半自動狩り
大魔石討議会の翌日、さっそく俺達はレムリ山へやってきていた。
相変わらず草木のない殺風景な岩山で、遠くにリザードマン達がうろついているのが確認できる。
本日はここで昨日言っていた魔石狩りを試すつもりだ。
必須人員は俺、ノール、エステル、シスハ、マルティナの計5人だが、今回はおまけにフリージアも同行している。
「久しぶりにここに来たでありますけど、リザードマン相手に魔石狩りをするのでありますか?」
「ああ、ここでちょっと試したい魔石狩り方法があるんだよ」
「構わないけれどリザードマンってそこそこ強いから効率悪そうじゃない?」
「あちらから向かってくるから誘導するのは楽ですけど、結局倒すのに時間かかりますもんね。けど大倉さんもそれはわかっていますよね?」
「当然だろ、今回は早く狩ることだけが目的じゃない。ありとあらゆることを総合的に考えて、合理的な魔石狩りができないかと考案した狩りだ」
「おおー、平八自信満々なんだよー。どんな狩りなのか気になる!」
「魔物を狩るのにこんな情熱的な人初めて見たよ……」
ガチャを回す魔石が手に入るんだから情熱的になるのは当然だろうが!
狩場に来たのはいいけど俺の妙案をまだ信じられないのか、ノールは懐疑的な態度で質問をしてきた。
「けどそんな自信ある狩りを思いついたなんて、何がきっかけだったのでありますか?」
「へっへっへ、強いて言うなら新しい戦力が加わってくれたおかげだな。なっ、マルティナちゃん」
「ひぃ――な、何なのさ急に! 君にちゃん付けされるとか鳥肌立ったよ!」
マルティナは顔を青ざめさせて後ずさり、自分の両腕を抱きしめて震えて怯えている。
ノールやフリージアも俺から距離を取っていて、シスハとエステルは呆れたようにため息を吐いていた。
ちょっと場を和ませる冗談気味に言っただけでここまでドン引きされると、さすがの俺でも傷付くんだが。
気を取り直して魔石集めの準備をするために、まずはマルティナにアンデッドを出してもらった。
配分はゴースト3体、スケルトン15体、メメントモリ1体。
これはマルティナが負担に感じない程度の数に抑えてある。
今回の魔石狩りはマルティナのこのアンデッド達が主体だ。
さっそくアンデッド達を呼び出してもらうと、ゴーストやスケルトンはビシッと整列して指示を待っている。
「言われた通りに出てきてもらったけど、僕の友達に戦ってもらうつもりなのかい?」
「その通りさ。アンデッドはマルティナが近くにいればある程度勝手に戦ってくれるんだろ?」
「お願いをすれば簡単な行動なら自己判断でやってくれるね。近づいてきた魔物を倒すぐらいなら問題なくできるよ」
「よしよし、なら俺の考えている狩りもできそうだな」
全部マルティナが指示しないと動かないなら問題だったが、何をするか伝えれば後は勝手に動いてくれるなら大丈夫か。
俺が何をしたいのか大体察してきたのか、エステルがある質問をしてきた。
「アンデッド達を戦わせようとしているのはわかったけれど、リザードマンを倒せるのかしら?」
「メメントモリなら多分勝てると思うけど、スケルトンは負けちゃうと思うよ。それに狩る時間も凄くかかると思うし……」
「いや、俺の考えはまだあるぞ。エステル、アンデッド達に3倍支援魔法をかけられるか?」
「……そういうこと。アンデッドを強化して戦わせるつもりなのね」
「イグザクトリー、その通りでございます! 名付けるなら半自動狩りってところだな」
「半自動狩り、でありますか?」
そう、俺の考えは前回マルティナのアンデッドを戦わせたのをさらに発展させたもの。
それが先ほど宣言した半自動狩りだ。
ゴブリン達じゃアンデッドから逃げてしまっていたけど、リザードマン達ならスケルトンよりも強いし恐らく立ち向かってくるはず。
