模擬戦①
訓練所の確認も終わって模擬戦はまた今度……かと思いきや、まだ張り切っているノールがブンブンと両手を上下に振りながらある提案をしてきた。
「せっかくの機会でありますし、皆も1対1で手合わせでもしてみるでありますか! 次の相手求むのであります!」
「あら、ルーナとやったばかりなのに元気が有り余っているわね」
「疲れた。私は1回で十分だ」
「えー、私もルーナちゃんと遊びたいんだよー」
「遊びでやってない」
フリージアに両肩を掴まれて揺らされながらも、精気のないジト目でルーナは疲れているようだ。
まさかもう模擬戦をやるつもりとは……だけど訓練所が追加されたなら戦いたくなるのも道理ってやつか。
ルーナは若干不満そうにしていたが一応全員一致で賛成となり、これから1対1で模擬戦することになった。
話し合った末に決まった組み合わせは、エステル対ノール、フリージア対ルーナ、そしてマルティナ対……俺。
そう、まさかの俺だ。
「おいおい、俺もやるのかよ! しかも相手がマルティナとかマジか」
「む? 僕じゃ不満かい?」
「いや、不満というかお前の武器がな。大鎌相手するの普通にこえーよ」
「さっき言ったように大倉さんの相手をするなら現状1番適任ですからね。ノールさん達とは1度訓練してるんですから、それと同じもんだと思ってくださいよ」
「うーん、まあそうだけどさ。お前も戦いたいとか言いそうなのに今回は見守り役とは珍しいじゃないか」
「ダメージがないとはいえ何が起こるかわかりませんからね。もしものことがあった場合に備えて、今回は回復役として待機していますよ」
ふーむ、もっともな言いように聞こえるけどあのシスハが待機を言い出すとは、俺達の戦いを様子見したいだけな気がするぞ。
こいつは負けず嫌いだしどうせ模擬戦するなら勝ちたいって思ってそうだからなぁ。
ただ観察眼があるのは確かだから第三者目線で戦いを見てもらうのは悪くないか。
それと今回のルールとして、ノール達は自分の専用UR装備のみが基本で、俺はエクスカリバールと鍋の蓋、それとUR装備1つの制限を設けている。
いずれは制限なしでの模擬戦もやる予定ではあるけど、今回はお試しなのと実力向上の目的もあるから最低限の装備って感じだ。
俺の場合は専用装備がないというのもあるが、ガチで素の実力だとお話にならないからお情けを貰った。
情けない話ではあるけど実力不足感は未だに否めないからなぁ。
マルティナ相手にこれでどこまでやれるのか……頑張ろう。
そんなこんなで組み合わせも決まって、まずはノールとエステルの模擬戦が始まった。
空中モニターを操作して1対1モードを押すと、対戦者リスト一覧が表示される。
エステルとノールを選択すると縦と横に果てしなく続く青白い壁が出現して、その内側にノールとエステルが入っていく。
俺が触れても壁は硬く向こう側に行けず対戦者のみを隔離する空間のようだ。
これなら内側でどんな戦いがあっても俺達に攻撃が飛んでくることはなさそうだから、安心して間近で見学ができるな。
中に入った2人は笑いながら色々と何やら話しているご様子だ。
「ノールと戦う日が来るなんて思ってもみなかったわ」
「一緒に戦ってきた仲でありますが手加減はしないでありますよ!」
「ふふ、当然じゃない。魔導師だからって油断はしない方がいいわよ。いつもは守ってもらっているけれど、1人でも戦えるように備えてはいるんだからね」
ノールは前衛でエステルは後衛だからなぁ。それだけでも2人が戦うことになるなんて想像したこともなかった。
一体どんな戦いになるのだろうか……。
2人は話し合って開始の距離を決めたのか、50メートル近く離れてからお互いにこっちに向けて手を振ってきた。
それを見て俺がモニターで開始ボタンを押すと、ブーとブザーが鳴り模擬戦が始まる。
開幕と同時にすぐエステルが力強くえいっと発しながら杖をノールに向けて振り下ろすと、先端から眩い光線が発せられた。
