自動車狩り
魔導自動車を交換してから数日後、俺達はルゲン渓谷に来ていた。
委託販売をするにあたって素材となる原石の確保と、更なる魔導自動車の機能を試すためだ。
ここはクェレスから遠く離れた場所だから人も滅多にいないし、色々と実地するのに都合がいい。
今日は補助としてエステル、ラピス探索兼武装操作要員としてフリージアとマルティナも連れてきている。
さっそく現地のビーコンに移動した後、車アプリから魔導自動車を呼び出した。
魔導自動車はスマホの中に収納出来て、必要な時にいつでも出せるから車庫が必要なくて助かるぞ。
「お兄さんったらもう魔導自動車を狩りに利用しようだなんて、こういうことはすぐに思いつくのね」
「ああ、せっかく武装が付いてるし利用しない手はないだろう。まあ、使うにしてもどの魔物の相手をするか考えないといけないけどさ」
魔導自動車の武装はかなりの物で、訓練場で試したけどマジックタレットなら1門でミノタウロスですら瞬殺できた。
耐久力に関しては試して壊したら困るからほどほどにしかやってないけど、フリージアの弓でも装甲に傷付かないぐらいの硬さがあったから、並大抵の魔物ならまるで脅威にならないだろう。
そこで移動だけじゃなくて狩りにも使えないかと、実験も兼ねて今日はラピス狩りをしに来たのだ。
フリージアとマルティナは魔導自動車に乗り込む前から既にやる気満々のようだ。
「わーい! マジックタレット撃つの楽しみ!」
「も、目標を中央に入れて押す、目標を中央に入れて押す……あ、当たるかな?」
「あはは、マルティナちゃん緊張し過ぎだよー」
ある程度訓練場で試し撃ちはしたのだが、実際に外に出てやるとなるとまた違った感覚になるはずだ。
なのでまだ練習中の段階ではあったけど1度実地しようと提案してみた。
それに他にもいくつか武装を追加してみたから、それを試すのも理由の1つ。
まだ試行錯誤中だけど、絶対に必要な光学迷彩は追加しておいた。
スマホの車アプリから魔導自動車の操作も可能で、ボタン1つで目の前にあった車が一瞬で透明になってその場から消える。
「お兄さんが真っ先に欲しがっていたけど、この光学迷彩って凄いのね。視覚頼りだったら存在に全く気付けそうにないわ」
「だろ? おすすめ順の中で1番上にあっただけはあるな。この状態のまま攻撃できるんだから最高だぜ」
「何もない所からいきなりマジックタレットなんて撃ち込まれたらひとたまりもないわ。ちょっと相手が可哀想になってくるわね」
この光学迷彩が周囲の景色を投影しているのか、光の屈折などを利用してるのかよくわからないが、とにかく目で確認できなくなる。
インビジブルマントと違ってこれは攻撃してもされても解除されず、見えない状態でマジックタレットを撃てるぶっ壊れ機能だ。
ゲームとかであったらチートも大概にしろと抗議されてもおかしくない。
だが、機銃を撃つ際の音や光などは発生してしまうから、襲われそうな時などは撃つタイミングを考えた方がよさそうだ。
しっかりと光学迷彩が機能しているのを確認して乗り込み、さっそく俺の運転で発進することに。
「よーし、それじゃ出発するぞ。準備はいいか?」
「ええ、地図の確認は任せてね」
「大丈夫なんだよ! どんどんラピスを撃つからね!」
「だ、大丈夫……かな? とにかく撃ってみるよ!」
エステルは助手席でスマホを見て地図アプリなどの確認、フリージアとマルティナは後部座席のモニターでラピスの索敵とマジックタレットの操作。
フリージア達は車内からでも擬態している魔物を見破れるから、車で走りつつ発見したラピスを撃ち抜く算段だ。
準備も完了して車を発進させるが、ゴツゴツした岩山でも訓練場で走った時と同じようにまるで振動なく走っている。
「ルゲン渓谷は結構な荒れ地だけど問題なく走れるみたいだな」
「魔法のカーペットでも移動は問題なかったけれど、こっちの方が安定感はあるわ。1人1人に席があるから乗りやすいのもあるかも。私としてはお兄さんの膝の上に乗れなくなっちゃったのが残念だけどね」
「お、おう。すまないがそれは我慢してくれ」
魔法のカーペットの時はエステルがよく俺の膝に座っていたからなぁ。
あっちは進んでいる時に風をモロに受けるし、落ちる心配がないとはいえフワフワしていて安定感は劣っていたか。
フリージアはあの上でも弓矢で攻撃できてたけど、ラピスを探しながらずっと攻撃するのは疲れるだろうから、移動しながら狩りをするなら魔導自動車の方が適してるはずだ。
