攻略達成?
ついに宮殿最深部となる地下3階へ移動したのだが、入り口から驚く光景に出くわした。
さっきまでの綺麗に物が並べられた保管庫から打って変わって、平らな床や壁や天井からゴツゴツとした石が無数に突き出た場所だ。
建物の壁から石が生えているみたいで、野外と室内が入り混じったような違和感しかない。
所々に生えている石は細長かったり丸かったりと形が不規則だけど、銀色や金色が混じっていて普通の石じゃないのは一目瞭然だ。
「な、なんだこれ? もしかしれこれって鉱石なのか?」
「一面が鉱石で埋まっているでありますよ。鉱脈ってやつでありましょうか?」
「天井や床は人工的な造りになっているから、後から鉱石が生成されたような奇妙さがあるわね」
「一体何があったらこうなるのでしょうか。見た限りだと鉄に銀に金など色々な物が生えてますよ。まるで畑の野菜のようですね」
「じゃあ鉱石の畑だね! 面白いんだよ!」
「こんな奇妙な鉱脈は見たことがない! くぅー、宮殿の最深部にこんな場所があるなんて、謎が深まってワクワクしてくるじゃあないか!」
「厄介ごとの臭いがする」
最深部だし何かしらあるとは思っていたけど、宮殿内が鉱脈みたくなってるのは予想外だったぞ。
エステルの言う様に見えている床や壁を見ると上の宮殿と同じ造りだから、地下鉱脈の上に宮殿を立てた訳じゃなさそうだ。
しかも生えている鉱石も鉄や金だけじゃなく、白金やコロチウムなど様々な物があるのも見つけた。
あらゆる金属がこの階に存在するなんて、間違いなく普通の鉱脈じゃないぞ。
俺達がその光景に驚いている中、ガルレガはじっくりと生えている鉱石に触れて何やら確認していた。
「ガルレガさん、もしかしてこの鉱石って……」
「……ああ、保管庫にあった違和感のあるインゴットと同じだ。あれは全部ここで採掘された物だろうな」
「パッと見は普通の鉱石にしか見えないわ。でもあれだけの量が保管庫にあったのに、入り口まで鉱石で埋め尽くされているのも変よね」
「奥に進む道もありませんし、見渡しても採掘した形跡がありませんね。まさかエステルさんが仰ったように、どんどん鉱石が生成されていく場所なのでしょうか」
確かに奥まで行く道がないどころか、入り口のすぐ目の前も塞ぐようにビッシリと鉱石が形成されている。
まるで1度もここで採掘していないかのような状態だ。
なのに保管庫を埋め尽くす量の金属が貯蔵されていたから、ここは採掘してもまた鉱石が生成される可能性は高い。
無尽蔵に金属が生成される室内にある鉱脈か……こりゃとんでもない物を見つけちまったかもな。
奥に進むために鉱石を採取しつつ進んで行くが、ここは上と違って壁で区切られた小部屋が一切ないだだっ広い場所だ。
地面から鉱石を切り離すと床の部分までは簡単に剥がれたけど、そこから下は緑色になっていて一切干渉ができなくなっていた。
迷宮化した緑の床からでも鉱石が生成されるなんて、一体どんな原理になっているのだろうか。
それからも奥に向かって進んでいたのだが、鉱物以外に何もなく魔物も一切いないのが逆に不気味で俺達は更に警戒を強める。
だが、部屋の奥の方に近づいてくると、鉱石の密度が薄くなってきて丸いドーム状の建築物があるのが見えてきた。
「なんだあの馬鹿でかい建築物は。ここにはあれしかないみたいだぞ」
「あれのためだけにこの地下が存在するのでありましょうか?」
「クックック、僕のミステリックセンサーに反応あり! あれはドワーフの残した秘蔵の炉に違いないよ!」
「炉のようには見えないが……あんなのは見たことも聞いたこともない」
ドワーフのガルレガでさえ何なのかわからない建築物のようだ。
あれがここに鉱石が大量生成されている原因なのだろうか。
他に目指す物が見つからないからその建築物を目指して進んでいたが、それが地図アプリの表示範囲内に入った途端赤い点が表示された。
