幻影の魔人
エルダープラントを倒し終えた直後に現れた赤髪の少女。
黒い翼に尻尾が生えていて、爬虫類を思わせるような赤い瞳をしていて明らかに普通の人間じゃない。
だが、魔人かと思ったけどマリグナントに比べるとまだ人に見えて、腹が丸出しの短い上着にミニスカートと随分可愛らしく見える。
困惑した俺達を見て少女はニヤニヤした顔で笑っていた。
「あはははは、そんな警戒しな――」
少女が話し終える前にドンッと音を立てて黒い大剣が彼女のいた場所に直撃して、周囲の木を消し飛ばして地面が深く抉れた。
その攻撃の主はカロンちゃんで眉をひそめて凄く迷惑そうな顔をしている。
「全く、デカブツを倒してまた余計なのが出てくるな。宴会をする時間がなくなるではないか」
「お、おいおい……いくら何でも話を聞かずに攻撃しないでも」
「わっはははは、つい思わずな! だが安心せい、奴なら何の問題もないだろ」
奴なら問題ない? 一体どういう……。
カロンちゃんの発言に首を傾げていると、抉れた地面の底から声が聞こえてきた。
「おー、こわ。普通会話もしないで急に攻撃してくる? 今の私じゃなかったら死んでたよ」
パタパタと翼を羽ばたかせて赤髪の少女は空を飛び穴から出てきた。
見たところ全く傷がない。カロンちゃんはまだスキル継続中だから、あのエルダープラントでさえ一撃で体が消し飛ぶぐらいの威力はある。
それなのに無傷って……こいつどんだけ強いんだよ。
慌てながらも俺はスマホのカメラで彼女を捉えてステータスを確認した。
――――――
●ミラジュ【幻影】 種族:アークデーモン
レベル:?
HP:?
MP:?
攻撃力:?
防御力:?
敏捷:?
魔法耐性:?
固有能力 ?
スキル ?
――――――
なっ!? ステータスが全部見えないだと!
名前に幻影って付いているけど……それが原因か?
「あれは幻影みたいだぞ。カロンはわかっていたのか?」
「このカロンちゃんともなれば一目で見分けがつく。幻影だから私達を見ても堂々と出てこれたのだろう」
『私の精霊術と同じような気配をしていますが、あれは純粋な魔力のみで形成されているようです』
「ふむ、なるほど。小賢しい奴だ。あれも魔人か?」
グラリエさんの精霊体と同じ感じか。
つまりこいつは幻を使った分身だからステータスが見れなくて、カロンちゃんの攻撃も効いていない、と。
エルダープラントを俺達が倒してたのは見てただろうし、それでも姿を見せたのは本体じゃないからか。
種族がアークデーモンでマリグナントと同じ、魔人なのはほぼ確定だと思う。
今回は幻影使いの魔人とかホント多種多様な能力使いがいるんだな。こりゃまた厄介そうな奴だぞ。
俺達の会話を聞いてミラジュは不思議そうに首を傾げていた。
「あれれー、私が幻影だってばれちゃってるの?」
「お前の目的はなんだ? 今回の騒ぎを起こしたのはお前なのか?」
「そんな一気に聞かれても困るんですけどー。それに素直に答えると思う?」
うーん、やっぱり普通に聞いたってそりゃ答えてくれないよな。
とりあえず戦う気はなさそうだけど、それならどうして俺達の前に姿を見せた?
それにこいつが今回の諸悪の根源なのか気になる。
もしそうならここで始末しておきたいが、本体は近くにいると思えないから倒すのは困難か。
どうやって情報を引き出そうか悩んでいたが、パンと手を叩いて魔人とは思えない笑みでミラジュは驚く発言をしてきた。
「でも教えてあげちゃう! これやったの私じゃないんだぁ。マリグナントの奴がここで色々やってたから、どうなったか見に来ただけだよ。そしたら面白いことになってるじゃありませんか! そりゃ見学するしかないでしょ! いやぁ、本当に良いものが見れたよぉ」
おいおい、こいつあっさりと目的白状しやがった!
