宮殿地下1階
宮殿の地下へ続く階段を下りると、そこには地上部分と打って変わって煌びやかとは程遠い空間が広がっていた。
壁には模様などなく迷宮化していてもわかるほど簡素な造りで、中央に広い通路が奥まで続いていて、その左右に同じ大きさで区切られた部屋がいくつも連なっている。
罠や何かしらのギミックの類も一切なくて、まさに物を保管するためだけに存在するかのような空間に思えた。
「ここが地下1階か。何というか上よりも殺風景な造りだな」
「保管庫って話だし、誰かに見せる為じゃなくて機能性を優先しているんだと思うわ」
「どんなお宝があるのか楽しみですねぇ。1つ残らず根こそぎ回収しましょう! ヒャッハーの時間です!」
「ヒャッハー! お宝なんだよ!」
「ククッ、探索の末に宝物を入手するのは醍醐味! 本やカッコいい物があったら嬉しいなぁ!」
「私もドワーフ製の装備は興味があるのでありますよ。訓練用にいくつか揃えたいでありますね」
「うむ、楽しみだ。売って寝具を買おう」
「なんと欲深い……冒険者というのはお前らみたいなのばかりなのか?」
ガルレガが沸き立つシスハ達を見て呆れた目を向けている。
冒険者が全員こうだと思ってほしくはないけど、お宝が眠ってる昔の建物に来たら興奮するのも仕方がない。
今すぐにでも物色したい欲を抑えつつ、周囲の安全を確認しながら保管庫内の探索を始めた。
「おー、保管庫って話は本当だったみたいだな。色々な物が置いてあるぞ」
「何かわからないけれど材料も保管されているわね。採掘してきた物をここに仕舞っていたのかしら」
「金属の棒はわかるでありますが、粉も大量にあるでありますね。どうやって使うのでありましょうか」
区切られた部屋の中には棚などが設置されていて、金属の棒や箱に入った謎の粉などが置かれている。
それ以外にも様々な物が綺麗に保管されており誰にも荒らされた形跡がない。
地下に入る扉も閉ざされたままだったし、この様子なら200年前に地下都市が襲撃を受けてから誰もこの中に入ってはいないようだな。
魔人がここに気づかなかったのか、扉を開けられなかったのか、そもそも目的はここじゃなかったとか様々な理由が考えられる。
……うん、考えたところでよくわからん。
今は中身が残っていたことを喜んでおこう。
フリージア達もさっそく物色して騒いでやがるしな。
「わー、見て見て! この首飾り綺麗なんだよ!」
「ほほお、悪くありませんね。宝石なども加えたらもっと値打ちが上がりそうですよ」
「ふむ、惹かれる物がある。ドワーフは凄いな」
「クックック、本も沢山あるじゃあないか! うーん、これは何かの設計図かな……作ってるところ見てみたいなぁ」
フリージアやシスハは喜々として金属製品を吟味し、ルーナもがっつきはしないものの興味を示している。
こうやって見ているとショッピングで浮かれる女の子みたいで微笑ましいなぁ……現実は保管庫荒らしなんだけどさ。
一方マルティナはどこかにあった本を見つけてきたのか目を輝かせて読んでいる。
重要な書物はここに保管されていたのか。
ドワーフ的には装飾品とかよりも本の方が価値がありそうだぞ。
ガルレガがどんな反応を示しているかチラッと目を向けると、彼は本よりも棚に置かれた1本のインゴットを見ていた。
「こ、これは……」
「ガルレガさん? その金属の棒がどうかしたんですか?」
「もしかしてミスリルのような凄い金属でもあったの?」
「……いや、これはただの金のインゴットだ。だが、普通の金ではないようだ」
「むむ、一体何を言っているのでありますか? ただの金なら普通の金でありましょ?」
「上手く説明できないのだが、その辺にある鉱石や魔物の落とした物などから作られた金ではないということだ。何か違和感がある」
なるほど、よくわからない。俺から見てもただの金の延べ棒にしか見えないぞ。
ノールやエステルも金の棒を見てもよくわからないのか首を傾げている。
