坑道の内部へ
グラリエさんからドワーフの情報を聞いてから数日後、俺達はさっそくシュトガル鉱山を訪れていた。
相変わらず鉄の体を持つアイアンガーゴイルが飛び交っていて、倒しながら渦巻状に掘られた鉱山の最下層に向かい通路疑惑のある坑道の前にご到着。
「まさかシュトガル鉱山にドワーフ達の町へ行く通路があるなんて、思いもしなかったのでありますよ」
「そうね。けど通路ってやっぱりあの穴の中なのかしら。お兄さん、地図アプリで見ても他に地下へ入れそうな道はないのよね?」
「ああ、あそこ以外に地下に繋がる道はなさそうだぞ。しかも地上からじゃどこまで続いてるかわからないぐらいあの中も広いぞ」
「未だに人がそれなりに来る場所ですから、そう簡単に辿り着けるような場所ではなさそうです。数日以上かかる想定をしておいて正解でしたね」
立体地図アプリになってから初めてここに来るけど、地上からの範囲で既に坑道の内部も多少どんな構造か表示されている。
だが、現状見える範囲だと地下都市のような大きな空間の存在はなく、いくつも折り重なるように坑道が掘られているのがわかる程度だ。
まだまだ地図アプリの範囲外に坑道は続いていて、どれだけ深いのか想像もできない。
まるで迷路のようになっているから、地図アプリがあったとしても1、2日程度じゃ最深部にはいけなさそうだ。
そんな感じでノール達と話し合っている一方で、フリージア達は暢気に坑道探索ができると楽しそうにはしゃいでいた。
「わーい! また探検ができるんだよ! ドワーフ本当にいるのかな?」
「クックック、未知の探求は心が躍るというもの。必ずやかのドワーフを見つけようではないか」
「めんどくさい。暗闇は好みの場所だがここは埃っぽい。さっさと済ませて帰ろう」
1名乗り気じゃないけど毎度ながらこいつらは探索を楽しんでいるなぁ。
でも、元々この坑道の奥に何があるのか俺も気になっていたから、本格的に探索するのはちょっと楽しみでもある。
ここがドワーフの住む地下都市に繋がっているのか、そして地下都市は一体どんなところなのだろうか。
そう期待をしながらも以前のようにエステルの光魔法で坑道内を照らしつつ、地図アプリを頼りに奥へと進み始めた。
前来た時と変わらずにツルハシや手押し車が散乱していて、鉱物採取の途中で破棄された坑道としか思えない場所だ。
「うーん、前にも中に入って狩りをしていたけど、ここがドワーフの地下都市に続く通路とは思えないな。ただの坑道にしか見えないぞ」
「ツルハシとかも散乱しているでありますし、まだ作りかけだったのでありましょうか?」
「ドワーフと人が交流し始めてからまだ間もなかったのかもね。どういった経緯でこの坑道が作られて、ドワーフと交流が始まったのかもわからないから予想もできないわ」
「坑道を作れていたなら昔は安全だったのに、途中で魔物が出てきたことは確定的ですからね。魔人が何かしてここを魔物の発生場所にした可能性は十分考えられますよ。それだけで人とドワーフの交流を断絶できたのなら、作戦としては大成功ですね」
「この国って昔魔人と戦争していたって話だったよね? なら優れた金属を作れるドワーフと交流があるなら、事前に交流を断つのはいい作戦かな。そうすれば人に強力な武具が渡らなくなるからね。僕らの世界でもドワーフの作る武器や防具は国宝級の代物が沢山あったぐらいさ」
「おー、マルティナちゃん物知りさんなんだよー!」
なるほどなぁ、戦争が関わっていたとしたらドワーフ製の武器や防具が供給されないようにするのは当然か。
魔人が魔物を発生させる術を持っているのはセヴァリアの異変で判明しているし、坑道を魔物の湧き場所にした可能性はかなり高い。
それにこの坑道がどうして作られて、なんでドワーフの地下都市に続く通路になっているのかも疑問だ。
鉱物採取のために掘られていたのか、それともドワーフと交流するための通路にするのに掘っていたのか……うーん、情報が全くないから予想もできないな。
そんな考えをしながら坑道の奥へとさらに進んでいくが、ワラワラと坑道内のガーゴイル達が集まってきて休む間もなく襲撃を仕掛けてくる。
いくら集まってこようがノールが斬り裂いてフリージアが弓で射抜き、エステルの魔法で一掃など全く相手になってないのが救いだな。
精霊樹の迷宮のイータートレントに比べたら可愛いもんだ。
