坑道の迷宮
いつもお読みくださり誠にありがとうございます。
12月28日コミック版8巻が発売いたします。
表紙のエステルが今回もとても可愛いです!
是非お読みいただけると嬉しいです!
迷宮らしき一本道にさっそく入った俺達は、襲い来る魔物を片付けながら奥へと進んでいた。
「精霊樹に続いてここにも迷宮があるとは思わなかったぞ。本当にどこにあるかわかったもんじゃないな」
「そうね。迷宮がある噂すら聞いたこともないし、国ですら把握していなかったのかしら」
「こんな奥深くまで入ってくる人はいなかったのでしょうね。地図アプリやディメンションルームがなかったら、私達でもなかなか骨の折れる探索になっていたと思いますよ」
「魔物の襲撃を常に気にしながらの探索は大変でありますからなぁ。特に食事を思う存分食べられないのは困っちゃうのであります! 私達は美味しい食事を食べ放題なので助かるのでありますよぉ」
「睡眠もだ。私は虚弱体質。こんな地面で横になったら1日で死んでしまう」
ルーナは気だるそうに欠伸をしながらも、軽く槍を投擲してガーゴイルを貫いている。
あれの一体どこが虚弱体質なんですかね……。
けど食事も自由に取れてベッドで睡眠もして、エステルに魔法で体の汚れとかも落としてもらっているから、こんなキャンプ気分の気楽な探索ができてるんだよなぁ。
魔物だってノール達にかかれば1撃で倒しちまうから、俺の戦う出番すらないぐらいだ。
この坑道内はディウス達ですら逃げ帰るレベルみたいだし、Aランクとかでも探索が難しいのかもしれない。
特にこの一本道は魔物の湧き方がえげつなくて、進んでいる最中でも目の前で光の粒子が集まって魔物が湧き出している。
「この通路一本道なのはいいけど魔物の数が凄いな。ここだけでコロッサス7体もいやがったぞ」
「ピカピカガーゴイルも沢山いるんだよ! 稼ぎ時ってやつだね!」
「クックック、大して強くない魔物から高い素材が手に入るとは素晴らしい! 圧倒的じゃないか僕達は!」
「こいつらだってそれなりに強い魔物なんだけどなー」
「マルティナのおかげでいい的だわ、えい」
話している最中にも目の前のコロッサスが、エステルから放たれた謎の光線によってばらばらに砕け散った。
出てくる魔物はすぐにマルティナのゴーストに憑りつかれてデバフを食らい、その場から動けなくなり抵抗する術もなく倒されている。
マルティナのデバフは有用だと思いURユニットバトルの対象に選んだけど、まさかここまで活躍してくれるとは思ってもなかったぞ。
デバフだけじゃなくて探索もできて知識も豊富だし、やはりURユニットは戦闘面以外でも人並み外れた能力持ちばかりなんだな。
何の危なげもなく進行を続ける俺達だったが、ようやく長い一本道の終わりが地図アプリ上に表示された。
「おっ、ようやく道を抜けて……えっ」
「どうかしたのお兄さん?」
「今までに比べたら大した変化じゃないんだが、この先めちゃくちゃ道が枝分かれしてやがるぞ」
「一本道に入る前もそれなりに複雑な道でしたけど、わざわざ言うってことはもっと道が増えてるってことでしょうか?」
「ああ、これを見てみろよ」
地図アプリ上に表示されたのは、広い部屋から枝のように分かれた通路だった。
その数は13個に分かれていて、通路の内部は更に2つ3つと枝分かれしとんでもない数になっている。
それを見せるとマルティナ達も驚きの声を上げていた。
「な、なんなんだいこれ……本当に蟻の巣みたいじゃないか。まさかここ蟻系の魔物の巣とかじゃないよね?」
「蟻の巣ってこんな感じなんだね。面白いんだよー」
「めんどそうな迷宮だ」
坑道も蟻の巣みたいだと思っていたけど、こっちは本当に蟻の巣とも思える内部構造をしているな。
入った先もさらに地下に伸びているみたいで、小部屋とも思える部分が無数に存在している。
これならマルティナの言う様に蟻系の魔物がいたって不思議じゃないぞ。
実際にその場所に到着すると広々とした空間の壁に大きな穴が13個存在し、どれも更なる地下へと続く道になっているようだ。
「なんか入り口みたいに作られた場所だな。正解はこの中に1つだけってところか?」
「この中から当たりを見つけるとなると大変そうでありますよ。でも、地図アプリがあればすぐにわかるのでありますよね?」
