ドワーフは何処に
ガンツさんの鍛冶屋を訪れた後日、思い付きの発想でドワーフがいるのか調べるべく俺達はエルフの里を訪れた。
ルーナとシスハを除いた5名でアルグド山脈の森へ行くと、すぐにグラリエさんが出迎えてくれて里に案内される。
「グラリエさん、お久しぶりです。突然来てしまってすみません」
「いえ、あなた方でしたらいつでも歓迎いたします。我らの里を守ってくださった英雄ですから」
「英雄!? わーい! 私達英雄なんだって!」
「クックック、深淵を司る僕が英雄なのはこの世の理。あの程度のことで騒ぐほどじゃないさ」
「全く、英雄なんて言われたら浮かれる気持ちもわかるけど、あまり言葉に惑わされちゃだめよ。ね、ノール?」
「むふふ、英雄でありますか……む? なんでありますかエステル?」
「……いえ、何でもないわ」
両手を握り拳にして浮かれ気味なノールを見て、ため息を吐きながらエステルは片手を頬に添えて困り顔だ。
ノールもフリージアもマルティナもおだてられるとすぐ調子に乗る性格してるもんなぁ……。
グラリエさんも悪気なくて心からそう言ってそうではあるが、俺もちょっと高揚感を覚えたから気を付けないと。
こうやって祭り上げられて調子に乗ったら足元をすくわれそうだし、エステルみたいに注意してくれる人がいるのはありがたいぞ。
フリージアとマルティナはエルフの里に遊びに来た感じなので2人とは別行動となり、俺とエステルとノールでグラリエさんと話をすることになった。
今回はドワーフのことを聞くのが主な目的ではあるが、あれから森がどうなったか気になるからまずそれを聞いてみるか。
「あれからエルフの里で何か問題はありましたか?」
「全く問題は起きていません。むしろ迷宮崩壊の影響か、以前よりも遥かに森全体に精気が満ちています。おかげで里を守る結界もさらに強まっています。それに魔物も出てきてはいますけど、イータートレントのような危険な種は減りました。これならこの森も想定より早く本来の形に蘇りそうです」
「あら、いいこと尽くめじゃない。ミラジュとかいう魔人は姿を見せたりしなかったの?」
「私を含め精霊術師数名で警戒をしていますが、魔人達が来ている様子はまるでありません。あの者達が私達の力を超えている可能性はありますが、前のように眷属などの飛来もありません」
「油断はできないでありますけど、もうこの森には来なそうでありますね」
ミラジュや他の魔人がエルフの里を襲う様子はないようだな。
さっき俺達が森に来てすぐグラリエさんが出迎えてくれたのも、精霊術で警戒してたから気が付くのも早かったのか。
魔人なら姿とかを隠す術は持っていそうではあるけど、全ての痕跡は消し切れないだろうし目的も達成してたっぽいからこれ以上来ることもなさそうだ。
それにカロンやルーナの力も目の当たりにして、ミラジュ自身も殺されかけたんだから俺達がいそうなところにはもう近寄らないよな。
俺だったらあんな目に遭ったら2度と近くには来ないぞ。
エルフの里の復興は順調そうで安心していると、今度はグラリエさんの方から気になっていたのか質問をしてきた。
「それでお話があるとのことですが、どのようなご用件でしたか? もしや里のことを人の国に公表する件についてでしょうか?」
「その件はもうちょっと保留状態ね。私達も調べている最中で厄介ごとが少しあるの。復興に何か必要そうだったら、しばらくは国じゃなくて私達が支援するわよ」
「ありがとうございます。私共としても里の復興は順調ですが他のことに手が回らない状況ですので……。できれば人の国との交流などはもう少し間を置きたいです。あなた方にお力添えをいただけるのなら、それ以上の物はありませんよ」
うーん、復興できてるとはいえ今の状況で人と交流するのは不安要素が大きいよな。
ただでさえ魔人と間違われて敵視されそうなんだし、知られたことで国から使節団のように沢山人が来ても対応に困るだろう。
俺達も文献漁りをしてるけど成果が乏しいし、一旦この件は保留しておくか。
物資が不足してるとかなら俺達で十分に補えると思うから、復興が完了するまでは尽力しよう。
さて、それじゃあ本命のドワーフについて聞いてみようかな。
「私達が今日来たのは他の種族について聞きたいことがあったんです。ドワーフという種族はご存じないでしょうか?」
