仲間のいない日
「今日は休みにするか」
「どうしたんでありますかいきなり」
「狩りに行かなくてもいいの?」
Dランクに昇格をした翌日。朝食を終えた後今日はどうしようか決めようとしていた。
そこで俺は休みにしようと提案をする。
「ん? あー、ノール達もずっと休みなく狩りしてきたろ? だからそろそろ、休みが欲しいかと思ってな」
ガチャの為に北の洞窟での狩り。そして昨日のフロッグマン狩りまでほぼ休み無しで狩りをしている。
なかなかにハードな毎日を過ごして来た気がするぞ。
ここまで一緒に来てくれた彼女達には休みが必要だろう。
「そうね。お兄さんが良いって言うならそれもいいかしら」
「むー、お休みを貰えるのは嬉しいのでありますが、特にやることもないのであります」
そういえば今まで彼女達とずっと一緒に行動して、個人的なことをさせていなかった。
いきなり休もうと言っても何をするのか思いつかないか?
「せっかく女の子2人になったんだから、買い物にでも行ったらどうだ? ほら、これ持って行っていいから」
俺は鞄からあらかじめ用意しておいた袋を手渡す。
彼女達はなにかと首を傾げながら受け取ると、袋を開いて中身を確認した。
「金貨5枚……50万Gでありますか!? こ、こんなにいただいても……」
「お兄さん、大丈夫? 熱でもあるんじゃないの?」
中に入れておいたのは金貨5枚だ。50万Gあればとりあえず十分だろう。
熱でもあるんじゃないかとエステルが俺の額に手を当ててくる。失礼じゃないか。
「いや、皆で一緒に稼いだ金だしさ。足りなくなったらまた渡すけど、無駄遣いはするなよ? ノールは特に食い過ぎとかに注意しろよ」
今までは一緒に行動してきたので金を個別に分けたりはしていなかった。
しかし彼女達も自分の鞄を手に入れたことだし、そろそろ自分だけでも使えるお金を配分した方が良いと考えていた。
ノールに渡すと食べ物勝手にバンバン買ってきそうなんだよなぁ……。
「わ、私大食いなんてしないのでありますよ! 大倉殿は失礼でありますね。全く、私をなんだと思っているでありますか」
「お、おう……」
少しムッとした感じで彼女は反論してきた。
うん、全く信用できないぞ。まあエステルと一緒ならそこまで買い食いはしないだろう。
「それじゃあお言葉に甘えて今日はお休みにしましょうか。お兄さんは一緒に来てくれないの?」
「俺がいたらいつもと一緒じゃないか」
たまには俺と一緒じゃなくて女の子だけでキャッキャッするのもいいだろう。この2人仲も良いみたいだし。
「ふーん、お兄さん1人になりたいの? ……あっ、そういうことね」
「ん?」
「ふふ、たまにはお風呂以外の場所でもやりたいものね?」
「何をお風呂以外でやるのでありますか?」
ニヤけながらエステルが何かを察したようだが、見当違いだ。勘弁して。
ノールは首を傾げて不思議そうにしている。多分わかっていないな。
ノールはそのままのノールでいてくれ。
「ち、違うから! あー、ほら、これ持っていけ。何かあったら連絡するんだぞ」
とりあえずトランシーバーを渡しておく。これそこそこ大きいから、鞄無い時に渡せなかったんだよな。
「宿は今日の分借りてあるからいつでも戻ってこいよ」
既に今日の分の宿も借りているのでいつ帰ってきても大丈夫だ。
鍵は受付の人に言えばもらえるようには言っておいた。
●
彼女達を送り出して、俺は1人部屋へ戻ってきた。
「ふぅ、久しぶりに1人だな……」
この世界に来て1ヵ月以上は経過しているだろうか?
初日にノールを召喚してからずっと彼女と過ごして来た。
なんだかんだで1人になるのはここに来てから1度も無かったんだな。
そう思うとなんだか急に寂しくなったきた。
「よし、行くか」
うん、今日は用事もあるし思い返している場合じゃないか。
俺はバッグから例の物を取り出して袋に詰め替える。あいつと約束した取引があるのだ。
●
「すいません」
多分あいつがいるであろう冒険者協会にやってきた。
探していると丁度ウィッジちゃんが目の前を通りかかったので声をかける。
「あっ、大倉さん。なんだか大きな荷物持っていますね……まさかまた討伐証明ですか!?」
「あっ、いえ、違いますよ。今日はパーティが休みなんで別の用です」
「そうなんですか……そういえばいつもの騎士の方と魔導師の子がいませんね」
「それよりも、今日はディウスさん来ていますか?」
そう、ディウスとスティンガーの甲殻を渡す約束をしていたのだ。
90枚を袋3個に分けて持ってきた。それを持ち歩いているのだから、今の俺は随分と力が上がっているな。
「ディウスさんでしたらあちらの方にいらっしゃいますよ。それじゃあ大倉さん、近い内にCランク昇格お願いしますね~」
彼女は奥の方を指差して俺に教えると足早に受付へと戻っていった。動くと大きな2つの物がぶるんぶるんしている。
「ディウスさん、どうも」
「あっ、大倉……さん」
教えて貰った方へと行くと、ディウスが椅子に座っていた。
近づいてディウスに声を掛けると、前と同じように若干耐え難いようにさん付けで呼ばれる。
逆に話し辛いわ!
