機械神サレナ
サレナにより宣言がされ、さっそくエステルやガルレガさん達は装置の方へ行って停止させる作業を始めていた。
それを守る様に俺達も移動して、これからどうするべきかサレナに指示を仰ぐ。
現状打破の鍵を握るのは間違いなくサレナだから、彼女に意見を聞くのが1番的確だろう。
「サレナ、俺達はどう動いたらいい? 戦闘の主体は任せても平気か?」
「問題ありません。情報収集を行いますので、私は単機で行動いたします。あなた方は解析中の魔導師及びドワーフを守護してください。できる範囲で魔物の数を減らせればなお効率的です」
「いくら何でも1人であの中に飛び込むのは無茶でありましょ……。私達も一緒に戦うのでありますよ」
「問題ありません。標的が分散すると効率が低下します。不測の事態に備えてください。では、魔導機兵サレナ出ます」
空中に光の亀裂が生じ中から光の粒子が溢れ出してサレナの体に纏わり付く。
一瞬で粒子が実体化すると、サレナの全身に黒紫色の甲冑のようなメタリックな防具が装備されていた。
手足の部分には大型のスラスターらしきパーツが装備されていて、他にも全身のあらゆる部分に小型のスラスターの付いた装甲。
背中にはバックパックを背負い黒紫色に光る4つの光の帯が発生しゆらゆらと揺れている。
まるでパワードスーツを着ているかのようだ。
武装は大型の銃のみでそれを軽々と片手で持ち、もう片方の腕には手の甲の部分に透明な光る盾も発生していた。
見た目からしてあれは武装ユニットのミドルレンジ。
ミドルレンジは高速で移動して敵と距離を保ちつつ、中距離から攻撃するための武装だ。
武装し終えたサレナはふわりと宙に浮いたかと思えば、背中の光る帯が一斉に光の粒子を噴射し始めてあっという間に女神の聖域から飛び出して行った。
「飛んだ!? 凄く速いんだよ!」
「やはりあれほどの強者になると飛ぶのは普通なんですね……。そもそもミニサレナさんが浮いてる時点で不思議でもないですか」
「うむ、龍神も飛んでいた。私も強化状態なら似たようなことはできた」
「飛べるなんて羨ましいなぁ。いつか僕も漆黒の翼を纏って羽ばたいてみたいね」
カロンちゃんも当たり前のように空を飛んでいたけど、解放石を使ったルーナもマントを使って空中移動をしていたな。
URユニットなら強化されれば、空中を蹴ったり意味不明な方法で飛んでも不思議じゃないか。
サレナが1人で魔物の大群に突っ込んで行ったかと思えば、今度はミニサレナ達も動きを見せた。
エステル達の補助に向かった1体を除いて、4体のミニサレナがいつの間に馬鹿でかい銃を装備している。
俺の背丈よりもでかい巨大なスナイパーライフルのようで、肩に担いで照準のスコープが片目を覆い体には直接チューブまで接続されているようだ。
これは武装ユニットのロングレンジだな。GCの頃に見てたから知っているけど、実物を見るとめちゃくちゃごついな。
『ヤー!』
ミニサレナ達が銃を構えて声を上げると、一斉に銃口から青と赤の混じる極太ビームが発射された。
プソイドメタルやゴールド達はそれを避ける間もなく、次々と飲み込まれて消滅していく。
1人突っ込んだ本体のサレナはビームが飛び交う中を軽々と飛び回り、流れ作業のように銃からビームを撃ってプソイド達を倒していく。
撃ち抜かれたプソイドは拳大の穴が体に空いただけなのに、機能が停止したように倒れて消滅する。
超火力によるミニサレナの援護の中、本体のサレナが縦横無尽に動き回り敵を駆逐していく。
サレナ本体に迫ろうとする敵がいると、瞬時にミニサレナの攻撃が殺到してあっという間に倒される。
あのプソイドミスリルでさえ一瞬で消し炭になってやがるぞ。
フリージアの姿を模倣したプソイドが矢を向けるが、放つ頃には既にサレナの姿はそこになくお返しとばかりにヘッドショットされて倒されてしまう。
照準を向ける前から攻撃を予想しているかのようだな……あいつは未来予知でもできるのか?
