ガチャは誰に微笑むか
宿へ戻ってきた俺達は、風呂や食事を終え部屋にいる。もう後は寝るだけだ。
そして寝る前に、俺達は3人でスマホを見つめながらベッドに座っていた。俺が真ん中で左右には彼女達がいる。
「という訳で、第3回平八カーニバルの開催だ」
「まだ引っ張るのでありますね。そのネーミングをするとまた爆死するでありますよ」
「ふふ、お兄さんって運が無さそうだものね」
スマホに告知された装備フェスティバルを回す為、日付が変わるのを待っていた。キャンペーン期間は今日だけみたいだ。
0時教信仰者である俺は、日付変更後のガチャ更新直後を狙ってガチャを回すつもりで待機していたのだ。
「まあキャンペーンと言っても今回はSR以上が3倍ってだけだからな。自制心を働かせて5回までにするか」
「おぉ!? お、大倉殿から自制心という言葉が出るなんて……成長したのでありますね。なんだか私嬉しいのでありますよ」
そう、キャンペーンだからと言って今回ぶん回すのは罠だ。これはSR以上の確率がアップしているというだけ。
SSRやURが3倍だとは一言も言っていない。SRだけが異常に出るというのも有り得るのだ。
基本的にやはりURを狙いたいが、それでもこのガチャは現状の装備を充実させるのにはいいかもしれない。
なので、今回は5回だけという制約を課そうと思う。この俺の鋼の意志は、そう簡単には動かない。
俺は意志の強い男なのだ。今回は絶対に五回までしか回さないぞ。
「でだ、ノールとエステル。2回ずつ11連を引いていいぞ」
「えっ!? ほ、本当なのでありますか! わーい!」
「あら、どういう風の吹き回しなのかしら」
「真の選ばれし者はな、1回でも最上級レアを引き当てるものなのだ……。というのは建前で、今回はエステルとノールが頑張ったからな。お前達が多く引くべきだと思うんだ」
ノールが余計なことを言っているがそれは置いておいて。前回は俺が1人11連全て回してしまった。
今回は前回以上に俺は仕事をしていないので、俺が回すこと自体少々気まずい。
なので今回は彼女達に引いてもらおうと思う。
けっして俺のガチャ運に不安があるだとか、彼女達にも爆死を味わわせてやろうとか思っている訳じゃない。
「それじゃまずノールからどうぞ」
「なんだか悪いのでありますな。それじゃあいくでありますよ!」
ノールにスマホを手渡して、今度はノールを中央に座らせて俺とエステルが横から画面を覗く。
スマホを受け取った彼女は、勢い良く11連ガチャをタップする。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。
【SR爆裂券、SRウエストポーチ、Rエストック、R食料、SRエクスカリバール、SRビーコン、SRニケの靴、Rぬいぐるみ、SR命の宝玉、SRマジックキャンセラー、R万能薬】
「ぬわ、SRなのであります」
「あら、残念ね」
「ふっ、まあこんなもんさ。落ち込むなよ」
「うぅ、それじゃあ次、イクであります!」
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まる。
【SR鍋の蓋、SRマジックシールド、SRスタビライザー、R食料、Rキャンプセット、SRバタフライグリップ、Rサンダル、Rマジックダイナマイト、Rロングコート、SSRニーベルングの指輪『ラインの黄金』、SSR月の雫】
「えへへ、私やっぱり持ってるのでありますかね」
「私を出したのもノールだって聞いていたけど、本当に運が良いのね」
「ま、まあURじゃないしな」
「なんで悔しそうなのでありますか……。とりあえず、はい。次はエステルの番なのでありますよ」
くっ、2回でSSRを引き当てるなんて。しかもSSRを2つもだと!?