それに今回の件はこいつとは無関係って……怪しい。
これをそのまま素直に信じるのはどう考えても無理だ。
ノール達も同様の考えなのか皆疑わしい雰囲気でミラジュを見ていて、エステルは探るように質問を投げかけた。
「あら、私達がマリグナントを倒したのを知ってたのかのような言いようね」
「当然知ってるよ。あいつの気配が消えたからセヴァリアに見に行ったらさ、大量の魔物の襲撃があったとか話題になってるじゃん? なのに町は壊滅してないし計画も失敗したみたいだし、あいつ死んだなって。そしたらオークラヘイハチとかいう冒険者達が解決したとか噂になっててさ」
「それで私達がマリグナントを倒したと判断したってことですね」
「そゆことー。いやぁ、さっきの戦い見て完全に確信したよ。君達想像以上の化け物過ぎてぶるってるんですけどー」
「何だか馬鹿にされているような気分でありますね……」
「むむぅー、ちょっと怪しい気がするんだよー」
仲間のはずのマリグナントが死んだというのに、クスクスとおかしそうに笑っている。
マリグナントも嫌味な奴で相当なゲス野郎だったけど、まさか魔人は皆こういう奴らなのだろうか。
あいつが単独であんな大事を引き起こしたのも、仲間とはそういう関係だったのかもしれない。
だけど気配が消えたのがわかっているのと、計画がどうとか言ってるってことは最低限の情報共有はしていた可能性はある。
よし、ここは1つ揺さぶりをかけてみるか。定番だがステータスアプリで判明してる名前を言ってみよう。
「ミラジュ、わざわざ俺達の前に姿を現したのはなんでだ?」
「……あれぇ、名前言ったっけ? マリグナントの奴が教えたとか?」
「さぁ、どうだろうな。けど、俺達が何も知らないと思わない方がいいぞ」
ミラジュは笑顔のままで取り乱した様子はないけど、どことなくぎこちない雰囲気で多少動揺はしているようだ。
ぐへへ、やっぱり知らないと思っていた相手に名前がバレていたら焦るよな。
ここから何か情報を引き出せたらいいのだが……と思った瞬間、カロンちゃんが突然声を上げた。
「――むっ!?」
「うわっ!?」
バンッと大きく地面を蹴ってカロンちゃんはどこかに飛び去って行った。
突然の出来事に俺は驚き、ノール達も何が起きたのかわからず困惑した様子だ。
「ど、どうしたんだ?」
「急に飛んで行ってしまったのでありますよ」
少ししてカロンちゃんが飛んで行った方から、何度もドカンと轟音が響いて地面が大きく揺れた。
一体何をやっているんだと思っていると、すぐに彼女は戻って来て悔しそうな顔をしている。
「くっ、すまん、やられた。このカロンちゃんがいながら不甲斐ない……」
「へ? どういうことだ?」
「あやつ、私達と会話しながら他の幻影を使って何かを回収していた。お前様の質問で動揺した時に気配が漏れて気が付いたが、既に遅かったようだ……。転移魔法で何かを本体のところへ飛ばしたぞ」
なんだって……こいつ、まさか俺達の前にわざと出てきたのはその何かを回収するために注意を引くためだったのか!
まさか幻影が1体だけじゃなくて複数同時に出せるなんて、完全に想像力の欠如で全く想定していなかった事態だ。
ギロリとまだ目の前にいるミラジュの幻影を睨むと、腕で冷や汗をぬぐって焦った様子だった。
目の前にいる幻影は本体の様子をそのまま映しているのか? ……あれ、手に黒い宝石みたいなのを持ってやがるぞ。
「ふへー、あっぶねー。その人感覚鋭過ぎでしょー。でも物は回収できたからよかったー」
「お前何を持っていったんだ!」
「ひ、み、つ! 別にこれが目的って訳じゃなかったんだけど、せっかくだし貰っておこうかなって」
こっちにウィンクしながら宝石に口づけして何とも憎らしい顔をしている。
くっ、こいつ完全に俺達をおちょくってやがるぞ!