建築物の前には少し開けた空間があり、そこに赤い点の主が佇んでいる。
それは艶やかな銀色の光を放つコロッサス。
今までのパターンからして予想ができるが、ステータスアプリで確認してみた。
――――――
プソイドミスリル 種族:コロッサス
レベル:80
HP:15万
MP:5000
攻撃力:12000
防御力:48000
敏捷:50
魔法耐性:50
固有能力 能力低下抵抗 魔法蓄積
スキル 身体模倣 曇りなき魔法銀
――――――
「うげっ……やっぱりミスリルになったコロッサスだな」
「強敵には違いないでありませんが、迷宮の最深部にいる魔物としては物足りませんね。もしや複数体隠れていたりしませんか?」
「いや、地図アプリを見る限り1体しかいないぞ。この階にいる魔物自体あいつだけだ」
「今まで戦ってきた魔物の種類的に、トレントのような擬態する魔物もいないわよね。フリージアとマルティナはどう?」
「んー、隠れてる魔物はいないんだよー」
「友達にも探してもらったけど見当たらないね。あのコロッサスが迷宮の主ってことでいいのかな?」
「迷宮は何が起きるかわからないのでありますよ。完全に制覇するまでは用心するべきなのであります」
地図アプリを見ても他に魔物の反応がないし、フリージアとマルティナが確認したのなら周囲に魔物が隠れている可能性はかなり低い。
だけどノールの言う様に、迷宮ではどんな現象が起きるか未知数だから警戒は必要だろう。
迷宮なのにボスがこの程度とは思えないから、絶対に何かしら起きるはずだ。
まずは謎の建築物に近づくためにプソイドミスリルを倒さないといけない。
こいつの身体模倣ってスキルは、上の階にいたプソイドゴールドの形状コピーと似た能力だと思う。
なので屈辱ではあるが俺が模倣されるために、先頭に立ってプソイドミスリルに近づいた。
予想通り即座に反応してこっちを向くと、グニャグニャと体が変形し始める。
そして俺の姿に変わる……かと思いきや、その姿は予想外の物だった。
全身に甲冑を身に着けて剣と盾を持ち、被っているヘルムからは長い髪が伸びている。
そう、その姿はノールだ。
「えっ、私の姿になったのでありますよ!?」
「う、嘘だろ!? 俺が先頭にいるのにどうして……」
「金のコロッサスと変化条件が違うようね。一気に危険度が跳ね上がったわ……」
「どどど、どうしよう!? ノールちゃん強いんだよ!」
「さすがに面倒とは言ってられない。やるぞ」
俺達の驚きを他所にノールの姿に変化したプソイドミスリルは、コロッサスとは思えない速度で駆け出した。
慌てて俺達も戦闘態勢に入って陣形を組んだ。
「ノールとルーナの2人で迎撃してくれ! ノール相手じゃ俺はボコられるからセンチターブラで援護する!」
「了解でありますよ! 自分には負けないのであります!」
「やれやれだ。任せろ」
「頼んだぞ。マルティナもメメントモリを使って援護してやってくれ。デバフは入りにくいだろうけど、少しでも能力を低下させれば十分だ」
「いいのかい? ガルレガさんが驚きそうだけど……」
「大丈夫だ、何かあっても俺が説得するさ」
ここまでマルティナのアンデッドを堂々とガルレガさんに見せてないけど、この緊急事態じゃそこまで出し惜しみしている場合じゃない。
俺の言葉を聞いたマルティナは頷くと、少し前に出てから紫色の靄を放出し始めた。
その中から待ってましたとばかりに、盾を持つメメントモリが3体姿を現す。
案の定それを見たガルレガは驚きの声を上げている。
「なんだあれは!? 新手の敵か!」
「安心してください。あれはあの子が操っている存在なので味方です」
「味方のように思えない凶悪な風貌だが……まさか魔導具で作ったゴーレムなのか?」
「あー、まあそういう感じです。私達を守ってくれる盾役なんですよ」
