ガチャアイテムの再現?
模擬戦を終えた翌日、俺は図書館で机に突っ伏して落ち込んでいた。
「はぁー、俺なんて、俺なんて……」
「ふふ、ここまで落ち込むお兄さんは珍しいわね」
隣に座っていたエステルは本を読むのを止めて、俺の頭を撫でながら励ましてくれていた。
大変お恥ずかしい限りなのだが、そんな慰めすら染み渡る。
マルティナとの一戦を終えた後、ギリギリの戦いだったと言われた俺は調子に乗ってノール達とも軽く手合わせを願ったのだが……それが完全に間違いだった。
まずノールと戦ったのだが、エクスカリバールと剣で真正面から何度か打ち合いをした末に、シールドバッシュで弾き飛ばされて止めを刺された。
上手く鍋の蓋で受け止めたのに問答無用で叩き伏せられた上、容赦なく切り伏せられ敗北。
次にエステルと戦ったのだが、接近することもできずに極太ビームに飲み込まれて敗北。
試合開始と同時にノールの時と同じようにビームを撃ってきたけど、それは床に伏せて何とか回避。
それから接近しようと走ったけど光球に阻まれて、それを避けたのだが衝撃の事実が判明した。
あからさまに目立つ光球とは別に透明な飛翔物も設置されていたらしい。
ノールはそれも避けながら戦っていたようだが、そんなのあるとは知らずに戦っていた俺は当然接触して爆破をもろに受けて吹き飛んだ。
そして地面に落ちて起き上がろうと顔を上げた時には、既に目前へ光の壁が迫っていてそのまま飲み込まれました。
その次はルーナを相手にしたが、多少逃げ回ったりして足掻けたものの最終的に胸を槍で貫かれて持ち上げられて、思いっ切り地面に叩きつけられて敗北した。
えぐいことやってきたのに気怠そうな顔をしたままだったのが脳裏にこびりついて離れない。
続いてフリージアを俺も森の中で相手にしてみようとしたのだが……案の定気が付いた時には既に俺は負けていた。
どこにいるか探していたら見事なヘッドショットを受けて即死だ。
しかも1本じゃなくて同時に5本ぐらい飛んできて、頭と胸に数本ずつ突き刺さるという恐ろしさ。
これが模擬戦じゃなかったらと思うと……もうポンコツエルフとか言うの止めようかな。
そして最後は俺のライバルと呼んでもいいシスハだ。
さすがに神官のシスハ相手に専用UR以外なしで戦うのはあんまりだと思い、武装していいと言ったらプロミネンスフィンガーとマジックブレードを選んで対峙することに。
シスハが自分で言っていた通りに今までに比べたら善戦はできたものの、最終的に俺の敗北。
俺の攻撃はやはり避けたり流されたりしたが何度か当てられた。
が、神官であるシスハは戦いながら自分を回復させて、ダメージを受けても瞬く間に全回復するという。
それどころか攻撃を受けているのにそのまま攻撃してきて、腹に膝蹴りを受け足払いをされて終いには体当たりで弾き飛ばされた。
そこから何とか持ち直してまた乱戦になったけど、不意にエクスカリバールを掴まれたと同時にプロミネンスフィンガーで爆破。
衝撃で手から武器を弾かれて動揺してしまい、その隙を突かれて顔を鷲掴みにされてまた爆破されて、さらにマジックブレードで体を貫かれてHPが尽きた。
やはりシスハ相手だとしても、サイコホーンで思考を読まないと俺はまだ勝てないらしい。
という訳で、俺の成績は6戦0勝6敗という完全敗北で終わった。
そして現在図書館に来てこうしてエステルに慰めて貰っていた訳だ。
情けないと思いつつもついつい愚痴がこぼれてしまう。
「だってさ、最初はマルティナといい感じに戦えて自信持てたのによ。マルティナ以外と戦ったらあれだぞ? というかエステルも強過ぎだろ」
「ごめんなさいね。けど手加減するのもお兄さんに失礼でしょ? それに下手に手加減したら今のお兄さん相手だと私達も負けちゃいそうだからね」
「まあ手加減されるよりボコられた方が清々しくもあるけどな。普段どれだけ俺がガチャ装備に助けられてるのかがよくわかったよ」
「それでも少しは成長してると思うわよ。誰を相手にしても30秒ぐらいは持ちこたえたじゃない」
「お、おう……それは成長してると言っていいのだろうか」
ほぼ素の戦闘力でノール達相手にして瞬殺されなかっただけでも成長したと言えるのかな?
