強化は誰か
10回のおまけ付きガチャを終え、なかなかの結果に俺は満足していた。
もしこれに制限がなかったら魔石が枯渇する勢いで回していたぞ。
「うん、10回のガチャでUR1個におまけ1等出たなら上出来か。ミニサレナ、よくやってくれたな」
『ヤァー!』
「うぅ……不甲斐ないガチャ運をしててごめんなさい……」
笑顔で腕を振り上げるミニサレナ、一方で肩を落とすマルティナと両者結果に対照的な反応をしている。
まさかミニサレナが幸運勢とはな。マルティナは申し訳ないけどイメージ通りだったが。
さて、まずは今回新たに出たSSRアイテムから確認していこう。
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●SSR希少鉱石セット
希少鉱石の詰め合わせ。
武器や防具以外の用途にも使えるかも……?
――――――
広い訓練場に移動して具現化させてみると、等身大サイズはある鉱石が6個出てきた。
それぞれ赤青緑黄黒白と色が分かれていて、どんな物かわからないけど種類が違うことだけはわかる。
「おー、希少鉱石の詰め合わせみたいだな」
「ガチャから出る鉱石も種類豊富でありますね。それぞれどんな物なのか私気になるのでありますよ」
「これだけ種類があると名称を付けて分類したくなるわね。お兄さんが名付けてみたらどう?」
「ならこの黒いのはヘイハチウムと名付けよう。あっ、それかガチャマンタイトもいいな」
「ぷぷぷ、なんですかそれ、悪いセンスですね。大倉さんは名付けの才能がなさそうですよ。そうですね……この白い物はシスリルとしておきましょう」
「お前も大して変わらねーだろうが!」
シスハが手を口を覆いながら笑ってきやがった。
なんだよシスリルって、ミスリルをもじっただけじゃねーか!
ったく、命名はどうでもいいとして、これ全部未知の鉱石なんだろうなぁ。
武器や防具以外にも使えるってことは、金属的な物以外も含まれてるのか?
エステルとミニサレナに解析でもしてもらうかな。
次は具現化しない使い切りのアイテムだ。
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●SSR抽出機
武器と防具から能力を1つ選んで抽出する。抽出の際装備は消滅する。
抽出した能力は好きな武器と防具に付与でき、使用後のこのアイテムは消滅する。
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「へー、これは武器と防具から特定の能力を抽出して他の装備に付与できるのか。合成箱より使い勝手がよさそうだぞ」
「合成箱は同系の装備だけだったわよね。合わせて使えばもっと装備を強化できるわ」
「なんて素晴らしいアイテムなんだ! 自分だけの最強装備を作れるなんてワクワクするじゃないか!」
これはなかなかに使えるアイテムだな。
武器や防具の制限がないから、防具にしかない能力を武器に、その逆も可能ってことだ。
どれに使おうか迷うけど、武器や防具を吟味して装備を強化できるぞ。
1回で消滅するのは残念だがそれぐらいの価値はあるな。
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●SSRディメンションウォール
照準を合わせた位置に空間を繋ぐワープホールを生成する。
1度空間を繋げると5分クールタイムが発生する。
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具現化させると拳銃に似た形をした物体が出てきた。
試してみると1回引き金を引くと照準を合わせた場所に紫色の透けた壁が発生して、別の場所に照準を合わせてもう1度引き金を引くと同じような壁がもう1つ出現する。
目の前の紫色の壁に石を投げ込んでみると、一瞬で離れた場所にあるもう1つの壁の中から石が飛び出してくるのが見えた。
「うーん、つまり空間と空間を繋げた壁を出すってことか。ディメンションホールと同系統だけどこれ使い道あるか?」
「私が貰おう。床に壁を作ってベッドから落ちれば移動ができる」
「制限はあるけど上手く使えば一瞬で移動できるわね。それに敵の攻撃を壁で吸い込んで相手の背後に出せば自滅も狙えそうだわ」
紫色の壁を通して離れた空間が繋がるってことか。
ルーナの使い道はあれとして、エステルの言う様に上手く使えば相手の攻撃を吸い込んで、そのままお返しもできそうだ。
問題は銃の照準を合わせて使うタイプだから、それほど離れた位置に発生させられないぐらいか。
クールタイムもあるから使いどころが難しいな。
さて、次は今回の大目玉であるURアイテムだ。
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●URサテライトビーコン
衛星軌道上からビーコン同士を接続する。
SRビーコンに不可能だった地下のような電波の悪い場所とも接続可能。
専用端末を使用することで誰でも移動ができる。
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具現化させてみるとスマホに似たような手の平サイズの端末が10個出てきた。
液晶画面も付いていて起動してみると、俺のスマホで見るようなビーコンの選択画面が表示される。
これさえあれば俺のスマホを使わなくてもビーコンが使用できるようだ。
設置済みのビーコンを確認すると、離れた場所にある物にも自宅からアクセスできた。
サテライトビーコン本体は具現化されてないけど……まさか宇宙に具現化されたのか?
