不要な機能?
プソイドオリハルコンを倒したサレナは、残りの敵も全て掃討を終えて戻って来た。
リミットブレイクの効果時間も切れたのか、パワードスーツのあちこちから黒紫色の粒子を蒸気のように噴出している。
「ほ、本当に1人で全部倒してしまったでありますね……」
「プソイドミスリルは私達だと1体倒すのにも複数で挑む必要がありましたけど、サレナさんにとってはその辺の魔物と変わらなかったようですね」
「ミニサレナちゃん達も可愛いのに凄く強かったんだよ!」
「ふむ、おかげで楽ができた。感謝する」
『ヤァー!』
「任務ですので感謝は不要です」
ミニサレナ達が満面の笑みで喜んでいるのとは対照的に、サレナは無表情のまま淡々と答えている。
本体であるサレナと支援ユニットの温度差が凄まじいな。
何にせよこれで大量に湧いたプソイド達は倒せたから、後は魔物を湧かしていた装置を停止させるだけ。
エステル達の方を見ると、全員装置に手で触れながら額に汗を浮かべて険しい表情をしている。
その周辺を1体のミニサレナがふよふよと浮かびながら、時折光を照射して何かしているようだ。
かなり集中しているようだから声をかけるのは止めておいて、サレナに状況を聞いてみるか。
「エステル達の様子はどうなんだ? 装置は停止できそうか?」
「間もなく装置の停止も実行可能です」
「おお、随分と早いでありますね。まだ始めてからそんな経っていないでありますよ」
「複数のドワーフによる精霊術の行使に加え、魔導師による魔法の無効化が予想よりも早いです。私の解析速度に追いつく魔導師がいたのは驚嘆に値します」
おー、機械神とまで呼ばれているサレナに褒められるとは、エステルはGCの世界でも相当凄腕の魔導師判定なんだろうな。
もう少し装置の停止まで時間がかかりそうだし、周囲を警戒しつつサレナと色々話してみるか。
話をしている間も新たなプソイドが湧いているけど、ミニサレナ達が対処して湧いた傍から瞬殺しているから俺達の出番もなさそうだ。
「それにしてもあんなあっさりとプソイド達を倒しちまうとはな。エナジーフィールドすら使わなかっただろ」
「被弾する確率が極めて低く、リミットブレイクで十分対応可能だと判断いたしました。エナジーフィールドは緊急時に離脱する手段として実行するのが主目的です」
「何もない所から武器が出てきたけど、もっと色々持ってたりするの? どれも凄かったんだよ!」
「現在使用可能な装備は多くありません。現在の私は様々な制限があり、総合的な能力はカタログスペックの5割にも達していません」
「えぇ!? あれよりまだまだ強くなれるの!?」
いやいや……あの強さでカタログスペックの5割未満だと!?
緊急召喚石の効果で☆5まで強化された状態でそれってことは、これより更に強化できるってことだよな……。
俺達が驚いて声を失っている中、更にサレナの説明が続く。
「現在のスペックでもオーダーに支障はありませんでしたが、オリハルコンの個体は脅威になり得ました。ミニサレナの自爆も準備していましたが実行せずに済みました」
「えっ……この小さなサレナって自爆するのか?」
「はい、相手に取り付いてから自爆可能です。威力はHP、MP、攻撃力を合算した数値の10倍となります」
「この見た目で自爆までするとは思いませんでしたね。しかも威力が凄そうです」
「さすがはロボットだけあって無慈悲だな……。感情というかもう少し人情があってもいいんじゃないか?」
