模擬戦②
ノールとエステルの激戦が終わり、次はフリージアとルーナの模擬戦だ。
「次は私とルーナちゃんの番だね! 負けないよ!」
「やれやれ、面倒だ。だが負ける気はない」
フリージアはウィンクしながらグッと親指を立て、ルーナは腕を組んで戦意を見せている。
おー、ノール達の戦いを見たおかげか2人共やる気満々だな。
今回も遠距離と近距離が得意な者同士の戦いだけど、一体どんな戦い方になるんだろうか。
さっそく模擬戦開始の準備をしようとしたが、その前にルーナがある提案をしてきた。
「平八、戦う場を変えてもいいか?」
「ん? 地形変更したいのか?」
「うむ、この草原はさっきノールとやっている。少し趣向を変えたい」
「俺は構わないけどフリージアはどうだ?」
「私もいいよ! どの場所で戦う?」
「森だ」
腕を組みながら堂々とそう宣言したのを聞いて、俺は勿論のことノール達も驚いたようでざわついている。
フリージアも目を見開いて困惑気味なご様子だ。
自分からフリージアが得意そうな森を提案してくるなんて何を考えているんだ?
「本当に森でいいのか? フリージアがかなり有利になるだろ」
「私にも利点はある。木があれば矢を避けやすい。それに接近も楽だ」
「えー、大丈夫ルーナちゃん? 森の中なら私は負け知らずなんだよー」
「なら都合がいい。得意な場所でねじ伏せてやろう。負けるのが怖いか?」
「むむー、言ったなぁ! 私の本気を見せちゃうんだよ!」
はんと鼻で笑いながら言い放つルーナの挑発に乗って、フリージアはぷくーっと頬を膨らませている。
2人共同意したのに従って地形選択から森を選択すると、室内がピカッと光りあっという間に目の前に広大な森が姿を現す。
ちょっとジメジメした空気や草木の匂いなども完全に再現されていて、ここが家の中だということを忘れてしまいそうになるぐらいの光景だ。
地形変更も終わってモニターで対戦画面を開いて、ルーナとフリージアを選択。
青白い壁が出現してさっそく2人はその中へ入り森の中へと進んでいく。
今回は壁に入ってから1分の猶予を設けて、お互い自由に移動してから試合開始と取り決めをしている。
ノール達の時と違って森の中だから俺達のいる場所から見えないが、代わりに空中に複数の観戦用モニターが映し出されていた。
1つは上空から大雑把に森が映っていて、赤と青に光る2つの点でフリージア達の位置がわかるもの。
そして個別にフリージアを映したモニターと、ルーナを映したモニターがあり詳しい動きが把握できる。
試合開始を待つ間に俺はこの試合がどうなるかノール達に意見を聞いてみた。
「うーむ、いくら利点があるとはいえフリージア相手に森で戦うのは無謀過ぎないか?」
「どうでありますかねぇ。確かにエルフで弓を使うフリージアが有利に思えるでありますけど、ルーナもルーナで森を活かした戦いができそうでありますよ」
「そうね。ルーナが言っていた通り木とかで視界を遮れば、見通しのいい草原に比べたら多少の目くらましにもなるもの」
接近するのなら何もない草原の方がいいと思うが、障害物があれば矢で狙われても身を隠せるもんなぁ。
あわよくば気が付かれることなく接近もできるから、下手をすれば一瞬で勝負が決まるまである。
そう思えばフリージアが有利とは必ずしも言えないし、双方に森で戦う利点があるってことだ。
とノール達の話を聞いて納得していたのだが、マルティナが首を傾げながら反対の意見を言い出した。
「そうかな……フリージアさん相手に木が目くらましになるとは僕には思えないけど……」
「あ? ルーナさんの意見に何か問題があるってんですかい?」
「ひぃ――しゅしゅしゅ、しゅみましぇん!」
「と言いたいところですけど、マルティナさんの意見も一理ありますよねぇ。森の民と呼ばれるエルフが草木程度で相手を見失うとは思えませんし。けど、ルーナさんも楽観的に考えて森にした訳でもなさそうですよ」
全く、同意するなら脅すようなこと言うんじゃあない。
だけどルーナ推しのシスハですら同意するぐらい、森で戦うエルフは強いってことなのか。
フリージアの感知力は尋常じゃないし、視界から消えた相手でも普通に矢をぶち当てそうだからなぁ。
マルティナとの戦いでもそうだったが隠れた壁ごと楽々貫く奴だ。
ルーナが矢を回避してフリージアに近づければ勝負が決まりそうだが果たして……。
そんな感じで俺達が勝負がどうなるか予想する中、彼女達が入ってから1分が経過したので模擬戦開始のブザーを鳴らした。