まあ、それでもうざったいのに変わりはないんだけどさ。
「この坑道は本当に魔物が多いな。並の冒険者じゃ全く歯が立ちそうにないぞ」
「私達だから物理的にも簡単に倒せるでありますけど、普通なら魔導師がいないと太刀打ちできないでありますよ」
「それでいて視界も悪くてあっちこっちから飛び出てきますから、魔導師を守りながらの戦いは厳しいです。魔人がもし出す魔物も選べるとしたら、これほどたちが悪い組み合わせはありませんね」
うーむ、狭くはないけどあっちこっち入り組んでいる場所で、飛びながら襲ってくる硬いガーゴイルを狙って発生させたならこんなに嫌らしいことはない。
単純に鉱山だからアイアンガーゴイル達が出てきたのかもしれないけど、ディウス達ですら苦戦するのも頷けるぐらいこの坑道を進むのは大変だ。
一体どれだけのガーゴイルを倒して進んでいけば辿り着くのか憂鬱な考えをしていると、ルーナがある閃きを口にし始めた。
「ふむ、やはり探索はめんどうだ。マルティナ、この坑道にいる霊を呼び出せないのか?」
「あっ、マルティナがいればそういう発想もできるのか。そういえばお前大鎌探した時とか幽霊を呼んで教えてもらったとか言ってたよな?」
「クックッ、どうやら僕の能力をお見せする時が来てしまったようだね! よかろう、すぐに呼び出してあげよう!」
そう言ってマルティナは鎌の柄を地面に突き刺すと、彼女の周囲に紫色の光が漂い異様な雰囲気を放ちだした。
おお、こうやって死者の魂を呼び出すのか。
坑道を知っている霊を呼び出せばドワーフの都市が本当にあるのかわかるだろうし、案内もしてもらえるからまさに一石二鳥だ。
そう考えたらマルティナの能力は探索するならチートと言ってもいいほどだぞ。
期待を込めながら俺達は彼女が霊を呼び出すのをしばらく待っていたが、特に何も起きずに時間だけが過ぎ去っていく。
「随分と呼び出すのに時間がかかっているな」
「死者でありますからね。そう簡単に呼び出せそうにないのでありますよ」
「ここで本当に呼び出せればいいですけどねぇ」
「あら、シスハは何かわかっていそうじゃない。もしかして呼び出せそうにないのかしら?」
「……すみません! 呼び出せませんでした!」
「やれやれ、やっぱりでしたか。ここは死者の気配が全くありませんでしたからね」
マルティナはがくりとその場に項垂れて、シスハは首を振ってわかっていたかのように呆れ顔をしている。
「死者の気配が全くないってどういう意味なんだ?」
「言った通り死人が全く出てないってことですよ。私とマルティナさんが感じる物に差はありますけど、呼び出せるほどの霊体が周囲にいないってことですね」
「はいぃ……アルヴィさんの言う通りです。この坑道全体はわからないけど、少なくとも周囲に意思のある霊体はいないよ」
「ちっ、残念だ」
ルーナが牙を見せながら本当に悔しそうな表情をしている。
さすがのマルティナも死人が出てなきゃ呼び出したりはできないよなぁ。
死者が出てないっていうのは喜ばしいことだが、自分達の力で坑道探索をしないと駄目そうだな。
期待していただけにガックリした気分になっていたけど、この失敗にエステルだけは嬉しそうしていた。
「でも少しだけ希望が出てきたわね。まだ地下都市は存在している可能性が出てきたかも」
「えっ、どういうことだ?」
「もし魔人の襲撃とかでドワーフの都市が壊滅していたなら、周辺に怨念のある霊がいそうじゃない。でもそれがいないってことはまだ生き残っているか、殆ど無事に逃げ出したってことよね」
「うん、エステルさんの言う通り町が壊滅するような死者が出た場合、周辺に強力な未練を持つ霊体が多くなるね。全くそんな気配は感じられないから、少なくとも戦争でのドワーフの死者はほぼいないと思う」
確かに戦争やこの坑道で死人が出ていたら怨念を持つ霊体が無数にいそうだから、呼び出しに失敗したってことは少なくともこの近くで死者は出てないってことだ。
魔人が地下都市まで侵攻してたら大量の死者が出てそうだし、ドワーフが生き残っている可能性は出てきた。
都市から逃げ出していたとしてもそこで情報は得られるだろうから、どこに行ったかも十分探せる余地はあるだろう。
1番最悪の想定をしていたドワーフの壊滅は避けられそうだし、これなら地下都市に行くのも徒労に終わらずに済みそうだな。