そう思いながら走行していると不意にフリージアが声を上げた。
「見つけた! 狙い撃つんだよ!」
ドリュリュと音を立ててマジックタレットが火を噴き、少し離れた斜め前方の位置にあった石を粉々にした。
正確に当てたのか無駄撃ちは全くせず一瞬のできごとで、確認はできなかったがどうやらラピスを倒したようだ。
ラピスを粉々にしたフリージアの得意げに喜ぶ声が後ろから聞こえてくる。
「あったりー」
「おー、さすがフリージアだな。飛び道具はお手の物か。車で移動してるのに問題なく当てたじゃないか」
「この速さで走りながらだと私じゃ当てられそうにないわね」
「フリージアさんはやっぱり凄いよ。僕にもコツを教えてほしいなぁ……」
「えへへ、射撃ならお任せなんだよ! 当たるって時にボタン押せば当たるよ!」
当たる時に撃てとか全くアドバイスになっていないんですが……これだから感覚だけで全てをこなす超人は困る。
後ろの様子は確認できないけど、マルティナが困惑している顔がよく浮かんでくるぞ。
ラピスを倒した後にスマホを確認したエステルが、あることを俺に伝えてくれた。
「倒した魔物のドロップアイテムもちゃんと回収箱に入ってるみたいよ」
「おー、自動ドロップ回収機能も搭載して正解だったな。これなら倒した後降りてアイテム回収をする必要がなくて助かるぞ」
「移動しつつ車内から敵を倒すだけで素材まで回収できるなんて、なんだか狩りをしていると思えなくなってくるわね」
光学迷彩以外にも魔導自動車には機能を追加してある。
それはアイテム回収箱という機能で、武装によって倒した魔物のドロップアイテムを自動で車に回収してくれる物だ。
今の感じだと離れていても関係ないみたいだし、ずっと走り続けてひたすら魔物を倒していられるぞ。
これなら今までと段違いの効率で原石集めができそうだな。
回収箱の機能も確認できそのまま走り続けていると、マルティナもラピスを見つけたのか声を上げた。
「み、見つけた! も、目標を中央に――ああ!? と、通り過ぎちゃった……」
「そうガッカリするなって。いきなりぶち当てるフリージアがおかしいだけだぞ」
「むー! 私おかしくなんてないよ!」
「うぅ、僕も格好よく決めたかったのに……本番だとやっぱり緊張しちゃうなぁ」
マルティナは訓練場で作り出した魔物相手にマジックタレットの練習をしていたけど、当てるとか以前の問題みたいだぞ。
こいつは結構真面目な奴だから、絶対に当てないといけないっていう変なプレッシャーでも感じてるんじゃないか?
仕方がないので一旦走るのを止めてバックして通り過ぎたラピスのところまで戻って、停車させて撃たせることにした。
「マルティナはまず射撃から慣れないと駄目そうだな。止まってるからこの状態で撃ってみろよ」
「う、うん! 当てるぞ、絶対に当てるぞぉ……」
モニターを食い入るように見ながら、マルティナは後部座席に付いているマジックタレットの発射ボタンを押した。
すると近くにあった石に向かって機銃が発射されて、瞬く間にラピスは粉々になる。
「やった! 当たった! 当たったよ!」
「やったねマルティナちゃん! バッチリだったんだよ!」
「あ、ありがとう! どんどん撃ってみるよ!」
フリージアとマルティナはお互いの片手でパンと叩き合って喜んでいる。
車を止めながら動かないラピス相手に当てて喜び過ぎに思えるけど、1回でも成功させたならプレッシャーも和らぐはずだ。
それからも車を走らせ続けて色々と試しながらラピス狩りを続けていく。
ラピスの近くでマジックタレットのオートエイム機能を起動してみたが、敵判定される機銃が動くことはなかった。
「へぇー、擬態持ちにはマジックタレットのオートエイムは機能しないのか」
「自動で照準を合わせてくれるのなら、私でも簡単に当てられそうだわ」
「まあいざって時に困るからエイム力は上げておかないとな」
オートエイム機能は自動で照準を追尾してくれて、ボタンを押すだけで確実に敵へ当たるチートのようなものだ。
これさえあればバンバン敵に当てられるけど、不測の事態に備えたら素の実力でも当てられるようにしておかないとな。
そんなこんなでラピス狩りを続けていたが、ついにマルティナも移動中でもラピスにマジックタレットを当てられるようになった。
「おお、マルティナもすっかり移動しながら狙うのに慣れてきたな」
「慣れてきたって言っても相手が動かないからね。こっちも動いて相手も動く状態だったら、当てるのはまだ無理かなぁ」
