第2回大魔石討議会
神魔硬貨の取引を終えて一件落着となった中、居間にルーナ以外のメンバーを集めて俺はある宣言を開始した。
「はい、注目! ちゅうもーく! 第2回大魔石討議会を開催しまーす!」
俺の宣言を聞いてノールやエステルは呆れ返った様子でこっちを見ている。
「また何か騒ぎ始めたのでありますよ……」
「取引も済んで急ぎでやることもなくなったから、また何か考え付いたのかしら」
「大倉さんが騒ぐ時は大体ロクでもないことですからねぇ。楽しそうなので私は歓迎ですが」
「第2回大魔石討議会……? 定期的に君達はこういうのをやってるのかい?」
「そうなんだよ。魔石ってことはまた狩りをするの? もう長時間狩りは嫌なんだよー」
全員何か言いたい様子ではあるけど全部聞かなかったことにして、咳払いをしつつ俺は話を続けた。
「あー、色々とあったが今回の取引で神魔硬貨が13枚手に入った。これで今まで手に入れたのを合わせると、使った1枚を除いて32枚貯まっている。この貯まった硬貨の使い道、それと本格的に魔石集めの方法を再検討したいと思う。予想以上に神魔硬貨の集まりがよかったからな」
「最初は全然貯まらないと思っていたけれど、もうそれだけ手に入るなんて驚きよね。今の枚数だとユニット強化権まで交換できるじゃない」
「おお! なら今すぐ誰か強化したら戦力アップでありますよ! 装備強化権を使うのもよさそうであります!」
「それなら是非とも私を強化してもらいたいですねぇ。そうすれば圧倒的な神官力を発揮いたしますよ」
「いいないいな! 私も強くなりたいんだよ!」
「ぼ、僕は1回強化されてるから遠慮するけど、できたらもっと強くなりたいなぁ」
自分達の強化の話になりノール達はキャッキャと、何を強化したいとか各々楽しそうに語っている。
彼女達ぐらいの強者でも強くなれるとなったら喜ぶものなんだな。
「まあ待て待て。かなり早い段階で貯まったとはいえ、安易に使うもんじゃない。お金で買えない価値のあるプライスレスな硬貨なんだぞ? とりあえず収集効率次第で使い道を考えたいと思う。装備やお前達の強化もいいんだが、コストダウンやスキルアップも優先したい。魔石を貯めてPU・フェス発生クエストを連発するのも1つの手だろう。当然1番の目標はURユニット確定チケットだ」
「お兄さんってガチャのことになると真剣になるわよねぇ」
「常にこれぐらい真面目になってもらいたいのでありますが……」
「大倉さんがずっと真面目だったらそれはそれで不気味ですけどねー」
なんで俺が真面目だと不気味って言われないといけないんだよ!
俺はいつだって誠実な紳士だというのに……まあいい、シスハの戯言を気にしていたら話が進まないからな。
「でだ、神魔硬貨の使い道を考える前に、安定した魔石回収の方法を確立したい。結局神魔硬貨を上手く活かすには、どれだけガチャを引けるかにかかっている」
「よくわからないけど魔石沢山集めたいってことだよね? なら魔物を沢山狩ればいいんだよー」
「そ、そのまんま過ぎる意見だね。僕はこの前少し魔石狩りを試されたけど、あんな感じで狩りをすればいいだけでは?」
「甘い、適当に狩りをしていたら非効率だろ。狩場の選定、人員の配置、時間辺りの狩り数、その他諸々を考えて狩りをしていく。試行錯誤の末に魔石をよりスピーディーかつ大量に入手できて目標を達成できるのだ。そうすれば1日の狩り時間の短縮に繋がり楽になるだろう?」
そう俺の完璧な理論にマルティナやフリージア達は納得したように頷いていたが、1人異論を投げかける奴がいた。
「言ってることはわかるでありますけど……早く魔石が回収できるようになったら、本当に1日の狩り時間も減るのでありますか? その効率のまま結局1日狩りをするとか言い出さないでありますよね?」
「……さて、俺の考えもわかってもらえただろうから、さっそく試したい魔物狩りプランがあるんだ」
