アステリオス
「さて、さっそくCランク昇格依頼に行くか」
「言われたからなのはわかるけど、急にやる気になったわね」
休みも終り、翌日からさっそくCランクに昇格する為の依頼を受けた。
今は依頼された討伐対象がいる場所に向かい、魔法のカーペットで移動している。
「また魔石狩りしないといけないしな。その時にどうせ言われるから早めに上げておこうかと」
「またやる気なのでありますね……」
魔石を集める為に今後も大量の狩りをするのは確実。その時にランクも上げずにずっと討伐報酬持ち込んでいたら、またランク上げてくれって言われるだろう。
協会側からしても高ランクの冒険者は多い方がいいだろうし、低ランクのままでいられても困るのかな。
俺達も今後他の街に行く可能性もある。その時に高ランク冒険者であることは都合の悪いことでもないしな。
「それで、Cランク昇格依頼ってどういうのなの?」
「えーと、ミノタウロスを10体討伐することらしい」
「それなら楽々なのでありますな」
今回の依頼はミノタウロスの討伐。前回のように1体倒せばいいのではなく、なんと10体倒せというものだ。
ミノタウロスは前に王都来る途中に遭遇した奴だろう。目的の場所もブルンネ方面に向かっているし。
それにしてもようやく冒険者ランクを上げるのも、難易度が上がってきたのかな? 前回のに比べたら急に上がっている気がする。ここから先は一段階上げるのにも苦労するようにしているんだろうな。
●
「へー、この前王都来る時に遭遇した奴はここから流れてきたのか」
「少し戦いづらい場所かしらね」
「挟まれたりすると厄介かもしれないでありますな」
到着した場所は、丸い石柱がいくつも立った遺跡のようだ。
ブルンネからシュティングに続く街道から少し離れた所にある。この前のはこんな所から出てきたのか。
他の狩場とは違い、石の壁やらで仕切られている。見える範囲にいるのは数体のミノタウロスだ。
鼻息を荒くしてノシノシと歩いているのが複数体。1体でも怖いというのに……帰りたい。
ノールの言うように、いつもの調子で突っ込んで倒すのは止めておいた方がよさそうだ。
あいつらは突進ってスキルもあるし、壁のせいで中での戦闘はやり辛そう。
「とりあえず1体ずつ誘導して個別に倒していくか」
「それじゃあ私が魔法で誘き寄せるわね」
なので今回は遠距離攻撃で1体ずつ各個撃破していこうと思う。
他の個体と離れているミノタウロスに目を付け、さっそくエステルに魔法で攻撃してもらう。
被弾したミノタウロスがこっちに向かい雄叫びを上げて走ってきた。
これでもし適当にやっていたら、他の奴も走ってくるだろうしめんどうだな。
前回遭遇した時とは違い、ミノタウロスの体は微量に赤いオーラに包まれている。
あれがスキルの突進なのかね?
見事に釣れたミノタウロスを、ノールがまず盾で受け止める。動きが止まったところを俺がバールで突き刺して体を抉っていく。
装備が強化されたおかげで、前とは比べ物にならない速さでバールを突き刺せる。
俺の攻撃で悲鳴を上げよろけるミノタウロスに、攻撃を受け止めていたノールも反撃を始めてすぐにミノタウロスは倒れた。
「よし、良い感じだな」
「これなら前回のフロッグマンの方がめんどくさかったでありますね」
「あれはうざかったな……」
ミノタウロスも強いはずなんだけど、フロッグマンと比べるとこっちの方が俺達は楽だ。
体がデカイ分的として攻撃しやすい。その分攻撃された時少し危険かもしれないから、油断せずにいこう。
「あら、お兄さん。なんか強そうなのが出てきたわよ」
「ん? なんだあれ……」
そんな感じで数体倒した頃、中の方からなんだかヤバそうな奴がこっちに向かって歩いてきた。
通常のミノタウロスに比べ小さいが体がさらに引き締まっている。手には石の斧ではなく、多分鉄製だと思われる斧。
体からは時折稲妻のような光るものが漏れ出している。
……めっちゃ強そうなんですけど。とりあえずステータス見てみよう。
――――――
●アステリオス 種族:ミノタウロス
レベル:60
HP:10万5000
MP:0
攻撃力:3000
防御力:1500
敏捷:160
魔法耐性:30
固有能力 雷光
スキル 突進
――――――
……は? 何これ。こんな奴がCランク昇格依頼の狩場にいるなんておかしいだろ!?