コロッサスよりもメメントモリの方が、黒い骸骨で凶悪な見た目をしているからなぁ。
初見なら敵と勘違いしちゃうのも仕方がない。
でも、既に俺達の非常識さに慣れたのもあって、ゴーレムと勘違いしてくれたようだ。
これで負の力がどうとか説明したら混乱するだけだからな。
戦闘準備も整い向かって来るプソイドミスリルに、ノールとルーナとメメントモリ3体が立ち向かう。
牽制としてまず俺がセンチターブラとフリージアが矢を放つが、剣の一振りでセンチターブラは粉砕されて、矢も軽々と弾き飛ばされる。
勢いが止まらずついに接触する距離まで近づくと、まずはノールがプソイドミスリルと剣を交わした。
何度も剣を打ち合うが有効打はなく剣の腕前は互角に思える。
その隙を見てルーナが背後から槍を突き出すが、プソイドミスリルは盾で防いでから滑り込むように彼女に斬りかかった。
ルーナは難なくそれを避けて頭に向け槍を突き出すが、僅かに頭を動かしてそれも避けられて盾で殴り付けられて吹き飛ばされる。
ノールとルーナを相手にしながらあんなに攻撃ができるなんて、本当にノールの身体能力とかを模倣してるようだ。
プソイドミスリルが更に追撃を加えようとしたが、すかさずメメントモリ達が間に入り込んで進行を阻む。
メメントモリ達が盾で攻撃を受け止めると、あまりの威力に体が跳ね上がりマルティナまで顔をしかめていた。
だが、お返しとばかりに3体から紫色のオーラが発生してプソイドミスリルを包み込んで、ガクッと動きが遅くなる。
それに乗じてノールが斬りかかると、反応が遅れて防ぐことなく体を斬り付けた。
ミスリルの肉体にノールの剣じゃ掠り傷程度しかできなかったが、プソイドミスリルはあからさまに動きが鈍くなる。
マルティナのデバフに加えてノールのレギ・エリトラの行動速度低下を食らえば、能力低下抵抗があったとしても抗えないようだ。
動きの鈍ったプソイドミスリルをノールとメメントモリで包囲しつつ、エステルの魔法でも攻撃を加えていく。
そしてある程度削ったところで、ルーナが跳び上がり頭上から赤い光を纏った槍を突き刺した。あれはカズィクルを使った一撃だ。
槍は頭に突き刺さりプソイドミスリルは、上半身からバラバラに砕け散って光の粒子になり消滅していく。
「ルーナ! ナイスでありますよ!」
「ビクトリーだ」
ノールとルーナはハイタッチをして勝利に喜ぶと、俺達の方に戻ってきて一息吐いた。
「ふぅー、何とか無事に倒せたでありますね。マルティナのおかげで戦いやすかったのでありますよ」
「うむ、助かった」
「ふひ!? と、友達が頑張ってくれたおかげですよ! ファニャさんとヴァラドさんお見事でした! ふひひひひ……」
マルティナは体をクネクネとさせて気持ち悪い動きをしながら、更に気味の悪い笑い声を上げている。
ノール達の補助ができたのがよっぽど嬉しかったのか……。
「それにしてもノールの姿になったのはなんでだろうな? それでも問題なく倒せたからよかったけどさ」
「模倣対象がランダムになったのか、強さをある程度把握して決めたのかもしれません。ミスリルでも装備までコピーされなかったので、その差だけでもこちらが有利でしたね」
「でもよくよく考えてみれば、相手は体がミスリルで武器や防具もミスリル製なのよね。ミスリル以上の装備の私達だから勝てるってだけで、普通だったら勝つのはかなり難しい魔物だわ」
「あれが1体だけでよかったのでありますよ。もし複数体いたら、私もスキルを使わないと厳しかったのであります」
言われてみればプソイドミスリルは全部がミスリル装備みたいなもんだから、普通の冒険者とかが対峙した場合はとんでもない強敵だ。
さっきの戦いを見ると剣の腕前や反応速度はノールと同等だったし、魔物のステータスのまま技能を模倣してくるとか脅威でしかないぞ。