戦力アップするのは嬉しいが、なんだか悔しいぞ。
ガチャを回し終えたノールがエステルに手渡して、今度は中央にエステルを座らせる。
「なんだかワクワクするわね。私こういうの初めてだわ」
「良いのでなくても落ち込むなよ? 床に転げ回って泣きじゃくるようなみっともない事とかはしちゃ駄目だぞ」
「それ大倉殿のことじゃ……ブーメランが飛んでいるのであります」
スマホを受け取ったエステルは珍しくそわそわとしている。容姿相応の感じでなんだか可愛らしいな。
はは、これで爆死して落ち込んだりしないよう慰める準備をしてやらないとな。ノールが何か言っているがよく聞こえない。
ノールと違いちょこんと11連ガチャを彼女はタップした。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。
【SRショルダーバッグ、SRエクスカリバール、SRビーコン、SRエクリプスソード、Rアイスリング、SRオートガードスフィア、Rショルダーパッド、R食料、Rぬいぐるみ、SRカドゥケウスの紋章、R寝袋】
「あっ……むぅ、思ってたよりもこれ悔しいわね」
「あー、どんまいどんまい。次良いの出るって」
「なんだか嬉しそうでありますね……」
エステルは悔しそうに頬を膨らませている。
はは、そう簡単にSSR以上が出るはずないじゃないか。
続けて彼女は11連ガチャをタップした。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まる。
【SRスカルリング、SR鍋の蓋、SRマジックシールド、SRニケの靴、R食料、Rポーション×10、SRハイポーション×10、Rトランシーバー、SR賢者の石、Rスリッパ、SSRグリモワール『イーラ』】
「ふふっ、やった。私もSSRが引けたわ」
「……なんだか今回SSRよく出るな」
「それにしても相変わらずURは出ないのでありますね」
なんということだ。ま、まさか2人共SSR以上を引きやがっただと!?
ちょっと待て、予定と違う。これで俺がSRだけしか出なかったら……。
「ふっ、ふふ、み、見ていろ。真に選ばれた者のガチャ運という奴をな!」
「よーく見ているのでありますよー。床に転がらないのを祈っているであります」
「お兄さん、良いの出なくても落ち込まないでね」
スマホを受け取り、今度は俺が中央に座る。両隣にいる彼女達がじーっと俺を見つめてくる。
やばい、緊張で手が震えてきた。こんな気持ちでガチャを回すのは初めてだぞ。どうしてこうなった。
震える指で11連ガチャをタップする。
画面に宝箱が映し出される。宝箱は、銀、金、白、そして虹色へと変化していく。
きったぁぁ! UR来た! どうやら俺はガチャに愛されているようだな!
あー、やばい。脳汁が溢れ出そうだ。
おおっと、危うく嬉しすぎてブレイクダンスのヘッドスピンする勢いで興奮していた。
ここは出たのが当たり前だと思わせるような態度でいないと示しがつかんな。
「まっ、当然かな」
「……エステル。さも平然を装っているけど、あれ内心絶対に狂喜乱舞しているでありますよ」
「……えぇ、そうね。見てみなさいよあの口、だらしなく緩んでいるわよ」
ひそひそ声で俺の後ろで何かを言っているがまるで気にならない。
今の俺はとても気分が良いのだ。そんな些細なことを気にするような小さな人間ではないのさ。
「んん~、聞こえんなぁ。さて……はっ?」
URが確定した時点で止めていた画面をタップする。そして虹色に輝いた宝箱から出てきた物を見て俺は思考が停止した。
【R食料、Rキャンプセット、Rクロムアーマー、R万能薬、SRエクスカリバール、Rポーション×10、Rホットリング、Rトランシーバー、SR温度計アプリ、R望遠鏡、URレギ・エリトラ】
「どうしたんでありま……あっ」
「ん? どうかした……」
固まっている俺を見て彼女達も画面を覗き込んだ。そして2人もそれを見て言葉を失っている。
「あ、あの……大倉殿?」
「はい? なんでございましょうか?」
「ひぃ、わ、私何も悪い事してないでありますよ!?」
声を掛けてきたノールの方を首だけ動かして向く。
僕の顔を見た彼女はベッドから飛び跳ねてエステルの後ろへと隠れた。
「ちょっとお兄さん、かわいそうじゃないの。ノールのせいじゃないわよ」
僕は笑顔で対応したつもりなのですが、一体どうしたのだろうか?