攻撃力が3000以上なんて初めてだぞ。
「こ、こんな奴いるなんて聞いてないぞ……」
「どうしたのお兄さん?」
ステータスを見ていないエステル達は俺の反応を見て不思議そうにしている。
さすがに攻撃力3000ある奴なんて相手したくないわ……スキルで攻撃力増す可能性もあるし。
よし、逃げよう。
「いいから! とりあえず逃げるぞ!」
「大倉殿! もう逃げても遅いのでありますよ!」
ノールがそう言い盾と剣を構える。
アステリオスが来ていた方を見てみると、さっきまで歩いていたのに俺達が逃げる素振りを見せたからか走ってきていた。
ミノタウロスよりも濃い赤いオーラを纏い、地面を抉りながら猛然と走ってくる。
こりゃもう逃げるの無理だ……あれ超速い。
「足止めするから、エステルは離れろ! 今回はあまり手を出さないでくれ!」
「わかった。支援かけておくわね」
エステルを後方に逃がし、俺とノールで立ち向かうことにした。
もし彼女が攻撃を食らったら致命傷だ。魔法抵抗も有るしここは戦わせるべきではないな。
彼女が逃げる前に俺達に強化魔法を施してもらう。
ノールが盾役としてあの突進を受け止めてもらうつもりだが、多分これでなんとかなるだろう。
徐々に迫ってきていたアステリオスの頭部が、ついにノールの盾とぶつかる。
ズドンと鈍い音を立てて、お互いに踏ん張る地面を沈めながら競り合う。
「うっ、ぐっ……ぬわ!?」
「ノール!?」
苦しそうに耐える声を上げていた彼女が、アステリオスが頭を跳ね上げたことにより吹き飛んだ。
誇らしげに鼻息を噴出したアステリオスが俺の目の前に立っている。そして赤い瞳で俺を睨んできた。
ノールが吹き飛ばされるまさかの出来事に呆けていたが、アステリオスが斧を振り上げたことで俺は正気に戻る。
そして振り下ろされた斧をなんとか避けて反撃として体にバールを突き刺した。
「あばばばばば!?」
「大倉殿! 離れるで、ありますよ!」
バールを突き刺した瞬間、全身が痙攣して動けなくなる。手を離そうにも体が思うように動かない。
なに、なにこれ?
