地下都市探索
少し遅いですがあけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
巡回ガーゴイル達が周囲にいない建物の中に入り、俺達は休憩がてらくつろぎながら偵察カメラとゴースト探索でまず地下都市の様子を確認することにした。
フリージアはスマホを手にしてはしゃぎながら、ブイブイと豆粒ほどのサイズである偵察カメラを飛ばしている。
「おー、フリージアは本当に偵察カメラの扱いが上手でありますね」
「そうね。私じゃそんなスムーズに建物の中に入って飛ぶ操作はできないわ」
「えへへ、沢山遊んだからね! どんな狭い場所でも入れるもん!」
「上達するのはいいですが悪用は厳禁ですよ。ね、大倉さん?」
「どうしてそこで俺に話を振ってくるんですかねぇ」
「この手の物を悪用するのは平八ぐらいだ」
シスハとルーナからジトーっとした視線を向けられる。
俺はどんだけ信用がないんだよ! 神に誓ってもそんなことはしねぇぞ!
このままだと非常に都合が悪いので、逃げるように同じくゴーストによる探索に集中しているマルティナに声をかけた。
「マルティナ、そっちの方はどうだ?」
「うーん、僕の方でも住民は見つからないね。それにシルバーやプラチナのガーゴイルもいてちょっと探索に手こずっちゃってるかな。魔除けの光のせいで近づけない場所が結構あるんだ」
「あのガーゴイルここにもいるのかよ。ゴーストでの探索がしづらいのは厄介だな」
「でも工房らしい場所はいくつか見つかったよ。入れない部屋とかもあって資料があるかわからない。普通の場所ならちょっとした隙間から入れるんだけど、迷宮化してるせいかそれもできないんだ」
「場所さえわかれば十分さ。こんな広い場所を魔物を避けながら闇雲に探してたら、無駄に時間を使って疲れちまうからな」
時間がかかるとはいえ、俺達が探し回るよりはゴースト達に頼った方が効率的だからな。
マルティナ1人で10体以上のゴーストに頼んで探してもらっているが、よくそれだけの情報量を処理できるもんだ。
既に工房の場所も把握しているし本当に頼りになるぜ。
偵察カメラの方は一旦建物の探索を止めて、今度は地下都市全体を把握できるように上昇させて見下ろす。
「町の全体像はこんなもんなのか。城みたいなあからさまにここが中心ですって建物が見当たらないな」
「そういう建物を作る文化がなかったのかしら。それとも壊れてる建物の中にあったのか、地下にあるんじゃない?」
「これだけ地下空間を作れるなら、重要な場所も更に地下部分にある可能性はありますね。それに私達が来た場所以外にも、他の場所に通じそうな門もあるようですよ」
「あっ、ホントでありますね。一体どこに繋がっているのでありましょうか?」
「地上との通路が他にあったり、住居以外の場所もあるはずだよ。ドワーフなら鉱石採掘をする場所や、地下に農場や菜園も作ってそうだからね」
「地上との通路が他にあるのなら、住民はそこから逃げ出しているのかもね」
地下都市は全体的に破壊されずに綺麗なまま残っているけど、所々建物が崩壊している。
この中に重要な施設があったのかもしれないが、瓦礫になっちゃってるから判断ができない。
それと町の壁際にはいくつも大穴が開いていて、どこかに繋がっているようだ。
地下都市を構成する何かの施設があったのか、俺達が来た通路とは別の地上と繋がっているのかねぇ。
その後も町の全体像を確認しつつ、探索に向かう工房に目星をつけた。
「とりあえずマルティナの見つけた工房に向かって鍛冶の資料を探すか。迷宮攻略は……どうしようかなぁ」
「おや、大倉さんにしては随分と弱気ですね。いつもみたいに攻略して報酬ゲットだぜ! とか言わないんですか」
「思っていた以上に広くて厄介そうだからな。それに攻略したらいつものパターンで迷宮が崩壊する可能性もあるだろ? ドワーフの地下都市だったとしたら、下手に手をつけるのもどうかと思ってさ」
「そうね。まさか地下都市自体が迷宮化してるなんて思ってもみなかったもの。現状だと精霊樹の迷宮みたくはならなそうだから、攻略するのはひとまず様子見でもいいかもね。1度戻って冒険者協会に報告した方がよさそうだわ」
「帰る、だと? また来るのは嫌だ。次は行かないぞ」
「そう言わないでくれよ。地図でルートはわかってるから次来る時はもっと楽だぞ。それにディメンションルームで待機してくれればいいからさ」
「ふむ、それなら考えなくもない」
今回は今までの迷宮とちょっと事情が違うからなぁ。
既に廃墟と化した地下都市ではあるけど、元々人かドワーフが住んでいた場所なら何か重要な物がないとも言えない。
今までの迷宮は例外なく攻略後に全て崩壊しているから、安易に攻略するのも考え物だ。
これが魔物が外まで溢れ出して暴走しているなら話は別だが、今の様子からしてここは安定しているし様子見しておこう。