ノールはそれに反応してその場から飛び退くが、そのままの状態でエステルが横に杖を振り、光線もそれに続いて横に移動して周囲を薙ぎ払う。
だが、ノールはそれを難なく跳躍して回避すると近づくために駆け出した
この勝負、ノールがエステルに剣が届く位置まで接近できるかで勝敗が決しそうだな。
光線による薙ぎ払い攻撃が未遂に終わりビームを出すのを止めると、エステルはまたえいっと呟きながら杖を一振りする。
すると広範囲に渡って無数の光球が周囲に出現した。
走っていたノールの間の前にも突然光球が現れ、彼女は慌てて止まろうとしたが間に合わず盾で光球を受け止める。
光球が破裂するように弾けたが煙は立たず、ノールは後方に吹っ飛んだが綺麗に着地すると休む間もなくすぐに駆け出した。
エステルは少しの隙も与えないようにか光を刃の形に収束させて無数に放つが、ノールはそれを避け、剣で払い、盾で防ぐといった動作で勢いを殺さずに突き進んでいる。
「スゲーな、一瞬であんなに光球を出すエステルもだけど、ノールもあれを防いでピンピンしてるやがるぞ」
「恐らく最初の光線でばら撒いた魔力を利用して光球を作ったんですよ。攻撃と同時に次への布石に繋げるとはさすがエステルさんですね。光球も視界が遮られないように煙を出さない工夫がされています。あれを無傷で防ぎ切るノールさんもやりますねぇ。あの盾って魔法に対しての抵抗力がありましたよね? 改めてノールさんって絶対に相手にしたくありませんよ。あれだけ攻撃も防御も優れているのに、さらに味方に常時効果の高いバフまで持ってるんですもん」
「うむ、さっきの軽い手合わせでも攻め切れなかった。あの盾が厄介過ぎる。スキルを使わないと打破できん」
「ノールちゃんホント凄いよね! 強くて優しくて料理も上手だもん!」
「そこまで凄い人だったんだ……ファニャさんは僕の理想以上の騎士様だよ。それにエステルさんも凄いや……」
何としてでも近寄らせずに倒し切ろうとするエステルと、確実に距離を詰めて接近を図るノールの激しい攻防を目の当たりにして、マルティナは目をキラキラと輝かせている。
騎士であるノールは勿論のこと、魔法に憧れているマルティナからしたらエステルも尊敬の対象なんだろうな。
というかこいつ、パーティーの誰に対しても尊敬の念を抱いていそうな気がするぞ……ただし俺以外、が入るけど。
まあそれは別にいいとしてだ、ノールの評価を聞くとエステルもどう思われているのか気になるな。
「凄いのはわかってるんだけどさ、エステルって普通の魔導師と比べたらどんなもんなんだ?」
「僕の知る限りじゃエステルさんも歴史上に名が残るぐらい凄い魔導師だと思うよ。色々旅をして知識も学んできたけど、実際にあんな魔法使う人見たことないもん。攻撃魔法だけ見ても恐ろしい……いや、凄いのばかりだし。あれで僕より年下なんて信じられないよ」
「私も同意見ですね。魔導師はそれなりに見たことありますが、賢者と呼ばれる方達すらあれほど熟練した人は滅多にいませんよ。それでも全く名前を聞いたことないんですから恐ろしいです。一体どこに住んでいたのでしょうか?」
「世の中広い。知らない凄い奴がいるなんて珍しくもない。それに魔導師は隠れるのも多い。だが、エステル程魔法を使えるのは吸血鬼でも見たことない」
「エルフも魔法使える人いたけど、エステルちゃんみたいに凄い人はいなかったんだよ。支援魔法だけでもかけてもらうと力がグーンと上がるもんね!」
やっぱりエステルはシスハ達から見てもそれぐらい凄いんだなぁ。
そもそもの話URユニット自体がそれぞれの分野で最強レベル、それこそ英雄やら始祖やら規格外の存在ばかりだってGCの設定でもあったはずだ。
認めたくないけどシスハだって設定だと神官の中でも至高の聖女と呼ばれていた、認めたくないけど。
それからも続くノールとエステルの激しい攻防を、俺達は意見を交わしながら勝敗を見守る。