ノールとルーナも最初は出し抜かれていたから、メメントモリがいなかったらかなり苦戦させられたはずだ。
本当にあれが複数体いなくて助かったなぁ……。
あれだけ強いなら良いドロップアイテムがありそうだと思ったが、やはりプソイドゴールド同様に何も落ちていない。
残念に思いつつ改めて周囲を確認しても他に魔物はおらず、安全を確保してからドーム状の建築物に近づいた。
「ガルレガさん、これが何なのかわかりますか?」
「うーん……どうやら土の精霊術の反応があるな。地脈に干渉をしているようだが……それ以外の力も加わっているようだ」
「魔力も感じるから魔法も混ざっているようだわ。迷宮化の影響で機能が低下してそれほど活動してないようだけれど、力を吸い上げて集めている感じかしら」
「この状況を推測すると、地脈から力を吸い上げてあの謎の鉱石を生成しているのかな。それならこの階が鉱石だらけなのも説明がつくよ」
「鉱石生成装置ってところでしょうか。ドワーフにとって金属は重要な物ですから、好きなだけ生成できるなら最重要施設なのも納得です。ですが精霊術はまだしも、これほど高度な魔法まで扱えたのは疑問ですね。外部から協力があった可能性も考えられますよ」
「魔法に関しては我々はそれほど高度な知識を持っていない。その可能性は高そうだが……そこまで密接な関係のあった種族はいないはずだ。よく取引をしていた人間でさえ、稀にステブラへ招く程度だったと聞いている」
土の精霊術と魔法が組み合わさった謎の建築物か。
中に入る扉や窓とかもなくて、中に何かあるのかもわからない。
マルティナの予想した地脈から力を吸って鉱石を作る施設の可能性が高いけど、そんな物が作れる技術があったのは驚きだな。
ガルレガの話を聞いた限り外部が協力したのなら、1番関係のありそうな王国が関わっていそうだが……また更に謎が深まり始めたぞ。
とりあえず謎の施設のことは置いておいて、俺はある物を探すために周囲を見渡す。
すると施設の影の隠れてひっそりとスマホを設置する台座があるのを発見した。
「おっ、台座があったぞ。これにスマホをかざせば迷宮攻略だな……」
「平八、キョロキョロしてどうしたのー?」
「いや、こんなあっさりと攻略できると思ってなくてさ。プソイドミスリルもボスにしてはそこまで強くなかったし」
「活性化していない迷宮ならこんなものじゃない?」
この前の攻略した精霊樹の迷宮と比べると、魔物の湧く頻度もボスの強さも比較にならないほど難易度に差がある。
エステルの言う通り外に異変が起きる程活性化してない迷宮だからかもしれないけど……この台座にスマホをかざせば迷宮攻略になるのだろうか。
「問題は攻略をした後だけれど、お兄さんは何か考えはあるかしら?」
「ああ、ここがいつ崩壊してもいいように女神の聖域は準備しているぞ。生き埋めになったとしても効果時間の間に何かしら対策はできるはずだ」
「そうね。迷宮化が解ければ私の魔法でも何とかなるし、ドワーフさん達なら地中の対処はお手の物よね」
「よくわからんが穴を掘ったりするなら任せてもらおう。土の精霊の力を借りれば生き埋めにされても対応はできる」
「よし、それじゃあいくぞ」
迷宮攻略後の崩落に備えつつ、俺は息を呑みながらスマホを台座にかざした。
【迷宮達成報酬:魔石500個、プレミアムチケット×2、SSRコストダウン×2、SSRスキルアップ×2】
スマホに迷宮攻略の表示がされると、台座は光の粒子になって消滅した。
それと同時に迷宮化した証である緑色に光る壁の侵食がみるみると変化していき、床や天井が白色になっていく。
いつ崩落が来るのかと地響きを身構えていたが、しばらくそのままジッとしていても何も起きない。
……あ、あれ? もしかして本当にこれで迷宮攻略達成なのか?




