ここで経営の指揮をしているんじゃないでしょうか」


 ここで作っている魔導具は高価な少数品とかで、大量生産する物は別の場所で作ってるのかな。

 この前ルゲン渓谷に来た魔導師達はそこから派遣されたっぽいぞ。

 俺達が偵察カメラから工房の観察をしている中、フリージア達ははしゃいでいた。


「ミニサレナちゃん操作上手なんだよ! 私もそんな風に飛ばしたい!」


『ヤァー!』


「クックックッ、敵地への潜入は心が躍るね! ……画面越しから見てるのは何か違う気がするけど」


「楽でいい。直接など行きたくない」


「でも直接じゃないとはいえ、こう忍び込んでいるとちょっと悪いことしている気がしてくるでありますね」


 今回はフリージアじゃなくてミニサレナが偵察カメラの担当。

 操作しているとは言っても俺達みたいにスマホを通じての操作じゃなくて、直接連動して操縦しているようだ。

 なので動きも遥かに俊敏でバレルロールしたり画面酔いしそうな動きで吐きそう。


 上空からある程度確認したところでいよいよ工房内に潜入……と思いきや、敷地を覆う様に透明な光る壁が張り巡らされていた。


「ん? なんか透明な壁のような物があるぞ」


「どうやら結界があるみたい。無理に入ろうとすると感知されそうだわ。物理的にも許可なくは入れそうにないわね」


「自分達も使い魔で監視をしていましたから、外部からの侵入などを防ぐ対策はしているようですね」


「どうするのでありますか? このままだと偵察カメラが入れないのでありますよ」


 そりゃ自分達もやってるんだから、同じことやられた時の対策はしてあるか。

 これじゃ中に入れないなと思ったのだが、ミニサレナが何やら主張し始めた。


『ヤァー! ヤァヤァ!』


「ミニサレナちゃんが任せろって言ってるんだよー」


「どうにかできるってことか?」


『ヤァ!』


 ミニサレナはえっへんと腰に手を当てて胸を張っている。

 何をするのかと思えばミニサレナの目が光り出して何かを始めた。

 そして偵察カメラの画面を見ていると、何事もなかったかのように透明な壁を通り抜ける。


「おお、普通に結界を突破したぞ」


「解析して結界を中和させたのかしら。これなら感知もされないし自由に中で動けそうね」


「ミニサレナちゃん凄いんだよ!」


『ヤァー!』


 魔導具との連動も凄いけど、結界まであっさり無効化するのは凄まじい。

 本体じゃないのにこれなんて流石は機械神の支援機だな。

 さて、無事に中へ入れたのはいいがどこから見て行こうか。


「内情を知るなら工場っぽい方じゃなくて、会議室とかありそうな方を見た方がいいよな?」


「今回の件に関わっていそうな騒いでいた人を探すのがいいんじゃないかな。研究室を見るのもいいと思うよ!」


「それあなたが見たいだけですよね? ですが会議室や研究室を探すのは悪くなさそうです。私達に対しての対策の会議や、販売していた魔導具を解析しているかもしれませんからね」


「探すのも面倒なものだ。見てるだけなのは楽でいい」


 やっぱり工場っぽい建屋を探すよりも、会議室とかありそうな3階建ての建物を探した方が発見がありそうだ。

 会議を聞ける可能性があるし、何より開店日に騒いでいたエジラって人もそっちにいそうだからな。

 話し合いの末に3階建ての建物に入り慎重に中を探索していく。

 従業員である魔導師達と何度も遭遇したが、ミニサレナの操縦で上手く躱している。

 偵察カメラは虫ぐらいのサイズなのもあるが、地味に認識阻害の機能も備えているらしい。

 ……それなのにシスハは気づきやがったのはなんでなんだ?


