商品宣伝
しばらくは魔石集めに集中するため、冒険者としての活動は控えているが一応数日置きに冒険者協会を訪れている。
今日もエステルと一緒に魔石集めのついでの魔物の討伐報酬を受け取りに行ったのだが、協会長から話があると言われて部屋に案内された。
「忙しい中来てもらってすまないね」
「いえ、最近は王都内周辺で活動しているので大丈夫ですよ」
「なるほど、どうりで最近は君達にしては活動が大人しいようだ」
「それで急に呼び出して何かあったのかしら? もしかしてまた何か依頼があるの?」
「いや特に依頼がある訳じゃない。君達はよく騒ぎの中心にいるから何かあったか聞きたかっただけさ。果実の採取から変わりはないかね?」
「そ、そうですね。冒険に出てばかりでしたから特には」
「そうね。いつもの場所で狩りをしながら過ごしていただけよ」
「……そうか。君達ならまたひと騒動起こしていそうだったのだがね」
そう言ってクリストフさんはジーっと俺達を疑わしそうに見つめている。
本当はまた何かやってたんじゃないか? と言いたそうな雰囲気だなぁ。
まあ、実際は地下都市に行ってドワーフに会ってきたけど、厄介ごとになりそうだから報告してないんだけどさ。
隠し事をしているようでちょっと居心地の悪さを感じていたが、クリストフさんの方から次の話を振ってきた。
「君達がこの前採ってきた果実だが、王家のパーティーでとても好評だったそうだよ。伯爵も王からの覚えが良くなったと喜んでいた」
「そういえばあの果物は王家の献上品って話でしたね」
「あれだけの物を渡せば王様でも喜ぶでしょうね。献上品にするって知らなかったとはいえ、喜んでもらえたのならよかったわ」
いやぁ、まさか俺達の採ってきた果実が王への贈り物になるとは驚いたな。
これでもし不評を買って何かあったらと思うと……ゾクリと背筋が凍りそうだぜ。
けど無事に好評だったみたいだから安心したぞ。
と思いきや、クリストフさんが不穏なことを口にし出した。
「ただ少しだけ気になることも聞いてしまったね。どうやら他の貴族達もあの果実に興味を示し、王も入手先が気になったご様子で一体何者が採取してきたのか聞かれたそうだ」
「えっ……そ、それでどのように答えたんですか?」
「冒険者協会の協会長を通して特別に依頼したから、どの冒険者に頼んだのかはわからないと答えたようだ。おかげさまで貴族達から山ほど連絡があって困っているよ。君達のことは一切話していないから安心してくれ」
「ありがとうございます。私達のせいでご迷惑をおかけして」
「いやいや、所属する冒険者を守るのも私達の義務だ。君達が望まない限りは貴族に聞かれようとも教えるつもりはないよ」
「ふふ、頼もしい協会長さんだわ。王様から言われてもそう答えられるかしら?」
「……これは手厳しいね。正直なところ王から要請されたら黙秘は難しい。だが、悪事を働いた訳でもないのに追求するような真似はしないはずだ。王にも相応の立場がある。せいぜい伯爵を通じて私に依頼が来る程度だろう」
おいおい、ついに王様にまで興味を持たれちまったのか?
だけどクリストフさんもこう言ってくれてるし、王様が直接俺達を探すようなことはしなそうだな。
と一安心していたのだが、続く話はまた不安を煽るものだった。
「まあ、他の貴族達は色々と探りを入れているようだが。しかしAランク冒険者に絞って探しているようだから、君達まで辿り着く可能性はそう高くないと思っている。アルグド山脈まで行き新鮮なまま実を持ち帰れるのは、Aランク冒険者としか考えられないからね」
「確かにあの場所に行って活動するのは、普通のBランク冒険者じゃ厳しいかも。でもバレる可能性はない訳じゃないから、私達も注意しなきゃね」
うーむ、安心したような不安なような……俺達がBランクのままなのがいい隠れ蓑になっているのか。
貴族に見つかったら色々と面倒ごとも増えそうだし、またAランクに昇格する理由が遠退いちまったぜ。
それからまた他の雑談などをしていたのだが、せっかくの機会だったので俺はクリストフさんに商品販売の話をすることにした。
「話は変わりますけど、今度作った魔導具とかを売り出そうかと思っているんですよ」
「ほー、商売にも手を出すとは流石だね。魔導具となるとお嬢さんがやはり作ったのかな?」
「ええ、私だけじゃなくて皆で色々と作ってるの。冒険者向けの商品ばかりだから、協会にも全く無関係な話じゃないと思うわ」
「戦闘だけじゃなく魔導具まで作れるとは驚いたよ。冒険者は魔導師の作る魔導具にとても助けられているからね。殆どのパーティーに魔導師がいないから、火や水を生成する魔導具は重宝されている。君達がどんな物を作ったか興味深い」
