工房への対策
ルゲン渓谷で遭遇した魔導具工房の魔導師達は、あれからしばらく探索をしてから空の向こうへと消えて行った。
それを俺とフリージアは隠れて見送り、今日の狩りは切り上げて帰宅。
さっそくノール、エステル、シスハを招集して聞いた話を彼女達にも伝えると、軽く驚く程度の反応をしている。
ちなみにフリージアは難しい話はいいやと、マルティナのいる図書館に行ったから落ち着いて話ができるぞ。
「ふーん、予想はしていたけれどついに狩場までやってきたのね。随分と今回の件に執着しているじゃない」
「自分達の食い扶持を脅かされているようなものですからね。警戒するのも当たり前のことですよ」
「でも私達はそこまでやるつもりないでありますよね。だから競合しないように品物も選んだでありますよね?」
「私達はそう考えていますが、相手からしたらどんな思惑があるかわかりませんからね。最初は珍しい品物で客を引き寄せて、次第に同じような物も出して客を奪ってくるかもしれません。魔導具を売るとなった時点で争いは避けられませんよ」
「むむむ、世の中難しいでありますね。争いは止めましょうでありますよ」
俺達は冒険者稼業のついでの魔石稼ぎの手段として魔導具店を計画したから、他の店から客を持っていこうなんて考えてなかった。
その点も考慮したからこそ既存の店にない新しい魔導具を販売したのだが、それで客を集めて他の店にもあるような魔導具を売ろうって魂胆があるんじゃないかと思われるのか。
俺はそこまで深い考えをしていなかったのだが……やだ、商売って怖い。
多少の争いは想定していたがよもやこれ程とは思わなかったぞ。
「ここまで色々とやられると、今後を考えたら素直に名乗り出た方が楽そうだが……やっぱ後が怖いよなぁ」
「そうね。ただでさえ国から目をつけられそうなのに、魔導具工房との話まで出てきたらどうなるかわからないわ」
「各地の異変も解決していて、魔人とも戦っており、それなのにBランクに留まったまま革新的な魔導具まで販売し始めた冒険者パーティですか。話を聞いただけでも怪しさ満載です」
「そう聞くと私達って結構派手に活動しているのでありますね。大倉殿がコソコソしているおかげであまり知られてないでありますけど」
「ははは、今までやってきたことを他人に知られても面倒が増えるだけだからな。ただでさえ冒険者関連だけでも依頼とかで時間を取られてるしさ。俺はただガチャを回したかっただけなのに……」
「謎に切実ね。でも冒険を通してガチャ関連の物を色々と手に入れられたもの。どうせ魔物を倒すんだから、冒険者になっておいたのは正解だわ。狩場の情報とかも手に入るしね」
冒険者になったのは魔石を得るのと金稼ぎが両立できて都合がよかっただけだし、別に有名になろうって気は微塵もない。
嬉しい誤算として冒険者として活動していく中で、ガチャに関連したアイテムの貰えるイベントがあったのも幸いした。
だが、これ以上有名になって面倒ごとが増えるのはナンセンスだ。
これからはガチャを積極的に回して行こうと決めたから、できるだけ余計なことに時間は割きたくないぞ。
どうにかして魔導具工房との騒ぎを穏便に済ませられないだろうかと唸っていると、シスハがパンと手を叩いて話をまとめ始めた。
「なんにせよ、現状は素直に名乗り出るって選択はできませんね。そもそも工房の目的がまだ不明瞭ですから下手に動けませんよ」
「えっ、それは騒いでた通り工房関係者が裏切ってるんじゃないかって話だろ?」
「甘い、甘いですよ大倉さん。ただそれだけが理由とは限りません」
「どういうことでありますか?」
「工房内に内通者がいる可能性も考えていると思いますけど、他にも探ろうとしている理由があるはずです。大倉さんが聞いた工房関係者の話だと、あちらは大規模な組織が関わっているのを想定していると思います。なのでまずは何でもいいので接触を試みているのかもしれません」
うーん、確かにルゲン渓谷で魔導具工房の魔導師から盗み聞いた話だと、工房のノウハウや伝手を利用してるとか予想されていたな。
エステルの支援魔導具はあまりにも売り上げが好調で、1日で数十個単位で売れるのもざらだ。
そんな数を作るとなったら普通は大人数が必要だろうし、組織ぐるみでやってると考えるのが妥当だろう。
それを踏まえると魔導具の値段が安いと言ってたのも頷けるか。
強化の効果が6時間の低品質で1万Gはするのだが、人件費と材料費と運送費を含めたら驚きの安さになりそうだ。
魔導具の生産、ラピスを狩る人、魔導都市クェレスより遥か先にあるルゲン渓谷から材料の運搬……うん、よくよく考えたらこんなの普通ならやろうと思わないな。
ここまでやってそれを1万Gで売るとか、他に狙いがあると疑われてもおかしくない。
実際魔導具販売に関してはアーデルベルさんに損をさせない程度の売り上げで十分で、本当の狙いはその後にやろうとしている会員制販売でガチャ装備の普及なんだけどさ。