 複数の部屋を探していると男女が入り交じった沢山の人が集まっている研究室を発見。

 机の上には俺達が販売している原石魔導具が置かれている。

 おっ、これはビンゴっぽいぞ。話を盗み聞きしよう。


『やはり理解できないな。どうやってラピスの原石にこんな魔法を封じ込めているんだ?』


『理論は以前工房で研究した物と類似していますが、再現は難しいですね。魔元石か最上級のラピスの原石ならできなくもありませんが……』


『馬鹿なことを言うでない。この程度の消耗品にそんな物を使っていたら売り物にならん。大量に採取可能なラピスの屑石だから商品として成り立っている』


『こんな小さな原石に魔法を施そうとしても普通なら途中で砕け散る。原石が耐えられるギリギリのところで魔法を封じ込めているんだ』


『そんなことはわかっている。だがそれをやる技術が異常だ。数個作るだけなら工房の総力を上げれば不可能ではないはずだが、これをあれ程大量に作るとは……一体どんな組織がやっているんだ?』


『支援魔法が込められた魔導具だけでも理解の範疇を超えています。工房の研究と似ていると言ってもこれでは全く別物です。他の魔導具に関してはもうお手上げですね。解析するだけでも連日徹夜続き……だが興味深いです』


「なんかめっちゃ議論しているぞ。エステルが作った魔導具はやっぱ普通の魔導師からしたら異常なんだな」


「あれだけでそこまで騒がれる物でもないのだけれど……。でも魔法を込めるのにちょっとだけ苦労したわね。限界を見るのにいくつか原石を砕いちゃったもの」


「研究者さん達の様子を見ると苦戦しているのが見て取れますね」


 どの従業員も目の下に濃い隈を浮かべて今にも倒れそうな顔をしている。

 一体どれだけ過酷な研究を強いられているのだろうか……。

 だけど全員熱心に話し合いをしていて、絶対に解析し尽くしてやろうという熱意は感じるぞ。

 それからしばらくあれやこれやと議論を聞いていたが、1人の男性従業員が紙の束を手に取って立ち上がった。


『はぁ……仕方ない、とりあえず現状の報告をエジラ様にしに行くか』


「おっ、どうやら魔法店で騒いでいた人のところに行くみたいだな。ミニサレナ、あの人を追ってくれ」


『ヤァ!』


 エジラに報告しに行くと言った従業員の後を追い、研究室の近くにあった部屋へ向かう。

 ノックをしてから入って行く従業員と一緒に中へ入ると、厳つい顔のおじいさんであるエジラがいた。

 資料を受け取ってさっと目を通すと、眉間にしわを寄せて不満そうな顔をしている。


『ふむ……数日前からまるで進展してないようだが? 再現しろと言ったはずだ』


『それは……我々の技術力ではあの魔導具を再現するのは難しいです』


『難しいではない、やるのだ。我ら魔導具工房が一介の商店如きに後れを取るなどあってはならない』


『さ、最上級のラピスの原石を用意して貰えれば今すぐにでも成果を……』


『それでは意味がない! 屑石で再現しろ!』


 エジラに怒鳴られて男性従業員は肩を狭めて萎縮している。

 店先だけじゃなく工房内でも同じような感じなんだな。

 やっぱりあれは演技じゃなくて素だろ。

 怒鳴っていたエジラは椅子に座って背もたれに寄りかかると、ため息交じりにまた小難しい顔をしていた。


『しかし実際これを再現するのは難しい。最上級の原石を使ったとしても、恐らく込められる支援魔法はあの店で売られている低品質と同程度だろう。どう作っているのか見当もできん。やはり製作者を見つける方が早いか』


『ですが名乗り出てくるでしょうか? 未だに動きはないようですが……それに情報もロクに上がってきません。アーデルベル邸に魔導師らしき者が出入りする様子はありません。ルゲン渓谷でも狩りを行った形跡がないそうですよ』


『店先でことを荒立てれば何かしら動きを見せると思ったが慎重な者達のようだな。だが商品である魔導具がアーデルベル邸から運ばれていることは確認できた。あの屋敷の地下に大規模な工房があるのも想定しておけ。我々の使い魔が入れない程の強力な結界まで張られている。あの屋敷に魔導師が滞在していると見てほぼ間違いはないだろう』


『一体どれほどの組織が関わっているのでしょうか……。当初の予想よりも大きな勢力に思えます』


『調べたところアーデルベルという者は物流を仕切っているただの商人だ。あの者達にあれほどの魔導具を作る力はない。外部の勢力と手を組んでいる線が濃厚だろう。これほどの規模で動いている相手だ、調べていく内に絶対にボロを出す。それに少なからず工房の関係者も関わっているはずだ。そうでなければ我々に察知されずにここまでのことはできん』


