訓練場
図書館にフリージアが襲撃して来たのだが、そんな彼女もマルティナが読んでいた漫画に興味を示して目を輝かせて眺めている。
のだが、俺は入って来た時に叫んでいた内容が気になったので漫画に夢中になる前に聞いてみた。
「それで、さっき訓練所が凄いとか言ってたけど何かあったのか?」
「あー! そうだよそうだよ! 訓練所が凄いんだよ!」
「僕も後で行こうと思ってたけど、そういえばファニャさん達が訓練所に行くって言ってたね」
「ただ広い空間があるだけだったわよね。何か他の機能でも見つかったのかしら?」
「うん! とにかく凄いから皆来てほしいんだよ!」
俺は昨日施設の増築をしてから訓練場を見に行っていないけど、あの時見た感じからして特に気になる物はなかったはずだ。
でもフリージアの興奮っぷりからしてかなり凄い物が見つかったのかもしれない。
そんな訳でさっそく俺達は訓練所に向かってみたのだが……扉を開いた先には驚くべき光景が広がっていた。
白いだけだったはずの部屋にそよ風の吹く草原が広がっていて、天井だった部分には青い空が果てしなく続いている。
えっ、なんだこれ……ここ訓練場だったよな? 間違えて外にでも出てきちまったのか?
思わず一瞬扉の外に出て確認しようかとも思ったけど、金属同士がぶつかり合うような音にすぐ思考が奪われる。
音がする方を見ればノールとルーナが自身のUR装備である剣と槍で激しい攻防を行っていた。
それを見てフリージアがまず声を上げる。
「あー! ノールちゃん達もう始めちゃってる!」
「すっご……ファニャさんもヴァラドさんもカッコいい……」
「近接戦闘が強い2人だけあって目を見張る攻防だわ」
俺だけじゃなくエステルとマルティナも2人の戦いを見て完全に目を奪われていた。
何度も打ち込み合いお互いに譲らず、ノールは盾で槍の突きを弾いて隙を作って反撃するが、ルーナはマントを操り尖らせた端っこでその攻撃を弾く。
そんな一進一退の戦いを眺めていると、同じく見学していたシスハが声をかけてきた。
「大倉さん達もいらっしゃいましたか」
「お、おう……フリージアが凄い凄いって騒いでたからさ。ここ本当に訓練所なんだよな? さっそく特訓してるみたいだが……ちょっとガチ過ぎないか? ノール達なら平気そうではあるけど、UR装備使ってたらもしもの時危ないだろ」
「大丈夫だよ! この中だと怪我しないんだって!」
「えっ、どうしてそんなことわかるんだ?」
「あれですよあれ。あそこに立ってみればわかりますよ」
シスハが指差した先を見ると草原の上に青白い魔法陣が浮かび上がっていた。
言われた通りにその上に立ってみると、目の前に青くて四角い光が現れて【訓練所制御端末】と表示されている。
「うおっ!? 空中モニターだと!?」
「どう訓練しようか準備している時に浮かび上がってきたんですよ。それで調べてみたら色々とできるようでして、訓練所の機能説明もあったんです」
「へー、ただの広い空間じゃなかったのか。でも何で液晶モニターじゃないんだ?」
「訓練所だからじゃない? 余波で攻撃が当たったりして壊れたら困るもの」
うーむ、確かに液晶モニターだと何かあったら画面が割れたりしそうだもんなぁ。
その点この空中モニターならそういう影響を受ける心配はない。
最初来た時は見つけられなかったけど、本格的に訓練所を使う時じゃないと出てこないのかもな。
もっと詳しく調べてみたかったが、今はノールとルーナの模擬戦を見たいので一旦止めにした。
それからしばらく2人の戦いを見ていたけど、ルーナが槍を下げたのを合図に終わったようだ。
「ふぅー、やっぱりルーナは強いでありますね」
「よく言う。1対1でも攻め切れん。思わずスキルを使いたくなった」
「そ、それは防げないから止めてほしいのでありますよ……あっ、大倉殿達も来たのでありますか」
「さっそく張り切ってるじゃないか。お前らのガチ対決が見られる日が来るとは思わなかったぞ」
「いやぁ、軽くお手合わせしようかと思っていたのでありますが、ルーナが相手だったのでつい夢中になっちゃったのでありますよ」
URユニット同士の戦いを直に見られる機会があるなんて、GCユーザーからしたら眼福ものだなぁ。
ゲームとして見ていたのと違って迫力があるし、何より本人達の強さが本当によくわかる。
それに対人戦だからなのか、魔物と戦うのとは全然動きが違って見えた。
ノール達とまともに1対1で戦える人なんて稀だろうから、こういう対決を見られるのは貴重だろうな。
ルーナも今の戦いを振り返っているのか、両手を組んで考えながら呟いている。
「ふむ、こういう手合わせは初めてだ。訓練などしたことがない」
「昨日もそんなこと言ってたな。それであの強さとか、吸血鬼は何か強さの秘訣があったりするのか?」
「元々強いだけだ。槍の使い方など知らん。魔法も何となく使っている」
「ルーナと対峙してわかったでありますけど、構えとかは隙だらけのようで実際は全然隙がないのでありますよ。死角を突いても反応してくるでありますし、避けられないはずのタイミングで攻撃しても想像できない動きで避けていたのであります」
「うふふ、さすがはルーナさんですね。ずっと見ていましたがお見事でした。あっ、ノールさんも当然凄かったですよ」
「ついでみたいに言われると何とも言えない気分でありますね……」
ノールは騎士として修練を積んでいそうだけど、そんな相手でも何の訓練もせず普通にやり合えるとは羨ましいもんだなぁ。
