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迫る工房

 アーデルベルさんの屋敷に商品を納品しに行ってから日も経ち、あれから特に問題もなく日々を過ごしていた。

 相変わらず魔導具の売り上げは順調のようで着々と俺の計画も進行中だ。

 変わったことと言えば、魔導具工房がアーデルベルさんの屋敷を監視していたのを踏まえて、エステルとシスハが彼らに対策用の魔導具を作ったぐらいだろうか。

 一定の魔法による干渉を弾く魔導具に、状態異常に対する抵抗を強くする魔導具の2つを渡しておいた。

 ガチャ産程の効果はないにしろ、よっぽどのことが起きなければ十分なはずだ。

 幸い魔導具工房が監視以上のことをしてくる素振りもないので一安心している。


 そんな矢先の出来事だ。

 今日もフリージアとルゲン渓谷で自動車狩りをしていると、映画を見ていたフリージアが突然声を上げた。


「平八、なんか飛んできてるみたいなんだよー」


「えっ? ……あっ、本当だな。でも反応が敵じゃないぞ」


 地図アプリを見てみると空から高速で飛来する1体の巨大な生物がいた。

 紫色の表示をされていて形を確認すると、翼がある巨大な魔物のようだ。

 慌てて車を停止させてフリージアにも射撃を止めさせて動向を見守る。

 幸い常に光学迷彩などを展開していたから、マジックタレットを使わなければバレる心配もない。

 いくら魔導自動車にステルス機能があるとはいえ、攻撃音までは完全に消せないからな。


 停車しながら外の様子が見えるように車の装甲を透過させると、丁度真上を巨大な飛行生物が通り過ぎていく。

 魔導自動車よりも大きな灰色の生物で、2本足で大きな翼を有して長い尻尾もある。

 爬虫類のような厳つい顔をしていて火でも吐きそうな見た目だ。

 あれってワイバーンって奴じゃないか?

 通り過ぎ様にステータスアプリを向けて確認してみた。


 ――――――

●種族:レッサーワイバーン(従属)