「なんか勝手な想像で俺達のこと大組織だと勘違いしてないか?」


「んー、それは仕方がないんじゃないですかね。まさか数人であんな魔導具を大量生産してるなんて思いませんよ。主にエステルさんのおかげですけど」


「あら、シスハの癒しの石も大概じゃない? あれだって教会に目を付けられてもおかしくないわよ」


「教会はそこまで気にしていないようです。一応傷も治りますけど即効性は薄いので、神官に求められる能力と若干違いますので。日常で使えたらちょっと嬉しい程度の物ですよ」


「ふーん、なんか私のだけ問題にされるのは腑に落ちないわね。まさか支援魔法でこんな大騒ぎされるとは思わなかったわ」


「僕の作った物は全然話題にされてない……。うぅ……僕なんて、僕なんて……」


 エステルとシスハが言い合いをしている中、マルティナは1人部屋の隅でいじけていた。

 魔導具工房が出てきたからエステルの魔導具が騒ぎになったけど、シスハやマルティナのだって十分凄いんだけどな。

 一応シスハは教会とできるだけ競合しないようにしていたのと、マルティナは競合相手自体がいないのが大きな要因だろう。

 エステル達が言い合っている間もエジラ達の話は続いていた。


『それにしても製作者は何者なのでしょうか?』


『只者ではないだろうな。工房の裏切者が協力していたとしても、中核を担っている魔導師は工房長を超えているやもしれん』


『そ、それは流石に言い過ぎなのでは……』


『あの魔導具はそれほどの物ということだ。製作者を見つけて我らの勢力に引き込めば工房は更に発展できる。もし協力せずに我らを脅かすようなら勢力を拡大する前に排除する。工房の裏切者を見つけ出すのも必要だ。外部から来た侵略的な勢力の線も捨てきれん。何にせよその功績があれば私の昇進も確実だ』


『ですが我々だけで勝手に動いて大丈夫なのでしょうか? 工房長にも報告を入れた方が……』


『ふん、工房長はこの手のことに興味を示さん。それに副工房長もクェレスへ視察中だ。帰ってくる前に何かしらの成果を出せばその後も流れを私が主導できる。何としても今回の件で手柄を残すんだ。……ふむ、そろそろ会議の時間だ。魔導具の再現を何としてもやり遂げろ』


『は、はい!』


 エジラと従業員が部屋から出ていくのと一緒に偵察カメラも外に出た。


「うーん、都合よく聞きたい情報を聞けたけど、何とも言えない感じだな」


「あの程度で工房長を超えるかもって、魔導具工房も大したことなさそうね」


「魔導具工房全体として動いている訳じゃなさそうですね。エジラという方が独断で動いているようですよ」


「副工房長って人が帰ってくる前に僕達の正体を明かそうと躍起になっているようだね。派閥争い的なものかな」


「何だか複雑そうな雰囲気でありますねぇ。私はこういうこと苦手なのでありますよ」


「ノールちゃんと同じくなんだよー」


「ふん、要するにただの私欲だ。そんなのに巻き込まれても面倒だ」


 単純に工房の敵になりそうだから接触してきた訳じゃなくて、自分の地位を上げるためにエジラはあんなことしてきたのか。

 工房長はよくわからなそうな人物みたいだが、副工房長の動きも気にしているようだ。

 クェレスに出張中で監視の目がないから、これ幸いと動いている感じか。

 しかも魔導具を作った人物を取り込むことまで画策してやがる。

 これで目的はある程度わかってきたけど、解決するにはどうしたらいいんだ。

恐らく今年最後の更新になります。

今年もこの作品をお読みくださりありがとうございました!

よいお年をお迎えください。

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― 新着の感想 ―
[一言] >『理論は以前工房で研究した物と類似していますが、再現は難しいですね。石か最上級のラピスの原石ならできなくもありませんが……』 「石か最上級のラピスの原石」の部分ですが最初の石は「宝石」か…
[一言] ついにカロンちゃんがCOMICに登場するんですね……早くCOMICが打ち切られないことを祈ります……。
[一言] エステルとシシュアは何歳ですか?
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