ドワーフとの対話
ノールとエステルによってわからされたドワーフ達は、すっかりと大人しくなり俺達と話す気になったようだ。
彼らは怪我をしていたからシスハに回復魔法をしてもらい、そのおかげか恐慌状態だったのも落ち着いている。
コロッサスにあれだけ怯えていたのは、ここに来るまでに散々な目に遭っていたらしい。
代表としてカルカと年配の男性ドワーフが話し合いに応じ、こっちは俺とエステルが話を聞くことになった。
「それで話したいことって何なんだよ。言っとくが何でも話したりはしないからな」
「そこまで困るようなことは聞きませんよ。とりあえず詳しい話をする前に、まずはお互い自己紹介からしましょうか。私は大倉平八です」
「ふん、カルカだ」
「お嬢の付き人のアガリアです」
敵対状態が解除されたといってもカルカは腕を組んで目を鋭くして睨んできて、戦いで勝てそうになくても精神的には屈しないと言わんばかりだ。
うーん、やはり随分と警戒されているな。何か話のきっかけを探さなくては。
とりあえずステータスでドワーフってわかっているけど、話をしやすいように口頭で種族の確認をしておくか。
「カルカさん達はドワーフなんですよね?」
「そう最初に聞いてくるってことは知ってるんだろう! そうだよ、ドワーフだよ! 何か文句あるのか!」
「い、いえ、そういう訳じゃありませんが……」
「ちっ、あいつらの代表の癖して弱腰な奴だな。あんたら一体何なんだ」
「私達は冒険者ですよ」
「冒険者? なんだそれ。ただ冒険してる奴らってことか?」
あれ、冒険者ってドワーフに馴染みのないものなのか?
考えてみれば200年は人と交流がなさそうだし、ドワーフ自体に冒険者って存在がいなければ知らないのも無理ないか。
見た感じ若そうなドワーフだし、魔人との戦争後に生まれた世代なのかもな。
カルカが首を傾げて不思議そうにしていると、アガリアが冒険者について語り始めた。
「冒険者とは人の国で各地を探索するのに長けた者達ですね。ちゃんとした職として存在しています。あっしらとはあまり関わりがないかと」
「ふーん、そんな奴らがいたのか。で、その冒険者さんとやらが私達に何の用だ」
「実はあなた方ドワーフを探していて、鍛冶をしてもらいたい金属があったんですよ」
そう俺が言った途端、カルカはカッと目を見開いて怒鳴り散らし始めた。
「やっぱりそれが目的か! 何が冒険者だふざけやがって! どうせ200年前もそれが目当てだったんだろ!」
「お、落ち着いてください! その200年前のことが何なのか知らないんです!」
「うるせぇ! こいつやっぱり敵――」
「ねぇ、ちょっと頭冷やしましょうか。そうやって興奮してたらちゃんとお話しできないでしょ?」
「ひぃ――」
エステルがパンと手を叩いてニッコリと笑顔を向けると、カルカ達は青ざめて一瞬で大人しくなった。
さ、さすがエステルさん、手を叩いた途端場の空気がとんでもなく重くなりやがったぞ……。
カルカ達がエステルに気圧されて静かになったところで、今の話で気になるところを質問してみた。
「200年前って言ったら魔人と人が戦争していた時代ですよね? その時に何があったんですか?」
「詳しくお話しすると長くなるんですが、簡潔に言うとあっしらの同胞が魔人と人間両方に強制的に攫われたそうなんです」
「えっ、魔人じゃなくて人からも攫われたんですか!?」
「そうだ! だからお前ら人間も私達の敵なんだよ!」
