フロッグマン討伐
「う~む、フロッグマンねぇ」
「どうかしたのお兄さん?」
シュティングを出発して、フロッグマンの生息地である沼地を目指している。
場所は少し離れているみたいで、シュティングから続く街道を沿いながら魔法のカーペットに乗って移動している。
道に関してはウィッジちゃんから手書きの案内を貰いなんとかなった。
分かれ道の方向を右、左、真っ直ぐ、とか書いた単純な物だけどな。覚えてるとかあの娘記憶力良いな。
「あぁ、ちょっとな。もう名前からして嫌な予感しかしないんだが」
「フロッグマンが嫌な名前なのでありますか?」
フロッグマン……これ想像したら二足歩行する人型の蛙なんだけど。
この世界じゃなかったら、遭遇した瞬間腰抜かして逃げる自信があるぞ。
B級ホラーに出てきそうだわ。
「だってこれカエルだろ? ま、まさかお前……カエルまで可愛いとか言うのか!?」
「えっ!? ……ま、まさか~。そんなことないのでありますよ」
「本当かしらねぇ」
通常サイズの蛙だったらまだ納得できる。でもこの世界のことだからどうせ1m超えてるんだろうな。
そう考えると可愛いなんてとてもとても……。
ノールは図星だったのか裏返った声をあげた。そんなこと無いと言っているけど、エステルも疑わしい目を向けている。
キモかわ愛好家なんだな。これ以上弄るのはかわいそうだし、そっとしておいてあげよう。
●
「ここがフロッグマンの生息地か」
「むぅ、汚れそうで嫌な場所ね」
「池でありますか」
カーペットをとばして数時間程で到着した。これ徒歩だったらかなり遠いな。
到着した場所は枯れ木が倒れ、濁った水の池が広がっていた。なんだかドブ川の臭いがするぞ。
草が生い茂る陸地も多少あるが、下は泥で走ったりしたら汚れそうだ。
おニューの聖骸布に泥が付きそうでちょっと嫌だな。
「はぅ~、なのでありますぅ~」
「なにうっとりしてるんだ……」
「は!? い、いや、うっとりなんてしていないでありますよ?」
池の方を見てみると、1mは超えているおたまじゃくしが無数に泳いでいるのが見える。
うわぁ……やっぱり巨大だったよ。蛙じゃなかったのはよかったけど、それでもちょっと不気味だな。
おたまじゃくしが顔を出すと、隣にいるノールはうっとりとしているような声を出している。
「あら、案外可愛らしい魔物ね」
「そうでありますよね? ね?」
「え~、そうか?」
エステルまで可愛いんじゃないかと言い始めた。
そうなんだろうか……まん丸い黒い体に尻尾、つぶらな瞳。確かに可愛く見えてきたかも。
いや、そんなのはいいからステータス見ておくか。
――――――
●種族:タッドポール
レベル:1
HP:200
MP:0
攻撃力:50
防御力:50
敏捷:20
魔法耐性:0
固有能力 無し
スキル 無し
――――――
ありゃ? これは随分と弱い魔物だな。これじゃ倒しても経験値全然入らない。
「まあいいや。それにしてもどうしようか。池の中にはあまり入りたくないな。危ないだろうし」
「そうね……凍らせる?」
「いや、それやると魔物が出て来れなくなるだろ。どうしようか……」
中に入ったら身動きが取り辛いし、下手したら底が深い所もあるかもしれない。
できるならば入らずにフロッグマンを倒したいんだが……。
見た感じいないということは、フロッグマンは希少種なのかな。
「よし、ドロップアイテムはフロッグマンのみ回収するか。エステル、この池を爆撃してくれ」
「ふふ、了解よ。なんだか腕が鳴るわね」
おたまじゃくしのドロップアイテムは諦めて、さっさと殲滅して湧かすことにしよう。
俺がエステルに爆撃を頼むと、彼女はバッグからグリモワールを取り出す。
……なんだか活き活きとしているけど大丈夫かな?
「それじゃあいくわよ。えい、えい、えい、えい!」
彼女が元気よく声を出し杖を振る。えいと言うたびに、空には巨大な火の玉が出現した。
それが次々と池の中に着弾し水と泥を蒸発させながら爆発する。巻き込まれたおたま達は為す術もなく爆発に呑み込まれていく。
何発も何発もぶち込まれた池は、地面が露出して溶岩のように一部溶けている。
「はぁー、すっきり。この本凄いわね」
「まるでこの世の終わりの光景でありますな……」
「これ怒られないよな……」
もはや最初来た時の原型が残っていない池。半分近く消滅している。
や、やばい。これは完全にやり過ぎだろ……。
しばらくして半分残った池の方に次々とおたまが湧き始める。
そしてそれに混ざって、人型サイズの緑色の魔物も湧き出した。
黒い大きな瞳にほっそりとした手足、口を開けて舌を伸ばす姿は気味が悪い。おたまの可愛さの面影すらない。
とりあえずステータスを見ておこう。
――――――
●フロッグマン 種族:フロッグ
レベル:25
HP:6000
MP:0
攻撃力:350
防御力:50
敏捷:150
魔法耐性:50
固有能力 毒霧
スキル 跳躍
――――――
いきなり強くなってるな。おたまが弱過ぎて油断したところにこいつ来たら、苦戦するパーティもいそうだ。
毒持ちだけど俺は聖骸布を得て耐性有るし、ノールもあるから平気だな。
「うっわ……予想した通りかよ」
「あ、あれはちょっと私でもきついであります」
「とりあえず殺っちゃう?」
「抑え目でな。このままじゃ池消えちゃう」
手足が細く胴体との不釣合いな体が不気味だ。さすがのノールですら引いてる。
エステルはさらっと物騒なことを言って魔法を撃ち出し始めた。こいつ今日絶好調だな。新しい装備の調子がいいのか?