「あんまり無理にさん付けなくてもいいですよ。嫌でしょう? もっと気楽に話してください」
「ん、なら普通に戻すとするよ。あなたも普通の口調にしたらどうなんだ?」
「そんなに変ですか?」
「正直言うと気味が悪い」
「くっ、ここでもか。なら普通に話させてもらう」
くっそ、またこれか。一体俺の口調のどこが気持ち悪いというのだ。
あっ、俺がさっきこいつに感じていたような奴か? それなら分かるかも。
「あれ? 今日は1人なんだね。エステルちゃんとかはどうしたんだい?」
「2人には休んでもらった。最近毎日のように狩りに連れ出していたからな」
いつものようにエステルに声をかけようとしたのか、俺の後ろ辺りを確認している。
いないことがわかると若干残念そうな顔をしたな。
「それにしても、あなたも随分装備が変わった。なんと言うか……さらに怪しくなった」
「人が気にしていることを言わないでくれ……」
聖骸布を纏いさらにグレードが上がったが、気にしていることを言われると傷つくぞ。
「それで、その後ろの物が例の品かな?」
「あぁ、数は90枚でいいんだよな?」
「これをあなた1人で持ってきたのか……」
「ん? そうだけど」
俺が背負ってきた袋を見てディウスはなんか顔が引きつっている。
どうかしたのか?
「すまないが一緒にガンツの装備屋まで運んでくれないか? 僕じゃこんなのとても運べない」
「あっ、そうか。すまない、すっかりそういうの考えてなかった」
「あの2人の印象が強すぎて埋もれていたけど……あなたも十分異常なんだな」
あの2人といると俺の感覚まで狂ってくるな。少し前まではこんなの持ったら潰れていたはずなのに。
装備が良くなったからというのもあるか。
●
「そういえば、Dランクに上がったみたいだね。おめでとう」
「なんだか気味が悪いな……ありがとう」
俺は彼と2人でガンツの装備屋へ行くことにした。
1袋持つのが限界みたいで、残りの2つは俺が運んでいる。
その途中に俺のプレートを見てランクが上がったことに気が付き祝いの言葉を貰う。
なんだ……こいつが言うと気持ち悪いぞ。
「このままBまで目指すのかい?」
「あぁ、そのつもりだ。その上のAまで行こうかと思っている」
「そうか……頑張ってくれよ。僕達も目指してはいるけど、まだまだ先は長いよ」
「はは、エステルは渡せないが頑張ってくれよ」
「全く、あなたが羨ましいよ。あんな2人どこから探しだしてきたんだか」
なんだか久々に男と軽い感じで話した気がするぞ。こいつ中身は意地っ張りな奴だが、案外話すと普通なのか?
確かにあの2人なら一体どこから引っ張ってきたのか気になるだろうな。ガチャの中からだから言えないけど。
「聞きたいことがあるんだが、この前の戦いの時ソニックブレードっていうの使ってたよな? あれってどうやって使えるってわかったんだ?」
「ん? 何を言っているんだ? 技持ちの人間なら普通にわかるだろう?」
ついでに前に気になったことを聞くことにした。ディウスが持つスキルのことを自覚できたのは何故かということ。
しかし返ってきた答えはよくわからないものだった。さも当たり前かのように言われたぞ。
●
「ただいま帰りましたのでありますよ!」
「ただいま、お兄さん」
「おう、楽しんできたか?」
ディウスからスティンガーの甲殻の代金を受け取り俺は先に戻っていた。
しばらくして彼女達が帰ってきたが、テンションが高く随分と楽しんできた様子だ。
「はいなのでありますよ! はぁ~、あの店のお菓子美味しかったのでありますぅ。これ、大倉殿へのお土産なのであります」
「おっ、ありがとう」
凄く気の抜けた声を出している。そんなに美味い物を食ってきたのか。お菓子とか言ってるし甘い物が好きとか?
ノールからお土産としてビスケットのような物を受け取る。
なんだ、お土産とかちょっと嬉しいじゃないか。
「バッグのおかげで買い物も楽だったわね」
「そうでありますな。さすが王都、色々な服が有ったのであります」
やっぱり服とか買いに行っていたのね。
2人がどんな服を着るのかちょっと楽しみだな。
「ねぇ、お兄さん。これとかどうかしら?」
「そ、それは……!?」
「エステルの言うとおり、本当に反応してるでありますね……」
エステルが取り出したのは、白のエプロンに黒い服。さらにはミニスカート。完全にコスプレ的なメイド服だった。
な、なんということだ……この世界にそんな物があるなんて。
これからこの2人に色んな服を着てもらえるのかと想像すると、なんだかやる気が湧いてきた。