エステルが庇うようにノールを抱き締めてよしよしと頭をお撫でになっていらっしゃる。
「え? なんの事でしょうか? 僕はまだ何もしていませんよ?」
「顔と言葉が一致していないわよ。まるで親の仇を見るような表情ね」
「怒りのあまり言動がおかしくなっているのでありますよ……目の焦点が合ってないであります……」
おおっと、どうやら無意識に頭が逝っていたようだ。頭を左右に振って正気を取り戻した。
それにしてもレギ・エリトラが被るとかマジかよ。URで同じのが出るとか確率の壁を超えて出てきやがったぞ。
しかもそれ以外ほぼRだしどういうことだよ。嫌がらせか!
「うぐ、くっ……ぐぬぬ」
悔しい、UR出たけど悔しい。今すぐにでも床に転がりながら泣き喚きたい気分だ。
震える手が無意識にスマホの画面へと近づいていく。俺は別に引くつもりはない。
でも、うっかり空気抵抗で腕が滑ってたまたま11連ガチャをタップしてしまうのは事故だよね?
そのまま伸びる腕が画面に触れる前に、その進行は止まった。
「なんだ、ノール。それにエステル」
俺の両脇から2つの手が伸びてきて、スマホを持つ手と押そうとしていた手を掴まれた。
「ねぇお兄さん、今何しようとしたのかしら?」
「大倉殿。5回までって、言ったでありますよね?」
「あぁ、勿論だとも。やるつもりなんてないさ。さあ、その手を離したまえ」
どうやら俺が手を滑らせる事を予見して止めに入ったようだ。
押そうとする腕を動かそうとするが、全く前に進まない。
スマホを持つ手を近づけようとしても、エステルに抱き付かれて押さえられもう片方の手をノールに遠ざけられる。
くっそ、パワーブレスレット付けておくべきだった! これは想定範囲外だ!
「私、大倉殿のこと信じているのでありますよ」
「なら何故手を離さない」
「離したらガチャを回す方に信用しているのでありますよ」
なんて嫌な信頼なのだろうか。そんなに俺が信用できないなんてショックだぞ。
「くっ、なら間を取って3人で回すことにしよう」
「一体どこの間を取ってきたんでありますか!」
「ホントどうしようもないお兄さんね」
「いや、これ流れ来てるって! 絶対次もUR来るぞ! 頼む、お願いします! 私にガチャを引かせてください!」
「いや、そこまでしなくても……もう、仕方ないでありますね。エステルはどうでありますか?」
「そうね、ここまで言うんだし私は良いわよ」
俺は拘束されながらも頭を下げ2人に泣きながら懇願した。
俺の必死の訴えを受け入れてくれたのか、2人が手を離してくれた。
いや、本当に申し訳ないと思う。やっぱりガチャには勝てなかったよ。
でも、やったとしても正真正銘これが最後の1回だ。
「それじゃあいくぞ! いっせーの、せ!」
11連ガチャをタップする手に彼女達の手も添えて一緒に押すことにした。
画面に宝箱が映し出される。宝箱は、銀、金、白、そして虹色へと変化していく。
「うおっしゃぁぁぁぁ! な? 言ったろ? 流れ来てるって!」
「本当に出るなんて……今回はお兄さんの粘り勝ちなのかしら?」
「うぅ、認めざるを得ないでありますが……大倉殿毎回流れ来てるとか思っている気がするのでありますが」
「気にするな! どれどれ……」
またURの確定で停止していた画面をタップして排出された物を確認する。
これでまたダブりだったら俺多分心がへし折れると思う。
【R食料、SR幸福の指輪、SR守護の指輪、SRスカルリング、SRビーコン、SRバタフライグリップ、SRエクリプスソード、SRビーコン、SSRウィンドブレスレット、SSRパワーブレスレット、UR聖骸布】
よっしゃ! これで初UR装備ゲットだ!
しかしこれを俺が貰うかは性能を見て、他の排出された装備とのバランスを考えてからだな。