 レベル:40

 HP:1万

 MP:0

 攻撃力:500

 防御力:500

 敏捷:180

 魔法耐性:20

 固有能力 なし

 スキル なし

――――――


「わー! 空飛ぶ魔物なんだよ! カッコいいね!」


「おいおい、あれワイバーンだぞ。こんなところになんであんなのが飛んでくるんだ」


「あれ、背中に誰か乗ってるよ? いいなぁいいなぁ、私も乗ってみたい!」


 上空を旋回するワイバーンを見ると、確かに背中に2人も人が乗っているようだ。

 1人は手綱を掴んで操作しているようで、もう1人は周囲を見渡して何かをしている。

 あいつらが従えているから従属って表示されているのか。

 魔物を操るとかまさか魔人じゃないよな……。


 突然現れた謎の人物達は岩山の上空を飛び回りながら、地上を見下ろして何かを探しているようだ。

 俺達は停車しつつも、ガチャアイテムである偵察カメラは取り出して車外に出した。

 これは魔導自動車の車載モニターとも連動できるから、車の中で操作をしながら遠くの様子も観察できる。

 フリージアに操縦させて監視していると、ワイバーンは段々高度を下げて翼を羽ばたかせながら地面に着陸した。


 背中に乗っていた2人も降りて来て何やら話していたから、すぐに監視カメラを近寄らせて会話を盗み聞きする。

 虫よりも小さなサイズだから気づかれることもないだろう。

 男女の2人組で両者共にローブを羽織っており、見た目は魔導師のようだ。

 ワイバーンを操っていた男はため息交じりに呟いている。


『はぁ、こんなところに来ている奴らが本当にいるのか? 例の魔導具が売られているのは王都なんだろ? ここで素材を採って持っていくとは正気じゃない』


『どうですかね。上に言われたからには確認しに来ない訳にもいきませんよ。常に狩りをしている者がいるに違いないと、あんな躍起になって言われていましたからね』


『上は本当に人使いの荒い方達だ。研究する時間が勿体ないというのに……研究費を増やしてもらわないと割に合わないぞ』


『何か見つけたら申請できるかもしれませんね。報告は絶対にしないといけないので真面目に調査をしましょう。適当にやってバレたら後が怖いですよ』


 女性はやれやれと首を振って気だるそうにしている。

 例の魔導具か……話からして魔導具工房の関係者っぽいな。

 ここに来たってことは、もう素材がラピスの原石だって調べ上げてきたのか。

 魔導具工房ってワイバーンに騎乗できる奴までいるのかよ。


「何か探してるね。あの人達もラピスを狩りに来たのかな」


「いや、俺達を探してるみたいだぞ」


「えっ!? 私達を!? なんでなんだよ!」


「魔導具販売を手伝ってる協力者でも探しに来たんだろ。素材が判ればどこで採ってるかぐらいわかるからな」


「じゃあ敵なんだね! 捕まえるんだよ!」


「馬鹿言うな! 商売敵ってだけだ! 絶対に手を出すなよ!」


 危害なんて加えたらどうなるかわかったもんじゃない。

 慌ててフリージアを制止しつつ、更に会話を聞くことにした。


『それにしても妙だ。どこにも人がいるような形跡がないぞ。本当に素材がラピスで合ってるのか?』


『エジラ様が仰っていたのだから間違いありません。でも大々的な拠点を作って狩りをしているに違いないと話されていましたが、全く形跡がありませんね。ラピスを探した跡すらないです』


『聞いた話のように大量に作ってるなら、何かしら探索した形跡があるよな。ラピスを確実に判別する方法でも見つけたんじゃないか』


『まさか、そんなことができる者がいるとは思えません。我らですら確立できていないんですから』


「探索した痕跡って何かな?」


「うーん、多分普通に狩りをする場合はその辺の石を攻撃しながら歩き回るからじゃないか。お前がいなければ俺達も擬態したラピスの判別なんて出来ないからな。それに乱獲するのなら手当たり次第に石を攻撃するしかないだろ」


「凄く大変そうなんだよー。あんなにわかりやすいのにね」


 こいつは欠伸交じりに一瞬でラピスを見破るからな。

 誤射なんて1回もしないし車から降りもしないから、探索した跡なんて一切残らない。

 魔導自動車もタイヤ痕が残るといけないので、こういう日がいつか来ると思いホバーモードも追加しておいた。

 魔法的な力で地面から少し浮かぶから、走った跡を残したくないなら最適な機能だ。

 問題があるとしたら通常のタイヤ走行に比べて滑り気味だから、操作をミスるとクルクルその場で回転しそうになる。


『やはりここでラピス狩りをしていないんじゃないか? 王都で売ってる魔導具は使い捨てだが、性能を考えたらあり得ない安さって話じゃないか。そのための素材をこんな僻地で採るなんて採算が合う訳がない。ワイバーンを使ったとしても到底無理だ』


『それに今回の件は奇妙な点ばかりです。商人は別としても、魔導師がわざわざ工房に喧嘩を売るような真似をしますか? 利益を独占できたとしてもデメリットの方が大きい。安い魔導具を大量に売る手法も魔導師としては効率的じゃない』


『やってる奴の目的が見えてこない……。こんなことに巻き込まれていい迷惑だ。工房の関係者が関わってるって噂だが本当なのか?』


『上はそう判断していますよ。工房の作る魔導具は大陸随一ですからね。例の魔導具は我らの作る物と遜色ない出来なそうなので、関係者が作っている線が高いはずです。量産するのにも人員が必要なはずですから、隠れて工房のノウハウや伝手を利用しているに違いない。それに性能もあの研究と類似しています』


『ああ、あれか。だが実際にその魔導具を見てない俺達にはよくわからない話だな。今度王都に行って確認してみるか』


『そんな暇があればいいですがね。無駄話はここまでにして調査を進めましょう』


 休憩がてらの会話だったのか、地上を少し見て回ってから彼らはワイバーンに乗ってまた飛び立っていった。


「むー、何だか難しい話をしていたんだよー。平八はわかったの?」


「それなりにはな。魔導具を作るのに俺達の右に出る者はいないって感じだ」


「あの人達そんなに凄いんだね。エステルちゃんとどっちが凄いの?」


「そりゃエステルだろうけど、あっちは組織的にやってるからなぁ」


 どうやら魔導具工房の方でも色々と揉めている気配があるな。

 話からすると魔導具工房もエステル並の魔導具は作れたのか?

 それなら既に同じような物が売っててもよさそうだが、あの人達は実物を見てないからと曖昧な感じだったので何とも言えないか。

 性能もあの研究と類似しているとか言っていたのも気になる。

 魔導具工房がここまで執着するのにも何か理由がありそうだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 多分同じ物なんか作れないんじゃ無いかな? 驕り高ぶってるだけで俺達はまだ本気を出して無いって奴では? 研究中とは理想を夢想してるだけで……
[一言] まぁ状況的には手広くやってる寡占の大企業に対していきなり高性能な独自ブランドが飛び出てきたみたいなもんだからな…… そらまぁ企業スパイや横流しも疑うよねって でも全く的外れなんだなこれが
[一言] 魔道具工房の方々、残念だったね。 平八たちのと同じようなものを作れるにしても、あなた方は最新の技術で人手をかけなきゃ作れないもの。 エステルさんたちは能力を大幅にデチューンして、量産も朝飯前…
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