魔導自動車
さっそくURアイテム交換チケットを購入し、さらにそれを使ってUR魔導自動車と引き換えてから訓練場に場所を移した。
ここなら魔導自動車がどんな物か試すのに打って付けだ。
「こうやって乗り物の試乗もできるし訓練場を作ってよかったな」
「外だと町から離れた人気のない場所でやらないといけないものね。訓練以外でも使えるから助かるわ」
「色々な景色も見れるから楽しいんだよー。追いかけっこもできるもん!」
「追い回す方は疲れる」
「新しい乗り物楽しみでありますなぁ。魔法のカーペットみたいな揺れないのを希望であります!」
「本で見た自動車に乗れるなんてワクワクしてくるよ! 僕も運転してみたいなぁ」
「あまりはしゃいではいけませんよ。と、言いたいところですが、乗り心地など色々と気になりますね。どれぐらいの速度が出るんでしょうか」
ノール達はワイワイと騒ぎながら魔導自動車を見るのを楽しみにしているようだ。
俺以外は自動車自体馴染みがない乗り物だからな。
馴染みのある俺ですらどういう物なのか気になっているし、はしゃぎたくなる気持ちも仕方がない。
「それじゃあ実体化するぞ」
スマホのアイテム欄から魔導自動車をタップして、【使用しますか? Yes、No】と出たのでYesを選択。
画面から光が溢れ出してあっという間に車が現れた。
見た目は銀色のフレームで内部は3列シートまである、ありふれたワンボックスカーだ。
「へぇ、案外普通の自動車みたいだな」
「おお! 結構大きな乗り物なのでありますね!」
「わー! ピカピカしてて凄そうなんだよ!」
「馬車みたいな見た目だけれど、馬が引いたりはしないのよね?」
「仕組みはわからないけど、アクセルを踏むと自動で動くらしいよ。これが普通に走ってる世界があるなんて信じられないね」
「あの透明なガラス部分が脆そうに見えますが、あれで本当に魔物からの襲撃を防げるんでしょうか。ちょっと車の耐久力を試してみたくなりますよ」
フリージア達ははしゃいでいるけど、シスハはどうやらこれで本当に魔物を撃退できるのか疑っているようだ。
俺としてもタイヤも一般的な物にしか見えないし、これで本当に溶岩地帯とかも走破できるのか疑わしい。
とりあえず乗ってみないことには性能がわからないか。
鍵がどこにあるのか探そうとしたら、スマホに通知がきて車用のアプリが追加されていた。
起動してみるとこれで魔導自動車の鍵を開けられるようだ。
さっそく鍵を開けて乗り込んでみると、中も至って普通の車で助手席と運転席の間にあるセンタークラスターにスマホをはめ込む部分があった。
設置してみるとスマホと車が連動し始めて、上の部分にあるパネルに3D地図アプリやその他車の設定などが表示されている。
スマホアプリで車内の装飾なども弄れて、運転操作をマニュアルかオートマチックにするかもここで選択できるようだ。
「おー、エンジンもスマホで始動できるみたいだな」
「中もかなり広いじゃない。椅子の座り心地もいいし快適に移動できそうね」
「フカフカだ……。これならぐっすり寝ていられる」
「部屋の中にいるみたいで変な感じがするー。馬車もこんな感じなのかな?」
エステルは助手席に乗り込んでいて、ルーナ達も後ろの席に乗って興味津々だ。
そんな中マルティナは後ろの席からズイッと運転席に身を乗り出してきて、目を輝かせながら俺に催促をしてきた。
「なあなあ! 早く運転してみてよ! 運転席凄くかっこいいな!」
「そう慌てんなって、ちょっと運転する前に色々弄りたいからさ」
「走る以外にも何か機能があるのでありますか?」
「ああ、デフォルトで通常モードと装甲モードとかもあるみたいだ。それと武装も初期だとマジックタレットが2つ付いてるらしい」
「えっ、マジックタレットってSSRのやつですよね? あれが2つも付いてるなんて……それに初期って言い方ですけど、まさか追加できるんですか?」
「あー、追加できるみたいなんだが……この車カスタムするのに魔石が必要みたいだ」
外装なども項目もあって、初期武装としてマジックタレットが2門と表示されていた。
あのガトリングガンが2つも付いてる車ってだけでも恐ろしいぞ……。
魔導自動車カスタムって項目もあり、魔石を支払うことで車に色々と追加できるようだ。
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魔導自動車カスタム一覧
おすすめ順
・光学迷彩 魔石50個
・飛行モード 魔石100個
・潜水モード 魔石100個
・ホバーモード 魔石100個
・キャンピングルーム 魔石150個
・マジックマインランチャー 魔石10個 上限5
・マジックタレット 魔石10個 上限8
・マジックミサイル 魔石20個 上限4
・マジックブースト 魔石30個
・ナビゲーションシステム魔石200個
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「な、なんでありますかこの魔石の数は!」
「武装とか追加するのにも魔石が必要なんてえげつないわね。けどかなり強力そうな物が多そうだわ」
「武装だけじゃなくて車自体の機能もあるんですね。まだまだページがありますけど、フルカスタムしたら魔石はいくつ必要なんでしょうか」
武装とか追加するのにかなり魔石持っていかれそうだな……てか、武装系のカスタム凶悪そうなの多くない?