背後などの完全な死角からの攻撃も見る素振りもなく回避し、ついでに動き回るルーナやシスハの姿をしているプソイドゴールドを的確に撃破している。
それに加えて飛行しながら急加速急停止を繰り返し、カクカクと直角に動いて何でもありだ。
ここは地下とはいえ室内だから天井はそれほど高くないが、それを思わせない飛びっぷり。
腕もおかしな角度に曲げて射撃したりなど、サレナが機械なんだと改めてよくわかる。
「なんかもう……やべーな。あれでスキル使ってないとかマジかよ。というか1発で倒してやがるぞ。ミニサレナもこんな小さいのにえげつないな」
「効率が悪くなるって言われたのも納得でありますね。全方位からの攻撃を受けても掠りもしてないのでありますよ」
「まるで後ろにも目があるかのようですね。やはり機械だけあって見た目は人でも感覚は別なのでしょうか」
『全身のセンサーであらゆる方向を感知可能です。不可視の攻撃にも対応できます』
「喋ったぁぁぁぁ!? ミニサレナちゃんが喋ったんだよ!?」
『本体と音声接続中です。こちらから情報を共有いたします』
さっきまで笑顔で銃をぶっ放していたミニサレナの1体が、無表情に切り替わって淡々と俺達に声をかけてきた。
サレナをそのまま小さくした姿をしているけど、人形サイズだとなんか妙な感じがしてくるぞ。
今も本体のサレナはめちゃくちゃな動きをしながら魔物を処理し続けているが、それえも俺達に情報を伝える余裕があるようだ。
せっかくだし気になることを聞いておこう。
「プソイドメタルやゴールドも防御力とHPがそこそこ高いはずだけど、どうやって1発で倒してるんだ? サレナでもスキルなしじゃ1発で破壊は難しいだろ?」
『あの魔物には不規則な位置に核が存在します。狙えば1撃でも破壊が可能です。核以外の部位を攻撃するのは非効率です』
「まさかコロッサスに核が存在しているとは驚きですね。私達はずっと無理矢理倒していたのですか」
「ごり押しで倒せていたから考えもしなかったな。ステータスアプリにも表記がなかったけど、よくサレナは一瞬で見破ったな」
『私の解析性能が上回っているだけです。隠蔽機能がなければ瞬時に脆弱部位を発見可能です』
おぉ……要するにスマホにあるステータスアプリの上位互換の機能を備え付けているってことか。
さすがにプソイドミスリルは1発じゃ倒せないみたいだけど、ミニサレナの集中砲火で何体か倒している。
既にかなりの数のプソイド達をサレナは倒したが、地図アプリを見ると未だに俺達の居る場所は魔物の赤い反応で埋め尽くされていた。
地図アプリで確認をしなくても、あっちこっちから地面から生えてきた金や銀色の鉱石が瞬く間にプソイドになって追加されていくのがよくわかる。
「あれだけサレナが倒しているのに一向に数が減ってないぞ。こいつらどんな速度で湧き出してやがるんだ……」
「次から次へと補充されていくね。僕達だけじゃ数の暴力で圧倒されていたよ……」
「それに硬貨を入れられたプソイドミスリルは未だに健在ですね。サレナさんの攻撃を避けていますし、明らかに他の個体と動きが違いますよ」
「むむむ、私の姿をしているから何とも複雑な気分でありますね……」
影の魔人が神魔硬貨を入れたノールの姿をしているプソイドミスリル5体は今も健在のままで、サレナ達に攻撃されても避けたり盾で防いだりしていた。
サレナも周りの雑魚を処理しつつも、1番の標的はこいつらのようで何度も攻撃を加えている。
それでもやはり撃破までは至らず、さすがのサレナでも苦戦するのかと思っていると通信役のミニサレナがまた喋り出した。
『解析が完了しました。装置の停止には魔物の殲滅が効果的です』
「どういうことだ? 今湧いてる奴ら全部倒せばいいのか?」
『装置は地脈から得たエネルギーにより鉱物を生成しています。その際に不純物を混ぜ魔物化しているようですが、それが装置への干渉も妨げています。防衛機能により周囲の魔物が減ると優先的に生成を開始するので、それを利用して不純物を浪費させます。供給量を上回る速度で殲滅をすれば、装置の停止もより早くなります』
「えーっと……難しい話はよくわからないけど、魔物を倒せば装置も停止させられるってことか?」
『はい、ミスリルの個体を倒すのがより効率的です。特に強化された5体は装置の補助も兼ねています。優先して排除するのを推奨いたします』
まさか今までは本気で戦闘していた訳じゃなくて、主に情報収集をしていただけなのか?
