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不壊の壁

 ガルレガ達との交渉も終わり、さっそく俺達は廃墟となった地下都市ステブラに向けて移動を始めた。

 既に来た道なので俺達が先を進んで行く中、地図アプリに赤いアイコンが表示された途端にフリージアが声を上げる。


「あっ! 魔物発見!」


 俺が何か言う間もなくフリージアは一瞬で複数の矢を放ち、まだ視認できていない距離にいる魔物を射抜く。

 バキンと矢が当たったと思えない鈍い音と何かが倒れる音が聞こえた。

 少し進むとそこには無残に上半身がバラバラに砕け散り、下半身だけ倒れているコロッサスの姿があり細かく砕けた部分から光の粒子になっていく。

 それを見てフリージアは親指を立てて自慢げにしている。


「めいちゅーう! やったね!」


「フリージアさんは凄いよ! コロッサスでも瞬殺だね!」


「えへへ、魔物を狩るのは任せて! やっぱりシャバで動けるっていいね!」


「ふむ、楽でいい。やはりフリージアは必須だ」


 ディメンションルームに隔離していたせいで、フリージアがいつも以上にはっちゃけていやがるな。

 ……いや、いつもこんな感じだったか?

 マルティナとルーナがそんなフリージアを褒めたたえる中、コロッサス瞬殺劇を見ていたガルレガ達は目を丸くして騒いでいた。


「あのエルフは化け物か!? コロッサスを矢で倒したのか!?」


「あいつらだけじゃなくて、エルフまでこんなに強い奴だったのかよ……。あんなのと私達の先祖は争っていたの?」


「い、いえ……私の知る限りエルフでもあれほどの強者は聞いたことがありません。エルフ達もこの200年の間に何かあったのでしょうか……。そもそも人間と同行している時点で信じられません」


 アガリアはエルフとある程度面識がありそうだけど、今の言葉を聞く限り200年前でもフリージア級の存在はいなかったようだな。

 となると、ドワーフ達の中にもノール達より強い奴はいないと思ってよさそうか。

 人間と同行しているだけで驚かれるって、ドワーフ達の間でエルフの印象はどんだけ酷いんだ。

 俺達が会ったグラリエさん達が偶然友好的だっただけなのか?

 

 そんな騒ぎもありつつ特に問題もなく、カルカ達と出会った崩落した迷宮の壁まで到達した。

 さっそくディメンションホールをぶっ刺して通り道を作り、あっさりと壁の向こう側に移動する。

 俺達が通った後に恐る恐ると言った様子で後に続いたガルレガは、通り抜けると思わずと言わんばかりに叫び出す。


「ほ、本当に不壊の壁を突破できたぞ! どうなってやがるんだ!」


「だから本当だったって言っただろ親父。私の言うことぐらい少しは信じろよ」


 驚くガルレガにカルカが自慢げな顔をして言っている。

 最初見せる時同じような反応をしていた気がするけど……ホント色々な部分で親子なのがよくわかるぞ。

 それよりも不壊の壁という気になる単語を叫んでいたので、それについて質問をしてみた。


「ドワーフの間では迷宮の壁のことを不壊の壁と呼んでいるんですか?」


「そうだ。200年前にステブラを放棄してから、この辺りの地盤は全て緑色に変化しちまった。別の道を作って回り込んだりもしたが、都市を囲むように広範囲に影響が出てやがるんだ」


