地下での遭遇
ディメンションホールを使い門の向こう側に出ると、また広く長い一本道が続いていた。
ここもやはり緑色に壁などが発光していて迷宮化しているようだ。
プラチナガーゴイルが門番として鎮座していたが、ルーナが背後からブスリと殺って処理。
それから他のガーゴイルやコロッサスもいたけど問題なく倒しつつ、音の発生源を目指して進んで行く。
「音がしたのはこの奥の方みたいだな」
「ここも随分と長い通路でありますね。それなのに音が聞こえてくるとは何が起きたのでありましょうか?」
「魔物と誰かが戦っていたのかしら。あれから音はしないからもう終わったみたいね」
「魔物同士で争っている線も考えられますね。こんな地下深くに私達以外誰かいるとは思えませんが……いるとしたらドワーフの生き残りですか」
「ドワーフがいるの! やっと会えるんだよ!」
「ククッ、誰もいない地下都市で謎の爆発音、そしてちょうど居合わせていた僕達に何も起きないはずがなく……ようこそ地下世界へって展開じゃないか!」
「何故いつも都合よく何か起きる。厄介ごとは勘弁だ」
マルティナが顔の前に片手をかざして決めポーズを取り、ルーナはそれを横目で呆れ顔をしながら見ている。
俺としてはこんな地下で爆発音がするとか不安で仕方がないぞ。魔物同士で争ってるだけならいいんだけどなぁ。
まだ戦ってるなら終わるまで待って、勝った方を俺達で狩ればいい。まさに漁夫の利。
警戒しながら通路を進んで行くが音の元凶は一向に見つからず、ついに奥まで来てしまった。
そこには何もなくただ緑色の壁だけが存在する行き止まりだ。
「あれ、行き止まりじゃないか。もしかしてさっきの爆発音はここが崩落でもしたのか?」
「崩落でしたらあんなんじゃ済みませんよ。ここも迷宮化する前に塞がれた通路なんじゃないですかね」
「ってことはこの先に同じように通路が続いてるってことか。どれどれ……」
地図アプリを確認するとシスハの予想通り、行き止まりと思った壁の向こうに道が続いていた。
更にそれだけじゃなく紫色をした人型の反応が10体ある。
「やっぱりここも塞がれた通路みたいだぞ。しかも向こう側に何かが複数いる反応もあるな」
「あら、その言い方だと魔物か人かわからない感じなの?」
「ああ、反応が紫だからな。でも一応人型の存在で周囲に赤い魔物の反応はないぞ」
「紫ということはアルグド山脈で最初にグラリエさん達と遭遇したのと同じですね。敵でも味方でもなく中立的な相手ですか。この前の経験を踏まえるとかなり警戒していそうですが」
地図アプリの反応が紫ってことは、あまり友好的な相手じゃないってことだよなぁ。
俺達の対応次第で敵にも味方にもなる存在と思っていい。
人型だからドワーフの可能性はそれなりにあるけど、一応コロッサスも人の形をしているから注意は必要だろう。
とりあえず様子を見るために壁の隅っこにディメンションホールを突き刺し通り道を作り、偵察カメラを飛ばして即座に閉じた。
フリージアに操作を任して皆でスマホを覗き込む。
画面には複数の人影が写り込んでいて、見た目は人と似たような者達だ。
「あっ、人がいるよ! でも皆小さな人だね?」
「立派な髭の生えた年配者に見える人もいるでありますし、子供とかではなさそうでありますよ」
「見た目は人っぽいけど特徴的にドワーフか?」
「うん、ドワーフだと思うよ。男性ばかりだけど1人だけ女性もいるね」
「全員武装してるし戦う前提の集団のようね。さっきの爆発音はこのドワーフ達かしら」
「動きや身体つきからしてなかなか戦闘経験がありそうですよ。ドワーフ戦士といったところでしょうか」
ようやくお目当てのドワーフを見つけられたな。
やっぱあの地下都市はドワーフの住んでいた場所みたいだ。
ドワーフはルーナと同じぐらいの背丈をして小さいが、立派な髭を生やし体もがっちりとした男が多い。
まさに俺の想像しているドワーフそのものだったのだが、1人だけ若い女性も混ざっている。
全員斧やハンマーを持っていて、鎧も身に着けて完全武装した集団だ。
一体ここで何をしているのか、それを確認するため偵察カメラでドワーフ達の会話を盗み聞きしてみよう。
