取引成立
王立図書館に行ってから数日後。
冒険者協会を訪れるとついにクリストフさんが取引相手から返答をもらえたようで、俺とエステルはさっそく応接室に案内されて話を聞くことになった。
「結論から先に言おう。先方は君達との取引に応じるそうだ」
「本当ですか!」
「ああ、こんな果実は食べたことがないと絶賛していたよ。代行として神魔硬貨も預かってきている。イリスアルクスを私に預けてもらえれば、また代わりに届けて取引成立だ」
おお、やったぜ! プルスアルクスじゃないとダメだって言われたらどうしようかと思っていたけど、無事に取引できそうだな。
そう俺は一安心していたのだが、エステルは頬に片手を当てて首を傾げていた。
「あら、直接私達が渡しに行かなくてもよかったの? どっちもかなり価値のある物だから、もっと慎重に交換すると思っていたわ」
「一応私は冒険者協会の協会長だからね。それなりに信用してもらっているということだ。君達も私にイリスアルクスを預けるのに異論はないだろう?」
「それは当然ありません。先に神魔硬貨も貰えるんですから、拒否する理由もないですよ」
「ははは、それもそうだな。先方は君達との関わりを持ちたいと考えていたようだが、私の方で判断してこのようなやり取りにさせてもらったのもある」
確かにエステルの言い分も理解できなくはないけど、協会長が仲介してくれるなら会う手間もないしありがたい話だ。
でも相手は俺達と関わりを持ちたいと思っていた、と。
なのにクリストフさんが会わせない方がいいと判断したって、一体相手はどんな人物だったのだろうか。
問題ある人物ならそもそも取引もしないだろうし……なんて考えていると、エステルがその心当たりを口にし出した。
「もしかして取引相手って貴族なのかしら?」
「本当に勘の鋭い子だね。名前は伏せるが相手は伯爵の爵位を持つ貴族だ」
「伯爵……?」
「一般的に公爵と侯爵の次、貴族の中でも3番目に立場の強い家だと思えばいいわ」
3番目に偉い貴族か……正直貴族なんて元の世界でも曖昧な認識でしかなかったから、3番目に偉い立場と言われてもピンとこないな。
伯爵とかは貴族内の区別で爵位ってやつだったと思うけど、馴染みがないからまるでわからん。
俺からしたら貴族ってだけでとにかくお偉いさんなんだなーって感じだ。
貴族と関りを持たなくてよかったと安堵していたのだが、クリストフさんは深刻そうな表情をしていた。
「どうやら伯爵はイリスアルクスを、王家に献上するために交換したいそうだ」
「……王家? つまり王族に渡す品物ってことですか!?」
「近々王家主催の催し物があるそうで、その場で注目を浴びるような品物を探していたところ、ちょうど私が話を持ち掛けてしまったようだ」
「あら、協会長さんは取引の相談をした時に、果実を欲しがる理由を聞かなかったの?」
「私の方から神魔硬貨を交換できないか持ち掛けた話だ。仕方がないから交換してあげようと言われたのだが、まさかそれが王家への献上品探しとは思ってもみなかった。彼は食通としても有名だったから、自分で食べるものだと思っていたんだ」
おおぅ……趣向品として買ったんじゃなくてまさかの献上品、しかも王家に渡す物かよ!
俺達もしかしてとんでもない物を交換してしまったのか?
王家への献上品にすると知っていたら、話し合い次第で断っていた可能性もあるが……自分から取引を持ち掛けた手前、果実が欲しい理由を深く聞けなかったのもありそうだ。
だけど神魔硬貨13枚は魅力的過ぎたから、どちらにしても引き受けていたかもなぁ。
俺がそう考えている一方で、エステルはジト目でクリストフさんに少し問い詰め気味に話を続けていた。
「ふーん、協会長なら王家のパーティーが開かれる情報ぐらい知ってそうなのにね」
「私は所詮冒険者協会の長という立場でしかないから、そこまで貴族達の情報は入ってこないんだ。今回のパーティーは一部の貴族のみで行われる小規模のもので、私も伯爵から聞かなければずっと知らなかっただろうね」
「貴族ならそういう催しがあっても不思議じゃないかも。過ぎたことは仕方がないし、貴族と会わなくて済むんだからいいわ。私達に配慮してくれてありがとね」
「あ、ありがとうございました」
「お礼を言われるほどのことでもない。君達は国の機関や貴族にあまり関わりたくなさそうだったからね。君達の名前などは伝えていないから安心してくれ。伯爵には冒険者が果実を採ったことを他言しないでほしいと頼んでおいた」
「ある意味匿名での取引ってところね。調べたらお互い誰かわかっちゃいそうだけれど、後で貴族とかが接触してきても白を切る余地は十分あるからどうとでもなりそうだわ」
「普通は貴族と関わりを持てるとなったら、積極的にアピールする者も多いのだがね……」
国や貴族に関わりたくないから俺達がAランク昇格を渋っているのは、クリストフさんもわかっているから配慮してくれたってことか。
取引はしてしまったけど協会長の機転でこれ以上関わることもないし、この件はこれで一件落着としよう。
にしても貴族と関わり合いたい人ってそんなにいるもんなのかぁ。
ちょっと気になるからこの際に聞いてみるかな。
「冒険者にもそういう人は結構いるんですか?」
「ああ、依頼を通して貴族や商人と繋がり持ち、活動の支援をしてもらっているパーティもある。例えば王立図書館の規制区画に入る許可や、貴重な素材の情報など様々だ。その見返りに優先的に依頼を受けたり、定期的に素材を納品したりなど持ちつ持たれつの関係だね」
「冒険者協会としてそういうのを許してはいるのね」