今までは距離制限があったから道中に複数設置する必要があったが、これからは必要な場所に1、2個設置しておけば事足りる。
これなら自宅からクェレスやセヴァリアまで一気に行けるぞ。
地下にも行けるみたいだから、ドワーフの遠征拠点の近くに置くことも可能だ。
「おお! これでSRのビーコンを道中に設置する必要もないな。しかも地下とかも一気に行けるのか。移動用端末も付属してるとか気前良いな」
「これさえあればお兄さんのスマホを使わなくても、私達自身でビーコンの移動ができるのね」
「本当! わーい! これで自由にお出かけできるんだよ!」
「……お前には絶対渡さないからな」
「どうして!? 平八のケチ!」
フリージアが頬を膨らませて怒りながら猛抗議してくる。
こいつにこんなの渡したら勝手にどこに行くかわかったもんじゃないからな……。
今はノール、エステル、シスハに渡しておけばいいか。
次は恒例のダブった装備の強化だ。
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●エクスカリバール☆71
攻撃力+7390
行動速度+400%
スキル付加【黄金の一撃】
状態異常:毒(小)
木特効:ダメージ+10%
●鍋の蓋☆53
防御力+3100
防御速度+20%
スキル付加【ジャストガード】
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今回はガチャの回数も少なかったけど、順調にダブっているな。
ここまで強化されたおかげで俺のメイン装備になっているが、ダブることに感謝するべきなのか複雑な心境になるぞ。
おまけの4等はコストダウンだったので、次はおまけの1等で出たURユニット強化権について話し合おう。
「さてさて、1番問題になりそうなURユニット強化権か。誰を強化するべきだと思う?」
「そうね。順当に行くならまだ未強化のシスハとフリージアの2人かしら。ノール達はそれでいい?」
「賛成なのでありますよ」
「同じく」
「僕も賛成かな。新参者の僕が既に強化されてることが申し訳ないぐらいだよ」
意外にすんなりと強化対象がシスハとフリージアに絞られたな。
誰でも強化できるアイテムってところが悩みどころだったけど、ノール達としては全員平均的に強化してほしい感じなのか。
俺としては誰か1人を5段階目まで強化したり、残しておいて他のガチャで誰かが強化された際に上乗せ強化する考えもあるが、全員最低でも2段階目にしておくのも悪い考えじゃない。
シスハなら強化されたら更に自衛しやすくなりそうだしな。
なので俺もノール達の考えには賛成だけど、肝心の本人達はじっと俺達の会話を聞いているだけだった。
「どうした? お前ならこういう時、自分を強化しろって言いそうなのに妙に大人しいな」
「流石の私でもこういう場では空気を読みますよ。アピールしろと言われたらしますけど。私は本来謙虚な性格なんですよ、神官ですからね」
「はいはい、謙虚謙虚。フリージアはどうだ?」
「うー、私も強化してもらいたいけどシスハちゃんがいいと思う」
「あら、どうしてそう思ったのかしら?」
「だってシスハちゃん皆のこと回復してくれるもん。強化されたらもっともっと癒す力が強くなるから、皆の危険が減るよね。だからシスハちゃんがいいかなって思ったんだよ」
なるほど、回復役を重視するって考えは大事か。
フリージアはいつも考えなしに自由な言動をしているが、こういう時はちゃんとした意見を言うよなぁ。
今でもノール達が強いからそこまでの大きなダメージを受けることないけど、今後も強い相手と戦っていくなら回復も大事になってくる。
攻撃役だけ強化していてもその内回復が追い付かなくなる可能性もあるし、回復役であるシスハを強化するのも理にかなっているだろう。