おっ、どうやらクリストフも興味を示しているようだな。
協会長の彼に興味を持ってもらえたら、冒険者達にも良い宣伝になるだろう。
この案は元々アーデルベルさんと話していて、機会があったら話していいか許可も貰っている。
協会長なら事前に話を漏らしたりもしないだろうから、アピールする相手としては上客だ。
とりあえず今回の商品販売で1番主力になりそうである、エステルの作った支援魔法の魔導具を見せることにした。
「目玉商品として売り出そうと思っているのはこれです」
「これは……原石かな? 原石を魔導具にするとは珍しい。一体どんな物なのかね?」
「私の支援魔法を封じ込めた物よ。これを使えば私の身体強化の支援魔法を付与できるわ。使い捨てだけどね」
「……は? な、何だって!? 支援魔法を受けられるだと!?」
「支援魔法を付与する魔導具はこの辺じゃ見かけてないので珍しいですよね?」
「珍しいなんて物じゃない! 身体強化をする魔導具自体は存在するが、それをこんな小さな原石に封じ込めるなんて聞いたこともない! 一体なんて物を作ったんだ!」
椅子に座っていたクリストフさんが思わずと言った様子で立ち上がり声を荒らげている。
いつも冷静な彼がここまで取り乱しているのは珍しいな。
協会長ですらこんなになるってことは、支援魔法を使える魔導具はそれほど凄まじい物のようだ。
アーデルベルさんよりも驚いている感じがするのは、冒険者をよく知る立場だからか?
やはり実際の顧客である冒険者をよく知る協会長に話をしたのは正解かもな。
クリストフさんはハッとして我に返ると椅子に座り直した。
「……おっほん、すまないね。だが支援魔法を付与する魔導具はそれほど驚愕な物ということだ。君達はこれを売りに出すつもりなのか」
「はい、後は常時回復する物や離れた相手と会話する物、対象を弱体化する物など複数作ってありますよ」
「待て待て待て、どれもこれも気軽に話に出すような物じゃない! 一体君達はこの短い期間に何をやっていたんだ!」
また協会長は声を少し荒らげたが、片手で額を抑えて頭が痛そうにしている。
協会長からしてもどの魔導具もそれほどの物のようだ。
これだけの反応をするってことは、やっぱりエステル達の作った魔導具はそれだけ凄い物みたいだな。
「……はぁ、まさかこのような物を作っていたとは驚いた。これは確かに冒険者達の間で一波乱起きそうな代物だ。しかしどうやって販売するつもりかね?」
「アーデルベルさんって方がお店を開くそうで、そこで委託販売してもらうことになりました」
「ああ、商人のアーデルベル君か。前に私が君達に護衛依頼をお願いしたが、あれからも関係が続いていたんだね」
「そういえば協会長さんが私達に投げた依頼だったわね。おかげさまで良い出会いができたわ」
「それはよかった。彼の商会とは長年取引をしていてね。定期的に護衛依頼なども引き受けているんだ。その一環で君達に護衛依頼をお願いしたのだよ」
ほほぉ、元々アーデルベルさんと冒険者協会は太い繋がりがあったみたいだな。
そのおかげで俺達も繋がりができたんだから、あの依頼をくれた協会長には感謝しておかないと。
話が一段落したところで、クリストフさんは俺の考えを見透かしたような言葉を投げかけてきた。
「それでこの話を私にしたということは、宣伝なり何かしてほしいのかね?」
「あっ、いえ……そ、そういう訳じゃないんですけど、少しでも興味を持ってもらえたらと思いまして……」
「ふふ、お兄さんって本当に交渉とかがへたっぴね。そこが支えてあげたくていいのだけれど」
「ははは、君達は相変わらず仲がよさそうだ」
俺をツンツンと指でつつくエステルを見て、クリストフさんは微笑ましい物を見るような目をしている。
俺の交渉がへたっぴなのは確かだけどさ……直接宣伝してほしいとは言わなかったけど、俺の考えなんて協会長にはお見通しだったか。
「大々的に宣伝などはできないにしろ、少し協力はさせてもらおう。お店が開店したら是非足を運ばせてもらうよ」
「いいんですか?」
「ああ、私が行くだけでも冒険者の間で多少は噂になるだろう。それを抜きにしてもどんな商品があるのか純粋に気になる。……まあ、話を聞いた限りでは私が関わらなくても繁盛しそうだがね。君達と関わるといつも驚かされてばかりだよ」
やったぜ、協会長が店に来てくれるなんて、冒険者に対してそれほど効果的な宣伝はなかなかないぞ。
アーデルベルさんに全部任せるのも引け目を感じるし、これからも俺達に出来る範囲で協力をしていこう。