そんな方針も固まり、俺達は建物の中を伝って目標の工房に向かって移動を始めた。
「家の中を通れるからいいけど、ガーゴイルがあっちこちにいて移動するのもめんどうだな」
「見つかって戦いになるよりは楽でありますけどね。コロッサスは町中にいないのでありますか?」
「友達の探索中に町の奥の方でコロッサスも見かけたよ。工房の周辺にもいたかな。武器を持っててかなり強そうだったね」
「うげ、やっぱりコロッサスもいるのかよ。しかも工房の近くにいるのか……」
ただでさえコロッサスは強いのに、武器を持ったタイプまでいるとか厄介そうだ。
魔物との戦闘もなく目的の工房が見えてくると、そこは遮蔽物のない開けた場所だった。
煙突のある立派な建物の前に、大槌を持った銀色のコロッサスが門番のように立ちはだかっている。
一応ステータスを見ておくか。
――――――
メタルコロッサス 種族:コロッサス
レベル:60
HP:2万4000
MP:500
攻撃力:5000
防御力:5500
敏捷:150
魔法耐性:50
固有能力 ハイパーアーマー 生体感知 武装化
スキル 縮地 警戒音波 打撃強化
――――――
「工房の周辺は他の建物がありませんね。これでは密かに入るのは難しそうです」
「でもコロッサスは1体しかいないわ。静かに倒せれば問題なさそうじゃない」
「暗殺だね! 私得意なんだよ! あっ、でもコロッサスって硬いから難しいかも」
「仕方ない、私がやろう。平八、インビジブルマントを貸せ」
「お、おう」
ルーナに言われたままにインビジブルマントを取り出して渡すと、彼女はそれを羽織り姿を消した。
そして様子をうかがっていると、コロッサスの胸から赤く光る槍が飛び出してバラバラに砕け散る。
うわぁ……背後に回っていきなりカズィクルぶっ放しやがったぞ。
透明状態のルーナに狙われるとか恐ろしいにも程がある。
コロッサスがいなくなったのを合図にそそくさと俺達は飛び出して、見つからない内に工房の中に入った。
工房の中は色々と散らばっていたけど、特に目を引くのは煙突と繋がった大きなドーム状の炉でまさに作業場といった雰囲気だ。
スキルを使ったルーナに血を手渡していると、フリージアは工房を見てピョンピョン飛び跳ねてはしゃいでいる。
「凄い凄い! ここが鍛冶場なんだ! よくわからないけど凄いんだよ!」
「うーん、見たところ特別何かありそうな感じはしないな」
「鍛冶に関してはよくわからないわね。とりあえず技術書のような何か書かれた物が残っていればいいけれど」
「知識のある方が見れば工房を見ただけでも何か得る物がありそうですけどね」
「マルティナに任せよう。見ろ、既にかじりついている」
ルーナの指差す先を見れば、目を輝かせて炉の周りや内部をキョロキョロと見ているマルティナの姿。
「わー、これがドワーフの炉なのか! まさに秘技の塊じゃないか! あれがあれでこっちはあれで……こんな構造になってるなんて実に興味深いね。使われている建造材は何なんだろう……ああ! 迷宮化してるからわからない! それにこの粉末は一体……これで炉の温度を上げて……」
マルティナは本を読んでいる時と同じく、ブツブツと何か呟きながらメモ帳にスケッチまでして完全に自分の世界に入り込んでいる。
いつの間にあんな物まで用意してやがったんだ……しかも地味に絵が上手いぞ。
炉の調査はマルティナに任せて、俺やエステル達は工房に併設されていた民家を調べることにした。
民家内は普通に机や椅子など家具が置かれたありふれた物で、普通に人が住んでる家にしか見えない。
「こう調べているとここがドワーフの住居かちょっと疑問に思っちまうな。人の住居とそんなに大差なくないか?」
「ドワーフは人と文化も近いからそう思うのも仕方ないわ。けど家具とかが使いやすいように心なしか低いわね。おかげで私も探しやすいもの」
「あっ、ホントだ。じゃあドワーフの地下都市なのは確定と思ってもいいのか?」
「ええ、これだけじゃ説得力に欠けるけど、ほぼドワーフが住んでいたと思っていいんじゃない。こんな立派な工房まであるんだし」
「それもそうか。肝心の資料やらが見つかればいいんだけどなぁ」
「本や紙の類自体あまりないようね。ドワーフに文字として残す文化がなかったら困っちゃうわ」
「えっ、そんなことあるのか?」
「種族によってはそういうのもあると思うわよ。石板でもいいから見つかるといいわね」
文字で残す文化がなかったらめちゃくちゃ困りそうだな……。
なんて心配をしたものの、その後一応本や書類などが見つかってその不安は杞憂に終わった。
だけど鍛冶やドワーフには殆ど関係ない物ばかりで、よくわからない数字の羅列や物語系の本が数冊見つかった程度。
それから3件の工房を探索して回ったのだが、鍛冶に関しての資料は全く見つからない。
