いざ宮殿へ
ミスリルの採掘を終えて再びステブラの町中に戻った。
大量のミスリルを手に入れたことで、ガルレガは上機嫌そうに笑っている。
「がはは、少なくなっていたとはいえあれほどのミスリルを確保できるとはな! これだけでも遠征の成果としては十分だ! これで堂々と帰還ができるぞ!」
「確保したミスリルの3割は私達の物というのを忘れないでくださいね」
「くっ、わかっている! 神官というのになんと抜け目ない……。もっと施しの精神を学んだらどうだ?」
「それはそれ、これはこれですよ。慈善活動で迷宮探索をしている訳じゃありませんしね」
悔しそうな顔をするガルレガに対して、シスハは口端を吊り上げてあくどい笑みを浮かべている。
会って間もない相手にすら神官なのか疑われてやがるぞ……。
だけど、シスハの提案のおかげでミスリルが手に入るんだから感謝しておかないとな。
ミスリルの確保も達成したので、次の目標である宮殿に向けて移動を始めた。
「それにしてもここは迷宮を探索しているって感じがしないわね。精霊樹の時に比べたら観光している気分だわ」
「あっちは魔物の襲撃が多かったでありますからね。建物で隠れられるでありますから、普段の狩りと比べても戦闘が少ないのでありますよ」
「隠れんぼするのもワクワクするよね! 見つからないかハラハラするんだよ!」
フリージアはこうやって隠密行動をしてても、小声で笑いながら楽しそうにしている。
魔物に見つからないか俺は神経を尖らせているというのに、お遊び気分で困っちまうぜ。
まあ、エステルの言う通り他の迷宮に比べると戦闘も少なくて緊張感には欠けるけどさ。
宮殿へ向かう途中、他のドワーフの長から頼まれたという用事も済ませることにした。
ガルレガの持つ地図には彼らの先祖などが住んでいた家も記されていて、そこに回収して貰いたい物品があるそうだ。
多少の回り道をしつつその建物に立ち寄り、壁や地面に埋め込まれているという箱を探すことにした。
結構時間がかかるかと思いきや、探し始めてすぐにマルティナが壁を指差しながら声をかけてくる。
「見つけた。ここに多分埋まっていると思うよ」
「どれどれ……おっ、本当にあったぞ」
ディメンションホールで穴を開けると、壁の中に鍵のかけられた箱が埋まっていた。
地下都市に来て最初に見つけた、ガルレガに渡したハンマーの時と同じ感じだな。
「迷宮化しているのに地面に何か埋まっているかわかるなんて、マルティナの勘って凄いわね」
「クックック、壁や床に何かあると違和感があるのさ。常に何か仕掛けられてないか警戒していたから、隠された物を探すのはこれの応用さ」
「私にも全くわからなかったでありますけど、一体どんな過ごし方してたらそうなるのでありましょうか……」
マルティナは自慢げに笑っていたが、それを聞いていたノール達は何とも神妙な面持ちをしている。
こいつのトレジャーハント能力は、罠とか回避する警戒心で得た賜物ってところか?
罠を仕掛けられる日常とは一体……。
それからも複数の建物を探索し、同様の箱を地面などから発掘していき全て回収し終えた。
「これで他の族長に頼まれていた品物の探索も完了だ。本当にお前達に同行してもらえて助かったぞ」
「どこも地面や壁に物を埋めていたけど、ドワーフってそうやって物を保管するのが流行っていたの?」
「精霊術を使えば簡単に埋め込めるからな。家の中で他人が力を使えば即座にバレて残滓も残るから、今でもよく使われる手法だ。たまにどこに埋めたか忘れることもあるのが難点だ、がはは!」
埋めた場所忘れるって笑いごとじゃないだろ!
……まあ、よく地面に埋めるタイムカプセルとかも見つからなかったりするし、似たようなものだろうか。
無事にサブ目標だったドワーフ達の品物を回収し、最大の目的地である宮殿へ到着した。
と言っても、まだ宮殿本体に辿り着いた訳ではなく、周囲にある広い平地に着いただけだ。
宮殿は豆粒ほどに見える離れた場所にあり、その周辺は家などの建物は殆どない。
弩が取り付けられた大きなやぐらがあり、その上には二足歩行のガーゴイルがいて辺りを警戒している。
平地にはコロッサスがかなりの数うろついていて、空中にもガーゴイルが複数飛び回り見回っているようだ。
「ここが宮殿か……周りに建物がないから隠れて進めなさそうだな」
「それにやぐらまであるでありますね。大型の弩まで付いているのでありますよ」
「魔物も徘徊していて見つからないように宮殿に辿り着くのは無理そうだわ。大きな戦闘になるのを覚悟しておいた方がいいかも」
「おっ、ようやく本格的戦闘ですか。コソコソと行動するのは性に合っていないので、ようやく暴れられそうですね」
「面倒だ。回避できないのか?」
「守られていてばかりだったが、今回ばかりは俺も役に立ってみせよう」
ガルレガも斧を力強く握り締めて、俺達と一緒にガーゴイルとコロッサスの大群と戦う姿勢を見せている。
うーん、あの数相手に戦うのはできるだけ避けたいけど……隠れて進む場所もないからそれも厳しいか。
ここで大規模の戦いをしたら町中を徘徊している奴らまで集まってきそうだし、軽く三桁の数はいそうな魔物と戦わないといけない。
できれば魔物にバレることなく、迷宮内に侵入してことを済ませたいのだが……あっ、そうだ!
