集落への道中
カルカ達の誤解も無事に解けて、警戒されてはいるが彼女達の住む集落に案内されることになった。
既に丸1日移動して地下都市の通路からだいぶ離れ、この辺りまで来るともう迷宮の侵食もなく普通の岩の地面になっている。
いくつか分岐しているが幅も確保された道で、俺達が通って来た要塞より遥かに移動しやすい。
「こっちは随分と歩きやすくなっているな。俺達が来た道もこれだったら楽に来れたんだが」
「避難路だからでしょうね。ここから敵が来ることは想定してないんだと思うわ」
「魔物も来た方に比べると少ないから楽でありますね。ガーゴイルも弱いのばかりでありますよ」
会話をしつつエステルの魔法やノールの斬撃によって、次々と向かって来るガーゴイルを粉砕していた。
ここにいるのはただのアイアンガーゴイルだから、俺達が先頭に立って手で払うような扱いで倒しながら進んでいる。
その様子に後ろからついて来ていたカルカ達は顔を引きつらせつつ、恐る恐ると俺に声をかけてきた。
「な、なあ? 人間ってお前らみたいなのばかりなのか?」
「私達みたいなのばかりとは?」
「お前らのように強い奴ばかりなのかってことだよ! どうなんだ!」
「あー、まあそれなりに強い方なので、同じぐらい強い人はそう多くはいないんじゃないですかね。これでも冒険者としては上から2番目のランクなので」
「お前らで2番目だと!? こんな奴らより強いのがいるのかよ……」
カルカはブルブルと震えて、それを聞いていた他のドワーフ達も顔を青ざめていた。
コロッサスを瞬殺してガーゴイルすら散歩気分で倒しているが、それより強い奴らがいるって聞いたらこうなるのも無理はないか。
一応俺達はBランクだから嘘ではないけど、実際のところAランク冒険者がどんなものかわからないから何とも言えないな。
何にせよこれで人間相手に、いきなり戦いを挑もうと考えたりはしなくなるだろう。
そう俺達が話している間、後方から怪しい笑い声が聞こえてきた。
振り向けばマルティナがフードを深く被りながらカルカ達を見ている。
「ほ、本物のドワーフ。こ、声かけてもいいのかな……ふひ、ふひひひひ」
「不気味な笑いを止めろ。うっとうしい。迷わずさっさと声をかけろ」
「でも僕なんかが声かけるのもちょっと……それに何から話したらいいかわからないんだ!」
「本当にあなたはめんどくさいですね。いつものように決めポーズでもすれば饒舌になるんじゃないですか」
興奮しているマルティナにルーナとシスハは呆れた眼差しを送っている。
こいつは積極的なのか消極的なのかよくわからない奴だな。
マルティナの怪しい笑い声を聞いていたカルカは、冷や汗を流しながら疑問を投げかけてきた。
「あの陰気臭い奴も強いのか?」
「い、陰気臭いなんてそんな……照れるじゃないか」
「褒めてない! なんだこいつ……マジで不気味だな。それとチビもいるがこっちは強いのか?」
「お前もチビだ。チビがチビと言うな」
「な、なんだと! お前やるって言うのか!」
「いいだろう。相手してやる。私はノールほど優しくないぞ」
「おい馬鹿止めろ! 喧嘩するんじゃない!」
「ルーナも割と短気でありますよね……」
「うふふ、そこもルーナさんの可愛いところですからね」
ルーナはがるると唸り声を上げそうな勢いで牙を見せてキレて、それに対抗するようにカルカも拳を握り締めている。
俺達の一員なんだから只者じゃないとわかっていても、見た目からしてルーナが強いのか疑問に思っているのか。
それにマルティナも大鎌を仕舞っているから、見た目だけだと強さがわかりづらそうだ。
負の力とかバレないように、2人には戦わせずに力を抑えてもらってるのもあるけどさ。
喧嘩の仲裁もして半日ほど移動を続け、広場に到着するとカルカは片手を上げて俺達を制止してきた。
「案内するのはここまでだ。私達がこれからどうするか長に相談するから、それまで待ってろよ」
「わかりました。急がずにゆっくりと相談してきてください」
「だからって戻ってこないで放置したら……まさかドワーフがそんなことしないわよね?」
「と、当然だろう! 約束は絶対に守る! どんな結果だろうと伝えに来るぞ!」
エステルがニッコリと笑いながら言うと、カルカは体をびくりと振るわせて慌てた様子で答えている。
完全にエステルに恐怖しているな……そりゃあんなの見せられたら怖いか。
とりあえず約束通り俺達はここに待機することになり、集落へ戻るカルカ達を見送った。
「さて、これでちゃんと交渉できればいいけどな。まさかドワーフがあそこまで短気で話を聞かないとは思わなかったぞ」
「エルフのお姉さんがあんな反応をしていたのも納得ね。あまり力で威圧するのは好みじゃないけれど、話し合いだと埒が明かなそうだもの」
「付き人の方はまだ多少は話が通じそうでしたけどね。まあ、ドワーフ内で伝わっている話を考えたら、敵視されるのも仕方なさそうですが」