『やはり今回も駄目か……仕方がない、引き返しましょう』
『まだなんの成果も出してないでしょ! もう1度やるんだ!』
『さっきので壁がビクともしていないのお嬢も見たでしょう。これ以上は無駄だと思いますぜ』
『この軟弱者! そんな弱腰でどうする! あんた達そうやっていつも逃げ帰ってきたんでしょ! 気合が足りないんだ気合が!』
『そ、そんなこと言われましても……』
若い女性のドワーフのまくし立てる言葉に、屈強そうな男性ドワーフ達は眉をひそめて困っている。
どうやらこの女性ドワーフはこの集団を率いてるようで、どうしてもこの壁を突破したいご様子。
女性ドワーフはオレンジ色の髪を後ろで一本の三つ編みにしていて、興奮しているせいかそれをブンブン振り回している。
気合とか言って無茶振りしてるし、かなり気性も荒そうだな……。
「なんか揉めてるみたいだぞ」
「この壁を破壊して地下都市に行こうとしているようね」
「さっきの音はそれだったのでありますか。でも失敗したようでありますよ」
「私達でさえ迷宮の壁を破壊するのは無理ですからね。カロンさんでも連れてこなきゃ破壊なんてできないんじゃないですかねぇ」
「龍神にできるなら、強化された私でもできる。あの時の私なら龍神になど負けない」
「おー、ルーナちゃん凄いんだよ!」
「あのカロン様と張り合えるなんてヴァラドさんは凄いなぁ……羨ましい」
ルーナは相変わらずカロンちゃんに対抗心を抱いているみたいだなぁ。
あの力を見て張り合おうとするのは凄いと思うが、エルダープラントを相手にした時の強化率ならルーナも匹敵する強さではあったか。
でもカロンちゃんやルーナの力をもってしても、迷宮の壁を破壊できるか怪しい。
ホントこの迷宮を形成している緑の壁は何なんだろうな。
「それでどうしようか。このドワーフ達と合流してみるか?」
「秘密裏に後を追うのはどうかな? そうすればドワーフがどこに住んでるかわかるじゃないか」
「それは悪手でしょう。ドワーフの居住地を見つけたとして、それからどうする気なんですか?」
「そうね。地図アプリの反応からして紫だし、まだ友好的ではないわ。黙って居住区まで行って声なんてかけたら余計に警戒されそうだわ」
ドワーフを見つけたはいいけど、どうやって近づくのかが問題だよな。
まずは居住区を見つけるのもよさそうだが、シスハ達の言う様にいきなり住処に行ったりしたら警戒されるか。
かと言ってこのまま見逃して帰っちゃったら次いつチャンスが来るかもわからない。
……ここは勇気を出して今この場で声をかけるしかなさそうだな。
「ここで1度接触してみるか。気難しそうな相手だしフリージアはディメンションルームで待機していてくれ」
「えっ、私もドワーフと話してみたいんだよ!」
「お前は余計なこと言いそうだからダメだ。下手したら取り返しがつかなくなっちまうんだぞ」
「ブーブーなんだよ! 平八の意地悪!」
万が一を考えたら仲のよくなさそうなエルフと会わせない方がいいだろう。
こういう時は第一印象が大事だからな。特にあの女性ドワーフは厄介そうな気配がビンビンする。
そんな訳で愚図るフリージアをディメンションルームにぶち込んで、俺達はディメンションホールを使い壁の向こう側に移動した。
勿論俺は兜などできるだけ不審人物に見えないように装備は外してある。この平八は学ぶ男だ。
ドワーフ達は激しく口論をしあっていて俺達に気が付いていなかったので、俺から声をかけてみた。
「あのー、すみません」
「だ、誰だ!」
ドワーフ達はバッと振り返ると武器を構えて臨戦態勢を取り、今にも襲いかかってきそうな勢いだ。
「落ち着いてください! 敵じゃありません!」
「嘘を吐くな! お嬢、こいつら人間ですよ!」
「に、人間!? これがあの人間なのか! じゃあ敵だな!」
年配の男性ドワーフの言葉に女性ドワーフの目つきが鋭くなり、モニターグラスで確認していた地図アプリのドワーフ達の反応が赤に変わった。
おいおい! まだ何もしてないのに敵判定になりやがったぞ! どうなってやがるんだ!