モニターを見ればお互いにかなり距離を取っていたが、フリージアは木の上に登り弓を構え、ルーナは腕を組み仁王立ちして威風堂々としている。
すると先に動きがあったのはルーナで、その場から一瞬消えたかと思えば木の幹を蹴って飛ぶように高速移動を始めた。
さらに足で蹴るだけじゃなくてマントの尖った端を複数操作して、まるでピンボールが弾かれるように上下左右とめちゃくちゃな速さで突き進んでいる。
あまりに速過ぎてモニターが自動追尾してくれなかったら目で追えないぐらいだ。
「なるほど、森の中でマントを使えばああいう風に動けるって訳か。あれなら確かに平地よりも接近しやすそうだ」
「エルダープラント戦とかでも見たけど凄い立体的な動きよね。あんなに動き回られたら私の魔法でも迎撃は難しいわ」
「実際この前森で戦っていたでありますし、この地形で特訓するのもありでありますね」
俺達は魔物の住処とかに行くことが多いし、草原とかで戦うことって稀な気がするな。
森や海や洞窟などなど、足場や視界が悪いところの方がむしろ多いか。
俺は基礎的な戦闘力が欠如してるから平地で戦わせてほしいけど、実力のあるノール達は色々な環境下での戦闘の方が経験になるのも頷ける。
特にフリージアみたいな森の中で戦うエキスパート的な存在とノーリスクで戦えるこの模擬戦は、経験を積むのに凄く重宝できそうだな。
モニターでルーナの動きを追っていると、いつもの能天気な雰囲気が一切ない真面目な顔つきのフリージアが耳をピクリと動かして反応を示した。
すぐにルーナが爆速で進む方向に弓を構えて、立て続けに矢を射始める。
数百メートルはまだ離れていそうだが一瞬で矢が届いてルーナを襲う。
が、それをわかっていたようにルーナはグルっと身を捻って回避すると、回る勢いでマントの端を木に突き刺し軌道を変えた。
さっきまで彼女がいたところを複数の矢が通過して木をなぎ倒していくが、さらに上下左右様々な方向から矢が飛んできてルーナを狙う。
フリージアの矢は一定方向からしか飛ばしてないのに、途中で直角に曲がったりしてルーナを囲うように飛んできていた。
それにも反応して矢を回避したり槍やマントで叩き落とすと、フリージアのいる方向を見てまた高速移動を始める。
「フリージアの矢が意味不明な軌道するのもあれだが、何であれを回避できるんだよ……。
前から撃ってたのに後ろや左右から飛んでくるのおかしいだろ。しかも位置特定してないか?」
「矢の音や草木の違和感……かな? ヴァラドさんって吸血鬼だから色々な感覚が僕達とは桁違いに凄そうだよね」
「矢が不自然に曲がるのは精霊術なのかしら。この前グラリエさんが無意識に精霊術を使ってるって言ってたもの」
「その可能性はありそうです。実際対峙してみないと何とも言えませんけど、ルーナさんはそれを感じ取っているのかもしれません。さすがはルーナさんですね!」
「フリージアの戦い方も興味深いのでありますよ。このモニターがなかったら見る機会すらなさそうでありますからね。エルフの守る森には近づくなってよく言われていたであります」
言われていたっていうのは多分GCの世界での話だよな。
言うのは悪い気がするけど、グラリエさん達が守っていた森に比べたらフリージア1人いる森に入る方が嫌だぞ。
今も1人で既に30発以上矢を放ち、どれも的確にルーナを狙っていてとても1人で射っているとは思えない。
俺だったら今頃ハリネズミのように体のあちこちに突き刺さっているだろう。
そんなルーナも負けることなく矢を全て防ぎつつ確実に近づいていた。
そしてフリージアまで後100メートルを切った辺りで、さらに加速したのかモニターが追い付かずに姿が掻き消える。
フリージアの画面を見ればそれに気が付いたのかすぐさま別の木に跳んで退避行動を取っていたが、逃げ切れずにルーナの槍が背後を捉えた。
振り向いてフリージアが槍を弓で弾くと、さらに追撃でルーナはマントの端を尖らせて襲い掛かる。
それに対してフリージアは矢を片手に持って鏃で弾きながら、隙を見て一瞬で弓を構えてルーナに放った。
至近距離で矢を射られたルーナは目を見開いていたが、動揺することなく槍の柄で弾いて肉薄する。
それから何度もルーナは接近して攻撃を加えるが、ギリギリ回避して逃げ回りながらフリージアは矢を射って粘り続ける。
しかもついにはカウンターのように槍攻撃に合わせて跳び退くと同時に矢を放ち、ルーナは肩と足を貫かれてゴロゴロと転がった。
あの一瞬で2発も同時に矢を放って当てやがったぞ!