しばらく彼女はフロッグマンに様々な魔法を撃ち込んでいるが、池に潜ったり跳躍をしたりでそれを軽々回避される。
そのとばっちりでおたまが次々と吹き飛んでいるのがかわいそうだな。
それにしてもあいつ凄いな……魔物ながらあっぱれだ。
「うぅー、もう、動くと当たらないじゃない」
「いや、そりゃ避けるだろ」
「なんだかかわいそうなのでありますよ……」
なかなか当たらないことにエステルが苛立っている。
一方的に攻撃される恐怖を教えられているかのようだ。ノールと同じように俺まで同情してきたぞ。
「よし、エステル。あいつが次跳んだら池凍らせちまえ。俺とノールで片付けてくる」
「むぅ、わかったわ」
このままじゃ半分残った池すら消滅させそうなので近接で倒すことにした。
「ノール行くぞ!」
「了解であります!」
フロッグマンが跳んだ瞬間に、エステルに池を凍らさせて俺達は走り出す。
凍った池の上に着地したフロッグマンは驚いているが、すぐに俺達に気がついてこっちを見た。
装備で強化されたノールはさらに速くなっていて、俺より先にフロッグマンに接近して剣を振る。
しかし跳ねたフロッグマンにそれは当たらなかった。
追いついた俺も攻撃をするが、ぴょんぴょん跳ねて全然攻撃が当たらない。
攻撃が当たりそうになると紫色の毒霧を吐き出し、視界から消えて晴れたら遠くの方でぴょんぴょんしている。しかも臭い。
「くっそ、うぜぇぇ!」
「ぴょんぴょんよく跳ねるでありますな」
このまんまじゃらちが明かないな。いっそエステルに全てを吹き飛ばしてもらうか?
もう半分吹き飛んでるし変わらないだろう……いや、やっぱ後が怖い。
あんまりに回避されてムカついてきたので、俺は全力で跳んだ蛙にバールをぶん投げてみた。
するとバールは蛙の尻辺りにぶっ刺さり、着地できずにそのまま落ちて痙攣している。
「よっしゃ! ノールやっちまえ!」
「了解でありますー!」
落ちてきた蛙にノールが剣を何度か突き刺し、蛙は光の粒子となってドロップアイテムに変化した。
落ちた物は少し長めの舌だ……これ触るのなんか嫌だな。
「ふぅ、なんとか倒せたか。Dランク程度の魔物なのに、随分と苦戦させられたな」
「普通の冒険者達はどうやって倒してるのでありますかね?」
「池に入るかおびき寄せて倒すんじゃないかしらね?」
うーむ、これは本来なら倒し難い環境の魔物をどう倒すかの試験なのだろうか。
完全にゴリ押しで倒してしまったな。
●
帰ってきた俺達は、さっそく討伐証明を渡しに冒険者協会へやってきた。
帰りはビーコンを設置していたので一瞬だ。ビーコンは最高のアイテムだな。
池はエステルが氷を溶かし元に戻しておいた。あれで怒られる心配もないだろう……多分。
「あれ、大倉さん? どうしたんですか?」
「えーと、フロッグマン討伐し終えたので討伐証明を持ってきました」
「えっ……ほ、本当に倒してきたんですか?」
「はい? 倒してきましたよ」
受付にいたウィッジちゃんが俺達を見つけると、不思議そうに声をかけてきた。
そしてもう依頼を終えたと言うと驚いている。なんでだ?
「あそこまで行くのに往復で2日ぐらいは掛かるはずなんですが……」
「あっ、えーと、ひとっ走りして行ってきたんですよ」
やば……そうだよな。あんな離れた場所にあるのにこんな早く終えて帰ってくるのはおかしいよな。
サソリ狩りで慣れ過ぎて、全くその辺り考えていなかったぞ……。
咄嗟に言い訳したけど、こんなので納得するはずがない。これはまずい。
「あー、まあ大倉さん達ですもんね。それじゃあ討伐証明とプレートをお渡しください」
「えっ……あっ、はい」
あれ? なんか納得されたんだけど……。軽く流されたぞ。
助かったには助かったけど、なんか納得いかない。この娘の中で俺達の認識は一体どうなっているんだ。
「はい、これで大倉さん達はDランクとなりました。昇格おめでとうございます」
返却されたプレートをウィッジちゃんから受け取った。
プレートは青から赤色に変わり、これで俺達もDランク冒険者だ。