「あー、ドワーフですか……一応知ってはいますがあの者達がどうかしましたか?」
「やっぱりドワーフもいるのでありますか。でもあっさりどころなんか素っ気ない反応でありますね……」
「もしかしてエルフとドワーフは仲がよくないのかしら?」
「仲が悪いとは言いませんが良いとも言えないですね。少なくとも百年以上は会っていないので、その手の感情も薄れました。率直に言って大して興味がありません」
そう言いながらもグラリエさんは眉間にしわを寄せて、明らかに不愉快そうな表情を浮かべている。
俺の世界の物語でもエルフとドワーフの仲はよくないことが多かったけど、この世界でもこの2種族はあまりいい仲ではなさそうだ。
あまり踏み込み過ぎてもよくなさそうだし、知りたい情報だけ聞いておくかな。
「ドワーフに関してなんですが、彼らがどこに住んでるか知っていませんか?」
「ドワーフの住処ですか……行ったことがないので詳しくは知りません。ですが地下深くに町を作って住んでいると聞きました」
「地下、でありますか……。それだと見つけるのは大変そうでありますね」
「地下都市へ行く道は複数は存在するようで、人の国の近くにもあるそうですよ。私が耳にした中ですと……シュトガルと呼ばれる山にあるという話でしたね」
「えっ、シュトガル鉱山ですか!?」
「まさか王都からあんな近い場所に通路があるなんて……」
シュトガル鉱山、そこは以前ディウス達と一緒にコロチウムを採取しに行った場所だ。
国の近くにあるシュトガルって名前の山となれば、あそこ以外に恐らくないはず。
あそこは王都から片道で3日もあれば行ける場所で、アルグド山脈と比べたらかなり近い。
しかも未だに冒険者や国が鉄鉱石などを採取しに行っている。
そんなところにドワーフの地下都市に繋がる道があるなんて……まさかあの馬鹿でかい螺旋状の穴もドワーフ達が関わっていたりしたのか?
となると通路っぽい場所は……最下層にあったコロッサスが出てくる横穴だな。
既に見知った場所にドワーフに繋がっていたのは僥倖と思っていたが、続くグラリエさんの話は俺達を不安にさせるものだった。
「ただ通路があるとはいえ、案内なしにドワーフの地下都市に行くのは危険だそうです。里長が行った話を聞きましたが、あまりに複雑かつ長距離で2度と行く気はないと言っていたぐらいですからね」
「里長から詳しく話を聞いてみたいけれど、まだ調子がよくないのよね?」
「申し訳ございませんが……あなた方からいただいた薬などでだいぶよくなりましたがまだ安静が必要です」
「よくなったのならよかったです。1番知りたかった場所の手掛かりも貰えたので大丈夫ですよ」
うーん、できれば里長に色々と話を聞きたかったけど、まだ体力が戻ってなさそうだな。
でもドワーフにどこに会いに行けば会えそうかわかったし、それだけでも御の字か。
「あともう少しだけ聞きたいのですが、ドワーフは鍛冶が得意な種族なんですよね?」
「そうですね。ドワーフの作る金属などの装飾品は素晴らしい物が多いそうです。私達は金属で作られた物はあまり好みませんが、人の国でかなり人気だったと聞きました。里長がそれでドワーフの長と口論になったそうですが……詳細はあまり知りませんね。彼らは魔人ほどではないですが粗暴な種族なので、会いに行くようならご注意ください」
そう言って何かを思い出すようにグラリエさんはまたしかめっ面をしている。
魔人ほどじゃないけど粗暴な種族とか言われるなんて、一体ドワーフとエルフには何があったんだろうか……。
それから雑談をしつつ里の情報を聞いたりして話を終え、俺達はグラリエさんと分かれた。
「まさかこんなあっさりとドワーフの居場所がわかるなんてな。グラリエさんに聞きに来て正解だったじゃないか」
「そうね。けど色々と不安が出てくる話でもあったわ」
「確かに粗暴とかちょっと嫌っている感じはあったでありますよね。けど、それぐらいなら大した問題じゃないでありますよ」
「いえ、それも不安要素ではあるのだけれど、それ以上の問題点があったわ」
エステルの言葉を聞いてノールは首を傾げて疑問を浮かべていた。
粗暴な性格以外の問題点か……ドワーフの地下都市に行く通路の情報も得られたのに、さっきの話で何か気になることがあったのか?