「初日でそれだけ当てられるようになったら十分よ。私じゃずっと練習しても当てられる気がしないわ。魔法を使っても正確に当てられないから、広範囲と数で攻撃してるんだもの」
確かにエステルの攻撃って大体数のごり押しか、回避不能な範囲攻撃ばかりだな……。
自分に合った戦い方をしてるんだし、それを実現可能な実力を持っている証拠でもあるか。
マジックタレットは結構精密な射撃を求められるから、俺達の中でも技量差が結構ありそうだ。
正直俺も車で移動しながら機銃を当てられる自信はないぞ。
そんな話をしている間にも、平然とフリージアは機銃でラピスを次々と狩り続けていた。
もうシューティングゲームのようにドリュリュ、ドリュリュとリズムを刻みながら四方八方にいるラピスに1発も外さずに命中させている。
「フリージアは……お前本当はオートエイム使ってたりしないよな?」
「使ってないもん! ちゃんと狙って撃ってるだけだよ! でも弓で狙うよりちょっと難しいかもー」
「あんな簡単そうに当てておいて難しいとか言われてもね……」
「僕が1体当てる間にフリージアさんは10体ぐらい倒してるからね……あれ、なんか涙が……」
こんな化け物みたいな命中精度しておいて難しいとか言われたら、俺だって泣きたくなってくるぞ。
マルティナだって十分過ぎるほど上達が早いんだし、フリージアと競わずに頑張ってもらいたいな。
1時間程度で既に200体以上のラピスを処理していたのだが、不意にフリージアが気になることを言い出した。
「あれ? 平八! あそこに大きな魔物がいるよ! あれもラピスなのかな?」
「おっ……ああ、あの大岩か。あのサイズならルペスレクスだろ」
「あら、遭遇するなんて運がいいわね。依頼は受けていないけれどこの際だから倒しておきましょうか」
停車してフリージアが指指す方向を見たら、開けた場所にあからさまに不自然な巨石があった。
あれはラピスの希少種のルペスレクスだろうな。
前はあいつ見つけるのに5時間ぐらいはかかったし、ドロップアイテムの魔元石も貴重だから狩っておくか。
それに強い魔物に対して追加した武装も試してみたい。
「せっかくだから追加したマジックミサイルを使ってみようぜ。フリージア、マルティナ、あの大岩に弾切れするまでマジックミサイルを撃ってくれ」
「了解しましたなんだよ! 撃つの楽しみー」
「弾切れするまでって、そこまで撃つ必要あるのかい?」
「ルペスレクスってそこそこ強いからね。反撃されないように倒し切らないと危ないもの」
いくら魔導自動車の耐久力があるとはいえ、できるだけ攻撃は受けたくないからな。
初手で火力全開にして反撃の隙も与えずに倒したい。
マジックミサイルは1度に10発内蔵されていて、撃ち切ると3分ぐらい補給されない。
これを2つ搭載しているから、20発が現在の最強火力になる。
マジックミサイルがギリギリ当たる距離まで離れてから、武装を起動させると魔導自動車の上部に発射台が形成される。
この車の武装は使う時にニョキっと生えてくる感じで、形成位置も上下左右自由自在と何でもありだ。
天井部分を透明化させてどうなるか見ていると、フリージア達がボタンを押してマジックミサイルが発射された。
発射台から細長い筒状の物体が飛び出して、後ろの端っこの部分から火を噴いて山なり状に対象に向けて飛んでいく。
ポチポチとボタンを押す度にミサイルが発射されて、目標である大岩に次々と着弾。
大きな破裂音と強烈な光を伴って大爆発を起こししばらくの間それが続く。
全てのミサイルを撃ち終えて煙が晴れると、大岩があった位置には何も残っておらずクレーターだけが残っていた。
「おおぉぉ……ちょっとやり過ぎちまったか? ミンチよりもひでー状態になっちまっただろ」
「収納箱に魔元石も入ってるから完全に倒し切れたようね。マジックミサイルは私の軽い魔法と同じぐらいの威力がありそうだわ」
「あはははは! ミサイル撃つの楽しいね! もっと沢山撃ちたいんだよ!」
「あんな爆発する物体を撃ち込めるなんて……クック、ちょっと楽しいかも」
反撃されないように全ぶっぱしたけど、さすがにやり過ぎちまったようだな……。
けど、20発もあればルペスレクスでさえ余裕で倒せるのがわかったのは大きい。
もはや撃退用と思えないが、これなら十分魔導自動車は狩りでも使えるだろう。
マルティナがなんか新しい扉を開きそうになっているけど……まあいいかな。