だけど全員の相手をしてわかったことは、シスハが言ってたのは正しかったってことだ。
これから模擬戦をしてもらうなら、しばらくはマルティナかシスハに相手をしてもらおう。
うん、いつまでも落ち込んでいても仕方ないし、これ以上エステルの読書の邪魔をしても悪いか。
俺のせいで中断してたみたいだが、机の上には読んでいたであろう本が何冊も積まれている。
「本を読む邪魔をして悪かったな。何の本を読んでいたんだ?」
「あら、興味があるの? ここにあるのは私達の世界にあった魔法具の本よ」
「魔法具? この世界にある魔導具とは違うのか?」
「いえ、呼び方が違うだけで大体似たような物ね。元々ある程度作り方は知っていたけれど、せっかくだから読んでみようと思って。久しぶりに私も何か作ってみようかしら」
「へー、面白そうだな。俺にも何か手伝えることあるか?」
「そうね……まだ素材の準備とかもしていないから揃えるのを手伝ってもらいたいかも」
エステルが魔導具を作っているのは殆ど見たことがないな。
URの魔導師である彼女なら凄い魔導具を作れそうだから、どんな物ができるのか楽しみだ。
そんなことを話しているとエステルは気になることを言い始めた。
「安定して手軽に作れるものがあれば、その内お店に卸してお金を稼ぐのもいいわね。今度マイラにどんな魔導具がいいか聞いてみようかしら」
「えっ、もしかして小遣いが足りなかったか? 足りないならすぐ渡すから遠慮なく言ってくれよ」
「ふふ、ありがとう。でも違うわよ。冒険者以外の稼ぎも検討してみようと思ったのよ。ほら、魔石や神魔硬貨も集めたいんだから、お金はいくらあってもいいじゃない? それに一緒に活動する人数も増えたし蓄えはしておかないとね」
「エ、エステル……すまないな俺が不甲斐なくて……」
「お兄さんはお金の管理をしっかりしてるんだからいいのよ。それに研究のついでに魔導具を作る感じだから気にしないで」
エステルにまで金銭の心配をさせてしまうとは……。
けど、普通に生活するだけなら既に十分なほど蓄えがある。
実験のついでとは言ってくれているけど、無理して作ってまで稼ごうとしてたら止めよう。
それにしても魔法具と魔導具か……似てると言えばガチャアイテムもそうだよなぁ。
「魔導具とガチャのアイテムも似てると思うんだが、ガチャのアイテムを魔導具として再現するのはどうだ?」
「似た物を作ることはできるわよ。ガチャのレアリティにしたら、頑張れば一部のSRぐらいまでは何とかできそうね」
「できないことはないのか。じゃあビーコンと似た瞬間移動する魔導具とかは?」
「できるけれど私は作りたくないわね。ビーコンと似た魔導具を作ろうとしたら、国が力を入れて大規模に取り組まないとまず無理だわ」
「えっ……ビーコンってそんなに凄いのか?」
「私達は気楽に使っているけれど、魔法で再現しようとしたら凄く大変よ。私もビーコンを解析して仕組みを把握したから再現する方法は思いついたけど、完璧な再現は不可能ね」
エステルでもSRであるビーコンを再現するのがやっとなのかよ……しかも完全再現は不可能ときた。
「ちなみに再現しようとしたらどうなるんだ?」
「うーん、大体の予想だけど1回で1人しか転移させられない条件で、この家より大きな魔法陣を描く必要があるわ。それで1回使うごとに私の全魔力を10回注入してやっと起動できる感じかしら。移動距離は最大でブルンネから王都までなら一気に飛べるはずよ」
「げ、現実的じゃないなそれ……」
「世界の法則を捻じ曲げて空間を繋げるんだから、それぐらいの無理は必要よ。むしろこれでもかなり最適化した条件で考えたのよ」
そこまで大規模に準備しても1人転移させるのがやっとなんだな。
俺達はあっさりとビーコンを使って長距離移動してるけど、世界の法則捻じ曲げてるとかとんでもないこと言ってるぞ……。
「じゃあほぼ制限なしに転移できるビーコンって凄かったんだな」
「私じゃこのサイズの魔導具として再現できないわよ。あらゆる法則を捻じ曲げて作られているもの。魔導具と似たような物なのに再現できないのは魔導師として癪だわ」
エステルは頬を膨らませてぷんすかと不満そうにしている。
不完全とはいえ同じ現象を再現する方法を思い付いている時点で十分凄いと思うんだが。
「SRでそれってことはSSR以上の物は……」
「無理、SSR以上の物は人知を超越しているわ。もし再現できるとしたら、神話に出てくるような素材を使うしかないんじゃない? それこそカロンの爪みたいなものよ」
「カロンの爪ってそんな凄いのか」
「マルティナも国宝級って言ってたじゃない。あの爪って並の金属よりも硬いと思うわよ。それに魔力を込めたらカロンの特性が発現するかもね」
「カロンの特性?」
「詳しくは試してみないとわからないけど、周囲を威圧したり持ってる人の力が向上したりするってところかしら。武器や防具に混ぜ込んだらカロンの凄い力も疑似的に使えるかも。剣にして魔力を込めて振れば、魔力の刃が出たりしてね」
あー、そういえば最初にカロンちゃんが爪をくれた時、武器に混ぜてもいいしお守りにしてもいいとか言っていたな。
あれはそういうことだったのか……爪でそれってことは牙なんて混ぜたらどうなるんだろうか。
ちょっと気になってくるけど、また緊急召喚で呼びたい時に媒介になってくれそうだから使わないけどさ。
カロンの話題を話していると不意にエステルは俺の胸元辺りを見つめだして、視線を追えば俺が身に着けていた虹色に光るペンダントを見ていた。
これは以前彼女が魔光石で作ってプレゼントしてくれた物だ。
「そういえばお兄さん、私が作ったペンダントずっと着けてくれているのね」
「おう、当たり前だろ。エステルがプレゼントしてくれた物だからな。言われた通り肌身離さず持ち歩いているぞ」
「そこまで大事にして貰えているなら嬉しいわ。……あっ、ならまた何かお兄さんに作ってあげるわ」
「ははは、嬉しいけど無理に作ってくれなくてもいいからな」
「お兄さんへのプレゼントに無理なものなんてないわよ。ペンダントはあれだったから……次はお兄さんの身を守れる物がいいかしら」
そう言ってエステルは微笑みながら何かに思いをはせているようだ。
ははは、俺にプレゼントする物を考えてくれるなんて何だか照れ臭いな。
俺も前に宝石をプレゼントしたけど、あの時も凄く喜んでくれて嬉しかったしまた何か渡そうかなぁ。