とにかく魔物を倒せば倒すほど、連動して早く装置が停止できるようだ。
「なら今度こそ私達の出番でありますね! 共に倒して――」
『非効率的です。リミットブレイクを使用します。臨時マスター、承認を』
「えっ……あっ、はい。どうぞ」
『承認を確認。リミットブレイクを発動します』
俺の返事を聞いた途端、戦闘中のサレナ本体から強烈な黒紫色の光が放たれた。
パワードスーツの至る所から光が噴射し、背中の光の帯も勢いよく粒子を吐き出している。
その状態のまま動き回り、噴出する背中の粒子が直撃したプソイドミスリルの体がバラバラに砕け散っているほどだ。
更には本体のスキルも適用されたのか、ミニサレナ達も全身が黒紫色の光に包まれていた。
放つ極太ビームも黒紫色の変化していて、直撃した個体は勿論蒸発し掠ったプソイドでさえ体の大半が溶けて消滅していく。
スキルを発動して10秒も経たない内に半数ほどのプソイド達がいなくなった。
さ、サレナが本気で戦闘を始めたらこれほどなのか……カロンちゃんにも劣らない程の強さだ。
これだけ派手に攻撃をぶっ放しても地下空間にはまるで被害がなく、的確にプソイドだけに攻撃を当てている。
カロンちゃんだったら地下空間ごとまとめて消し飛ばしてるだろうから、それを上手く制御できるサレナはやはり適任だったか。
スキルを発動させたサレナは、神魔硬貨の入ったプソイドミスリルまで近づくと瞬く間にその姿を変えていた。
全身を覆っていたパワードスーツの装甲が外れ、手足と胸部の部分だけ残して肌が露出している。
両手両足の装甲は分厚い物に換装されていて、スラスターの数が増えていた。
銃などの武装はなくなっており、武装はサレナ本人の手足だ。
これがショートレンジの装備で、高速移動しつつとにかく殴りと蹴りをお見舞いする。
サレナがショートレンジ装備で向かうという事は、あの強化されたプソイドミスリルを解析で倒せると判断したってことだ。
それなら問題はないと思うけど、気になるから俺の方でもステータスを確認しておこう。
――――――
【神魔】プソイドミスリル・ノール 種族:コロッサス
レベル:90
HP:20万
MP:1万
攻撃力:22000
防御力:58000
敏捷:150
魔法耐性:50
固有能力 能力低下抵抗 魔法蓄積 【劣】戦姫の加護
スキル 身体模倣 曇りなき魔法銀
――――――
こ、硬貨を入れただけでこんなに強化されるのかよ!?
神魔なんて称号まで付加されているし……これもカロンちゃんが言っていた硬貨に含まれる神力の影響なのか?
まさか固有能力まで模倣されるなんてとんでもない強化だぞ。
これはさすがにスキル発動状態でも厳しいのでは?