そしてアステリオスがまた斧を振り上げた瞬間、体の痙攣が消えた。
しかし動こうとしても体が言うことを聞かずにすぐには動けない。
これはやばいと思っていたところに、ノールが走ってきて奴の顔面を盾で叩き付けて吹き飛ばした。
「た、助かった……ありがとう。もしかして固有能力のせいか?」
「攻撃する瞬間はあの電撃も無くなるみたいでありますね。1匹だけなのは助かったであります」
どうやらあいつの体は攻撃する時以外は、雷光って能力で電撃に守られているようだ。
攻撃時には消えるようなので、そこに反撃を加えて倒すしかないな。
ノールが言うようにこいつは今単体で俺達の方へと来ていた。
これでもう1体ミノタウロスがいたらと思うとゾッとする。
「よし、このまま俺達で倒すぞ」
「了解なのでありますよ!」
あの電撃の攻略法もわかったので、俺達はアステリオスへと反撃を開始する。
俺がウィンドブレスレットの風属性攻撃で注意を引きながら、攻撃を誘う。
そして攻撃をする為に斧を振り上げたら全力で逃げ、その隙にノールが後ろから斬りつける。
今度はノールにターゲットをし始めるが、同じように攻撃をしようとした瞬間に俺が後ろからバールを突き刺す。
これを交互に繰り返して地道にだが体力を削る。
しばらくしてよろけ始めたので、俺はポケットに入れていた1枚の紙を取り出して後ろからこいつの頭に貼り付けた。
「ノール! 離れろ!」
貼り付けたのは爆裂券だ。
ノールに離れるよう指示をだし、爆発しろと念じる。
するとアステリオスの後頭部が爆発しよろけた。もう1度爆発させると今度は地面に転がる。
もう1度爆発させ今度は地面ごと爆発した。おまけに2回爆発させアステリオスが倒れていた場所は黒い煙に包まれている。
弱っていたしこれで倒せたはずだ。中々に凄い爆発をするんだなこれ。
「ふぅ……どうやら倒せたようだな」
「大倉殿! 油断しちゃ駄目なのでありますよ!」
「へ?」
ノールの叫ぶ声に反応し、煙の方を見てみるとアステリオスが斧を振り被って俺に投げようとしているのが見えた。
とっさに鍋の蓋を構え投擲された斧を防いだが、耐え切れずに俺は体が浮いた。
「ァン、ドゥ、ヴェエ!?」
直撃は避けられたようだが、吹き飛ばされて地面を2、3回転がった。
全身が痛い。物凄く痛い。泣きそうだ。
「大倉殿ー! 大丈夫でありますか!?」
「あぁ、ノールか……頭がふらふらする」
「はぁ、無事みたいでよかったのであります。これを飲むのでありますよ」
すぐにノールが駆け寄ってきて、仰向けに倒れている俺の頭を持ち上げて彼女のバッグから出したポーションを飲ませてくれた。
事前に各自のバッグにポーションを渡していたのだ。
助かった……あれ? ノールがここにいるってアステリオスはどうしたんだ?
「んぐ、ふぅ……ありがとう。って、おい! あいつどうした!?」
「あっ、もう、動いちゃ駄目なのであります! あれならエステルが処理しているのでありますよ」
「おいおい、エステルが処理ってやばいだろ!? 早く助けに……あれ?」
起き上がろうとしたが、ノールに押さえ付けられた。
エステルが処理していると聞いて焦ったが、見てみるとアステリオスが地面に縛り付けられて身動きが取れなくなっていた。
「どうなってるんだあれ……」
「大倉殿が攻撃されて怒っているのであります……。ノールどいて、そいつ殺せないって言われたので下がったのでありますよ……」
エステルの方を見てみると、全身から紫色のオーラが湧き出している
ま、まさかとは思うがスキルを使ったのか?
彼女が杖を振るうと、彼女の横辺りに魔法陣が出現した。
そして魔法陣がいつもよりもさらに輝き始めた頃、炎が集まり球体状に圧縮されアステリオスに向けて撃ち出された。
地面を抉りながら進む炎にアステリオスは飲み込まれ、そのまま後方にいたミノタウロスも巻き込み遠くの方まで飛んでいく。
少しして凄まじい爆音がし、空にはキノコのような形をした煙が上がった。
着弾地点より離れているはずなのに、爆発の余波で風が俺達の所までやってくる。
「うっわ……。の、ノール……エステルは怒らせないようにしような」
「ど、同意なのでありますよ……」
完全にオーバーキルだ。
地面に縫い付ける魔法も、通常状態だったら破られそうだった。
しかし彼女はスキルを使って無理矢理縛り付けたようだ。
遠くの方でもくもくと上がる煙……着弾地点は一体どうなっているのだろうか。
「お兄さん」
「はい! なんでしょうか!」
「あんまり心配させるようなことしないでね?」
歩いてこっちへ来たエステルの顔は真顔。いつものからかうような表情はなくマジで怒っているみたいだ。
その表情を見て、俺は彼女を怒らせることは今後避けようと思った。