遠征拠点
カルカの案内によってドワーフ遠征隊の拠点近くに到着し、魔導自動車を収納してガルレガ達にディメンションルーム内から出てきてもらった。
入れ替わる形でミニサレナにディメンションルーム内に入ってもらったが、ヤァ……と悲しそうな声をしていたけど我慢してもらいたい。
そうして少し歩いて到着したのは、またもや大きな石の扉だった。
地下都市に比べると少し小さい物だったけど、普通の人間じゃ動かせそうな代物じゃない。
「ここが我らの遠征拠点だ。皆に伝えてくるからお前らはここで待っててくれ」
そう言ってガルレガ達は地下都市の時と同様に、精霊術で扉を開いて中へ入って行った。
入って行く際に少し中の様子が見えたけど、結構な数の建物があってかなりしっかりと作られた拠点のようだ。
地図アプリで内部を見てもかなり広大な空間で、青や紫色に表示されているドワーフの数も沢山ある。
「一時的な拠点だから小さいかと思ってたけど、案外大きな場所だな。十分住めそうなぐらい発展してるぞ。ここにいるドワーフも結構な人数だ」
「チラッと見えただけでも村と言えるぐらいの規模でありますね。入り口も精霊術を使わないと入れないようでありますし、防衛力も高そうなのでありますよ」
「土の精霊術を使えるドワーフならではの拠点だわ。私でもここに入ろうとしたら少し苦労しそうね」
うーん、エステルが苦労しそうって言うのは正当な手段で入ろうとした場合だろうな。
なんでもありの手段だったらこれを破るぐらい造作もないはずだ。
普通に入ろうとしたらあの分厚い石の扉だけで、殆どの相手は侵入すらできないぞ。
下手に破壊しようとすれば先に天井が崩落しそうだし、中にいるドワーフ達も精霊術で妨害してくると思う。
しばらく待っているとまた扉が開いて、アガリアさんが1人で戻ってきて俺達を中へ招き入れてくれた。
ドワーフ達は建物内に隠れる……ことはなく、全員外に出て俺達のことをジッと見てくる。
全体的にドワーフは男性が多くて、女性はちらほらといて子供の姿は見当たらない。
危険な地下都市への遠征拠点だから当然かな。何となく筋骨隆々なドワーフが多い気もする。
腕組をして堂々とした者や、顎に手を当てて気難しそうな表情をしているが皆黙って見ているだけだ。
「ドワーフさんが沢山いるんだよ! 皆とお話して来てもいいかな? いいよね!」
「うぅー、こう注目されるとお腹が痛くなって……僕空気になっておくね」
「……眠い。もう休ませろ」
「もう少しですので頑張りましょうルーナさん! 何なら私の背中で寝てもらっても構いません!」
ルーナは欠伸をして目に涙を浮かべて、それを見たシスハがささっと背中に乗せて寝かしつけている。
こんな注目されている中こいつらはマイペースだなぁ。
俺としては青い顔をして腹を抑えているマルティナと同じ心境だ。
というか、こいつ目立ちたがりの癖にいざ目立つと胃が痛くなるのかよ。
フリージアは目を輝かせて今にも飛び出しそうだったので制止しておいた。
そんな視線に晒されながらも石造りの建物内に案内され、中へ入るとガルレガが1人で出迎えてくれた。
「待たせてしまって済まなかった。一部好戦的な奴らがいて説得するのに手間取ってな。カルカ達にも言い回るように言ってあるから、しばらくすれば落ち着くはずだ」
「あはは……助かります。やっぱり人間をここに入れるだけでも反発が多かったんですか?」
「反発がなかったと言えば嘘になるな。だが比較的にここにいる者は好奇心の方が大きいようだ。今の都市に入れるとなるとそう簡単にはいかないだろう」
「それほど根深い問題なのね。私達としては取引できればいいから、ここに入れるだけでも十分だけれど」
カルカもガルレガも最初問答無用で襲ってきたんだし、拠点内に入ってドワーフ達が大人しいだけでも凄いことか。
実際に地図アプリで見てもまだ紫表示がそこそこいるから、俺達に懐疑的なドワーフがいるのも確かだ。
下手なことをすればこれが即座に赤い表示になって敵対化しても不思議じゃない。
受け入れてくれるドワーフが多いここでこれなら、今の地下都市に入ろうとしたらどうなるのか……考えただけで恐ろしい。
「まず礼を言わせてもらう。ステブラを取り戻してくれて感謝する。お前らがいなければ入ることすらできなかっただろう」
「当然のことをしただけですよ。利害も一致していましたからね」
「これから発掘作業とかで忙しくなりそうね。王国に報告はしないから、安心して地下都市の探索をしてちょうだい。あなた達が用がなければ私達が行くこともないわ」
「えー!? ドワーフの都市を見て回りたかったのに……そんな殺生な!」
マルティナは四つん這いになって見るからにがっかりしている。
そこまで地下都市見学をしたかったのか……少しぐらい見せてやってもよかっただろうか。
ドワーフと王国の関係も聞いていたから、協会長とかにも今回の出来事を話すつもりはない。
地下都市には個人的な用事で来ただけだから、俺達がここに向かったことを知る奴もいないしな。
「それじゃあ事前に決めていた取引についての話だ。まずお前達の目的は俺達に鍛冶をしてもらいたいってことだな?」
「はい、この金属の加工をお願いしたいです。可能なら加工方法も教えてほしいです。人間でもできる加工法だと助かります」
「加工法までか……まあいいだろう。それにしても見れば見る程不思議な金属だ。俺の勘じゃミスリルよりも遥かに希少な物だぞ。これが安定して手に入るなら世界が変わるかもな。一体どこでこんな物を……って、お前らなら今更の話か」
「随分と私達の扱いが何でもありになっているでありますなぁ」
おー、職人の命と言ってもいい加工法まで教えて貰える約束を取り付けられたぞ!