「私に感情といった機能は実装されていません。兵器に不必要な物です。ですが潜入用に再現は可能です」
「再現? それってどういう……」
「もー、そんなに感情って大事ですかぁ? 機械だけど私だって心が傷付くんですよぉ? プンプンです」
さっきまで鉄仮面のように変化のない無表情のサレナが、眉をひそめなが頬を膨らませて可愛らしく怒る仕草をしている。
それは全く機械と思わせない柔らかな表情の変化だったが、すぐにスゥーとまた無表情に戻った。
「という感じになります。外装もある程度は変更が可能ですので、オーダーに合わせて対応できます。現在の姿は設定されたデフォルトの物ですね」
「ゾッとした。恐ろしい」
「ここまで一瞬で切り替えられると違和感が凄いでありますね……」
「見てはいけない物を見てしまった気分ですね……」
あまりに急激な変化を見せられたせいか、ルーナ達は顔を青ざめて困惑気味だ。俺も同じく混乱している。
さっきの怒る姿は本当に人としか思えなかった……。
あれを感情とかなしで機械的な動作でやってるとしたら、こんなに恐ろしいことはないぞ。
怒ったからあの表情や仕草をしたんじゃなくて、この表情と仕草をすれば怒ってると認識させられる、って感じだ。
あれだけ強いのに潜入用の機能としてそんな物まであるとは、サレナを作った奴らは一体何を考えていたのだろうか。
俺達がサレナのあれこれで驚きの連続の中、1人会話に参加せず何か考え込んでいる奴がいるのに気が付いた。
いつもなら間違いなく騒ぎ立てるマルティナだ。
「黙り込んでどうしたんだ? お前ならもっとあれこれ聞くかと思ったぞ」
「い、いやぁ……こういう超常的な存在に会うとつい感動しちゃってね。もしかしてサレナ様は超古代文明に作られた魔導機兵ですか?」
「サレナで構いません。超古代文明という単語はデータにありませんが、私はパフティスという天空都市で製造されました」
「や、やっぱり!? それ遥か昔に存在したと言われる超古代文明の名前じゃないか! パフティスは本当にあったんだ!?」
さっきまでの様子と打って変わり、マルティナは飛び跳ねて大喜びし始めた。
超古代文明だと……? なんかすげー胡散臭い単語が出てきたんだが……。
興奮したマルティナはさらに恐る恐るといった感じで更なる疑問を口にし始めた。
「じゃ、じゃあ……あの噂も本当ってことなのかな?」
「まだ何か知っていることがあるのか?」
「うん、稀に古代の遺跡からどうやって作ったかわからない物が発掘されるらしいんだ。ロストテクノロジーやオーパーツって言われてるんだけど、その中に魔導機兵も含まれていたんだ。それを元に現代でも魔導機兵を作ったけど、似ても似つかない物になったらしいね。大元は一目で人か魔導機兵か判断できないそうだよ」
「相変わらず呆れるぐらいそういう事に詳しいですね。私は魔導機兵なんて見たことありませんが、どこかの国で採用されているんですか? というか、それって極秘情報に思えますけどよく知ってましたね」
「ある帝国に寄った時に友達になった人から聞いたんだ。さすがに元になった魔導機兵は見れなかったけど、作られた魔導機兵は見れたよ。人型だったけどゴツゴツしてて鉄のゴーレムって感じだったね。発見されなきゃもう少し探索できたのになぁ」
おぅ、興味あることだからかマルティナが口早になってきたな。
というか、帝国とやらで友達になった人ってさぁ……それ絶対に死人だろ。
しかも発見されなきゃって、こいつ機密施設にでも潜り込みやがったのか?