うーん、自分達の仲間を過去に攫われたとなれば、あんな風に敵視されるのも頷けるか。
でもそれは200年前の話だし、いきなり有無を言わさずに攻撃しなくてもいいだろうに。
ドワーフ全体の認識がカルカみたいな感じになっていたとしたら、この先どうなるのか考えただけでも頭が痛くなってくるぞ。
できるだけ話の分かる相手と交渉できたらいいんだが。
それにしてもカルカ達から教えてもらった昔の話は気になる点が多かった。
「魔人どころかイヴリス王国までドワーフを拉致ったなんてなぁ。どこまで本当なのかわからないけど、そんなことして何になるんだ?」
「他の理由もあるかもしれないけど、まず考えるならやっぱり鍛冶技術のためじゃない? 戦争をするのならドワーフが作った武器はどっちも欲しがるでしょうね」
「武器以外にも金属加工の技術は役に立ちますからね。あれほどの砦を築ける技術も持っているんですから、できるだけ確保して利用したいでしょう」
「武器の質は戦いで重要でありますからね。装備の差は決定的な戦力の差なのでありますよ!」
そう言ってノールは自分の剣を振りかざして自慢げにしている。
そりゃUR装備を持ってそんなこと言われたら説得力半端ないわ。
Rの武器でUR武器に立ち向かえとか言われたら泣いて土下座するぞ。
ドワーフ製の武器がどのぐらいの質かわからないけど、魔人も王国もドワーフを確保するってことは相当な物なんだろうな。
けど、王国側はドワーフを無理矢理拉致しなくても、他のやり方がありそうなものだが……。
「それならドワーフを王国が守って一緒に戦えばよかったのにな。居住するぐらい交流してた国なら、わざわざ拉致する必要もないだろ」
「当時の状況や国同士の決め事がどうなってたかわからないから何とも言えないわね。ドワーフが戦争に加担する気がないなら、味方もしないでしょうし」
「拉致されたはずのドワーフの話が王国内に一切ないのも疑問だね。図書館の本を読むと王国の情報はかなり手を加えられていそうだから真実は闇の中だよ。王族や貴族とかなら本当の話も伝わっているかもね」
「ふむ、過ぎたことを調べるのもめんどうだ。平八、過去を見るガチャアイテムでも出せ」
「なるほど、その発想はなかったぞ。よし、今からガチャ引くか!」
「ただガチャを引く口実でありますよね!? というかあるかもわからないでありましょ!」
ちっ、そこに気が付くとはさすがノールだな。
ガチャなら過去を知るアイテムぐらいは存在しそうだけど、そう都合よく出たりもしないか。
結局当時どんな事情があってそうなったかわからないし、片方の話を聞いて判断できるものでもない。
ドワーフ側は拉致されたと思っていても、実際は別の事情があったかもしれないしな。
今俺達にできることは、なんとかドワーフ達と友好関係を築くことぐらいだ。
とにかく今はカルカの帰りを待とうと休んで1時間ほどだった頃、一応警戒しておいた地図アプリに反応が現れた。
「ん? ドワーフ達が向かった道から赤い点が凄い速さで向かって来てやがる」
「あら、魔物かしら。ドワーフ達が向かった先から来るなんてまずいわね。私達もついて行くべきだったかしら」
「やられちゃったのでありましょうか。とにかく助けに向かうでありますよ!」
「いや、こいつ真っ直ぐこっちに向かってくるぞ。ここで待ち構えて様子を見ておこう」
「真っ直ぐ来るなんてこちらを認知しているのでしょうか。一体何者なんですかね」
「クックッ、未知の相手が登場するとは興奮するシチュエーションじゃないか!」
「次から次へと面倒だ。さっさと倒そう」
ドワーフ達が向かった先から来るなんて、カルカ達は大丈夫なのだろうか。
範囲外まで移動したからどうなったかわからないが、途中までどの道を進んだかマークは付けておいたから後を追うことはできる。
この赤い点が魔物だったら既に全滅している可能性もあるが……急いで向かわないと。
いつでも動けるようにしておいたからすぐに移動を始め、ドワーフの通った道を俺達も急いで駆け抜ける。
向かって来る赤い点は俺達の存在を感知しているのか、枝分かれの道も的確に俺達の方を選んで近づいてきた。
迂回路もないので避ける訳にもいかず、すぐ近くまで迫った時点で俺達は足を止めて迎え撃つ。
そして暗い通路の先からドタドタと地響きを鳴らしながら姿を現したのは、立派な髭を携えたムキムキのドワーフだった。
ドワーフ特有の背の低さをしているが、大斧を持ったそいつは俺達の姿を認識するとドンッと地面を蹴って急停止した。
「やあやあ! 我はステブラの遠征隊の長ガルレガである! お前らがカルカの言っていた人間共か! この地に足を踏み入れたこと後悔させてやろう!」
洞窟内に耳が痛くなるほどの大声が響き渡り、逆立ったオレンジ色の髪を揺らしながらガルレガは斧を地面に突き立てた。
もうやだぁ、すげーデジャブる展開なんですけど……勘弁してください。