このまま何も見つからないと困るので、マルティナのスケッチと合わせてスマホでも炉も撮影しできるだけ情報を集めた。
そして今は4件目の工房を探索している最中だ。
「これで4件目か。何か見つかればいいけどなぁ」
「一応メモ書きみたいなのはあったけれど、これだけじゃ何なのかよくわからないわ」
「技術書のような本はないのでありましょうか?」
「あったとしても町の様子からして、処分したか持って逃げたじゃないですかね。関係ない本はそれなりに置いてありますし、ここまでないと不自然ですよ」
「ふひひ、ドワーフの読んでいた本なんて貴重な物ばかりだよ! ここは地下都市はまさに宝庫だね!」
「マルティナちゃん嬉しそうなんだよー」
「やれやれ、本の虫だ」
各工房や移動の際に入った建物の中にあった本をかなりの数回収してマルティナは喜んでいた。
目的である鍛冶とは一切関係ない物ばかりで、完全にマルティナの趣味だ。
勝手に持っていくのはどうかと思ったけど、ずっと放置されている物だから平気だろう。
ここも先の工房と同じく中を隅々まで探してみたのだが、やはり何か手掛かりになるような物はなかった。
「ふぅー、ここも目ぼしい物はなさそうだな」
「場所によっては炉まで壊されているでありますよね。逃げ出す前に住民が壊したのでありましょうか? それとも私達以外にもここに来て、同じようにドワーフの技術を手に入れようとしたのでありますかね?」
「それはどうかしら。でも私達しかここまで来れないっていうのも己惚れよね」
「200年近くは放置されていた場所ですからね。別の出入り口があるのでしたら、誰かしら来たってことも考えられます」
確かに結構な数の本があったのに、技術書や日記の類は一切見つかっていない。
本棚も抜き取られた形跡があったりもしたから、住民が持って逃げ出したか、先に来た探索者が持ち出したのも考えられる。
俺達が来たルートは道が埋まって通れなかったけど、他にもここに繋がる通路がありそうだしな。
そんな考察を立てながら室内の物色をしていると、マルティナが床を見て何やら首を傾げていた。
「うーん、この感じは……」
「どうかしたのか?」
「僕の第六感がここに何か埋まってるって叫んでるんだ。ディメンションホールで掘り出せないかな?」
「その下にか? 地図アプリじゃ特に何もなさそうだけど……やってみるか」
建物の床は迷宮化していて直接掘ったりはできないが、ディメンションホールなら下にある空間も開けるはずだ。
さっそく床に向かって棒を突き刺して開いてみると、鍵穴の付いた鉄製の四角い箱が出てきた。
「おっ、何かあるぞ。これは……鍵がかかっているな」
「お宝なんだよ! マルティナちゃんトレジャーハンターだね!」
「クックック、僕の宝物センサーは常にビンビンだからね! 金目の物は逃さないぞ! ピッキングなら任せてくれ!」
「器用な奴だ」
どこからか取り出した針金を使ってマルティナが鍵穴を弄ると、カチリと音がしてあっさりと鍵が開いた。
……こいつ、もう死霊術師じゃなくてシーフとかの類なんじゃないか?
何にせよ解錠したので箱を開けてみると、中には片手サイズのハンマーが入っていた。
特に煌びやかな装飾がある訳ではなく、魔導具のような特殊な物にも見えない。
「これはハンマーか? なんでこんな物が箱に入ってるんだ」
「むむっ、かなり年季の入った物でありますね。使い込まれている感じがするのでありますよ」
「何か紋章が刻まれていますね。よっぽど大事な物だったのでしょうか」
「鍛冶で使ってた物じゃないかな。職人の銘ってやつかもしれないよ」
確かにハンマーになんか紋章が入っているな……これは誰が作ったか証明する証か?
何か重要そうな物っぽいけど、俺達がこれの価値がよくわからないぞ。
とにかく新たな物品の発見に探索も一歩前進したと思っていると、突然外から爆発音がしてきた。
「な、なんだ? あっちから爆発音がしなかったか?」
「この方向だと地下都市の外側に出る門の方からでありますね」
この工房は地下都市の壁際の場所で、俺達が来た出入口とは真逆の位置にある。
近くには外に繋がる門が設置されていて、さっきの爆発音はそこから聞こえてきたようだ。
「魔物が暴れているのか、それとも誰か私達以外にいるのでしょうか?」
「見に行ってみようよ! ドワーフがいるかもしれないよ!」
「どうするお兄さん。離れた場所みたいだから無視もできそうだけれど、何が起きているかは気になるわね」
「……よし、確認しに行ってみよう。後で何かあっても困るからな」
一旦地下都市の外に出ることになりそうだけど、このままスルーするのも気になるしな。
もし迷宮の異変によって引き起こされた現象なら俺達にも影響が出そうだから、早めに解決しておくに限る。
そんな訳で俺達は工房を後にして、音がして来た門へ向かうことにした。