……特に1番その恩恵受けそうなのが俺だしな。
シスハがいなかったら今頃ポーションがぶ飲みする羽目になってたぞ。
「俺としてもフリージアと同意見だな。回復だけじゃなくて支援魔法で防御力も上がりやすくなるだろ? 回復役はシスハだけだから重要なのは間違いない」
「うむ、シスハが強くなれば安心だ」
「シスハの回復魔法にはお世話になっているでありますからね。安心して前に出れるのでありますよ」
「今でもあれだけ神聖な力が強いのに、強化されたらどうなるんだろう……。近づいただけで僕浄化されちゃうかも……」
「皆さん……ありがとうございます。フリージアさんもありがとうございますね。あっ、マルティナさんは感謝の印に強化後に抱擁してあげますよ」
「ひぃぃぃぃ!? え、遠慮します!」
シスハが悪い笑みを浮かべながら手をワキワキと動かして近づくと、マルティナは悲鳴を上げて逃げ出した。
今でも神聖な力を受けたらやばそうなのに、強化されたシスハがそれをやったらどうなっちまうんだ。
とりあえず満場一致でシスハの強化が決まったので、さっそくURユニット強化権を使うことにした。
今思えばだいぶ早い時期から召喚していたのに、強化するまで随分とかかっちまったな。
スマホでURユニット強化権を使いシスハを選択すると、スマホから光の粒子が溢れ出してシスハの体に吸収されていく。
全ての光を彼女が吸収し終えると、体から眩い金色のオーラが放たれて周囲に衝撃波が伝わる。
おいおい、髪が逆立つように浮き上がってやがるぞ。
「ハァァァァァ! これが強化するという感覚ですか! 何とも心地の良いものです! この圧倒的神官力が胸の底から漲ってきますよ! フハハハハ、主に感謝しなければいけませんね!」
「全然神官が強化されたように見えないんだが……」
「強化しちゃいけなかったような気がしてきたでありますな……」
「シスハだ、仕方がない」
ルーナの言葉にノール達もうんうんと頷いている。
脇を引き締めて拳を握ってるし、まるで戦士が覚醒したかのような場面だな……。
呆れ気味にしつつも強化されたシスハのステータスを確認した。
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●【血気な聖女】シスハ・アルヴィ
レベル 95
HP 6540
MP 5840
攻撃力 3250
防御力 1650
敏捷 85
魔法耐性 30
コスト 20
固有能力
【聖女の祈祷】
範囲内の味方ユニットを常時回復【小】、状態異常抵抗【小】、攻撃力+10%を付与する。
スキル
【回復上昇】
回復魔法を40%上昇させる。 再使用時間:1時間
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「おー、こりゃ凄そうだな。支援魔法とは別にバフが入るようになったのか?」
「シスハの本質を表しているような固有能力になったわね」
「うふふ、私の神聖な加護が皆様に付与されるようになりましたね。MPの消費もなく傷が癒えてしまいますよ」
「そういえばちょっと癒される感覚がしてきたでありますよ! ……あれ、でも神官なのになんで攻撃力が上がるのでありますか? 防御力じゃないんでありますね」
「攻撃は最大の防御って言いますからね。防御力は支援魔法で上がるからいいじゃないですか。これで存分に主への信仰を全うできるというもの。これからもこの手で魔物を粉砕してみせますよ、私は神官ですからね」
そう言ってシスハはストレートパンチを繰り出すと、拳圧でなのかパンッ! と空気の破裂するような音が聞こえた。
う、うーん、どう見ても神官の決意表明とは思えないんだが……シスハが笑顔で嬉しそうだからいいか。