あの宝石、マリグナントが前に使っていた奴に似ている気がするが……どう考えても厄介そうな代物だから回収されたのは痛手だな。
目的を達成したミラジュがどう動くか息を呑んで観察していると、頬に指を当てて何やら考え込み始めた。
「んー、これ以上会話する義理はないけど、君達のおかげでこれも回収できたしお礼にこれでもあげるよ」
そう言ってミラジュが手をかざすと黒い魔法陣が現れた。
武器を構えて警戒態勢を取って離れていたが、その魔法陣から丸い物体が3つ出てきて地面に落ちる。
何が出てきたのかよく見てみるとそれは……見覚えのある黒い硬貨。
そう、俺達がこの森に果実を採りに来た理由である神魔硬貨だった。
「なっ、神魔硬貨だと!?」
「それ集めてたんでしょ? これ貰った代わりにそれあげるよ。貰ってばかりじゃ悪いからね」
「へぇー、随分と礼儀正しい魔人なのね。マリグナントとは大違いじゃない」
「あははは、あんなのと同じにしないでよ。一応仲間だったけど私あいつ嫌いだったしー」
ヘラヘラと笑って本当にマリグナントが死んだのを喜んでいるように見える。
こ、こいつぅ、神魔硬貨をくれるなんて実はいい奴なのでは……いやいや、魔人がいい奴とか思えないぞ。
何か罠があるに違いない。そう警戒していたのだが、急にマルティナが叫び出した。
「――見つけた! ルーナさん、あっちに攻撃してください!」
「了解」
俺達が反応できないぐらい素早く、マルティナがルーナに触れた後すぐに彼女の槍から赤い閃光が迸る。
そして飛び上がるとマルティナが指差した方向に向かって槍を投擲した。
槍は木々や瓦礫を消し飛ばすと瞬く間に見えないぐらい地平線の彼方へと飛んでいく。
と、同時に目の前にいたミラジュの幻影が慌てた声を上げ始めた。
「へっ――ちょ、ちょ、ちょ!? やべぇ!」
青ざめた顔をしていたミラジュは悲鳴を上げると、目の前にいた幻影は煙のように消滅した。
直後に遠くの方で空がカッと赤く強烈な光が空を照らして、遅れてドカンと轟音が鳴り響く。
ルーナのカズィクルが目標に当たった衝撃だな。その証拠にすぐに彼女の手元に自動回収で槍が戻ってきた。
一方攻撃を頼んだマルティナは悔しそうな声を上げている。
「……に、逃げられた。ごめん、僕がもっと早くあいつを見つけられたら……」
「い、いや、地図アプリの範囲には何にもいなかったはずだけどよく見つけたな」
「一目見て幻影だってわかったからね。密かにゴーストを飛ばして探させたんだ。かなり離れた場所にいたから時間がかかったし、すぐに気が付かれちゃったよ。転移魔法で逃げたみたいだけど……あれはあの魔人の魔法じゃないかも」
「あれほどの幻影魔法を使える上に転移魔法まで行使できるなんて、相当な実力者だと思えたけれど……他に転移魔法を使える魔人がいるって考えたら納得できるわね。本体に物を飛ばしたのも別の魔人かも」
マルティナがずっと大人しかったのはミラジュの本体を探していたからか。
光速のような投擲速度のカズィクルであんだけかかるってことは、ここからかなり離れた場所に本体が潜んでいたんだな。
でも転移魔法で逃げられたと……だから幻影も同時に消えたんだな。
カロンちゃんはダンダンと足と尻尾で地団駄を踏んで悔しがっている。
「ぐぬぬぬぬ、このカロンちゃんが出し抜かれるとは! デカブツを倒して油断した!」
「強化されているのに仕留められなかった。悔しい」
「お2人共そうお気になさらずに……相手は最初から逃げる気満々だったんですから仕方ありませんよ」
カロンちゃんがいてルーナも強化されている今なら、まともに相手をすれば間違いなく倒し切れた。
けどシスハの言う通り、幻影だけじゃなくて転移魔法まで用意されてたんじゃ仕留めるのはまず無理だ。
マリグナント以外にも魔人がいるのは確定したから、それだけでもかなりの収穫だろう。
はぁ……エルダープラントを倒して無事解決したと思ったのに、また心配事が増えちまったなぁ。