「いや、どれも範囲外まで続いてるから奥がどうなってるかわからないんだ。マルティナ、ゴーストを飛ばして奥まで確認できるか?」
「ククッ、それぐらいお安い御用さ! ……でも、あまりに離れ過ぎていたら力が続かないから期待しないでね?」
「自信があるのかないのかどっちかにしてもらえませんかねぇ。あなたが頼りなんですから期待していますよ」
「は、はい! 頑張ります!」
シスハにパンと背中を叩かれたマルティナはビシッと敬礼すると、その場に座り込んで目を閉じて集中しながら各穴にゴーストを飛び立たせた。
地図アプリの範囲外になるほど長いとか、この坑道は迷宮含めて大規模過ぎるぞ。
マルティナのゴーストでも最深部まで到達できるか怪しいけど、実際に目で見て確認できるからどれが正解なのか手掛かりを掴んでくれる可能性に賭けよう。
……駄目だった場合は地図アプリで最深部が見える範囲まで進んで確認していくしかないな。
集中するマルティナを守るために通路から湧き出してくるガーゴイル達を狩りつつ、俺達は他愛ない会話をして待つことにした。
幸い通路に湧く魔物は殆ど坑道に進んで行くから、こっちに来る魔物は暇そうにしているフリージアがついでのように狩り尽くしている。
「うーん、毎度のことながら作り込まれた迷宮だよなぁ。こんな地下深くまで来る奴なんていないだろうによくやるぜ」
「私達が来ちゃってるけどね。どの迷宮も不思議だけれど、一体どうやって作られるのかしら」
「不思議と言えば初めて行った迷宮も変わった場所でありましたよね。あれからずっと行っていないのでありますよ」
「私が召喚される前に行った迷宮でしたっけ? これだけ戦力が揃った今ならそこも攻略できそうですよね」
「他にもそんな迷宮があるんだね! 面白そうだから皆で行ってみようよ!」
「もう迷宮はこりごりだ。ここが終わったらしばらく行きたくない」
そういえば王都に1番近い場所にある迷宮はずっと放置していたな。
戦力が揃ってから行こうとしていたけど、他のことに気を取られていてずっと忘れていた。
ガチャのアイテムも揃っている今なら余裕で攻略できる気がするぞ。
……けど、あの迷宮はずっとあるっていうのによく活性化せずに済んでいるな。
あそこは冒険者達の狩場になっているから、内部の魔物を狩ることで迷宮の力を削いでいたりするのだろうか。
王都の冒険者はあそこのドロップアイテムで生計を立てている面もあるだろうし、下手に攻略して迷宮が消滅したら恨みを買う可能性もありそうだなぁ。
もし攻略するならクリストフさんに1度相談しておいた方がよさそうだ。
それからしばらく雑談をしながら待っていたが、進捗はどんなものかとマルティナに声をかけてみた。
「マルティナ、どの道が正解かわかりそうか?」
「むむむっ……どれもかなり深いからまだわからないかな。それにこの迷宮ちょっとおかしいような……」
「おかしい? 迷宮なんてどれもおかしいと思うけれど……」
「いえ、何というか……凄く人為的なような、明らかに誰かの手が加わった形跡があるんだ。まるで要塞のような構造をしているよ。落とし穴とかの罠もあるかな」
「他の迷宮でも罠とかがありましたし、人為的っていうのは別におかしく思う点でもないと思いますけどね。それ以外に一体どんな点でそう思ったのですか?」
「罠だけじゃなくてどこも極端に狭い場所があったりして防衛を意識した作りな気がするんだ。それに隠れて奇襲を狙うような場所があったり……武器だけ出して攻撃するような穴とかもあるよ」
「それは確かにちょっとおかしな感じもするわね。そういうことしそうな魔物とかはいないのかしら?」
「黒色のコロッサスと銀色のガーゴイルがいるぐらいかな。どっちもかなり強そうだけど、隠れたりする気配はないかな」
黒いコロッサスと銀のガーゴイルは気になるけど、それ以上に人為的な感じがするって言うのが気になるな。
今までの迷宮も人為的な物を感じはしたが、今回のはちょっと違うような気も……一体この迷宮は何なのだろうか。
前書きにも書きましたが12月28日コミック版8巻が発売いたします。大切なことなので2回(ry
書籍版の特典だったお話も盛り込まれていますので、是非お読みいただけると幸いです。
まさか特典の内容を漫画で描いていただけると思っていなかったので本当に嬉しいです。