模擬戦って自分で実際に戦うことで実力が上がるもんだと思っていたが、こうやって他人の戦いをじっくり見るだけでも参考になる部分がかなりあるなぁ。
エステルの魔法に関してはとても真似できないけど、相手を接近させずに戦うって部分は学びを得られるぞ。
いつもみたいに高火力の広範囲ぶっぱは殆どしないで、光球を張り巡らせて障害物にして、ノールが立ち止まりそうなタイミングを狙い光線を放って薙ぎ払っていた。
さらには追尾する光球も絶えず生成されて、ゆっくり動いたり速く動いたりと、不規則な速さで無数にノールに迫っていく。
止まる光球と迫る光球の2種がばら撒かれた上に、少しでも足を止めればビームが飛んでくる恐ろしい連携だ。
そんな地獄絵図のような光景でもノールは上手く避け続けついに戦況に変化が訪れる。
ゆっくり動く光球と速い光球がちょうど2つ近くにある所へ跳躍して自分から飛び込んだ。
何をするのかと思えば空中で盾の内側に乗るように足を乗せ、そのまま光球を盾で踏んづけた。
当然光球は破裂して衝撃波がまき散らされ、ノールはその波に乗ってサーフィンの如く宙を飛ぶ。
エステルは目を見開いて驚いたように見上げながらも杖を構えビームを放つが、ノールは盾を足場にさらに跳躍してビームを回避。
その勢いのまま懐に潜り込むと反撃する暇も与えずに剣で一斬りすると、エステルはビクッと体を震わせて渋い顔をしている。
するとデカデカと【ノールWIN】と空中に光の文字が浮かび上がって青白い壁が消えていく。
うーむ、エステルも健闘したけどやはりノールが勝ったか。
ノールは嬉しそうに片手を上げ、エステルは肩を落としてしょんぼりとしながら俺達の方へ戻ってきた。
「負けちゃったわ……むー、せっかくお兄さんにいいところ見せたかったのに」
「いやいや、十分凄いと思ったぞ。まさか魔導師でも1対1でノールとあそこまでやりあえると思えなかったし。俺だったらノールなんてまともに相手することすらできないぞ」
「いつもお兄さん達に守ってもらってばかりだったから、近づかれたらどう戦おうか考えてはいたのよ。周りに誰もいないって状況だからできたのもあるけどね。それでも負けちゃったから戦いって難しいわ」
「まあノールが相手だからなぁ。それに簡単にエステルが近接までこなせちゃったら、俺の仕事もなくなっちまいそうだよ」
「あら、私としてはお兄さんに守ってほしいから悩みどころね。近接戦闘に関してはもうちょっと甘えちゃおうかしら」
「あのー、戦闘終わったばかりで2人の世界に入らないでもらえませんかねー」
シスハがジト―とした視線を送ってきたので、咳払いをして誤魔化しつつ、ノールに声をかけに行くとフリージアとマルティナがワイワイと周りで騒いでいた。
「ノールちゃんとエステルちゃん2人共凄かったんだよ!」
「ファニャさんお見事でした! 最後の盾を使った跳躍なんて痺れて憧れましたよ!」
「うむ、見応えがあった」
「ありがとうなのでありますよ! でも、何とか勝てたでありますけどやっぱりエステルの魔法は恐ろしいでありますね……。戦っている間生きた心地がしなかったのでありますよ」
「へー、ノールでもそう思ったりするんだな。その割には躊躇なく魔法に立ち向かっていたじゃないか」
「躊躇していたら勝てるものも勝てなくなるでありますからね。対魔法の感覚を掴めるからとても有意義な戦いだったのでありますよ」
「どういたしまして。私もノールみたいな魔法の効きづらい騎士を相手にできてよかったわ。こんな経験滅多にないもの。また今度戦いましょうよ。次は絶対勝つんだから」
「むふふ、望むところなのでありますよ!」
ノールはどんと来いって感じで胸を張り、エステルは両手をギュッと握り締めて頑張るぞいって意気込んでいる。
どちらも並の相手だったらここまで長引いたりしないだろうからなぁ。
模擬戦をする上でURユニット同士っていうのは技量を競うのに打って付けって訳か。
さて、次はフリージアとルーナの模擬戦だな。