「待った、これぐらい開けた場所なら俺に考えがある。上手くいけば一切戦闘なく宮殿に辿り着けるぞ」
「おお! さすが平八なんだよ! どんな汚い手を使うか楽しみ!」
「おまっ、汚い手とか不名誉なこと言うんじゃねぇ! 戦略的と言え戦略的と!」
「まだそれほど実感は湧かないけど、君がえげつない思考をしてるのは僕もよくわかるよ」
「うむ、平八の卑怯っぷりは感服する」
「おまけに助平八ですからね」
こ、こいつらは相変わらず……てか今は助平八関係ないだろ!
シスハ達の戯言は無視して、俺はさっそく魔導自動車を呼び出した。
急に目の前に現れた車を見てガルレガはまた驚きの声を上げている。
「な、なんだこの物体は? 箱……鉄の箱なのか?」
「乗り物ですよ。馬車みたいな物と思ってください」
「魔導自動車……お兄さん、光学迷彩を使うつもりなのね」
「すぐ気が付くとはさすがエステルだな。こいつに乗り込めば皆で移動できて更に魔物からバレることもない。それにいざって時はタレットとミサイルを撃てば迎撃もできるぞ」
「コソコソ隠れることばかり考えていましたけど、その発想はすっかり抜け落ちていましたね。まさか宮殿の庭を車で走り抜けるとは、ある意味大胆ですね」
「でも音は大丈夫でありましょうか? 走行する時に結構音がするでありますよ」
「その点も心配無用だ。遮音装甲と遮音タイヤを追加しておいた。これなら相手にぶつからなければ、光学迷彩中は気が付かれることもない」
隠密性能を高めるために遮音装甲と遮音タイヤを追加したが、これで光学迷彩をすれば外部からは感知するのは至難の業だろう。
遮音装甲はエンジン音や内部からの音は勿論のこと、車体に石などが当たっても音がしなくなる。
遮音タイヤは走行時の音を全て吸収して、地面との摩擦音などがなくなるようだ。
合わせて魔石50個ほど消費してしまったが、これさえあれば更に移動時に俺達の存在がバレる心配はなくなる。
未だ困惑するガルレガをなだめつつ、さっそく全員で魔導自動車に乗り込んだ。
「一応シートベルト付けておけよ。緊急時には脱出機能を使って車外に出るから、準備もしておくんだぞ」
「車は好きだ。楽でいい」
「車乗るの楽しいんだよ! タレットも撃ちたい!」
「う、運転手が君でよかった……僕だったらこんな状況で運転なんて、緊張で体が震えちゃうよ」
当然運転手は俺でガルレガは助手席に座らせ、一応非常時のことも考えてノール達には後部座席でタレットやミサイルを操作する準備をしてもらう。
「それじゃあいくぞ」
準備も完了して俺はアクセルを踏み魔導自動車を発進させた。
動く音も一切ないほどの静穏性を保ちつつ、宮殿の庭を魔導自動車は駆け抜ける。
かなりの速さで動く風景を見てガルレガはキョロキョロと頭を動かして驚愕していた。
「本当に動いたぞ!? どうやって動いているんだ!」
「魔導具の乗り物と思えばいいわ。魔力を動力にして動いているのよ」
「魔力を動力に……こ、これもお前らしか持っていないのだろう?」
「はい、私達しか持っていない物なのでご安心ください。こんなのがそこら辺を普通に走ってたら恐ろしいですよ。それに壁に穴を開けるのに比べたらまだ理解もできる物のはずですよ」
「……それはそうか」
今までのことを思い返したのか、驚いていたガルレガも落ち着きを取り戻した。
ディメンションホールに比べたら、自動車ぐらいならまだ驚きも少ないようだ。
動く方ばかりに気を取られて、なんで魔物が襲ってこないのかよくわかっていなさそうだけど。
ある程度理解できる物なら凄さもわかるけど、全く理解不能な物になるとそもそも何が起きてるかすらわからないよな。
まさか自分が乗ってる乗り物が、透明化して無音で走ってるとは夢にも思わないだろう。
今も警備しているコロッサスの横をサラっと素通りしたばかりだ。
「真横を通っても魔物も全然気が付いていないのでありますよ。魔導自動車はやはり便利でありますね」
「インビジブルマントでさえ気づかれないから、ここの魔物に透明化は有効のようだわ」
「こんなところで活用できるとは、魔導自動車を入手しておいて正解でしたね」
「うむ、このままずっと乗っていたい」
「あはは、乗ってるだけでも楽しいんだよ!」
「こう正面から堂々と突っ切るのは何だか不思議な感覚がするよ。小賢しい手ばかりかと思えば、こんな大胆な発想もできるんだね」
「悪かったないつも小賢しい発想してて!」
そんなやり取りをしつつ、俺達は魔物が蠢く広い庭を魔導自動車で突き進むのだった。