「ちょっと! 私の質問に答えるのでありますよ! 逃げるなでありますぅ!」
「本当にお兄さんはどうしようもないわね……。そういう所も好きだけれど」
「わざわざ言い出すってことは、今回はよっぽど自信のある魔石狩りを考えていそうですね」
「ぼ、僕達一体何をさせられるんだろう……まさか12時間狩るとか言わないよね?」
「あわわわわ……魔石狩り怖いんだよ……」
ちっ、ノールの奴魔石狩りに関しては本当に危機察知能力が高くなってやがるな。
しかし基本的に効率を上げてそのまま1日狩る気は今のところしないつもりだ。
宣言した通り1日の目標を決めて早く達成できたらそこで狩りを切り上げるが、緊急時には長時間狩りをするのも認めてほしい。
そのためにも基礎的な狩り効率の向上かつ、各自に負担のかからない楽な狩りを考えたいから協力してもらいたいな。
「神魔硬貨を手に入れる方法を確立できたらもっと楽な話なんだけどなぁ。マリグナントを倒す前に存在を知っていたら……くっ」
「どうしてそこでマリグナントが出てくるのでありますか?」
「えっ、だってあいつなら誘導したら勝手にペラペラ硬貨のこと話しそうだったろ? ミラジュの方がどう考えても手強いぞ」
「それはそうですね。まあ、ミラジュって方も追い詰められたら話しそうな雰囲気はありましたけど」
あの時ミラジュを取り逃がしちゃったのは本当に痛かったな。
神魔硬貨を所持していたし確実に何かしら情報は持っているはずだ。
どこにいるかわからないからこっちから聞き出しに行けないのがもどかしい。
次出会ったら情報を教えてもらえるか交渉をして、駄目そうなら捕まえて吐かせるしかないな。
「さて、魔石狩りに関しては後で試すとしてだ。もう1つは魔石狩りグループの形成だな」
「前から検討していたでありますけど、なかなか実現できてないでありますよね」
「仲間意識を持たせてガチャアイテムを使わせる条件が結構厳しいもの」
「SR系の指輪は配りやすいですが数を揃えるのも大変ですからねぇ。もっと手ごろなガチャアイテムを配れればいいですけど、仲間意識という部分がまた難しいです」
「へー、魔石を手に入れる条件なんてあったんだね」
「私も今初めて知ったんだよー。なら沢山の人に装備渡せば解決だね!」
能天気そうに笑顔で言うフリージアにエステル達は微笑ましい目を向けている。
極論を言えばその通りなんだけど、それが出来たらこんなに苦労はしてないんだよなぁ。
「そっちに関しても何かいい案でも思いついたのかしら?」
「最適な案かは判断し辛いが、代案的な物は考えたぞ。冒険者向けの商売をするついでにやってみるのはどうだ?」
「商売、でありますか?」
「ああ、この前エステルの魔導具を作って売るって考えを聞いて閃いてな。そのついでにガチャアイテムの販売も交えてみようかと思ってさ」
「私達で物を作って売るの!? わーい、何か面白そう!」
エステルの魔導具を売りつつ、ついでにガチャアイテムを売ってある程度拡散できないかと思いついた。
ただ店に売り付けたり他人に譲ったりするよりも、俺達で販路を確保すれば仲間意識の条件もクリアしやすいはず。
だがそれを行うにあたって当然の疑問をシスハが投げかけてきた。
「しかし商売をするにしても、どうやってするおつもりですか。まさか店を開いてやるなんて言わないですよね?」
「いくら俺でもそこまで無謀なこと考えてないぞ。当然やるなら委託販売だろ」
「委託販売ねぇ……確かにそれなら私達の負担はかなり減るけれど、色々と問題が多そうじゃない。そもそも仲間意識の方はどうするつもりなの?」
「そこは許可制のメンバーカード的な物を配布して、ガチャアイテムの販売と割引とかを考えているんだ。ガチャ品以外の作ったアイテムをよく買ってくれる冒険者相手に一定の条件を設けてやろうと思ってる。この世界で馴染みある物かわからないから、やるなら商人とかに相談とかしないといけないけどさ」