そんなことしてるから常に誰かしらに追われる生活することになるんだぞ。
本当にしょうがない奴だなぁ。
そうマルティナに呆れていたのだが、彼女の話にサレナが反応を示した。
「興味深い情報ですね。本来現在の私も機能停止していますので、同じく機能停止した同型機が発掘されているのでしょう。あなた方に呼び出されたおかげで、機能低下していますが活動が可能になりました」
「GCの世界だとサレナは機能停止中って設定だったのか。じゃあ元の世界に戻ったらまた機能停止するのか?」
「高確率でそうなりますね。滅神大戦以降で私は起動しておりません」
「滅神大戦……? おい、マルティナ知ってるか?」
「勿論さ! いわゆるラグナロクってやつだよ! 神話として伝わる遥か昔に神々が起こした戦争じゃないか! 様々な神だけじゃなくて、人界や天界や冥界全てが絡んだ大戦争だよ! 滅神大戦も本当にあったなんて……しかもサレナ様って今もどこかにいるの!? 凄いなんてもんじゃないよ!」
「ふむ、話がさっぱりわからん」
「ちんぷんかんぷんなんだよー」
「私も歴史は苦手なのでありますよ。こんな凄い存在が世界のどこかにいるなんて、世の中広いでありますなぁ」
「我が神も実在していますので、サレナさんのような存在がいても不思議ではありませんよ。それにカロンさんだっていらっしゃいましたしね」
1人興奮するマルティナ以外は皆話についていけないようだ。
カロンもそうだったけど、ノール達もこんな凄い奴らが世界のどこかにいたなんて驚いているんだな。
GCの設定としては基本的に全員同じ時間軸で存在しているはず。
……まあ、イベントで過去や未来に飛ばされる話があった気がするから、一概にそれが正しいとは言えないけど。
そんな感想を抱いていると、またもやサレナが俺達の会話を聞いて、鉄仮面が崩れ困惑した表情で今までにない反応を示した。
「カロン……? 厄災龍はまだ存命なんですか」
「や、厄災龍? 何か人違いじゃないのか? カロンは悪い奴じゃなかったぞ」
「現在の認識はわかりませんが、滅神大戦中は厄災龍と呼ばれていました。あれが現れると戦略や計略などが全て無に帰されてしまいます。思考も予測不可能で厄災そのものです。私も1度交戦いたしましたが決着はつきませんでした」
「カロンちゃんと戦ったんだ! サレナちゃん凄いんだよ!」
「カロン様と戦っていたなんて……僕の知らない歴史がまだまだあるんだ! 興奮するじゃないか!」
「あの龍神と戦い無事で済んだのか。貴様凄いな」
「いえ、それほどでもありません。厄災龍は本気じゃありませんでした」
サレナはそう言いつつ肩を落として何やら落胆している。
感情がないはずなのに落ち込むなんて、カロンのせいでそれに近い何かが生まれたんじゃないか?
あのサレナにこんな反応をさせるとは一体何をしたんだよ。
厄災龍とか言われているし絶対ロクなことしてないよなぁ……さすがカロンちゃんだな。
妙な空気が流れ始めたので、話を変えるために俺が話を切り出した。
忘れていたけど、影の魔人がプソイドミスリルに投げ込んだし神魔硬貨をまだ回収していない。
「そういえば神魔硬貨ってどうなった? まさか一緒に蒸発したんじゃ……」
「それなら回収済みです。どうぞ」
「おお、回収してくれていたのか」
「解析いたしましたが神力が含まれた硬貨のようですね。こちらと似た反応が装置の中から確認できました」
「えっ、じゃあ装置にも神魔硬貨が入ってるってことか!」
「はい、装置が停止すれば抽出可能です」
なんだと!? 5枚だけじゃなくて更に神魔硬貨手に入れられるかもしれないのか!
なら装置を停止させたらさっそく硬貨を取り出さないとな!
それにしてもまた神力とかいう単語が出てきたぞ。
「カロンも神魔硬貨に神力が混ざってるって言ってたけど、サレナも神力を感じられるんだな」
「センサーにより神力も検知可能です。私の動力源に疑似神力炉が使用されていますので、神力の検知機能は必須になります」
「疑似神力炉なんて聞いたことないぞ……。その体のどこにそんな炉が入っているんだ」
「仮マスターの権限では開示できない機密事項です。機体構造を探る行為は破廉恥だと認識しております。恥を知ってください。目から荷電粒子を撃ちますよ」
「わかったわかった! もう言わないから許してくれ!」
サレナの赤と青のオッドアイが強烈に輝き始めたので慌てて謝罪した。
目からビームまで出せるとか本当に機械なんだな。
だけど若干怒った様子のサレナは頬を赤らめていて、少しだけ人間味を感じた。
うーん、さっきの反応といい本当に感情がないのだろうか……。