「長年私達で壁を突破しようと色々試してみたけど、精霊術を使っても傷すら付けたことがないんだ。だからこの壁のことを不壊の壁って言われてるのさ」


 地下都市を逃げてから現在まで、ドワーフ達は迷宮の壁を突破しようと奮闘していたようだ。

 都市を囲むように迷宮が侵食しているんじゃ、いくら地面を掘り進めても絶対に迷宮の壁に阻まれるのか。

 ディメンションホールを持ってないと誰も入れない隔離された空間になっていたんだな。

 エステルの魔法でさえ迷宮の壁は傷すら付かないし、不壊の壁ってネーミングも納得できるぞ。


 不壊の壁というのが迷宮であることをガルレガにも教えて、今までに俺達が同じような場所に何度か行ったことがあると教えた。

 彼は俺達の話を聞いて興味深そうに頷いている。


「ほー、人間達の間では迷宮と呼ばれているのか。ステブラ以外にも同様の現象が起きているとはな」


「王国では1番有名な迷宮が冒険者が素材を採りに行く場所になっていますね。それ以外は突発的に発生するか、誰にも知られない奥地にありました。最近私達が攻略したのはエルフの住む森にあった迷宮です」


「何!? エルフ共の住む森に行ったのか! よくあいつらが人間を森に招きなんてしたな!」


「最初は警戒されましたけど、何とか和解できましたので。それに迷宮が原因でエルフ達が危機に晒されていたんですよ」


「へー、迷宮っていうのはそんな危険なもんなのか。そういえば昔は地下に魔物なんていなかったらしいな」


「はい、お嬢や長は知らないと思いますが、当時はステブラの周囲に魔物などいませんでした。魔物といえばせいぜい地上に狩りへ出る時に遭遇する程度でしたね」


 やっぱり昔はガーゴイルやコロッサスは地下で湧いてなかったのか。

 俺達が入って来た坑道も、ステブラが迷宮化したのと同時に魔物が湧くようになったと思ってよさそうだな。

 そんな魔物が徘徊して危険な地下都市にわざわざ遠征するなんて、具体的な目的が気になるぞ。


「ガルレガさん達はどんな目的でここに遠征をしているんですか?」


「主な目的は先祖の物品の探索と、鉱物などの資源を回収するためだ。ステブラでしか採れない鉱物が存在する。不壊の壁を突破できたらさらに多くの遠征隊を組んで向かうつもりだった」