と思ったのだが、そんな予想を遥かに上回っていた。
ノールを模倣した強化プソイドが動き出す前に、スラスターから更に光が噴出し加速してサレナの姿が消える。
次の瞬間には1体のプソイドミスリルがバラバラになり、サレナは他のプソイドミスリルの近くに姿を現す。
2体目は盾で防ごうと反応していたが、またサレナの姿が消えたと思えば2体目の頭を背後から掴んでいて、手が輝いて黒紫色の爆発を炸裂させた。
殴る蹴るだけじゃなくて、シスハのプロミネンスフィンガーのように爆破までできるのか……。
その後も全く反撃させる隙も見せずに、次々と強化個体のプソイドミスリルを倒していく。
「うわぁ……強化個体が一瞬で消し飛びやがったぞ……」
「強化個体とはなんだったのかって感じですね。あれじゃ他のプソイドと大差ないじゃないですか」
「恐ろしく正確無比な攻撃だね……。対象を確殺しつつ他の魔物まで倒して、あれだけの威力の攻撃で周辺に被害も出ていない。完璧でパーフェクトな仕事じゃないか! 超クールでカッコいいよ! 必殺的な仕事人だ!」
「楽でいい。全部やってくれる。理想の助っ人だ」
「もう全部倒しちゃったんだよ……あれ? 見て! 倒したミスリルが集まってるんだよ!」
5体いた硬貨の入った強化個体は全て倒されたが、フリージアが指差す先を見ると砕け散ったはずのプソイドミスリルの破片が銀色の液体状になり集まっていた。
集まった5体分の液体は黄橙色になりながら形を変え、恐ろしい姿に変わっていく。
それはまさに今プソイドミスリルを倒した張本人であるサレナだ。
おいおい!? あいつら今度はサレナの姿になりやがったぞ!
す、ステータスを見ておかないと……。
――――――
【神魔】プソイドオリハルコン・サレナ 種族:コロッサス
レベル:100
HP:50万
MP:2万
攻撃力:42000
防御力:68000
敏捷:200
魔法耐性:50
固有能力 能力低下抵抗 魔法蓄積
スキル 身体模倣
――――――
オリハルコンだと!? ついにオリハルコンにまでなりやがったのか!
神魔硬貨の影響なのかそれとも……何にしてもあれより強化された個体が出てきたのはまずい。
何よりもこのステータスでサレナを模倣されたのがヤバ過ぎる。
パワードスーツを着て大型の銃まで装備している完全体だ。
流石に俺達も参戦した方がいいと動こうとしたのが、それより早くサレナが動いていた。
ミニサレナ達と同じ巨大なスナイパーライフルを肩に担いで、既にプソイドオリハルコンへ向け照準を合わせている。
そしてプソイドオリハルコンが走り出したと同時に、その銃口から黒紫の巨光を放つ。
合わせてミニサレナ達も同じ標的を狙い攻撃して、サレナの姿をしたプソイドはあっさりと光に飲み込まれてついに消滅した。
「……は? もう倒したのか!?」
「強そうなサレナさんの模倣体が出てきましたけど、一瞬で倒されちゃいましたね……」
「凄い! 凄いんだよサレナちゃん! 強過ぎるんだよ!」
「なんか動きが直線的であっさり攻撃を受けたでありますね。銃を持っていたのに使わず走り出したでありますが、どうしてでありますか?」
『あの魔物は模倣した対象の身体的記憶を読み取り動きを真似ます。機械である私にはそのような物がないので、ただ形を真似たに過ぎません。武装もただ形を真似ただけなので、使えないガラクタ同然です』
「なるほど……模倣されても問題ないってことだね。これほど召喚対象として適任な存在は他にいないよ。モフットの幸運に感謝だね」
「うむ、さすがモフットだ」
はは、ははは……まさかそこまで想定してモフットの幸運は発揮されたっていうのか?
模倣されても問題なくプソイド達も簡単に制圧できる助っ人、サレナ以上の適任者はいなかったかもな。