考えが逸れたけどシスハの言う、まず接触しようというのもあながち間違いじゃなさそうだ。
でもそれにしたって開店初日のあれはどうかと思うぞ。
「だからってあんな店先で大騒ぎするのは悪手じゃないか? あんなの相手に悪印象しか抱かせないだろ」
「ですが厄介そうだとは大倉さんも感じましたよね。だからこそ、先ほど素直に名乗り出た方がいいと考えたんじゃありませんか?」
「あっ……それは、そうだな」
「それに騒いだのも演技の可能性も考えられます。上からの命令でやらされていたのもあり得ますからね。もしこれで私達が話し合いに応じたら、その方が恐喝する役割をして、工房の上司などが仲裁役として出てくるかもしれませんよ」
「つまりヘイト役ってところかしら。そうすれば私達は仲裁してくれた上司さんに好印象を抱きそうだものね。その手を使われたらお兄さんならすぐ騙されちゃいそうだわ」
「そ、そんなことないぞ! この平八は嘘を嘘と見抜ける男だぞ!」
「全く信じられないでありますねぇ。それにしてもよくそんなことシスハは思いつくでありますね」
「うふふ、私の所属していた教会じゃ日常茶飯事でしたからね。これぐらい見抜けないと生き残れませんでしたよ」
シスハは口元に手を当てて何か含みのある笑みを浮かべている。
こんなことが日常茶飯事の教会とかどうなってやがるんだよ……俺なら初日で脱落しちゃうね。
「だがそうなると一体どうしたらいいんだ? このまま黙っていて、どんどん妨害や監視がエスカレートしていっても困るぞ」
「想定していたよりも工房の反応が過剰だものね。何かしら落としどころを考えて話し合いをするのは避けられそうにないわ」
「難しい話になってきたのでありますなぁ。こういうの私は苦手なのでありますよ。魔導具工房の偉い人と直接話して終わりにできたらいいのでありますのに……」
「その発想は悪くないかもしれませんよ」
驚くことにノールの希望的観測の発言をシスハが肯定した。
どういうことかと声を上げようとしたが、その前に彼女は指を立てながら説明を始める。
「まず1番接触を避けたかった理由は、私達が魔導具を作ってると世間にバレたくないからですよね。なので工房の目的さえわかれば、内密に今回の件を処理できる可能性はあります」
「まあ、俺達の話が国に伝わらなければ問題ないのは確かだな。だけどそう簡単に上手くいくのか?」
「難しいですが無理でもないはずです。まず誰が今回の騒ぎを主導しているのか、目的が何なのかを調べないといけません。接触する相手は少なければ少ないほどいいので、闇雲に動き回るのも駄目ですね」
「じゃあどうするのでありますか?」
「まずは目的を明らかにしましょう。魔導具工房のことをこっちも探るのです」
なるほど、よくわからん。
誰が主導しているのか、目的が何なのか調べるのは理解できる。
だけどそれが簡単にわかるようなら苦労しないぞ。
一体何を考えてやがるんだと思いきや、エステルはシスハの考えを見抜いたようだ。
「アンネリー達が監視されたように、こっちも監視しようってことかしら」
「その通りです! 監視をするなら監視をされる覚悟も持たなければいけません。やられたのですからこっちもやり返してやりましょう!」
「そうは言ってもどうやって……はっ、まさか偵察カメラを使う気か?」
「ええ、大倉さんのあの助平八監視カメラでしたら工房を監視するぐらい訳ありませんよね」
「おい! だからこの前のはフリージアが勝手にやっただけで!」
「うふふ、冗談ですよ。やってないのはわかっております。本当にやっていたら泣いたり笑ったりできなくしていましたよ」
「そんなに見たいのなら私に言ってくれればいいのに……お兄さんは恥ずかしがり屋さんね」
「お2人共こういう時でもぶれないでありますなぁ」
シスハはバキバキと拳を鳴らし、エステルは頬に手を添えて恥じらう表情で俺を見てきた。
勝手に俺を覗き魔扱いしないでもらおうか! 何が助平八監視カメラだよ! そんな不名誉な名称付けるんじゃねぇ!
「深淵を覗く時、深淵もまたこっちを見ているのだ!」
「うおっ!? きゅ、急に出てくるんじゃあない!」
「クックックッ、決め台詞を言う機会を僕は逃さないのさ! ではさらば!」
いつの間にか会話に紛れ込んでいたマルティナ、笑い声を上げながら影へと消えて行った。
「何しに来やがったんだあいつ……」
「あれを言うためだけに居間へ来たのでありますか……」
「さすがマルティナね」
「全く、あんなこと言いに来るなら話し合いに参加してもらいたいものですね」
マルティナのせいで完全に話の流れが途切れたけど、偵察カメラで魔導具工房を探るって発想は悪くないか。
上手くあっちの目的が何なのか探れるかわからないが、やってみる価値はありそうだ。