疑問を浮かべる俺達にエステルさんによる解説が始まった。
「本当にシュトガル鉱山に入り口があるのだったら、エルフよりも情報があったり交流が残っていてもいいわよね。でもそれがないってことはいくつか理由が考えられるわ」
「むむっ、単純に交流を断っているだけじゃないのでありますか?」
「その可能性もあるけど、優れた金属製品が作れるならできるだけ交流は残すと思うのよね。でもそれがないってことは……思いつくのは本格的な敵対関係かしら」
「敵対関係でありますか!?」
「ええ、エルフと違ってドワーフと人が明確に敵対してる可能性もあるわ。今でも簡単にシュトガル鉱山に行けるのに交流が未だにないなんておかしいじゃない」
敵対、だと……そういえばエルフとも最初はかなり警戒されていたもんなぁ。
魔人との戦争が終わった後、ドワーフ達も魔人扱いされて人が襲撃した可能性は十分にある。
だけどすぐにエステルはその考えを否定するようなことを口にした。
「けど、敵対してるならあの周辺はもっと警戒されてるはずだから他の理由も考えられるわね」
「他の理由か……単純に交流ができなくなった、とかか?」
「ええ、もしシュトガル鉱山にある横穴がその通路なら、今は魔物が溢れかえっているってことよね? 魔人の戦争から交流が断絶したなら、ドワーフの国でも何かあったのかもね」
「むむむ、通路が使えないなら交流なんてできないでありますよね」
シュトガル鉱山の最下層にあった横穴が地下都市へ続く通路だとすれば、あそこはガーゴイルやコロッサスが大量に出てきて使い物にならない状態だ。
魔人の戦争からあんな感じになったのなら、実質封鎖されてるようなもんだし交流断絶も頷ける。
Bランク冒険者であるディウス達ですら、中に入ってもすぐ逃げ帰ったとか言ってたもんな。
でもそれならドワーフの情報ぐらいは残っていてもよさそうだけど……交流できなくなったからまとめて魔人扱いで記録の抹消でもされたのか?
謎が謎を呼んでいる感じで頭がこんがらがってきたが、エステルはさらに恐ろしいことを言い始めた。
「そして1番考えられる最悪の可能性は、ドワーフの地下都市はもう滅んじゃったことね」
「えっ!? そ、それはいくらなんでも飛躍し過ぎなんじゃ……」
「あら、そうかしら? エルフの里だって魔人から襲撃されてたんだから、ドワーフ達だって襲われていても不思議じゃないわ。少なくとも王都の近くに通路があったのなら、この森よりも遥かに襲撃に遭いやすかったはずよ」
「それなら交流どころの話じゃないでありますよね。まさか滅んだかどうかもこの国が把握してない可能性も……何だか恐ろしい話になってきたでありますね」
「ドワーフ自体は他の通路から逃げ出した可能性もあるけど、その地下都市とやらはもうないかもしれないわ。もし行くのならそういう想定はしておいた方がいいと思うわ」
い、言われてみれば既にドワーフの地下都市が滅んだ可能性は十分に考えられるのか。
鍛冶を頼むためにドワーフ探しをしようと思っただけなのに、何か怖い話に首を突っ込みかけている気がしてきたぞ。