「なるほど、最終的に地下都市を取り戻そうとはしていないんでしょうか?」


「……いや、もう我らドワーフは地下都市を放棄した。既に居住地は遥か遠くにある」


「この遠征が成功したら爺ちゃんも連れて来てやるんだ。もう1度故郷を見たいってよく言ってたからな」


 へへっと照れ臭そうに笑いながらカルカは語っている。

 カルカのおじいさんってことはガルレガのお父さんかな。

 多分200歳以上だろうから、まだ地下都市に住んでいた世代だと思う。

 横暴な言動をしてはいるけど、おじいちゃんのために遠征をしているなんて感心したぞ。

 ……まあ、これから迷宮を攻略するとなれば色々と不安要素が出てくるのだが。

 そう不安な気持ちを抱く俺にガルレガが質問をしてきた。


「大倉と言ったな。お前らはステブラに来て何をするつもりなんだ?」


「私達としては地下都市の探索に加えて、迷宮化しているので攻略しようと思っていました」


「攻略? どういう意味かよくわからんが、それをするとどうなる?」


「迷宮を攻略するとこの緑色の侵食が消えて、多分魔物とかもいなくなるわね」


「なんだと!? つまりステブラを取り戻せるということか!」


 そう、エステルの言う通り迷宮を攻略すると緑色の壁や魔物は殆ど消滅する。

 それを聞いたガルレガ達は喜びの声を上げていたが、彼らに非情な現実を伝えないといけない。

 確かに迷宮は消滅するが、文字通り跡形もなく消え失せるってことだ。


「そうなるんですけど、経験上攻略してしまうと迷宮って崩壊するんですよね。だからもし地下都市の迷宮を攻略した場合……」


「ほ、崩壊するということか?」


「絶対とは言わないけどその可能性が凄く高いわね」


「そ、そんな! それじゃあ爺ちゃんに見せてあげられないじゃないか……」


 希望が見えたかと思えば絶望的な事実を教えられて、カルカは肩を落としている。

 だが一方で、ガルレガは冷静に更に詳しく話を聞いてきた。


「迷宮を攻略しない場合はどうなる?」


「今すぐどうにかなる訳じゃありませんが、最終的には活性化してとんでもないことになりますね。それが原因でエルフの里も下手をしたら壊滅していましたので」


「エルフの里が壊滅だと……」


「危険な魔物が大量に発生して、最後には手に負えないぐらい強い魔物が出てきたりするわね。この周辺も魔物が多いから、活性化の兆候は出ていると思うわ」


 エステルの言う様に、ガーゴイルが坑道から外に出てくる程度には魔物が発生しているからなぁ。

 エルダープラントのような化け物が生み出されたら、あの時みたいに迷宮の壁をぶち破って外に出てくる可能性もある。

 そう考えたら迷宮はまるで怪物を生み出す卵や繭に思えてくるな。

 だが、元々はドワーフ達の住んでいた都市だったんだし、攻略を止めてほしいと言われたら話し合いは必要だろう。

 その場で立ち止まって考え込むガルレガをしばらく待つと、ようやく結論を出したのか口を開いた。


「できるなら迷宮の攻略を頼みたい。遠征隊の長である俺の判断だから、他のドワーフも納得するはずだ」


「親父! そんなことしたらステブラが!」


「崩壊する可能性があるのはわかる。だが不壊の壁がなくなるのなら、その後掘り起こせばいい。活性化とやらで永遠に足を踏み入れなくなるよりはマシだ。穴を掘るぐらい俺達にとって朝飯前だろ」


 そう言ってガルレガは得意げに笑っている。

 ……さすがドワーフだな。さっぱりしているというか、迷いもなくすっぱりと決めて迷いがない。

 それに後のこともちゃんと考えて結論を出したようだ。

 このまま迷宮を放置していたら魔物もどんどん湧いてくるだろうし、地下都市が崩落したとしても掘り起こした方が確実ってところか。

 地下にあんだけ長大な道や要塞を築けるんだから、迷宮の影響さえなきゃ穴掘りはお手の物なんだろうな。

 ガルレガの結論に困惑していたカルカだったが、豪快に笑う父親を見て彼女も覚悟を決めたようだ。


「わかった、私からも頼む。あの憎い不壊の壁をなくしてくれ」


「そう落ち込まないでください。もし崩落してしまったら地下都市を掘り起こすお手伝いはしますので」


「本当か!」


「ええ、私の魔法ならあっという間に地上から地下都市までぶち抜いちゃうんだから。地下から青空が見えるようにしてあげるわ」


「そ、それは困るんだけど……手伝ってほしい」


「ふふ、任せてちょうだい。けれどまだ崩壊するって決まった訳じゃないから、今から悲観的に考える必要もないと思うわ。崩壊しない方に賭けてみましょうよ」


 そうだな、あくまで迷宮を攻略したら崩壊するというのは、今まで俺達が経験した中での話だ。

 町そのものが迷宮化しているなんて初めての事態だし、攻略しても地下都市が崩れるかわからない。

 もし崩落しちゃったら掘り起こすのを手伝うとして、今はそんなことが起きないことを祈っておこう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとう [気になる点]  都市を囲むように迷宮が侵食しているんじゃ、いくら地面を掘り進めても絶対に迷宮の壁に阻まれるのぁ。 ↑のぁ? [一言] はっちゃけるフリージアと広がる誤解…
[気になる点] >後に続いた「アガリア」は、通り抜けると思わずと言わんばかりに叫び出す。 ここは「ガルレガ」ではないでしょうか。
2023/03/09 19:53 アダンソン
[気になる点] 空が見えるようにってくだりでちょっと地上が気になったけど、ドワーフたちが壁を回り込もうとしてたなら壁の範囲(ダンジョンの規模)や地上の様子程度の情報ならくれそうではある
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