「落ち着いてくださいお嬢! その辺は複雑な事情があるようでして、人間というのはイヴリス王国という交流のあった地上の国なのですが、当時はあっしらの同胞も居住していたんです。ですが魔人との戦争の兆候が出た頃に地下都市に呼び戻そうとしたら、王国に拘束されてしまったそうで……その後どうなったかわかりません」
「ふーん、どうして拘束したかはさておき、結果的に戻りたかったドワーフが地下に帰れなかったのね」
「地下都市に家族を残して働きに出ていた者もいたそうなので、そのせいで離れ離れになった者がいます」
なるほど、それはドワーフ側から見たら確かに攫ったと言われても仕方がなさそうだな。
でもイヴリス王国側からしても何か事情があったのかもしれないし、一方の話を聞いただけじゃ判断できない。
今の王国に亜人がいるって話も一切聞かないし、拘束されたドワーフ達の行方が気になるところか。
もう1つの魔人に関しても尋ねてみよう。
「それで魔人に攫われたっていうのも本当なんですか?」
「それも間違いありません。奴らは人間達と戦争をする前に地下都市を襲ってきたそうです。それでドワーフ達が連れ去られたと聞いています」
「言い方的に伝え聞いた感じね。あなたは200年前はまだ生まれてなかったのかしら?」
「私は当時地下都市におりませんでしたので……連れ去られたのは最前線にいた砦を守護していた者達だそうです。武器や兵器の整備に鍛冶師などもかなりいたので、あっしらの技術力もだいぶ低下しちまいました。イヴリス王国と通じる道から魔人が侵入してきて、同時に地下都市にもどこからか魔物が現れ混乱したようです」
うーん、こっちも何だか不確かな情報だな。
アガリアさんは年配のドワーフだから当時を体験しているみたいだけど、攫われた現場を見てないってことだ。
魔人と直接やり合った最前線のドワーフ達は逃げられなかっただろうし、実際どうだったのかわからなそうだな。
俺達が通って来た砦は争いの形跡が殆どなかったから、反撃する暇もなく無力化されて連れ去られたのか?
武装とかが残ってなかったのは、魔人達が持ち去ったってところなんかね。
それに同時に地下都市に魔物が現れたっていうのも謎だな……。
「じゃあ地下都市にいたドワーフ達はどうなったんですか?」
「用意していた避難路から住民は逃げ出しました。今私達がいるこの場所がそうです」
「外に逃げる道も用意されていたのね。あんな砦があっても、都市まで攻め込まれた時のことを考えているなんてやるじゃない」
「はっは、当たり前だろ! 私達は賢いんだ! ドワーフ以外誰も知らない場所に繋がってるんだぞ! ……あれ、じゃあお前らどうやってここに来たんだ!?」
今更になってカルカは目を見開いて驚いている。
ようやく俺達がどうやってここに来たのか疑問に思ったのか。
「私達は地下都市を通って来たんですよ。ちょうどあの壁の向こうからですね」
「……はっ? 何言ってるんだこいつ。まさか壁を通り抜けたとでも言うつもりなのか?」
「ええ、そのまさかよ。一時的に壁に穴を開けるぐらい朝飯前なの。地下都市にいたら大きな音がしたからこっちに来てみたの」
「そ、それは私達がさっき試した精霊兵器の音だ……。本当にステブラから来たって言うのか!? 私達より人間が先に到達するなんて……ごめん、おじいちゃん」
カルカは顔をうつむかせて拳を握り締め凄く悔しそうにしている。
おじいちゃん? 何だか訳ありって感じがするな……悪いことをしちまった気分だぞ。
それに精霊兵器って物騒なワードも出ているんだが。
さっきの爆発音はそれを使って壁を破壊しようとしたのか?