なんせエステルの特大爆撃を食らっても勇ましく向かって来るぐらいだからな。
しかし問題はスケルトンがリザードマンを倒せるかということだが、それもエステルの支援魔法などで解決できる。
さらには各スケルトンにガチャ武器を持たせて戦力強化もして、メメントモリの元々持っている盾にヘイトアブソーバを付けておく。
ヘイトアブソーバは防具扱いじゃないから、アンデッドでも着用できるみたいだ。
「シスハ、ついでにアンデッドにお前の支援魔法もかけられないか?」
「うーん、そうですね。浄化魔法とはまた別ですから問題ないと思いますよ」
「よし、それじゃあついでにこれを配置して実験開始といくか」
リザードマン達がいる山からちょっと離れた場所にマジックタレットを設置しておく。
これでアンデッド達だけじゃなくて、マジックタレットで更に殲滅力が上がり狩り効率もある程度よくなるはずだ。
「マジックタレットまで使うなんて、今までにないぐらい用意周到な魔物狩りでありますね」
「今までの狩りとは確かに一味違う感じがするわね。お兄さんがあれだけ自信満々だったのも頷けるわ」
「まだ試してみないと上手くいくかわかりませんけどね。成功するかはマルティナさんに委ねられていますよ」
「えっ!? ぼ、僕にかかってるんですか!?」
「マルティナちゃん頑張って! 成功したらあの魔石狩りを回避できるんだよ!」
シスハの言う通りこの魔石狩りが成功したら、ある意味魔石集めの革命が起きたと言っても過言じゃないからな。
俺としても是非とも成功してもらいたいところだが……結果はどうなるかな。
アンデッドをゴースト、スケルトン、メメントモリに分けたのはちゃんと理由がある。
まずリザードマンをおびき寄せるゴースト、次に実際に戦うスケルトン、そして盾役のメメントモリだ。
マルティナに作戦を伝えてさっそく動いてもらい、3体のゴーストが散り散りになって岩山に行って複数の場所からリザードマンを釣って来た。
一度に何十体ものリザードマン達がゴースト達を追いかけてこっちに来たが、その先にはスケルトンとメメントモリが待ち構える。
ある程度近づくとリザードマン達の標的はスケルトン達に切り替わり、お互い容赦なく襲い掛かり戦闘が始まった。
グリモワールを使ったエステルの3倍支援を受けたスケルトン達の動きは全く骨に思えないほど俊敏で、攻撃を受けたリザードマン達は一撃で体勢を崩すぐらいの威力があるようだ。
そんなスケルトン達の猛攻を受けているリザードマン達なのだが、一部はスケルトンに反撃もせずに盾を持ったメメントモリに攻撃を加えていた。
効果があるか心配だったけど、ヘイトアブソーバの敵意増加はしっかりと機能しているみたいだ。
いくらスケルトンが支援を受けているとはいえ、大量のリザードマンを相手にしたらさすがに持たないからな。
メメントモリならリザードマンの攻撃でもダメージが少ないし、長時間狩りをするなら盾役は必須だ。
しかもメメントモリからは黒い霧も発生していて、次々とデバフを受けて動きが鈍くなっている。
盾役もできてデバフまで付加できるとかメメントモリは本当に優秀な盾役だな。
更には設置しておいたマジックタレットにリザードマンの画像を登録して指定すると、ドゥリュリュと音を立てて次々とガトリングガンが火を噴いて攻撃を加えていた。
スケルトン達に当たらないよう的確に自動照準されていて、防御力がそこそこ高いリザードマンでもかなりのダメージを負っている。
そんな感じでまずお試しの1回目の実験は少し時間はかかったものの、スケルトンに1体の被害もなく数十体のリザードマンを完璧に倒し切り大成功だった。
「よし、スケルトン達がリザードマンを圧倒したぞ。マルティナの友達やるじゃないか!」
「しょ、正直なところ友達でもスケルトンがリザードマンを倒せると思わなかったよ。エステルさんとアルヴィさんの支援魔法って凄いんだね」