「そこは冒険者各自の責任としてある程度容認している。だからといって悪質な行いがあれば、協会利用の停止や冒険者資格の剥奪など処分をすることもあるがね」
なるほど、いわゆるパトロンってやつですな。
普通なら活動する上で貴族や商人が後押ししてくれるとなれば、資金や装備や消耗品の心配もなくてかなり心強いだろう。
そんな利点があるのに即断で関わりたくないという俺達に、クリストフさんは疑問を抱いている様だった。
「厄介ごともあれば利点があるものだが、君達はそれを考慮することなく関係を持ちたくなさそうだ。個人的にどうすれば君達の興味を引けるのかが気になっているよ。神魔硬貨の件も求めてはいるが、ないならないで構わないといったところなのだろう?」
「そうね。神魔硬貨を渡すから定期的に依頼を受けろって言われたら断るかもしれないわ。普段の狩りのついでにできることなら構わないけれど」
「君達は普段から物凄い量の素材を納品してくれるからね。その条件だけでも頼みたい者はいるだろう。むしろ協会からお願いしたいぐらいだ」
「うふふ、そうなったら冒険者協会にある依頼が全部解決してなくなっちゃうかもね」
「ははは、面白い話だがそれをされたら他の冒険者が困ってしまうよ」
冗談話みたいになってるけど、俺達が本気で冒険者協会にある依頼を片付けたらマジで全部消えそうだよなぁ。
他の冒険者の受ける依頼がなくなっちゃうからやるつもりはないし、今のまま適当に魔物を狩って素材を納品している程度がちょうどいい。
実際ここ最近受けてる依頼も殆ど魔人関係ばかりだしな。
話もここで一区切りしたので、さっそく神魔硬貨とイリスアルクスの取引を始めた。
クリストフさんが持ってきた箱を確認すると、神魔硬貨がちゃんと13枚入っている。
俺達もエステルが鮮度などを保つ魔法を施した箱に入れたイリスアルクスを渡し、取引は無事に完了した。
うほほほほ、一気に神魔硬貨が13枚も手に入っちまったぜ!
これでプレミアムチケットと交換したり、PU・フェス発生クエストをやったり夢が広がるな!
取引も終わって協会を後にしようとしたのだが、ちょうどいいのでもう1つ気になっていたことをクリストフさんに聞いてみた。
「お聞きしたいことがあるんですけど、レビィーリアって女性をご存じありませんか?」
「レビィーリア……もしかしてあのレビィーリア様のことか」
「あら、協会長が知っているなんてやっぱり有名な人みたいね。王立図書館で会ったのよ」
「なるほど、彼女は王国騎士団3番隊の隊長だ」
「王国騎士団ですか!?」
「一般人じゃないとは思っていたけれど隊長とは驚いたわ」
国の関係者どころかまさか王国騎士団って……しかも部隊の隊長かよ。
全く戦うような人に見えなかったけど、隊長ってことはかなり強いんだよな?
レビィーリアさんの名前が出てくると思っていなかったのか、クリストフさんも少し驚いている様子だ。
「王立図書館に入り浸っているという噂を耳にしていたが、まさか君達が彼女と出会っていたとは思わなかったよ」
「会うどころか詳しく話を聞いちゃったけどね。知らずとはいえ国の人と関わっていたなんて迂闊だったわ」
「まあそこまで心配はないだろう。彼女は変わり者だと聞いたが悪い噂を聞いたことはないね」
取引相手が貴族だっただけじゃなくて、図書館で会った人まで王国騎士団の人なんて、意図してないのに近づきたくない人達に関わっているような気が……嫌な予感がしてくるぞ。
そういえばマルティナがレビィーリアさんは聖騎士だと言ってたけど、それも本当だったのか確かめておくか。
「騎士団の隊長ならお強いと思うんですけど、もしかして聖騎士だったりしますか?」
「聖騎士? そういう呼び名があるのか私は把握していないが、神官と同じ浄化の力を使う騎士だと聞いている」
「聞いているって随分と曖昧な言い方ね」
「騎士団の実力を私達のような一般人が見る機会は殆どないのだよ。その点に関しては君達も同じようなものだがね。実力が高いのはわかっているが、具体的にどんな戦いをするのかわかっていない。前にディウス君と対決をした時も一瞬で終わってしまったからね。いつか実際に戦う姿を見てみたいものだ」
それを言われると、確かに俺達も他人に戦う姿を見せることは滅多にないな。
この世界は大まかに戦士系と魔導師と神官は区別されているけど、GCみたいに詳細な職の区別はつけてないのか。
死霊術師とかもそういう呼び名で認知されてなさそうだし、聖騎士と呼ばないで神官の力を持つ騎士って扱いなんだな。
さらに続けてクリストフさんは騎士団について語っていく。
「一応騎士団についてわかっていることといえば、以前起きた大討伐の際に騎士団員も派遣され軍や冒険者と共に戦い、少なくとも各々がBランク冒険者以上の実力はあると言われていた」
「少なくともってことは、中にはAランク冒険者並みの人もいたってこと?」
「隊長クラスはAランク冒険者以上だと、当時共に戦ったAランクパーティーは言っていた。1人で彼らでも苦戦しそうな数の魔物を軽々と屠っていたそうだ」
1人でAランクパーティー並みの活躍をする存在までいるだと!?
200年前にエルフのグラリエさんが王国騎士団と魔人が戦う姿を見た話だと、感想としてはノール達の方が強いと言っていた。
でもクリストフさんの話を聞いた感じだと、今の騎士団はその時よりも更に強い人達がいる可能性があるぞ。
王国騎士団……ないとは思うけど絶対に敵対したくないな。
最近やっているソシャゲのガチャで天井を多発して心が折れそうですorz