ステブラって単語はさっきも他のドワーフが叫んでいたが、地下都市の名前かな。
そんな疑問を頭に浮かべていると、落ち込んでいたカルカは顔をがばりと上げると俺に懇願してきた。
「なあ! 本当にここが通れるのか見せてくれ! そうしたらお前らに何でも協力すると約束する!」
「えっ、なんでもですか?」
「お嬢! それはいくらなんでも!」
「うるさい! 私達が長年挑んでもこの壁は破壊できなかったんだぞ! 文句あるのか!」
カルカとアガリアはそれからギャーギャーと口論をしていたが、その間に俺はエステルに確認を取っておいた。
「見せて大丈夫だよな?」
「ええ、見せたところで奪われる心配もなさそうだもの。信頼を得るならそれぐらいはいいんじゃない」
あまり不用意にガチャアイテムを見せたくはないけど、ディメンションホールならそれほど問題はないだろう。
これを使ってみせるだけで何でも協力してもらえるなら安いもんだ。
どうやら口論はカルカが勝ったようで、さっそくディメンションホールを見せることになった。
「じゃあお見せしますね。こっちに来てください」
そう言って落盤して通路を塞いでいる壁際まで移動した。
そしてディメンションホールである棒を取り出すと、ドワーフ達は全員首を傾げている。
「なんだその棒は? そんな棒で穴が開くのかよ」
「はい、壁に突き刺すと向こう側に通じる穴が開くんです」
「はっ、いくらなんでもそんな――えっ」
腕を組んで馬鹿にしたように笑うカルカを他所に、俺がディメンションホールをずぶりと壁に突き刺すと壁に穴が開いて向こう側が見えた。
カルカは口をあんぐりと開けて固まり、他のドワーフ達も目を見開いて唖然としている。
「ど、どうなってやがるんだこれ! 本当に穴が開いたぞ!」
「これは……魔導具ですか?」
「はい、壁に穴を開ける魔導具ですよ。引き抜くと閉じます」
「このような物が存在するなんて……人間の作る魔導具はこれほどとは……」
「これは他の迷宮で手に入れた物ですから、持ってるのは私達ぐらいですよ」
穴に手を入れて向こう側に行けるのを証明してから、ディメンションホールを引き抜いて穴を閉じた。
ククッ、俺達しか持っていないとなれば頼らざるを得ないだろ。
実際これはガチャアイテムだから、この世界で他に持ってる奴は存在しないんだがね。
「これで信用してもらえましたか?」
「……ま、まだだ! それを使って私達をステブラに連れて行ってくれ! そうしたら何でも言うことを聞く!」
「あら、条件を途中で変えるなんていけないわね。それに向こう側はもっと魔物が沢山いるのよ。行ったところであなた達じゃ逃げ回るので精いっぱいだと思うけれど」
「ぐっ……頼む! どうしても1度でいいから自分の目でスブテラを見たいんだ! 私達ドワーフの故郷なんだよ!」
ほほぉ、確かにこの地下都市はドワーフ達にとって故郷とも呼べる場所か。
言いようからしてカルカはドワーフが地下都市から逃げた後生まれたみたいだし、どんな町だったのか見たくなるのも頷ける。
さっきまでの敵意のある態度は鳴りを潜めて、頭を下げて必死に懇願してくる姿からどれだけ真剣かもわかる。
ここまで頼まれちゃ無下にするのも気が引けるし、それで取引ができるなら都合もいい。断る理由がない。
ただ、この人数のドワーフを一緒に連れて行く訳にもいかないな。
「わかりました。でもこの人数では私達も守り切れませんから、1度あなた方の住む場所に引き返しましょう。それから同行する方を選びましょう。怪我は治しましたがあちらの皆さんも疲れていますよね?」
「そ、それは……くっ、わかった! でも連れて行くのは集落の近くまでだ! それからおやじ……長に聞いてみる」
今すぐにでも行きたそうにしていたカルカも何とか納得してくれて、俺達はドワーフの住む集落へ案内してもらうことになった。
敵視していた割にはすんなりと受け入れてもらえたな。
それだけ地下都市に行くのに切羽詰まっているってことなんだろうが、地図アプリの反応は未だに紫のままだから警戒はされている。
今のままじゃ対抗もできないから、集落に戻って援軍を呼ぼうとしている可能性もありえるから俺達も注意はしておこう。
地下都市から逃げ出したドワーフ達は一体どこに住んでいるのか、無事に敵対せずに済めばいいが……。