そんなことどうでもいいから、ガチャ金属が気になって仕方がないと言わんばかりの返答だ。
地下都市攻略前ならどうしたんだこれと問い詰められそうだが、色々と知ってしまったガルレガはもう何も気にしなくなったご様子。
聞いてもどうせ何も理解できそうにないやって諦めたのかもしれないな。
「次に分け前の話だ。まずはミスリルについてだが、俺が7割、お前達が3割だったが、お互い5割にしよう」
「えっ!? いいんですか! あれ程渋っていたのに……」
「あれ程の出来事を目にしてしまってはな……俺達じゃ一生かけてもステブラの奪還など不可能だった。正直なところ7割お前らに渡してもいいが、量が少な過ぎると他のドワーフに示しがつかんのでな。代わりに出来ることなら何でも協力しよう」
「ほほーう、今なんでもって仰いましたね。その言葉を安易に出してしまっていいんですかねぇ」
「お前が言うと後悔したくなるから止めろ! 何故このような奴が神官をしているんだ……」
「うふふ、神官も一枚岩ではありませんからね。まあ、私は主の教えに従う敬虔なる教徒ですが。隙を見せた者には徹底的に食らいつけと神も仰っています」
口に手を当てて上品そうに笑っているけど、言ってることが野蛮過ぎないか……?
本当に神がそんな教義掲げてるのか疑いたくなってくるぞ。
でもミスリルを半分も分けてくれるなんて、随分と心境が変化しているな。
遠征隊としてガルレガの立場もあるだろうから、それだけ貰えたら十分な譲歩と言えるだろ。
俺達としても別にミスリルが目的で探索しに来た訳じゃないし。
「次に宮殿の保管庫で手に入れた物だが、約束通りお前達が優先して3割分選んでくれ」
「それに関して少し提案があるのですが、プソイドに変化した金属で作られたあの奇妙なインゴットを全部貰ってもいいですか? それ以外の物は全てお渡しします。もしあれがドワーフにとって重要な物ならお返ししますが、しばらくはこちらで預からせてください」
「……ああ、それで構わない。俺だけの判断では何とも言えないが、あの金属は持っていたくない。あんな化け物共に変化して暴れでもしたら対処ができんしな。お前らが保管しておくのが1番いい」
正直なところ宮殿の保管庫にあった装備や装飾品などで、無理を言っても欲しくなるような物は特になかった。
プソイド化する鉱物のインゴットも別に欲しい物でもないのだが、魔物に変化したり謎が多いから解析用として確保しておきたい。
ガルレガとしても異論はないようであっさりと交渉は終了した。
俺達がいない状況でプソイドミスリルが発生したら大惨事になりそうだし、彼らとしてもこのインゴットは手放したい物だろう。
ぐふふ……あれを解析すれば、魔物を自由に発生させるメカニズムが解き明かせるかもしれないぞ!
「とりあえず話し合いはこのぐらいか。それでお前達はこれからどうするんだ? 俺達と取引できたなら目的は達成したのだろう?」
「そうですね。もう目的も済んだので王国に帰ろうと思いますけど、できれば地上に出る道を教えてもらってもいいですか? ガルレガさん達と会うために行き来するのに丁度いい地上の道がわかると助かるんですよ」
「それは構わないが……この近くの地上から人の住む地域へ移動するには、険しい山か深い谷を通るしかないぞ。危険な魔物が住むとも言われていて、俺達ですら近づいたことのない場所だ。そこを通って戻るのは……と言ってもお前らなら平気か」
「ええ、大抵の場所なら荒れ地でも問題ないからね。むしろ他人に知られないようにある程度、険しい環境を通る方が望ましいわ。私達も秘密にしてることが多いもの」
「お前ら程の力を持っているのを知れば他の者が警戒するのも当然か。いいだろう、地上に出る道への案内は任せろ」
今後ガルレガ達とは取引を続けたいので、ビーコンを設置できるように地上用のルートも開拓しておきたい。
なので地下を通らずに帰ろうと思っていたから、地上まで案内してもらえるのは助かる。
なかなか厳しそうな場所を通ることになりそうだけど……魔導自動車があればなんとかなるだろ。
あまりドワーフ達を刺激してもよくないし、長居はせずに早々と立ち去るとしよう。
ようやく長かった地下都市攻略もこれで完全に終了だな。