「ふふ、ありがとう。けど私達の支援魔法だけじゃあそこまで強くならないわよ。ノールとお兄さんの固有能力でバフされているのも大きいわ」
「うぅ……私だけ何もできてないんだよ……」
「フリージアさんは何かあった時に遠距離で対処できる待機要員ですよ。あんまり気にしなくていいですからね」
この狩りは俺とノールの固有能力によるバフ、エステルとシスハの支援魔法があってのものだ。
バフや支援、それにアンデッドを出すマルティナが現地にいないといけない。
だから全自動狩りとは言わずに半自動狩りと命名した。
それから数回同じように狩りを試してみたが、特に問題なくスケルトン達は1体の被害も出さずに安定してリザードマン達を狩り続けて、更には希少種であるケプールすら完封した。
「ぐへへへ、今回は成功みたいだな。ケプールも問題なく倒し切れてるぞ。これで半自動狩りが確立できたということだ!」
「私達が現地にいる必要はあるでありますけど、直接戦わなくていいのは楽でありますね。でも、代わりに戦ってくれてるアンデッド達に申し訳なくなってくるでありますよ」
「大丈夫ですよファニャさん。皆役に立てると喜んでいるみたいですし、アンデッドは肉体も精神も疲れを感じないんです。肉体を形成して戦えるだけでも嬉しいそうですよ」
「へぇー、確かにアンデッドが眠ったりしないものね。疲れないなんてちょっと羨ましいかも」
「私達も回復魔法で肉体的な疲労は何とかなりますが、精神面は限界がありますからね。休まずの作業は死霊術師のアンデッドに勝てませんよ」
アンデッドって魔物として存在しているやつらも、四六時中徘徊しているようなもんだからな。
疲れを感じないっていうのは労働力としてこれ以上うってつけな存在もいないだろう。
俺達の場合は操っているマルティナの疲労があるからぶっ続けるのは無理だけど、自分達で狩りをするよりずっと負担は少ないはずだ。
現にその後もアンデッド達に狩りを任せつつ、俺達は用意したテーブルと椅子に座って優雅にお茶会をしながらその光景を眺めていた。
ノール達は俺が魔石狩りにただひたすら効率を求めていると思っていただろうが、多少効率が落ちても楽ができるならその方がいいというのが俺の考えだ。
無理に効率を上げても以前のノールやエステルみたいに発狂して危険だしな。
戦力が揃ってない頃はどうにもならなかったけど、マルティナが来てくれたおかげで魔石狩りに関してもだいぶ改善されそうだ。
それから効率はどの程度のものか計測するために、しばらく雑談しつつお茶を飲んでスケルトン達によるリザードマンの蹂躙を眺めるのだった。
「ふーむ、2時間で26個か。半自動狩りでこの効率なら十分だな。半日ここにいるだけでも50個は超えそうだぞ」
「本当にこの狩り方だと凄い楽ね。これならここで皆でお茶をしている間に魔石が集まるわよ」
「せっかく狩場に来ているのに魔物と戦わないのは不完全燃焼ですけどねぇ。私もアンデッド達に混ざって戦ってきますかね」
「狩りをしなくていいのは助かるのであります。本当にマルティナには感謝なのでありますよ! もう魔石狩りマラソンからは解放なのであります! 本当に、本当にありがとうなのでありますよ!」
「マルティナちゃんは私達の救世主なんだよ! 来てくれてありがとう!」
「えっ、えっ……そ、それほどでもありませんよ! ……ファニャさん達がこんなに感謝してくるって、今までどんな狩りしてたんだろう」
魔石狩りを嫌がっていたノールやフリージアが、マルティナを神のように崇めて感謝を捧げている。
こいつらそんなに魔石狩りが嫌だったのか! これで楽して毎日でも魔石狩りができそうだから、俺としてもマルティナが来てくれて本当によかったぞ。
……まあ、緊急時はまた魔石マラソンやるかもしれないんだけどな。




