シスハとの食事
「よし、それじゃあこの辺りでそろそろ自宅に戻るとしようか」
「お待ちください大倉さん」
「ん? どうかしたのか?」
アーデルベルさんの家からある程度離れビーコンで帰宅しようと言うと、シスハの待ったがかかった。
「昼を過ぎたばかりで小腹も空いてきましたし、お食事にでも行きませんか?」
「それもそうだな。ノールにも昼飯はいらないって伝えてあるから、王都に来てるんだからちょうどいいか」
朝一から王都に来ていたけど、話がいつ終わるかもわからないから早く終わればガチャの食料でも出そうと考えていた。
でも予想外に話も早く終わってまだ昼を回った辺りだし、適当に店で食べていくのもいいかもしれない。
そんな訳でさっそく俺達は飲食店に足を運んだ。
この辺りはまだ高級住宅街の範囲で、付近の店はどれもお高そうな店で入っていくのはビシッとした身なりの人ばかり。
いわゆるドレスコードが必要そうなお店で、いつもの冒険者服だったら入店を断られそうな雰囲気だ。
シスハの選んだ店に入ってみると、ネクタイをビッチリ締めているウェイターさんが案内してくれて席に着いた。
おおぅ……いつも行くような酒を飲んだ人達がワイワイと叫ぶ声が微塵もなくて、会話している人はいるけど静かでまるで空気が違うぞ。
ノールやエステルともたまに食べに行くけど、こんな店は来たことがないぞ。
「せっかくだから入ってみたけど、こういうお高そうな店は初めてでちょっと緊張してきたんだが……」
「ただのお食事なんですから緊張するほどじゃありませんよー。まあ、私としては気楽に飲食できる方が好みですけど、たまにはこういう店もいいですね」
キョロキョロ周りを見る俺とは違い、シスハはまるで緊張した素振りもなく落ち着いている。
いつもの服と違ってスーツ姿のせいか、なおさら上品というかオーラがあるように見えるぞ。
店内にいる紳士達ですらあからさまではないにしろ、目でシスハをちらりと確認していた。
とりあえずメニューを見て適当に注文をし、まず運ばれてきた酒のグラスを持ってシスハと乾杯する。
「それでは商談も無事に成功ということで、軽めですがお祝いとしましょう。乾杯です」
「おう、乾杯」
奮発してお高い酒を頼んでみたのだが、シスハは遠慮なくグラスの酒をグイっと呷り瞬く間に飲んでいる。
高級店だというのにまるで遠慮がないぞ。
「ぷはぁー、一仕事終えてから飲むお酒は格別ですねぇ。この一杯のために生きていると言っても過言じゃありませんよ」
「神官の癖に何言ってやがるんだお前は……」
「神官とはいえ人ですからね。酒を飲まずにはいられない時もありますよ」
「ほぼ毎日のように飲んでる奴が言うセリフじゃないだろ」
食事の時は殆ど酒も一緒に飲んでやがるからなぁ。
酒豪であるフリージアとは結構な頻度で仲良く酒を飲んでいるらしい。
結局シスハは食事が来るまでに数回酒をお代わりしてガブガブと飲み、既に頬を赤らめて若干酔い気味だ。
そんな姿とアーデルベルさん達との商談中の話を思い出して、俺はあることを聞いてみた。
「前々から気になってたんだが、お前の宗教の信仰ってどういうのなんだ?」
「おっ、大倉さんも興味がおありですか?」
「うーん、気になるちゃぁ気になるな。酒飲みまくるし魔物ぶちのめしまくったり好き放題やって、吸血鬼や死霊術師すら軽く受け入れてるけど、お前のいる教会とやらは皆そんな奴ばかりなのか?」
「我らの神は何事も快く受け入れてくださるだけですよ。私はこれでも一応正真正銘の神官ですよ」
「正真正銘って言うのに一応を付けるなよ……」
シスハの柔軟さには色々と助けられているが、一体こいつの宗教ってどんな組織なんだろうか。
こいつみたいな奴が集まっているならとんでもない集団になりそうだけど……。
俺の質問にシスハは酒を飲むのを止めて、グラスを軽く回しながら考え込んでいる。
「んー、そうですねぇ。厳密に言うと色々とありますけど、基本的に悪いことでもしてなきゃ特に敵対とかはしていませんでしたね。むしろ理不尽に虐げられている者は誰であろうとお救いしますよ。我が神も闘争本能さえ満たせればある程度自由でいいよってスタンスですし」
「と、闘争本能?」
「はい、我らの神は安寧と和合と闘争を司っていますからね。何事に対しても抗うような強い心を持つ者が集まる集団なんです。なので戦う行為自体が祈りと同義なんですよねぇ」
「つまりお前が好戦的なのも、神に対する信仰心の表れってことなのか?」
「よくお分かりじゃないですか。私ほど信仰深い神官はなかなかいないと思いますよ。なので私が戦いたくなるのも宗教上の理由で仕方のないことなんですよ」
「……お前神官になる前からストリートファイトしてたとか言ってなかったか?」
「……それはそれ、これはこれですよ。どちらにしても信仰深いのに変わりはありません」
こいつ子供の頃からストリートファイトしてたとか言ってたし、絶対に神の教えとか無関係に戦うの好きなだけだろ。
それに安寧と和合と闘争を司る神ってなんだよ! おかしいだろ!