だけど金属の専門家であるドワーフのガルレガは、理由はわからないものの首を傾げてやはり何かを感じているらしい。
鉱石でもなく魔物のドロップ品でもない金か……確かに気になるな。
けど、それが何か問題があるとも思えないし、別にそんなに調べる必要もないだろ。
金は金、それ以上でもそれ以下でもないってやつさ。
それからも保管庫の中を物色していったが、特にこれと言った珍しい物は見つからなかった。
……価値のありそうな金属加工品はめちゃくちゃ手に入ったけどさ。
「武器や防具とか色々とあったのに、ミスリルみたいな貴重品は1つも置いてないな」
「保管庫と言う割には驚くほどの値打ち物は置いてませんね。まあ、保存状態も悪くありませんし根こそぎ持っていきますか」
「おいおい、いくら荷物が入るからって全部持っていく気かよ。本当に強欲だな」
「強欲とは人聞きが悪いですね。ずっと放置されていた物の有効活用と言ってください。ガルレガさん、構いませんよね?」
「あ、ああ……運び出せるなら頼みたい。俺だけではここにある物は殆ど持ち出せないのでな。それに先祖の残した物だ、できるだけ回収してほしい」
「だ、そうですよ。うふふ、私の考えは間違っていなかったでしょう」
シスハはビッと親指を立てて得意げな顔をしている。
いや……うん、確かに正しい判断ではあるけどさ……神官のお前が言うと何かがおかしいと感じてしまうんだが。
そう思いつつもシスハの提案に従って、値打ち物とか関係なしに袋に詰め込んで仕分けをしつつ、部屋を次々と回ってマジックバッグに保管庫の物を回収していく。
その途中、中央通路に赤い反応が現れたので確認をしてみると、それは地下都市の町中にいた槍を持ったメタルコロッサスだった。
こんなところにもちゃんと魔物が湧いてやがるんだな……。
ここの魔物は見た目だけだと同じ奴かわかりにくいし、念のためステータスを確認しておくか。
――――――
プソイドメタル 種族:コロッサス
レベル:60
HP:2万4000
MP:500
攻撃力:5000
防御力:5500
敏捷:150
魔法耐性:50
固有能力 ハイパーアーマー 生体感知 武装化
スキル 縮地 警戒音波 打撃強化
――――――
「ん? なんだ、あいつちょっと普通のコロッサスと違うぞ」
「ステータス的にはメタルコロッサスと同じよね? 違うのは名前だけじゃない」
「保管庫にあった金属の影響でも受けたのでありましょうか。地下都市に湧く魔物はよくわからないのでありますよ」
ガーゴイルではあるけど、今までの傾向的に地下都市の魔物は近くにある鉱物の影響を受けて湧いている可能性が考えられる。
そうなるとこいつは保管庫内の金属の影響を受けていそうだけど、普通のメタルコロッサスと比べて強い訳でもないし問題もないか。
当然コロッサスは処理……などせず、中央通路は無視してディメンションホールで区切られた部屋と部屋を移動して回る。
他にも複数のプソイドメタルがいたけど戦うこともなく、保管庫内の物を手当たり次第に回収し終えて次の階へ降りる扉にご到着。
「この階は何というか、ボーナスステージみたいな感じだった」
「お宝沢山手に入ったね! 後で見るのが楽しみなんだよ!」
「忘れられた宝物庫を漁るのはいつでも快感が伴うものさ。僕もよく偉人達が残した遺跡を探索したものだよ」
「それって要するに墓荒らしですよね。なんと罰当たりな方なのでしょうか。やはり私の手で粛清をしなければ……神官ですからね」
「ちゃ、ちゃんと本人達に許可は取りましたよ! 代わりにお願いを聞いたりしてましたし!」
「うふふ、冗談ですよ冗談」
ニッコリと笑うシスハにマルティナは冷や汗を流している。
本人に許可を取るっていうのは、墓に眠ってる人のことだよな?
物を持ち出す代わりに願いを聞くとは、死霊術師ならではの方法か。
それなら後で呪われる心配やら後腐れなく持ち出せる。
一体どんな願いを叶えてきたのか後で聞いてみようかな。
そんな会話を気にしつつも、俺達は地下2階へと降りるのだった。