元々強い奴が訓練し始めたら一体どんだけ強くなるのか……ガチャの強化だけじゃなくてそういう面でも今後期待できそうだ。
ノール達の模擬戦も終わったので、さっそくこの訓練所の制御端末とやらを見ることにした。
まず設備機能一覧とやらを見ると、【ダメージ無効(痛覚あり)】と【地形変更】が適用されている。
ダメージ無効とは書いてあるけどこれは傷が付かないだけであって痛みはあるようで、攻撃を受けると軽い電撃のような痛みが走るとか。
次に地形変更だが、草原、砂漠、雪山、火山などなど、様々な環境を訓練所内に再現できる。
この地形変更機能は変更する度にポイントが必要で、そのポイントは図書館と同じように魔物の素材を変換して得られるようだ。
そしてもう1つ【魔物討伐】という機能もあり、これは再現された魔物を呼び出せるらしい。
「へー、地形選択なんてできるのかよ。それに訓練用に魔物も出せるのか」
「最初からあるのはダメージ無効の機能だけで、地形や魔物を出すのには魔物の素材が必要なのでありますよ。それに選べる魔物も私達が戦ってきた相手だけみたいなのであります」
「あっ、本当だ……もう2度と戦いたくない奴らもいるけど、ここでいつでも戦えるのはいい訓練になりそうだな」
魔物討伐の項目を見てみるとゴブリンなどの一般的な魔物が大半だが、【類い稀な魔物】という一覧には、クッルスゴブリン、スマイター、ファルスス・テストゥード、エルダープラントともう絶対に相手にしたくない魔物まで含まれていた。
迷宮の魔物や守護神の偽物まで候補にいるとか、ある意味凄い機能だな……再現だとしても戦うことはなさそうだけどさ。
この魔物達もポイントを使用して呼び出して戦えるようだ。
その他にもモード選択などもあって、設定したHPが尽きるまで1対1で戦うデュエル、全員が敵として戦うデスマッチ、2つに分かれて戦うチームデスマッチなどもある。
それを一緒に見ていたエステルが怖いことを言い出した。
「あら、1対1で戦うモードとかもあるのね。これでお兄さんの特訓も捗りそうだわ。本気で私達と戦ってみるのもいいかも」
「そ、それは……」
「エクスカリバールありでしたら十分戦えると思いますけどね。私かデバフ抜きでアンデッドなしのマルティナさんと戦うぐらいが丁度よさそうですよ」
「ア、アルヴィさん? 僕の縛り多過ぎませんか?」
「本体だけじゃないと大倉さんがまともに戦えませんからね。あなたの強さは相手の弱体化とアンデッドの支援を入れた上で成り立っていますので、それを抜きにすれば私と同程度かちょっと上ぐらいでしょう」
「シスハが自分より上と言うのは珍しい気がするのでありますよ」
「私は一応非戦闘員ですからね。負けるつもりはありませんけど、戦闘力で劣る事実は認めないといけません」
へー、URユニットバトルでマルティナをボコったから自分の方が強いって言うかと思ったけど、そこはちゃんと認めてるんだな。
……まあ、シスハが非戦闘員っていうのはどうかと思うが。
というか、既に俺が訓練でノール達とガチで戦うような流れになっているのを止めてほしい。
前の訓練は色々と優しかったが、この訓練場だとマジで遠慮なしでやられそうだぞ。
シスハの相手は勿論のこと、デバフのアンデッド抜きでもマルティナと戦うのはちょっとなぁ。
あの馬鹿でかい大鎌で襲い掛かってくるような奴見た目だけで反則だろ。
そんな俺の内心と違って、マルティナは自分に制限をかけられた訓練にかなり前向きのようだ。
「僕としても負の力と友達は頼りになるけど、自分の実力を向上させられるならありがたいかな」
「実際マルティナの戦い方はよく考えられていたよなぁ。アンデッドで妨害しながら相手を弱体化して、最終的にお前が狩りに行くとか卑怯だろって言いたくなるけどさ」
「えへ、えへへへ、誉め言葉として受け取っておくよ。僕は僕自身が弱いことは身に染みてわかっているからね。だから自分が強くなるよりも、相手を自分より弱くすればいいって考えたのさ」
「死霊術師としての才能を活かしてるんだから誇ってもいいと思うわよ」
中二のマルティナともなれば本当は自分でノール達のように戦いたいだろうけど、それは無理だと理解しているってことだ。
自分の弱さを受け入れた上で、どうすれば相手に勝てるか考えた末の戦法があれだろうからなぁ。
俺も勝てばよかろうなのだの精神だから、マルティナと戦い方について話したら意見が一致しそうだ。
そんな訓練談義をしていると、フリージア達も色々と意見を出してきた。
「皆で模擬戦とかやったら面白そうだよね! 平八達みたいな狙撃し辛そうな獲物って全然いないからやってみたい!」
「私は1対1での戦いって全然やったことないから練習したいわね。私も近接で襲ってくる相手に対しての魔法の使い方を色々と試したいわ」
「……フリージアとエステルの相手はあんまりしたくないな」
「うっ、あの時の戦いの記憶が……隠れた場所ごと撃ち抜いてきたり爆破されたりで必死に逃げ回ったよ……」
あー、そういえばURユニットバトルの時、マルティナは俺達全員から標的にされてるんだもんなぁ。
壁の裏に隠れてもエステルに爆破され、フリージアの矢に撃ち抜かれたりなど恐怖体験をしている。
これから訓練していくとしたら俺達もそれを味わうことになりそうだが……正直ご遠慮願いたいな。
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