それで気が緩んだのかフリージアは動きが止まるが、ルーナは転がった姿勢のまま槍を投擲。
当然そんな攻撃はひょいっとフリージアは避けたけど、その隙をつくようにルーナは瞬く間に接近して抱き着くと2人してゴロゴロ転がる。
そのままマントの端を地面に突き刺して体を固定すると、ルーナが全力で締め上げているのかフリージアは体をじたばたさせて顔を歪め苦しそうだ。
絵面は美少女2人が抱き合っているんだが、実態は万力で締め上げられてようなもんだから恐ろしい……。
そこから逆転することもなくHPが尽きたのか、ルーナWINとデカデカと空中に表示されて戦闘終了のブザーが鳴る。
おぉう……もっとスマートに勝敗が付くかと思ったけどかなり泥沼な感じだったな。
まさか最後がさば折りで決着するとは思ってもみなかったぞ。
勝負も終わり彼女達は森から出てきたのだが、負けたフリージアは当然なのだが、ルーナまで渋い顔をして納得いかなそうだ。
「う、うぅ……ま、負けちゃったんだよ……。しかも締め上げられたんだよ……でも楽しかったかな」
「くっ、こんな手で勝つことになるとは……。接近戦は苦手じゃなかったのか」
「得意じゃないけどそんな苦手って言ったことないよ?」
「恐ろしい奴だ。模擬戦でもなきゃ二度と戦わん」
「えー、またやろうよ! ルーナちゃんとの戦い面白かったんだよ!」
もう負けたことを気にしていないのか、フリージアは笑顔でルーナの手を握っている。
近接戦メインであるルーナが近づいた後もあそこまで翻弄されるとはな……。
「接近戦に持ち込めばルーナが圧勝するかと思ったけどかなり粘られたな。あれじゃ俺がフリージアと接近戦しても普通に負けそうじゃね?」
「考えてみれば私とルーナさんで追いかけ回した時に逃げ切られましたからね……。思い出しただけでもちょっとムカムカしてきますよ」
「僕じゃあんなに近づけないし、近づけても一方的にやられそうだよ……。この前はヴァラドさんに勝てたけど、今は全然勝てる気しないや……」
「さっきは私も勝負がつかなかったでありますけど、森の中だとルーナの相手も厳しそうでありますね。1対1で戦える弓使いと戦ったこともないでありますから、フリージアとも是非お手合わせしてみたいのでありますよ!」
「ノールって結構好戦的よね。フリージアもルーナも私じゃ相性悪そうだわ。弓を防ぐ手立てをもう少し考えておこうかしら」
ルーナはマントを使った高速移動があるからどうにかなったけど、俺達だったらフリージアに近寄る暇もなく完封されそうだからなぁ。
彼女ほどの弓使いと戦うことは滅多にないと思うが、もしも戦うことになった時に備えて戦術は考えておいた方がよさそうだ。
……さて、ついに次は俺とマルティナの戦いかぁ。嫌だなぁ、やっぱあの大鎌こえーわ。