マジックって付けとけばいいとでも思ってるんじゃあないだろうな。
けど、武装追加だけじゃなくて、特殊な機能の追加が結構あるし欲しいぞ。
光学迷彩は周囲の景色と同化して所謂透明になるってやつだよな。
この車で走っていたら目立ちそうだし、外で乗り回すのに打って付けの機能じゃないか。
それに飛行や潜水やホバーモードって……もしかしてこの車変形でもするのか?
飛行モードにしたら翼でも出てきて空を飛べるのだろうか。
これ以降のページも軽く見てみると、魔石を使えば車種なども変更できてフレームも好みに変えられるようだ。
是非とも各種機能は欲しいところだが、今は車の基本性能を試すのを優先しよう。
「とりあえずカスタムは後回しとして、車を装甲モードに変えてみようか」
スマホを操作して車を装甲モードに変えてみると、一瞬だけ車内が暗くなりすぐ元に戻った。
何が起きたのか外に出てみると、車が全体が銀色のフレームで覆われていて窓がない。
タイヤも銀色になっていて、触ってみると硬いようで何とも言えない感触がする。
心なしか車体サイズも少し大きくなっているように見えるし、フレームが厚くなっているのか?
まるで装甲車みたくなった魔導自動車を見て、マルティナは興奮冷めやらぬ様子でピョンピョン飛び跳ねて騒いでいる。
「おお! 超かっけぇ! めちゃくちゃ強そうになったじゃないか!」
「これが装甲モードなんだ。カチカチで凄く硬そうなんだよー」
「これなら魔物から襲われてもビクともしなそうだわ」
「窓が全部消えていますね。ですが先ほど中から外が見えていましたけど……どうなってるんですかね」
そういえば外に出て確認する前、普通に外の景色が見えていたよな……。
確認するためにまた車内に戻ってみると、どうやら窓にあった場所は液晶モニターになっていて外の景色が映し出されているようだ。
スマホで操作すると見える範囲も広げられて、全開にすると上下左右全てが透過して外が見えるようになった。
装甲モードだと外にサイドミラーが付いていないのだが、それもモニター内で再現されていて普通に左右後方が確認できるようになっている。
さらには各座席にモニターが設置されていて、助手席や後部座席からもある程度操作が可能のようだ。
「外から中を確認できないのに、中からは内部モニター的な感じで見えているのか。とんでもない車だなこれ」
「他の席からも武装の操作とかできるのね。これなら皆で協力して魔物を倒しながらの走行もできるわ」
「前後左右全てに対してマジックタレットを向けられるみたいでありますね。隙がないのでありますよ」
「あはははは! マジックタレット撃つの面白いんだよ!」
「おい馬鹿野郎! 無駄に連射してるんじゃねぇ!」
「平八の世界はこんな車が日常的に走っているのか。恐ろしい」
「いや、さすがに機銃ぶっ放すような車はその辺にいねーよ……」
後部座席のモニターを弄ってフリージアがドリュリュと音を立てるマジックタレットをぶっ放し、それをルーナが呆然とした様子で眺めていた。
こんな車が普通に走っている物騒な世界と勘違いしないでもらおうか。
……にしても、説明欄を見た時は移動がメインで魔物の撃退機能はおまけかと思ったけど、こんな武装があるとか完全に戦闘車両だよなこれ。
武装を使わなくても、装甲モードなら魔物をそのまま轢き潰せるまであるぞ。
まあ、あんまり後味よくなさそうだから轢きたくないけどさ。
そんなこんなで確認作業も終わって、さっそく慣らし運転をすることにした。
「それじゃあ出発するぞ。事故らないと思うけどちゃんとシートベルト締めておくんだぞ」
「はーい! 出発進行なんだよ!」
「揺れないといいのでありますが……うぅ、怖いでありますよ」
「酔ったら私が回復いたしますのでご安心ください」
やはり馬車と似たような乗り物だからか、ノールは座席にしがみ付いてブルブルと震えている。
シスハがいるから酔っても平気とはいえ、あの感覚を味わうのが怖いみたいだ。
俺も久しぶりの車の運転で、ちゃんと操作ができるか緊張してくるぞ。
スマホからエンジンを起動してみると、全く音がせず振動すらしていない。
サイドブレーキやらの操作をしてからゆっくりとアクセルを踏み込むと、魔導自動車はそれに合わせて前進を始めた。
「おー、凄い静音性だな。それに振動もないぞ」
「外を見てなかったら全く動いてるのに気が付かなそうね。馬車とは比較にならない快適さだわ」
「ふぅ、これなら酔わなそうなので安心したのでありますよ。さすがURの乗り物でありますね」