「むむぅー、そこまでやってくれる商人なんているでありますかね?」
「まあ俺の考えでしかないからな。王都に冒険者協会のような商人の集まりがあるらしいから、そこで相談してみるしかないな。エステルの魔導具だけでもかなりの取引材料にはなるだろ」
「そこまで期待されるとちょっとプレッシャーを感じちゃうかも」
エステルさん産の魔導具なら一般的な魔導師よりも高品質な物を作れそうだし、素材だって俺達ならかなり良い物を揃えられる。
それに加えて限定的でもガチャアイテムも加えれば、かなりの売れ筋商品になるだろう。
あくまで俺達の目的は信頼できる相手にガチャアイテムを所持してもらい仲間意識を持たせること。
金額に関してはかなり融通が利くから、委託料として販売額の9割ぐらい渡してもいいぐらいだ。
さすがに9割はやり過ぎだからやらないと思うけどさ。
そう考えているとさらにシスハが驚くべきことを言い出した。
「エステルさんの魔導具は目玉商品になりそうですけど、他に何か作れるとしたら私とマルティナさん辺りでしょうか」
「えっ、僕ですか!?」
「癪ですけど神官と死霊術師は似たような部分がありますからね。私が作れるならあなただって多少は有用な物が作れるはずですよ」
「へー、何か作れないか俺も考えていたけど、シスハは自信ある物を作れるのか?」
「いくつか考えはありますよ。アンデッド系を寄せ付けない加護のある物、アンデッドを消滅させる聖水、回復効果のある物、結界を張る物など様々ですね。ただ基本的に使い捨てな上、持続もそこまで長くないので全て消耗品になります」
「結構よさそうな物が多いな。じゃあマルティナの場合はどんな物になるんだ」
「アンデッドを引き寄せる物、魔物を寄せ付けない物、相手を弱らせる物など、基本的に負の力を付加した物ですかね。当然それも消耗品になると思いますが」
「な、なるほど……僕の力にもそんな使い道が……」
この2人がそんな物作れるとは盲点だったな。
破戒僧みたいなシスハでも聖なる力を物に付加できるとは、仮にも聖女と呼ばれるだけはあるか。
シスハと同格ぐらいに負の力の強いマルティナも、それを活かした物作りができるんだな。
これは商売もいけるのではと考えていたが、エステルが不安な点を指摘してきた。
「でも負の力を使った物なんて売って大丈夫かしら?」
「うーん、他の神官とかに見つかったら目を付けられそうだもんなぁ。でも魔物避けになるなら需要はめっちゃあるだろ」
「販売するならこの世界の神官がどのような活動をしてるかも調べた方がいいですね。エステルさんの魔導具や私が作る物も、売って大丈夫なのか検討は必要でしょう」
確かに魔導具も既に売られているだろうから、あまり派手にやり過ぎたら競合相手に敵視される可能性はあるか。
神官も同じく聖水やお守りを販売している可能性もあるし、商人にも確認を取って事前に調べるのは大事だな。
「私は力になれそうにないでありますなぁ。食事ぐらいしか作れないのでありますよ。フリージアは何か作れるでありますか?」
「私もエステルちゃん達みたいなのは無理なんだよー。木とかを彫って置物ぐらいしか作れないよ」
「彫り物できるだけでも驚きだな。お前落ち着きなさそうだからそういう作業できないと思ってたぞ」
「むー、酷いんだよ! 一人前になる前は自分で弓や矢を作ってたもん! 結構得意なんだからね!」
おいおい、弓の名手であるフリージアの作った弓や矢なんてかなり需要がありそうだぞ。
ノールの料理の腕だってかなりのものだし……もしかしてこの中で何も作れないの俺だけでは!?
いや、ルーナなら俺と同じで何も……吸血鬼だしさらっととんでもない物出してきそうだな。
それから商売をするのか決まった訳ではないが、ワイワイと何が作れるか論議しつつ騒ぎつつ今日の会議は終了した。