俺もシスハも何とも言えない空気のまま食事を続けていたが、話題を切り替えるように今度はシスハの方から質問をしてきた。
「にしても私達はもうパーティーとして十分人員も揃ったと思いますけど、まだ欲しい戦力の候補になる方っているんですか?」
「あー、確かにパーティーバランスとしてはもう整ってはいるな」
「私達は大倉さんから知識をいただいているとはいえ、GCとやらに関してはかなり曖昧なんですよ。特に他のURユニットに関してはまるで知識にないんですけど、どんな方々が他にいるんですか?」
「おっ、GCのユニットに興味があるのか」
「当然じゃないですか。一応私達は同じ世界から呼ばれているんですよね? あの世界に自分の知らない未知の強者が沢山いるんですから知りたいですよ」
「俺も全部完全に覚えてる訳じゃないからうろ覚えになるけど、どんなユニットに関して聞きたいんだ?」
「そうですねぇ。私としては興味あるのは同じような神官系の方と、カロンさんのような圧倒的強者の方を知りたいです」
やっぱりシスハ達も自分の世界にいる強者について気になるんだな。
マルティナが来てからそういう話題になることが増えてきた影響だろうか。
URユニットの数は軽く100人を超えているから、名前とかを聞けば思い浮かぶだろうが正確に全てを覚えてはいない。
とりあえず覚えてる範囲でシスハに近いユニットを上げてみるか。
「お前と同じ神官なら回復系ってことになるから、巫女のミコトと祭司のカラミア辺りかな」
「ほほぅ、やはり私と同じような存在が他にもいるんですね。何か明確に違う点はあるんですか?」
「ミコトは回復力は低めだけど、使役する狐ユニット持ちで離れた相手でも回復できるんだ。憑依させると防御力を底上げして持続的な回復もできる。カラミアはやられたユニットを復活できるスキル持ちだったぞ」
「ミコトって方はマルティナさんの回復版みたいな方ですか。カラミアって方のやられた人を復活できるというのも気になりますねぇ。1度どんな物か見てみたいです」
確かにアンデッドからデバフを飛ばすマルティナとミコトはちょっと似てるかな。
同時に5体の小狐ユニットを展開して、味方に憑りついて回復したり敵の攻撃を防いでくれたりする。
カラミアは倒された味方ユニットを復活させて、さらに一定時間バフを加えるというなかなかに壊れたキャラだ。
倒した相手の強ユニットを復活させられて、一気に勝負をひっくり返されて枕を濡らした苦い思い出もある。
「それで次は圧倒的強者って話だが、パッと思いつくのは鬼神セツキ、天仙ヨウキビ、大天使アリステル、機械神サレナかな」
「おや、随分と少ないですね。もっと色々な方がいるのかと思いましたよ」
「お前含めてURユニット自体全員やべー奴らだからな。剣聖とか英雄とか他にも強い奴らはいるけど、今名前を上げたのは特にコストが高い奴らだ。4人ともカロンちゃんと同じぐらいのコストだぞ」
1体で戦局を完全にひっくり返すユニットといえば、GCプレイヤーならこの辺りが真っ先に思い浮かぶだろう。
鬼神セツキは前にもマルティナに説明した鬼のURユニットで、カロンのように単騎で他のURユニットですら蹴散らせる強さだ。
ヨウキビは仙人のURユニットで空を飛んだり分身してきたりなど攪乱しつつ、1対1だと無類の強さを誇る。
それでいて逃げ足がめちゃくちゃ速いから、ヒットアンドアウェイでひたすら妨害して前線が崩壊することもざらにあった。
アリステルは天使のURユニットで高耐久力と高火力を兼ね備えているが、欠点として出撃位置から一切動くことがない。
だけどスキルがかなり特殊な物で、出撃と同時に発動して手下の天使を召喚できる。
戦闘用天使15体、防衛用天使15体が出てきて戦闘に加わり、さらに一定時間ごとにラッパを吹く天使が1体ずつ出現。
ラッパ天使が1体追加されるごとに強力な範囲攻撃が巻き起こり、7体目が出現と同時に広範囲に高ダメージを伴う即死攻撃をばら撒く。
こいつが投入されたら殆どのプレイヤーは全力で叩き潰しに行くことになるから、引きつけ役としても凄く優秀だ。
そして機械神サレナは近距離中距離遠距離どれも適性があって、小型の機械ユニットを出したり自己修復があったり、瞬間移動したりなどもうとにかくめちゃくちゃな奴だった。
その代わりに回復手段は自己修復のみで、カラミアの蘇生スキルとかも適用されない。
と、いった感じでそれぞれのURユニットの説明をシスハに語った。
「ほぉ、何というか想像もできない強さの方々がいらっしゃるんですね。というか天使までいるんですか……それに機械神ってなんですか?」
「俺も詳しく知らないけど魔導機兵ってユニットのURだな。多分魔法で動く機械ってところだろ。本当に色々な種族やらがいるからなぁ……大悪魔とかもいるけどコスト帯がちょっと低いぞ」
「ガチャにいるってことは全員あの世界に実在してるってことですよね? 私ですら悪魔や天使なんて存在出会ったことありませんよ。世界が広いってことを思い知らされますよ。悪魔って魔人のことなんですかね?」
「さぁ? そこは本人に聞いてみないと何ともな。ガチャで出るってことは少なからず味方なんだろ」
GCの魔人はよくわからない存在だったからなぁ。
味方ユニットとして悪魔系とかもいたけど、敵対している感じだったから魔人も一枚岩じゃないのかもしれない。
それからもシスハが興味津々とGCの話を聞いてきたので、語りながらゆっくりと食事を続けるのだった。