「魔法のカーペットは怖かったけど、これは囲われてるからか安心できるよ。これで外を走ったら常に観光気分を味わえそう」
「これはいいものだ。これだけ静かならずっと寝て……ぐぅ」
「ルーナちゃん寝ちゃったんだよー」
い、いくら静かだからって寝るの早過ぎだろ……そんなにシートの座り心地がよかったのだろうか。
アクセルを徐々に踏み込んでいくと簡単に100キロは超え、それでも車内は振動もなく快適そのものだ。
速度メーターの上限は500キロまであり、カスタムで更に速くできるらしい。
……まあ、いくらスピードを出せるとはいえ、500キロなんて出す気もしないけどな。
100キロでも魔法のカーペットより遥かに速いから、速度に関しては既に十分な性能だろう。
その後も軽く乗り回し続けてハンドリング性能やらある程度確認した。
「とりあえず草原での走破性は全く無問題か」
「走れるか試すのでしたら、地形変更してみてどうなるか試してみましょうよ」
「うーん、そうだな。草原とかは元々走りやすいし、荒れ地とかも試してみよう」
平地での運転はいいとして、問題はやっぱり走りづらい場所でどうなるかだよな。
地面の起伏が激しいところじゃ揺れも激しいだろうし、何より走ることすらできない可能性も考えられる。
たとえば雪山とかでタイヤが滑っちゃって横転なんてしたら目も当てられない。
一応魔導自動車の説明にあらゆる荒地を踏破できると書いてあったが、試しておいた方がいいだろう。
訓練場なら地形も変更できるから、それを試すのにもうってつけの場所って訳だ。
話の流れでさっそく地形変更を適用して、岩山、雪山、そして溶岩地帯を試すことにした。
岩山はゴツゴツと荒れていたが全く揺れもなく走り抜け、雪山はタイヤが滑ることなくグイグイと進み、最後の溶岩地帯はマグマの熱さをものともせず走っている。
「うおぉぉ……溶岩地帯も走れるって書いてはあったが、本当に走っても問題ないんだな」
「この車内なら暑さも感じないようね。さっきの雪山も寒くなかったし、厳しい環境でも移動できるのは助かるわ」
「魔法のカーペットだとこういう環境だと魔法でも使わないと大変ですもんね。それにこんなゴツゴツした場所を走っても全く揺れないのは驚きです。揺れを抑える機能も付属してるのでしょうか?」
「ルーナちゃんぐっすりお休みなんだよー。快適過ぎて刺激が足りないかも」
「移動手段に刺激を求めるものじゃないでありますよ。一応私達の方でも地図アプリと連動した索敵ができるでありますが、遊んだり寝てても問題なさそうでありますね」
「おいおい、運転する俺の身にもなってくれよ。この車さえあれば夜でも余裕で移動できそうだが、俺が連続して運転するのもなぁ」
魔法のカーペットの時は危険だから一応夜の移動はしていなかったが、魔導自動車なら昼夜問わず活動し続けられるだろう。
問題は運転できるのが俺だけだから、あまり長時間運転する訳にもいかない。
眠気は抑えられたとしても集中力は落ちていくだろうし、事故でも起こしたらシャレにならないからな。
この車なら事故っても無傷で済みそうではあるけどさ。
誰か交代要員がいたら助かるんだけどなぁー、なんて内心思っていると、必死に訴えかけるようにマルティナが声を上げた。
「な、なら僕も運転してみたい! ちゃんと言うことを聞くから運転の仕方を教えてほしい!」
「運転を覚えてくれるなら俺としても助かるが……」
「いいんじゃない? マルティナならしっかりと覚えてくれそうだし、この子真面目だから言うこともしっかり守ってくれるわよ」
「まあ、そういう点では信用してもいいんじゃないですかね。学習意欲も高いですし、すぐに大倉さんより運転も上手くなりそうです。あっ、ついでに私も運転の仕方教えてくださってもいいんですよ」
「うーん、そうだな。この際だしシスハとマルティナに運転を覚えてもらうか」
「やった! ありがとうございます!」
「えー、いいないいな! 私も運転してみたいんだよ!」
「お前は絶対暴走させるからダメだ!」
「ブーブー! 平八のケチ!」
フリージアが頬を膨らませて抗議してくるが無視無視。
こいつに運転させたら絶対アクセル踏み込んでとんでもない速度でどっか突っ込んでいくぞ。
その点マルティナは真面目で知識を得るのに意欲的だし、シスハも何だかんだこういう時はまともに取り組んでくれるからな。
2人に車を乗れるようになってもらいつつ、俺も運転する勘を取り戻していくかね。




